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妖精の義兄妹の絆

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緋色の空に消えた幻

「ん…。あれ?ここは。」
「タクヤ、起きたんですね。」
タクヤが目覚めたのをエマが確認した。
「おう、オレはどれくらい寝て…。」
タクヤは周りを見渡す。白い服装を纏った男たちがタクヤたちを囲っている。
そして、少し離れた所で何か揉めていた。





「ジェラール・フェルナンデス。連邦反逆罪で貴様を逮捕する。」

ガシン

ジェラールの腕に頑丈な手錠がはめられた。
「待ってください!!ジェラールは記憶を失っているんです!!何も覚えてないんですよ!!」
「刑法第13条によりそれは認められません。もう術式は解いていいぞ。」
「はっ。」
そう言われて評議院の一人が術式を解除した。
「で、でも!!」
それでもウェンディはラハールに食いかかろうとした。だが、それをジェラールが静かに止めた。
「いいんだ…。抵抗する気はない。君の事は最後まで思い出せなかった。本当にすまない、ウェンディ。」
ジェラールはウェンディに謝る。
「このコは昔、あんたに助けられたんだって。」
「そうか…。オレは君たちにどれだけ迷惑をかけたのか知らないが、誰かを助けた事があったのは嬉しい事だ。」
ジェラールは評議院に連れられ歩きだす。
ふとナツはエルザに目を向けた。エルザは黙秘を続けている。
「エルザ、いろいろありがとう。」
最後にエルザに礼を言って再び歩き出す。
(「止めなければ…、私が止めなければ…、ジェラールが行ってしまう…。」)
エルザは体を震わせた。止めなければと思いつつも体を動かせない。
(「せっかく、悪い夢から目覚めたジェラールを…もう一度、暗闇の中へなど行かせるものか!!!!」)
「他に言う事はないか?」
ラハールはジェラールに最初で最後の慈悲を恵んだ。
「あぁ。」
「死刑か無期懲役はほぼ確定だ。二度と誰かと会う事はできんぞ。」
ラハールの一言にその場の全員が驚愕した。
「そんな…。」
「いや…。」

ザッザッ

「…お兄ちゃん?ナツさん?」
泣いているウェンディの横をタクヤとナツが横切る。

ザッザッ

ジェラールはラハールを後に護送車に連行されていく。
(「行かせるものか!!!!」)
エルザが動こうとしたその時、























「「行かせるかぁぁっ!!!!」」
「!!」
エルザが動く前にタクヤとナツが評議員を掻き分けてジェラールに向かった。
「ナツ!!!タクヤ!!!」
「相手は評議員よ!!!」
「貴様…。」
ラハールも突然の出来事に困惑してしまってる。
「どけェっ!!!!」
「ぐぁっ。」
「邪魔だァっ!!!!」
「うごっ。」
ナツとタクヤは評議員を無理矢理押し退けて行く。評議員はそれを必死に止めようとしている。
「そいつは仲間だぁ!!!!連れて帰るんだー!!!!」

オオオオオ

「ジェラール!!!!待ってろ!!!!すぐ連れ出してやるからな!!!!」
「お兄ちゃん…。ナツさん…。」
「よ、よせ…。」
「と、取り押さえなさい!!!」
ラハールもすぐに評議員を増員させてタクヤたちを食い止めようとする。

ドカッ

「行け、ナツ!!タクヤ!!」
「ぐほっ。」
ナツたちに迫る評議員をグレイが横から食い止める。
「グレイ!!」
「こうなったらこいつらは止まんねぇからな!!!」
グレイも加勢に入り、評議員を次々に倒していく。

ドクン

「気に入らねぇんだよ!!!ニルヴァーナを防いだ奴に…一言もねぎらいの言葉もねぇのかよォ!!!!」
「それには一理ある。その者を逮捕するのは不当だ!!!!」
「くやしいけど、その人がいなくなるとエルザさんが悲しむ!!!」
さらに、ジュラと一夜も加勢に入って来た。
「もうどうなっても知らないわよ!!」
「あいっ!!」
ルーシィとハッピーも評議員に攻撃する。
「お願い!!!ジェラールをつれていかないで!!!!」
「来い!!!!ジェラール!!!!おまえはエルザから離れちゃいけねぇっ!!!!














ずっと側にいるんだ!!!!エルザの為に!!!!」
後少しでジェラールに届く距離まで迫っている。それこそ手を伸ばせば届くぐらいに。
「ジェラール!!!!おまえ、ずっと忘れたままでいる気かぁ!!!!」
ナツの隣で叫んでいるのはタクヤだ。
「そんなのオレが許さねぇ!!!!そんな寂しいのはオレが許さねぇ!!!!
オレたちと、仲間と一緒に笑って!!泣いて!!生きていくんだ!!!!
















そんな牢獄の中でおまえを一人にしてたまるかぁぁっ!!!!」
「だから来いっ!!!!オレたちがついてる!!!!仲間だろ!!!!」
「全員捕えろォォォ!!!!公務執行妨害及び逃亡幇助だー!!!!」
さらに評議員の人数が増え、魔法部隊も出てきた。
普段の彼らならこんな素人などは赤子の手をひねるより簡単だが、体力と魔力が全くと言っていい程ないのだ。
徐々に評議員に押されていく。
「くそっ!!こんなやつ、ら…!!!」
「お兄ちゃん!!!」
「ジェラーーール!!!!」



















「もういい!!!!そこまでだ!!!!」
エルザの一言で一気にその場が沈静化された。
「騒がしてすまない。責任は全て私がとる。ジェラールを…






つれて……いけ…。」
声を震わせながらかろうじて出た言葉。ジェラールはどこか安心した顔でそれを聞いていた。
「エルザ!!!!」
ナツはエルザに叫ぶ。ナツにだってわかる。この中で一番つらいのはエルザなのだと。
「そうだ…。」
「!」










「おまえの髪の色だった。」
そう言ってジェラールはエルザに微笑んだ。
「さよなら、エルザ。」

ズシィン

そして、ジェラールは護送車の中へ消えていった。
「ああ。」
























そして、評議院もすぐに撤退していった。
タクヤたちも流石に限界がきたのだろう。ここで少し休む事にした。
「エルザ…どこ行ったんだろ…。」
「しばらく一人にしてあげよ…。」
「あい…。」
そして、みんな一言も喋らなくなった。




















空が赤紫色に染まってきている。もうすぐに夜明けだろう。
エルザは一人古代遺跡があったのだろう丘に佇んでいた。

















『ジェラール・フェルナンデス。』

『うわー、覚えづれぇ。』
一人の少年がジェラールに言った。

『そういうおまえもウォーリー・ブキャナンって忘れそうだよ。』

『エルザ、おまえは?』
ウォーリーと名乗った少年は近くにいたエルザという少女に声をかけた。

『私はエルザ。ただのエルザだよ。』

『それはさみしいな。』

さらっ

『おぉ。』
ジェラールはエルザの髪の毛を触る。さらさらとした綺麗な髪だ。

『ちょ、何よぉ。』
エルザも恥ずかしくなったのか無理矢理ジェラールの手を振り払った。

『キレイな緋色“スカーレット"…。そうだ!






エルザ・スカーレットって名前にしよう。』

『名前にしようっておまえ…そんなの勝手に…。』

『エルザ…スカーレット……。』
エルザもまんざらではない顔で自分の髪を撫でる。

『おまえの髪の色だ。これなら絶対に忘れない。』














_おまえの髪の色だった。




別れる直前にジェラールが放った言葉。昔、奴隷として生きていた時ジェラールがつけてくれた名前。
あの時のジェラールは太陽のようにどこでも平等に照らしていた。
ジェラールがいたから私がいる。ジェラールのおかげで強い心を持ち続けられてきた。
だが、そんなジェラールはもういない。暗い、日も当たらない牢獄に閉じ込めれた。
次第に空から朝日が降り注いできた。暖かく、それでいて心地よい陽光。
「ジェラール…。」
その日の朝焼けは今までに見た事のないくらいに美しい緋色に染まっていた。
エルザの髪の色のようにあたたかく、情熱的に…。
顔を上げれば美しい空が広がっているのに、顔を上げれば…。





















それから数日が経とうとしていた。
連合軍は体を休めるため化猫の宿に滞在する事となった。
特にタクヤとナツはギルドに着くやいなやその場に倒れてしまった。
そんなこんなで体力も魔力も回復し、そろそろ各々ギルドに帰ろうかとなっていた。
「わぁ!!かわいい!!」
「私の方が可愛いですわ。」
ルーシィとシェリーはギルドにある試着室にいた。二人とも独特なデザインの服を来ている。
「ここは集落全部がギルドになってて織物の生産も盛んなんですよ。」
「ニルビット族に伝わる織り方なの?」
「今、思えばそういう事……なのかな?」
「あなた、ギルド全体がニルビット族の末裔って知らなかったんでしたわね。」
「私たちだけ後から入ってきたから。」
ウェンディとシェリーが話している時、ルーシィはエルザに声をかけた。
「エルザも来てみない?かわいいよ。」
「!あぁ…そうだな…。」
エルザの返事はどこか遠くにいるように思わせるものだった。
「ところでウェンディ。化猫の宿はいつ頃からギルド連盟に加入してましたの?
私、失礼ながらこの作戦が始まるまでギルドの名を聞いた事がありませんでしたわ。」
「そういえばあたしも。」
「そうなんですか?うわ…ウチのギルド本当に無名なんですね。」
ウェンディは少し肩を落としながら言った。
「どーでもいいけど、みんな待ってるわよ。」
シャルルはガールズトークを切りウェンディたちを集落の広場へ案内した。

























「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、そしてタクヤ、ウェンディ、シャルルにエマ。
よくぞ六魔将軍を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表してこのローバウルが礼を言う。
ありがとう、なぶらありがとう。」
ローバウルが何度もナツたちに礼を言った。
「どういたしまして!!!!マスターローバウル!!!!
六魔将軍との激闘に次ぐ激闘!!!!楽な戦いではありませんでしたがっ!!!!
仲間との絆が我々を勝利に導いたのです!!!」
「「さすが先生!!」」
一夜がうざいくらいに大きな声でローバウルに返した。
そのとりまきのトライメンズも一夜を持ち上げた。
「ちゃっかりおいしいトコもっていきやがって。」
「あいつ、誰かと戦ってたっけ?」
グレイとルーシィも一夜にただ呆れるだけだった。
「終わりましたのね。」
「おまえたちもよくやったな。」
「ジュラさん。」
ジュラもシェリーとリオンの労をねぎらっていた。
「この流れは宴だろうー!!!!」
「あいさー!!!!」
ナツとハッピーはすでに準備万端のようだ。
「一夜が。」
「「一夜が!?」」
「活躍。」
「「活躍!!!」」
「それ。」
「「ワッショイワッショイワッショイワッショイ。」」
青い天馬は全員一丸となって踊り出す。
「宴かぁ。」
「脱がないの!!」
「フフ。」
「あんたも。」
宴と聞いていつ間にか上半身裸になっていたグレイとリオンに鋭くつっこむルーシィ。
エルザも先程まで暗い表情をしていたが、ナツたちを見て少し元気が出てきたようだ。
「さぁ、化猫の宿の皆さんもご一緒にィ!?」
「「ワッショイワッショイ。」」
一夜がどこからか持ってきたのかマイク代わりの人参を化猫の宿に向けて音頭を誘ったが、
「ワ…。」

ヒュゥゥゥゥ

一夜たちと化猫の宿の間を冷たい風が横切った。誰も一夜の誘いに応じなかったのだ。
不愉快とかそういう事ではないことはみんな分かった。
何かを思い詰めているようなそんな顔をタクヤたち以外の化猫の宿はしていた。
「ど、どうしたんだよ。マスター。」
タクヤはローバウルに訪ねた。
「皆さん…ニルビット族の事を隠していて本当に申し訳ない。」
「そんな事で空気壊すの?」
「ぜんぜんきにしてねーのに。な?」
「マスター。私たちも気にしてませんよ。」
ナツとハッピーに続いてウェンディもローバウルに言った。
しかし、ローバウルの顔は一向に晴れずそして、何かを決意した顔で話し始めた。
「皆さん。ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ。
まずはじめに、ワシらはニルビット族の末裔などではない。ニルビット族そのもの。

















400年前、ニルヴァーナをつくったのはこのワシじゃ。」
「何!?」
「うそ…。」
「400年前!?」
みんなそれぞれ驚きを隠せなかった。ナツは話が全く見えていないらしい。
「400年前…、世界中に広がった戦争を止めようと善悪反転の魔法ニルヴァーナをつくった。
ニルヴァーナはワシ等の国となり平和の象徴として一時代を築いた。
しかし、強大な力には必ず反する力が生まれる。
闇を光に変えた分だけニルヴァーナはその“闇"をまとっていった。」
ローバウルが淡々と話を続ける。
「バランスをとっていたのだ。人間の人格を無制限に光に変える事はできなかった。
闇に対して光が生まれ、光に対して闇が生まれる。」
「そう言われれば確かに…。」
グレイはそれとよく似た現象を目の当たりにしている。ローバウルの説明もすぐに分かった。
「人々から失われた闇は我々ニルビット族にまとわりついた。」
「そんな…。」
「そんな事したら…。」
ローバウルは一つ息をついて語った。
「地獄じゃ。ワシ等は共に殺し合い全滅した。」
それを聞いていた全員が背筋を凍らした。考えるだけでも恐ろしかった。
「生き残ったのはワシ一人だけじゃ。いや、今となってはその表現も少し違うな。
我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在。ワシはその罪を償う為…
また、力なき亡霊“ワシ"の代わりにニルヴァーナを破壊できるものが現れるまで400年…見守ってきた。
今、ようやく役目が終わった。」
ローバウルはどこか安心した顔で話を終えた。
「そ、そんな話…。」
「その話が本当ならギルドのメンバーはどうなん…、」

シュッ シュッ シュッ シュッ

「!!」
「マグナ!!ペペル!!何これ…!?みんな…。」
「アンタたち!!!」
突然ギルドのメンバーが次々と姿を消していく。
「どうなってるんだ!?人が消えていく!!」
「イヤよ!!!みんな…!!!消えちゃイヤ!!!」
ウェンディら泣きながら叫ぶがみんなは消えていく。
「シュウ!!ペータ!!」
タクヤはシュウとペータの腕を掴もうとするが瞬間に消えていく。
「騙していてすまなかったな。ウェンディ、タクヤ。







ギルドのメンバーは皆…ワシが作り出した幻じゃ…。」
「何だとォ!!?」
「人格を持つ幻だと?」
「何という魔力なのだ!!」
リオンとジュラはローバウルの魔力に驚く事しか出来なかった。
「ワシはニルヴァーナを見守る為にこの廃村に一人で住んでいた。
7年前、一人の少年がワシの所に来た。」


『この子を預かってください。』


「少年のあまりにまっすぐな眼にワシはつい承諾してしまった。一人でいようと決めてたのにな…。」












『おじいちゃん、ここ…どこ?』

『こ、ここはじゃな……。』

『ジェラール…、私をギルドにつれてってくれるって…。』

『ギ、ギルドじゃよ!!ここは魔道士のギルドじゃ!!!』

『本当!?』

『なぶら外に出てみなさい。仲間たちが待ってるよ。』











「そして、幻の仲間たちを作り出した。」
ローバウルがウェンディとの過去を思い出しながら重い口を開いた。
「ウェンディの為に作られたギルド…。」

シュン シュン シュン

「そんな話聞きたくない!!!バスクもナオキも消えないで!!!!」
「ナスカ!!!!」
ウェンディとタクヤは泣きながら必死に幻の仲間たちを呼び続けた。
だが、それでも消えていく。暖かいような笑顔のまま。
「その2ヶ月後にウェンディがタクヤを連れてきた。ウェンディに出来た唯一の真実の仲間になってくれた。」
「オレは…オレは…!!!!」
「タクヤ…ウェンディ…シャルル…エマ…。もうおまえたちに偽りの仲間はいらない。」
ローバウルはタクヤたちの後ろに指を差した。






「本当の仲間がいるではないか。」
タクヤたちは涙を流す事しか出来なかった。最後の一人も消え、次第にローバウルも消えかかっていた。
「おまえたちの未来は始まったばかりだー。」
「マスターー!!!!」
ウェンディは消えかかっているローバウルに向かって走っていった。





「皆さん。本当にありがとう。ウェンディたちを頼みます。」

パァァン

そして、ローバウルの姿は完全に消えた。
タクヤたちの体から化猫の宿の紋章が小さな光の屑となってやがて消滅した。

ドッ

「マスタァーーーーーー!!!!」
ウェンディの声はむなしくも空に響かない。それでも止まらなかった。
タクヤも声に出さないがその目には大粒の涙が溢れていた。
タクヤはウェンディの所まで歩き出し、後ろからウェンディを抱きしめた。
「おにぃちゃん……。」
タクヤは何も答えないまま泣いている。ウェンディもタクヤの腕を掴み泣いた。
その時、肩に誰かの手が置かれた。
「愛する者との別れのつらさは仲間が埋めてくれる。」
タクヤたちはエルザの声に耳を貸した。













「来い。妖精の尻尾へ。」






 
 

 
後書き
25話かんりょー!けっこういいスパンで書けてます。
いつまで続けれるのかはわかりませんがやれるだけやってみたいと思ってますんで!
どうか応援してください!
というわけで感想などありましたらよろしくお願いしまーす! 
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