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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第5部 トリスタニアの休日
  第2章 魅惑の妖精亭

「ありがとね!ジェシカを助けてくれて!」

その男は、興味深そうにウルキオラを見つめている。

名はスカロンというらしい。

随分と派手な格好をしている。

ギーシュも格好は派手だが、微妙に違う。

黒髪をオイルで撫で付け、ぴかぴかに輝かせ、大きく胸元の開いた紫のサテン地のシャツからもじゃもじゃした胸毛を覗かせている。

鼻の下と見事に割れた顎に、小粋な髭を生やしていた。

強い香水の香りが、ウルキオラの鼻をついた。

なんというか、あれだ。

要約すれば、オカマがウルキオラの目の前にいるのだ。

ウルキオラは少しだけ目を細めた。

なにか、本能が近づいてはいけないと言っているのだ。

「本当にありがとうね、もしあんたが助けてくれなかったら、私…純情を弄ばれるところだったわ」

救った少女。

ジェシカが意気揚々と言った。

明るい性格の少女のようだ。

「お礼をしたいのは山々なんだけど、もうすぐ開店なの~。お礼は閉店まで待ってね。あ、もちろんここでの食事はただでいいわ。好きなだけ食べて!」

あ、うん。

間違いない。

オカマだ。

「は、はぁ…」

ルイズは少し引き気味に答えた。

「そうか」

ウルキオラはそれだけ言うと、隅っこの椅子に移動し、そこに腰かけた。

ルイズも同じテーブルの椅子に腰かける。

「なんか嫌だわ、あの人」

ウルキオラは同意するかのような目で、ルイズを見つめた。

「同感だな。だが、これで情報収集が可能になったわけだ。よしとしよう」




「いいこと!妖精さんたち!」

スカロンが、腰をきゅっとひねって店内を見回した。

「はい!スカロン店長!」

色とりどりの派手な衣装に身を包んだ女の子たちが、一斉に唱和した。

「違うでしょおおおおおお!」

スカロンは腰を激しく左右に振りながら、女の子たちの唱和を否定した。

「店内では、『ミ・マドモアゼル』と呼びなさいって言ってるでしょお!」

「はい!ミ・マドモワゼル!」

「トレビアン」

腰をカクカクと振りながら、スカロンは嬉しそうに身震いした。

中年男性のその様子に、ルイズは嫌な顔をした。

しかし、店の女の子たちは慣れっこなのか、表情一つ変えない。

「さて、まずは嬉しいお知らせ。二人組の男に襲われていた私の娘、ジェシカを救ってくれた方がいます。ご存じのとおり、あそこの席に座っているウルキオラくんとルイズちゃんよ」

ウルキオラはこの世界に来てから一番の驚きを味わった。

スカロンの娘?

バカな……。

遺伝子は何をしているんだ?と思った。

ルイズも同じように驚いている。

女の子たちは、尊敬の眼差しでウルキオラを見つめている。

「しばらくの間、ここ魅惑の妖精亭に留まるそうよ。出来る限りサービスしてあげて!」

「はい!ミ・マドモワゼル!」

それからスカロンは近場のテーブルの上に飛び乗った。

激しくポージング。

「魅惑の妖精達のお約束!ア~~~~ンッ!」

「ニコニコ笑顔のご接客」

「ドゥ~~~~ッ!」

「ぴかぴか店内清潔に!」

「トロワ~~~~ッ!」

「どさどさチップを貰うべし!」

「トレビアン」

満足したように、スカロンは微笑んだ。

それから、腰をくねらせてポーズをとる。

喉元まで胃液がこみ上げてきたが、ルイズは必死に飲み込んだ。

スカロンは壁にかけられた大きな時計を見つめた。

いよいよ開店の時間である。

指をぱちんとはじいた。

その音に反応して、店の隅にしつらえられた魔法細工の人形たちが、派手な音楽を演奏し始めた。

行進曲のリズムである。

スカロンは興奮した声でまくし立てた。

「さあ!開店よ!」

バタン!と羽扉が開き、待ちかねた客たちがどっと店内に流れ込んできた。

「いよいよね……」

ルイズは顔を顰めた。

「わかっているとは思うが、今のお前は平民。上から目線は自重しろ。唯でさえ面倒なこの任務が、もっと面倒な事になりかねん」

ウルキオラは、テーブルの上にあるワインを一口飲んでから呟いた。

「わ、わかってるわよ!」

ルイズはふん、とふてくされた。

本当だろうか?

まあ、兎にも角にも、魅惑の妖精亭の開店したと同時に、ルイズとウルキオラの任務が開始した。




ウルキオラたちが情報収集のために入ったこの魅惑の妖精亭は、一見ただの酒場だが、かわいい女の子がきわどい格好で飲み物を運んでくれるので人気のお店だった。

ウルキオラとルイズは、早速任務に取り掛かった。

酒を飲みに来た平民の客に話しかけ、今のトリステインをどう感じているか、反乱の噂はあるか、大きくこの二つを聞くというものである。

非常に簡単なことである。

ルイズが言う様に、街中でやってもなんら問題はないだろう。

しかし、それでは効率が悪い。

情報収集は、人が留まり、尚且つ酒が入り口が軽くなった者が集まる酒場が最善なのである。

なので、ウルキオラは酒場を選んだのである。

ウルキオラはどんどん客に二つの質問を投げつけ、情報を集める。

しかし、ルイズは全く進展がないようである。

こんな簡単なことも出来んのか?、と思いながら、次の客の元へと歩いて行った。




「き、聞きたいことがあるんだけど」

ルイズは引きつった顔で言った。

平民にため口を聞かれることだけでも屈辱なのに、こちらが気を遣わなくてはいけないという状況にムカムカしていた。

「なんだい?お嬢ちゃん」

感じのよさそうな細身の男が、笑顔を浮かべながらルイズを見つめている。

「まあ、とりあえず座りな」

「ど、どーも」

ルイズはぎこちない様子で椅子に腰かける。

「とりあえず、注いでくれるかい?」

平民に平民に平民に酌?貴族の私が?貴族の私が?貴族の私が?

頭の中で、そんな屈辱的な想いがぐるぐる回る。

「どうした?早く注いでくれるかい?」

ぷは!とルイズは息を吐き、気持ちを落ち着かせた。

これは任務。

これは任務。

平民に化けて情報収集。

じょうほうしゅうしゅう……。

呪文のように口の中でぶつぶつつぶやき、なんとか笑顔を作る。

「わ、わかったわ」

ルイズは瓶を持ち、ゆっくりと注ぎ始めた。

ゆっくり注いだので零れることはなかった。

「ありがとよ」

男はそれを一口で飲み干す。

「んで、なんだい?聞きたいことって?」

男は酌をしてくれた代わりにルイズの話を聞くようである。

「あなたは今のトリステインをどう思う?それと、反乱とかそういう話は聞いてる?」

ルイズは慣れない作り笑いをして、質問した。

「うーん、まあ、一言で言えば、不安だよ」

「不安?」

ルイズは聞き返した。

「戦争はまだ終わってないし、タルブの村襲撃の際は追い返せたようだけど、これからはそうはいかないだろうよ。未だ革命のような話は聞かんが、このままいけば反乱……なんてことも……」

「なんですって!」

ルイズは思いっきり机を叩いた。

男はびくっと体を震わせた。

「ど、どうしたってんだ?急に?」

「わ、悪かったわね……」

ルイズは気持ちを落ち着かせ、謝罪した。

深呼吸する。

超絶疲れた。

「ありがと」

「あいよ」

そういって、ルイズは元いた席に戻った。




「ありがとうございました~」

一人の女の子が最後の客を見送った。

「閉店よ!みんなお疲れ様!」

スカロンの言葉を合図に女の子たちは、わいわいとおしゃべりを始めた。

スカロンは、少ししたら後片付けね!と言い残して、ウルキオラとルイズの座る椅子へと足を運んだ。

「お待たせしたわね」

スカロンはウルキオラに向かって言った。

ウルキオラは端然とワインを飲んでいた。

ルイズはというと、机に伏っしてなにやらぶつぶつと呟いている。

「どうしたの?ルイズちゃん……」

スカロンは心配そうにルイズを覗き込む。

「変なプライドが仇となってるんだ」

「変なとはなによ!」

ルイズはがばっと起き上がり、ウルキオラを一睨みした後、むきゅーとまたまた机に伏っした。

「なんだかよくわからないけど、二人もお疲れ様……それはそうと、泊まる宿はもう決めた?」

スカロンは高い声で尋ねた。

「まだだ」

「そう!それはよかった!ジェシカを救ってくれたお礼に、知人の宿を紹介するわ!」

スカロンは外へ出るよう促す。

外はすっかり暗くなり、一寸先は闇状態である。

一分ほど歩くと、宿屋らしき看板が見えた。

「話はもう通してあるわ!何日居ても構わないわよ!それじゃ、またね」

スカロンはそう言い残して、闇の中へと消えて行った。

ルイズは羽扉を押す。

「早く行きましょう。情報もまとめなきゃ出し、なにより疲れたわ」

ウルキオラはルイズの後に続くように、宿屋に入って行った。




宿屋の店主に話を通し、部屋に案内された。

どうやら、中々上等な宿屋らしい。

といっても平民にとってはであるが。

少し大きめのベッドが二つ。

二人用のテーブルが一つ。

そして、椅子が二つ。

広さは畳十二畳分くらいである。

「なによこれ」

貴族の、しかも公爵家の娘であるルイズにとって、この部屋はお気に召さないらしい。

「別にいいだろう。ここに住むわけじゃあるまいし」

「そうだけど…」

ルイズはどこか納得がいかないのか、辺りを見回す。

綺麗に掃除をされていて、清潔感もある。

寝るだけならば、特に差し支えはない。

ウルキオラは椅子に腰かけ、ルイズも座るよう促す。

ルイズも椅子に腰かけた。

「それで、結果は?」

ルイズはウルキオラに成果を報告するよう求めた。

あの後、一人目の客に話を聞いただけで参ってしまったルイズは、椅子に座り、ワインを啜りながらウルキオラの行動を見ていたのである。

「八十二人に聞いたが、余り大きな情報は得られなかった」

「そ、そっか」

なんということだろう。

百に届く勢いである。

しかも、その話を聞いた人数を覚えているのだから、大したものである。

「だが、今のトリステインに不満を抱く声と、反乱を危惧している声はよく耳にした」

「私も一人にしか聞いてないけど、同じようなことを言ってたわ」

ルイズは真面目な顔つきで答えた。

「反乱が起こる可能性は否めないな」

「まさか、平民の間でこんな噂が流れてるなんてね……、正直思いもしなかったわ」

「まあ、学院で平和に過ごしていればそれもそうだろうな」

ウルキオラは至極あたりまえの言葉を口にする。

「ともかく、さらなる情報が必要だ。明日は三人ぐらいには聞けるようにしとけ」

「わ、わかってるわよ!」

ウルキオラは溜息をつくと、持ってきたであろう本を開いて読み始めた。

ルイズはベッドに近寄り、バフンっと飛び乗った。




ルイズが寝たのを確認したウルキオラは、ルイズの頭の下に埋もれた自分の腕を慎重に抜き出し、静かにベッドから下りた。

時間は深夜の二時ごろだろうか。

ウルキオラは宿屋から外に出た。

不穏な動きがないか、調査するためである。

宿屋の羽扉を押し開け、外に出ると、見たことのある顔があった。

黒髪を胸のあたりまで伸ばし、大きく胸の開いたワンピースを身に着けている。

ジェシカであった。

「あ、ウルキオラ」

ウルキオラの姿を見たジェシカは、嬉しそうな顔を浮かべた。

「なにをしている?」

「いや、ちょっとあんたのことが気になってね」

ジェシカは不敵な笑みを浮かべた。

「とりあえず、私の部屋に来てよ」




ジェシカは背もたれを抱えるようにして椅子に腰かけた。

「何の用だ」

ジェシカは微笑んだ。

「いやね、あったしー、わかっちゃった」

「何がだ?」

「ルイズ、あの子、貴族でしょ?」

ウルキオラは目を細めた。

「あ、いやね、私はパパにお店の女の子の管理も任されてるのよ。女の子を見る目は人一倍だわ。ルイズ、あの子ってば行動が不可解だもの。おまけに妙にプライドが高い。そしてあの物腰……、たぶん貴族ね」

ウルキオラは溜息をついた。

粗末なワンピースまで着せたというのに、ばれている。

何が身分を隠して、だ。

全く持って隠れていない。

「その通りだ」

ウルキオラの肯定の言葉を聞いて、ジェシカは微笑んだ。

こいつ……それが聞きたくてわざわざ俺をここに連れ込んだのか?

「首を突っ込むな。命が惜しければな」

ウルキオラは低い声で言った。

これ以上詮索されたくないのだ。

しかし、ジェシカには通用しなかった。

「えー!なにそれ!やばい橋渡ってるの?面白そうじゃない!」

身を乗り出して、ウルキオラに顔と……胸を近づける。

そして、ジェシカがにやっと意味深な笑みを浮かべた。

「ねえ」

「なんだ?」

「あなた、女の子と付き合ったことないでしょ?」

図星である。

「それ以前に人間との付き合いが薄い」

「人間と?どゆこと?」

ジェシカは心底理解できていない様子である。

「そのままの意味だ」

そう言って、ウルキオラは扉へと向かった。

「これ以上用がないなら、俺は行くぞ?まだやることが残っているからな」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

ジェシカはそんなウルキオラの腕を握った。

「なんだ?」

「……ってるの?」

声が籠っていて聞こえない。

「聞こえん」

「本当にそれだけのためにあんたを私の部屋に連れ込んだと思ってるの?」

ジェシカは顔を赤らめて言った。

「違うのか?」

ジェシカは答えない。

しかし、それが肯定だということは明確であった。

「ならば、何の用だ?生憎、俺はお前に用などないんだがな」

「冷たい人……お礼がしたいの」

ジェシカは着ていたワンピースの紐を緩めた。

「礼ならお前の父のオカマにしてもらった」

「ひどいわね。あれで優しいパパなのよ。お母さんが死んじゃったときに、じゃあパパがママの変りも務めてあげるって言い出して……」

「トレビアンか?」

ジェシカは頷いた。

「で、パパのことはいいの。ねえ、あなた女の子の体……知りたいと思わない?」

ジェシカはウルキオラを誘惑した。

自分でも、スタイルには自信があった。

だから、ウルキオラもなんだかんだ言って、誘いに乗ってくると思っていた。

まあ、それは大きな間違いなのだが……。

「興味がないな」

ウルキオラはそれだけ言い残し、扉を開けて去って行った。

「ま、待ってよ!」

ジェシカはすぐにその後を追う様に扉を開いた。

その先を見渡す。

しかし、ウルキオラの姿は既に見当たらなかった。

響転で移動したのである。

「何よ……せっかくお礼してあげようとしたのに……」

ジェシカは残念そうな顔を浮かべた。

「でも、人間とあまり付き合ったことがないって……どういうことだろう?」

ジェシカは一人になったその部屋で、ワンピースの紐を結びなおしながら呟いた。

「明日辺り聞いてみよう」

そう言って、ジェシカはベッドにダイブした。 
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