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ルパン三世シリーズ×オリキャラ

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手段は選ばない~自分のやり方~(ルパン三世/オリキャラ)

 本日56回目の溜息。
1日で56、1週間で言えば125回目の溜息。

「――あのさ……いい加減決着付けてくれないと、こっちも色々事情ってもんが……」
「あら、レディにそんな事言う気?」

 赤いブレザーを身に纏い、制服姿で居る少年――六条道恋也に、スタイルが良い女、文字通り胸も大きく、腰周りも女性誰もが憧れるスタイルの女――峰不二子が上目使いで少年を見上げる。
 その状況だけ見れば口説いていると言うと思うがまぁ、口説かれていると言えば口説かれているようである。
 恋也本人は適当に流したりとしている様だが。

「そんな事って、俺の本業は『学生』。盗みが副業ってだけ」

 はぁ、と本日57回目の溜息を零す。
1日でこんなに溜息を吐く事はないのだが、ここ一週間溜息しか出てこないとしか言えない状況である。

 **

 ―1週間前―

「――って、何で不二子ちゃんが居るの?」
「あらやだ。私が居るのはいけないの? ルパン」

 ルパン、次元、五ェ門が次の仕事の打ち合わせをリビングでしていた時だった。
 丁度音もなしにやってきた不二子がその話を少しだけ聞いており、ルパンが話し終えたと同時に不二子がリビングに繋がる木製のドアを開いたので、正確にはほぼ聞いていないのだが、居ないと思っていた者が居たのはルパンにとっても驚きだ。

「不二子と組むなら俺は降りるぜ」

 はっ、と次元がお決まりと言うように鼻を鳴らし、ガラス製のテーブルの上にソファから伸ばした足を置き、片手を頭の後ろに当て、バーボンを飲みながら仕事をしないと宣言する。
 当然いつもの事なのだが、不二子は次元の発言に腹を立て「ちょっと何よ、まるで私が疫病神みたいな言い方じゃない!」フンッと腕を組んでそっぽを向く。
もう一度言おう、いつもの事だ。

「疫病神だろ、お前さんは。いつも裏切りやがって」

 机から足を下ろし、右手に持ったグラスを不二子に向けながら馬鹿にするような言い方で、左手を胸の辺りに持ってきて、ヒラヒラとさせてあっちに行けという動作をした。

「ルパーン、私って疫病神なのぉ? 正直に言ってお願い」

 不二子お決まりの色仕掛けでルパンに近付くが、今回ばかりは不二子に裏切られる訳にはいかない仕事なので、ぎこちない笑みを浮かべつつもルパンは「今回はちょぉっと厄介なのよ。不二子ちゃんには悪いけど、仕事の内容は教えられないんだ。でも不二子ちゃんが疫病神って事はないんだなぁ」といつものおちゃらけた調子で返事をした。

「ルパンがそう言うなら今回は身を引くわ。こっちはこっちで好きなようにしているわけど、恋也君は借りるわね」

 此処には居ない(学校の為)、少年の名前を不二子は口にした。
ルパンに絡めていた腕を解いて窓際に腰掛けるように座った不二子はルパンに確認を取るように「仕事の邪魔はしないから良いでしょ?」とルパンに交渉を持ちかける。
 だが、ルパンもルパンで恋也と組む気でいた為、すぐに『分かったよ』と頷くことは出来ないでいる。

 丁度その頃合に、恋也は授業を終え、帰宅してくるのだが……。

 ―帰宅途中―

「っていうかさ、今回のテストふざけてるよな。範囲広すぎだろ!」

 肩を竦めつつ友人の話を聞いていた恋也は、正直テストの事は考えていなく、どうせ点が取れるのだから考えなくても問題は無く、分からないところがあれば兄かルパンにでも聞けば何とかなると思っているので、心配すらしていない、とも友人相手だと言いにくいので、肩を竦めるという行動だけで返事をしていた。

「分かろうとしなければ、分かるものも分からないままだって」

 一応アドバイスをしておいた方がよさそうだったので、思いついた言葉を適当に並べておき、そろそろアジトにでも帰るかと思っていた。
そんな時に目の前に夕日から銭形が現れた。
 いや、決して銭形が太陽から「よう!」と言うに出てきたと言うわけではなく、ただ夕日が丁度道に虹の様に掛かっており、反対側から歩いて来た銭形が、夕日から出てきたように見えたというだけだ。

「ちょっと良いか?」

 銭形は恋也、隣で歩いていた恋也の友人に声を掛けて、とある1枚の写真を2人に見せた。
 黒髪で長さは肩ぐらいまであり、前髪を真っ赤なピンで留めて、頬にスペードのAと描かれ、サングラスを掛け、右手で外国人がよく使うグッドのサインをし、その右手を逆さまにし、左手は中指だけを立てた男の写真を見せた。
 しかも右手は男の右側の胸元にあり、若干傾いていた。
一度、首を斬る動作をした後の傾き具合だった。

「この男を見なかったか?」

――何で持ってんだよ!

 恋也は心の中でそう叫んだ。
いや叫ぶしか方法は無かった。
だって自分自身なのだから。

 そんな事を言ってしまえば、自分は裏社会の住人だというのを友人に告白するようなものだ。
学校や家庭内では『表世界の住人』と言うのを演じている為、家族内はともかく友人には『裏世界』ましてや『ルパン三世』のメンバーの1人など、言える訳もない。

「……この男が、どうかしたんですか? 見た目的には失礼ですが、犯罪者という感じですけど」

 出来るだけ丁寧に、そして笑顔を崩さず、問いただす。
自分に何の用か、それを聞きださない限り、情報など提供しないのが常識である。

「高校生に言うのは気が引けるが、コイツは悪党だ。それも色んなものを盗んでる、な」

 それだけを聞いて、恋也は自分の写真を見ていつ撮られたものだろう、と的外れな事を考えていた。

「名前は?」
「ギルティ・クラン」

 友人の問いに恋也が普段の授業中の表情で答える。
銭形は犯罪者の名前を知っていたことに驚いたようで、目を見開きつつも「よく知っているな」と口を動かした。

「まぁ――色々調べてたら、色々な事を知ったって言う方が正しいか」

 自分自身だ、なんて言えないので適当な嘘で誤魔化し、自分たちにギルティの事を聞いてくるという事は捜査中なんだろうと言うのは聞かなくても理解できたので、先に恋也がミスをする前に「時間をとらせてしまったようで悪いですが、俺が知っているのは顔と名前だけです。この辺りでは見かけていません」と申し訳なさそうに肩を竦めつつ、口を動かした。

「そうか。でも気を付けろよ、コイツもルパンと同じで変装の名人だからな」

 ヒラヒラリと写真を振りながら銭形は恋也とその友人を通り過ぎて行った。

 **

「だーかーら! 邪魔はしないって言ってるでしょ!」

 ルパンアジト、と言うわけでもなく、ただ恋也が買っていた家の1つで特に使う用事も無かったので、この国での仕事の時は今居る家を使うことになっている。
 そのせいで修理代がかなりの額になってしまう事があるのだが、その辺りは大体と言って良いほどルパン持ちである。

 そんな一軒家の一室では口論が行われいた。
『恋也をどっちに組ませる』という、実にくだらない内容の言い争いを繰り返している。

「ルパン! あなたには次元と五ェ門が居るじゃない! 私は1人なのよ!」
「よく言うぜ、普段1人で抜け駆けしてるくせに」
「アレはアレ、コレはコレよ!」

 いい加減、もうそろそろ何か物が飛び出そうだ。
不二子が近くにある物でルパンを殴っても良い頃なのだが、そうしてしまうと恋也からのきっついお言葉が待っている為、やりたくても出来ない状況だ。
 実際ルパンが何回も恋也に「一週間外出禁止」や「銭形に引き渡す」や「晩飯タコ」など、ルパンにとって不利になる事を言われているのを不二子も知っているので、家主の物を壊すという事は出来ないのである。
 仮にしたとしても、恋也に色仕掛けは通用しない。
それがオチなのだ。

「ちょっと五ェ門! ルパンに何とか言ってよ!」

 五ェ門に振ったのだが、五ェ門はルパンの味方なので、不二子に従うことはなく「不可能でござる」と一言、次元の向かい側にあるソファで座禅を組みながら返答する。

 完全に味方が居ない不二子。
それでも諦めたくないのか、不二子はどうしても恋也を貸してもらおうと、ルパンに必死にお願いをしている。

「だから俺も今回は恋也ちゃんは必要なのよ、分かって頂戴」

 手を合わせてお願いするルパンに目もくれず、嫌だと言う不二子にガクリと分かりやすい動作をしつつ、イスを反対向きに座って、背凭れに腕を回している。

 その様子を見ている次元と五ェ門の気にもなってやれないのだろうかと、後々恋也が呟いていたのだが。

「いい加減にしねぇとこっちの仕事の話進まねぇぞ、ルパン」

 次元がグラスを揺らしながらルパンに告げた。
かれこれ30分は経っているだろう。
いい加減に話が終らないと仕事の話も出来ないため、早く終らせろと言う様に、次元は空になったグラスをテーブルに置いて、ソファの肘掛に膝を掛けて、ソファに横になった。

「分かってるけどよ……」

 恋也なしで仕事をするか、恋也を含んで仕事をするかそう言った事を悩みつつ、不二子の頼みなので断れず、そんな優柔不断な思考がぐるぐると頭の中を回っている。

 ――とその時、ドアが開かれた。

「ただいま。不二子も来てたのか」

 日本人の血が多いからだろうか、日本人特有の『ただいま』を言って独り言の様に呟いてから、どうせ来てるなら、リビングだろうと思った恋也は、リビングまで歩いて行き、リビングに繋がる薄い茶色のドアを開く。

「……俺入らない方が良かった空気?」

 ドアを開けた瞬間恋也が目にした光景は、自分から見て左側にイスに反対向きに座るルパンと、手前のソファに横になっている次元と、その向かいのソファに座禅をしている五ェ門と、自分から見て右側に、大人しい服装をして凄い怒っているというのが分かる不二子が居た。
 一瞬入らない方が良かったのかと思い、距離的に1番近い次元に尋ねてみた所、別にそういう訳でもないようで、軽く息を吐いた。

「もう良いわ! 直接恋也に聞くもの!」

 最終手段、と言うよりお得意と言った方が納得されやすい不二子の十八番。
恋也に近付いて首に手を回し「ねぇ、私とルパン、どっちが好き?」なんて色気のある声を恋也の耳元で出しながら尋ねる。
 
「どっちもどっち。良し悪しがあるから何とも言えない」

 さすが私立名門高校の校内2位の回答である。
解答用紙のような返答をしたのは良いが、何となく違うような気もしていたが、状況が掴めないので、不二子の様子から伺おうと考えている。

「そうじゃなくて、私とルパン、一緒に寝るならどっちを選ぶ?」
「迷わずぬいぐるみ」

 その場に居た、次元と五ェ門が吹いた。
無理もないだろう、選択肢に無いそれも人ではなく物と一緒に寝るというのだから、笑いもする。
それを笑うなと言う方が難しいに決まっている。
 絶対に答えてはいけない質問だな、と思った為ただの嘘なので不二子にもばれているのは承知だが何故、その質問をしてくるのかと予想するしかない。

「真面目に答えなさい!」
「はいはい」
「『はい』は1回!」

 親と子のようなやり取りをしつつも、不二子は自分の脚を恋也の脚に絡めて「お姉さんとイイコトしない? とっても楽しいこと」と上目使いで尋ねる。
 ここでの『イイコト』は思春期が思う事ではなく『盗み』の事だ。

「ベッド行きの方はしたくないな。気分じゃないし」

 少し口角を上げ、困った笑みを浮かべながら恋也は口を動かすが、実際のところどっちの意味でも捉える事が出来るので、あえて片方はやりたくないと反対するが、もう片方もやりたいとはあまり今のところは思っていない。

「そんな事じゃないわ、もっとスリルがあって楽しいことよ」

 どうしても自分の味方にしたい不二子は手段を選ばないようで、恋也に顔を近づけてそのまま口付けをしようとした所で見ていられなくなったルパンが、不二子を引き剥がそうとイスから立ち上がり、不二子にめがけて文字通り飛んできた。

「キスは、お預け。可愛らしいレディに相応しい所でキスは行おうか」

 ルパンが飛んでくるそれより先に不二子の顎を優しく摘まみ、ホストが言うようなセリフを恥じらいもなく吐き、自分に密着している不二子からすり抜けて、飛んで来たルパンの服を掴み、自分の後ろに立たせるように、腕をゆっくり後ろにした。

「何があったか知らないけどさ、色仕掛けで俺にいう事聞いてもらうって言うのは、さすがに無理だと思うな」

 ルパンと不二子から離れ、ルパンが先程座っていたイスの向きを正しい向きに変え、腰を下ろして脚を組みながら言う恋也に次元は、鼻を鳴らして「よく言うぜ」と放った。
続けて「この間路地裏で女人に口説かれていたのはどこの誰だ」と五ェ門。

「お詳しい事で、まぁ、俺も商売してるんで、ただの商売相手だな。基本女を扱う商売してるから口説かれてるのか、口説いてるのかよく分からない時があるけど」

 両手を少し広げ、そのまま上に軽く上げ、何故そうなったのかと言う理由を述べる。
 だが、そんな事はどうでもいい。

「恋也ちゃーん、俺とディナーでも――」
「ディナーの前に課題」
「ちょっと! 私が先に話してるのよ! あっち行ってて」

 何が何だか全く分からない状況で、恋也ははぁ、と1週間の1番初めの溜息を吐いた。

 **

 月日は流れて1週間。
 恋也もルパンと不二子が自分に何故色々聞いてくるのか、次元と五ェ門に理由を聞き、理解したところで、暫く様子を見ることにした。
それからというものお互い自分の物にしようという思いが強いのか、時にスリル、時にセクシーな事をやってくる。
 ルパンなんて今回一緒に組めば何でも望むものを盗んでやると言い、不二子は不二子で、味方になれば抱いても良いとか言い出した。
 この大人2人は本当に大丈夫なのだろかと恋也は不安になっていた。

 どうせ決着もつかないのは分かりきっていたので、1週間目の今日、恋也はリビングでルパン、不二子に向けて言葉を放つ。

「自分のやり方で、俺を惚れさせてみろ。俺が惚れた方に俺は組む」

 それだけ言ってリビングから出て行き自室に戻った。
埒が明かない、そう思ったのでそう判断したのだが、あまりよろしくない予感が恋也を襲いそれは確信に変わるのだが。

 ―丹神橋高校1年A組―

「担任の先生体調不良だって、大丈夫かな」
「え……。命に関わる病気とかじゃなければ良いけど」
「あの先生ウイルスまで栄養素にするからな、まぁ、大丈夫だろ」
「そうだと良いだけど……、やっぱり心配」
「だよなぁ。急だから余計気になるよな」

 クラス中が担任は大丈夫なのか、命の関わるのかという話題で持ちきりだった。
朝登校してきた生徒はホワイトボードに映し出された文字を見た途端、顔色を変えて心配をし始めた。
 此処丹神橋高校は私立の名門高校として有名である。
中学で学内1位の人が入れるか、入れないか、というぐらいの難しさだ。
 定員が足りない時もあれば、定員オーバーの時もある。
 名門高校なので設備は整っている。

 外壁は白を基調とし、H型の校舎は特別棟と普通棟で分けられており、真ん中が渡り廊下になっている。
 廊下にもクーラー、エアコンが行き渡り、食堂は普通なら180円するものを無料で食べることができ、個人の注文にも答えてくれる。
 廊下内にエレベーターが設置されており、生徒も自由に使えて更衣室などにも、クーラー、エアコンがある。
 しかも授業が始まる前に自動で室内の寒暖を調節をしてくれるのだ。

「……恋也、代わりでくる先生ってもう見たのか?」

 友人が恋也に声をかける。
恋也も変わりに来る教師の事を知らないのか、首を振った。

「俺は見てない、HRには来るだろ」
「そうだな」

 丁度チャイムが鳴り、恋也の席まで来ていた友人は自分の席に戻っていった。
 そして、ドアが開かれ、1人の青年が中に入ってくる。
 見た目は黒髪で背は170後半、体型も細く、水色のワイシャツのボタンを2つ開け、黄色のネクタイを緩めに締め、赤のカーディガンに、黒のスラックスを身に纏っていた。

――ま、まさかな……。

 恋也は汗を流して教室に入ってきた教師を見つめるが、『教師』としてそこに立っている男は、ホワイトボードに字を書き始めた。

西山快刀(にしやまかいと)です。まだ大学を出たばかりで、教師として初めてなので、色々宜しくお願いします」

 挨拶をする快刀に対し、恋也は頭を抱えたくなった。

「科目は数学ですが、ある程度は出来るので気軽に質問してください」

 笑顔に話す快刀には関わらないようにしようと思うのだった。

 ―学校 図書館にて― 

「あの先生イケメンだったな!」
「そこまでテンション上げる必要ないと思うけど」
「何言ってんだよ! 恋也良いか、よく聞け! イケメンという事は、つまり……モテる、恋也と張り合えるレベルだって、アレは」
「いや別に俺は張り合いたいとは思ってないし、自分が格好良いとも思ってない」

 溜息混じりに返答を返す恋也に友人――守烙坐星汰(かみらくざせいた)は分かっていないと言うように、恋也が使っている机に身を乗り出して、恋也に指を差した。

「分かってないな、恋也は校内で誰と付き合いたいランキング毎月1位の癖に、自分がイケメンじゃないとでも!?」
「そうだとしても、俺はそんなのに興味はない」

 実際誰が行ったかも分からないアンケート結果など、興味が無い。
一言でそう言ってしまったのだが、大体新聞部や写真部が共同でアンケートを行ったのだろうと予想ぐらいは出来、それ以上言うつもりもなく、席を立ち先に帰ると星汰に告げた。

「ちょっと待てって! 俺を置いていくのか! 1人でこの館内の本の整理をしろってか!」
「喋ってる暇あるならさっさとやれ」

 鞄を片手で持って、もう片方の手でヒラヒラと手を振っては図書館を後にしようとする。
ドアの前で一旦立ち止まり、後ろに振り返って「1人で終らせたら、今度飯でも奢ってやる」と軽く微笑みながら、今度こそ図書館を後にした。

「そんなんだから、人気あるって知らないのか」

 1人ポツンと残された館内で呟けば、再び本の整理を始めた。

 ―廊下にて―

「楽しそうじゃねぇか」

 不意に右から声がした。
曲がり角になっているので、角に隠れているのだろう。
 
「別に、楽しいって程のものじゃない」

 相手は誰だか分かっているので、あまり名前を言わずに返答する。

「色んな奴にモテてる癖に」
「お前もそれを言うか」

 恋也は声がした方に行き、思った通り快刀が居たのだが、快刀の持っている今月号の校内誌を奪い取った。
 一通り目を通すと、やっぱり『今月の付き合いたいランキング』に自分の名前が載っている。
 何が楽しいのか、それを知ってどうするのか、恋也には分からない。
 自分がイケメンだと言われたらそうなのだろう、自分ではイケメンなどとは思っていないけれど周りから見たら、自分はイケメンの部類に入るのだろう、そう思っている。

「毎回何で俺と付き合いたいって思うのか分からないな」

 奪い取った校内誌を快刀に返し、廊下の壁に凭れるように背中を預けて天井を見上げる。
白い壁に穴など開いてはおらず、それほど清潔にされてるのか、礼儀正しいのか、自分では判断がつかないほど、この学校は綺麗過ぎる。

「簡単な話さ。お前が優しすぎるんだ」
「優しいって言われてもな……」

 納得がいかないような返事をしつつ、その場から去るように背中を離す。

「そう言えば六条道――」
「変装は上手いけど、そのファッションどうにかならなかったのか? すぐに分かったけど」
「こっちの方が分かりやすいだろ」

 あそう、適当に返答すればそのまま快刀から離れていき、急に教師口調で話しだした快刀のセリフを遮って言ってしまった事に反省せず、そのまま帰宅して行った。

 **

「次元、ルパンが俺の学校に来たんだけど」
「ほっとけ、すぐに飽きるだろ」

 適当にあしなわれた感を覚えつつ、リビングのソファに鞄を下ろし、キッチンで紅茶を作っていると、玄関のドアが開く音がした。
 ルパンは学校、次元はリビング、五右ェ門は買い物、となると、残るは不二子か銭形だろう。
そっとポケットに隠してるナイフに手を伸ばし、誰かが来るのを待つ。
 するとドアが開かれ、見慣れた姿が目に入る。

「ちょっと次元! ルパンが恋也の学校に居るなんて聞いてないわよ! 教師は私のアイデンティティよ!」
「何がアイデンティティだ。お前さんは秘書でもやってろ」

 峰不二子、敵襲ではなかった事に安堵しつつも不二子の言い方に違和感を覚える。
何か可笑しい、そう思ってはいるものの何がおかしいのかよく分からない。
 暫し考えて『ルパンが恋也の学校に居る』というセリフに顔が引きつるのを覚えた。

「まさか不二子まで俺の学校に来てるのか!?」

 紅茶を淹れたカップを持ちながら、恋也はキッチンから出てきた。

「ちょっと急に出てこないでよ!」
「あぁ、悪い。ってそうじゃなく、何で2人も来る必要があるんだ! 体調崩した教師は1人だ」

 ルパンを見てから、ルパンが何かしたのではないかと思ったのだが、職員室に行って前の担任がどうなったのかを尋ねてみると、インフルエンザだったと隣のクラスの担任に教えられ、安堵していた。
偶然体調を崩したのは1人で、ルパンが変装してやってくれば不二子はどうやって、教師として学校に入ったのだろう。

「ルパンは担任、私は転職してきた先生よ。ちなみに次元はルパンのボディガード」
「お前もか」

 次元を睨みつけては呆れて、ソファに腰掛け紅茶を口に流した恋也はカップをテーブルに置き、ソファに横になった。
 いくら自分から言った事でもそこまでするのかと言う、大人の本気を知らされた気分になる。
 よくルパンが『大人は怖い』と言っていたのを思い出し、まさにその通りだと知る。

「ところで恋也君、お姉さんが楽しい遊びをしたくない?」

 不二子は横になった恋也の太腿をなぞる。
本気で組みたいのかと思うのだが、「したくない」と返答する。

「そんなにルパンが良いの?」

 不二子に聞かれた質問だった。
いつもの様にお色気たっぷりの声ではなく、真面目に聞かれたんだとこの時理解し、不二子の表情を伺う。
 
「不二、子……?」

 不二子の名前で呼んでも、不二子は返答することなく、恋也から離れていった。

 **

「大分てこずってるじゃねぇかルパン」
「今回ばかりは恋也を組ませねぇとならねぇんだ」

 恋也が眠った時間帯に次元とルパンは酒を飲みながら、リビングで話し合っていた。
次元がいつも通りにてこずってると言ったら、真面目な顔つきでルパンはグラスを傾けながら、返答した。
 
「そんなに厳しいセキュリティでもないのにか?」

 次元の問いにルパンはグラスの中に入っているウイスキーを次元にかけた。
その表情はどこか焦っているようにも見える。

「バカ言ってんじゃねぇ。約束しちまったんだよ、アイツと」

 ルパンにとって今回盗みに行くのはただのついで。
それを伝えていなかったのも悪いのだが、何かを約束したというルパンに全身ウイスキーまみれになった次元はソファから立ち上がり、タオルで濡れたところを拭く。

「何を約束したか知らねぇけどよ、ソファ汚したらまた怒られんぜ」
「次元ちゃんが俺をマジにさせるからでしょ」

 肩を竦めながらいつもの様にルパンは返答する。
本当に次元にとっても訳が分からないが、1つ言えるのは、そこまでして何かをしているという事だった。
 次元は鼻を鳴らし「おめーが紛らわしいことするからだ」と言って、そのままリビングから出て行った。

「アイツは覚えてねぇだろうけどな」

 窓の外を見ながら呟いたのだった。

 **

「ここにwillがあるのでこのareはbeに変わるのよ」

 不二峰子(ふじみねこ)が恋也のクラスで英語を教える。
考える事は同じ様で恋也は溜息が出そうになったが、さすがに友人に聞かれると面倒になると予感したので、誰にも愚痴らずに暫く日々を過ごしている。

 大体1週間と言って良いほどの時間が経った時、不二峰子が恋也を空き教室に呼び出した。

「あなた、自分で出した条件、覚えてる?」

 『教師』ではなく『不二子』として質問する。
やっぱり恋也を誘う気なのか、スカートは短めのを穿いており、黒のタイツを穿いている。
机に腰掛け脚を組むのをゆっくり行ってはいるが、それで心が揺れると言う訳でもなく、恋也は「俺を惚れさせた方に組む」と言い、内側からロックをかけた。

「あら、自分から閉じ込められる事になるのよ?」
「別に窓から飛び降りれるから問題は無い」

 放課後と言うのもあり、校内にはほとんど生徒や教師も居ないだろう。
そんな中、窓から飛び降りたって見られていても、気にする事はない。

「ねぇ、恋也君。私と組めば楽しい事沢山してあげれるわよ」

 そう囁くように言って不二子は机から降りて、恋也に近付く。
ドア付近に居る恋也は動かないで居るが、不二子が目の前にやってきて、そのまま壁に押し倒される。

 ちゅ。

 何かが、触れる感覚を覚えつつ恋也は不二子を見つめた。
自分にキスをした女性、胸を押し付けて脚を絡めて、自分の欲のままに動く女性。

「ね、ルパンはこんな事しないでしょ? 私と遊んだ方が、楽しいのよ」
「……そうかもしれないな。女と遊べば女を抱ける。でもさ不二子、俺は女を抱くという事に興味がないんだ。ただ女から抱いてというから抱いてるだけで、楽しいと思った事は一度もない」

 申し訳なさそうに恋也は告げた。
何度か抱いて欲しいと言われた事はあった。
 だから恋也は抱いたのであって、自分から女を抱きたいとは思ったことが無い。
それは言い方を変えると、女に興味がないとも言える。

「不二子にとったら色仕掛けが最大の武器なんだろうけど、俺は通用しない。どんなに不二子が俺を誘ったって、俺は何も感じないんだ」

 肩を竦めて苦笑いをした。
いくら自分が出した条件であっても、不二子に勝ち目は無い事は不二子自身も分かっていた。
 ルパンしか見ていない、そう思うと不二子は勝てない。
 女に興味がないと言っても、不二子のスタイルは皆目を引く。
不二子に魅力がないと言う訳ではない。
 女子高生に比べると色気もあり、男の扱い方を知っているのだが、恋也はルパンしか見ていないから、不二子がどれだけ色仕掛けしても意味が無い。

「それほど、ルパンが好きなのね」

 珍しく諦めが早い不二子。

「好きって、俺がルパンに好意を抱いているみたいな言い方……」
「抱いてるでしょ」

 とどめの一言だった。

「あぁ、抱いてるよ。自分でも分からないぐらいに惚れてしまってる」

 初めから、惚れているのはルパンなのだから、不二子に勝ち目は無い。
仕事自体はどうでも良かった。
 変装しろと言われれば変装するし、女装して恋人の振りでもしろと言われればそうするだろう。
何でもする。
それが自分のするべき事で、自分しか出来ないことだと思っている。

「……でもさ、そんな事知られたら俺はルパンともう組めないだろ」

 恋也の今の表情なんて不二子でも分かるぐらい、泣きそうだった。
それもそうだろう。
 好きな人がルパン三世で、そんな事を本人が知ればもう組ましてもらえない。
そんな事、言葉にしなくても分かるぐらいの事だった。
 二度と組ませてもらえない、相手にもしてもらえない、きっと建前上では笑ってくれるだろうが本心では気味悪がるだろう。

「だから言わないでくれよ、俺がルパンを好きだって事」

 ワザと微笑みを浮かべた。

「もうおせぇよ」

 不意に不二子からルパンの声が聞こえる。
まさか、と思っても遅かった。

 ビリビリと不二子(変装)が捲られていく。
恋也の目の前には見慣れた男の姿がそこにあった。

「ル、ルパン……」

 逃げようと後ろ手で鍵を開けようとしても、それを阻止される。
 服も作った物なのか、いつの間にか教師としての服を身に纏ったルパンが目の前に現れ、一歩後ろに下がれば、ドアにぶつかる。

「何で、不二子に化けて……」

 焦っている恋也は自分が言った事も忘れて、この場から逃げ出そうと必死になっている。

「お前さんが言ったんだろ? 自分のやり方で俺を惚れさせてみろってな」

 図星の表情を浮かべる。
どう考えても、自分が言ったことなので、逃げることは出来ないと感じ、その場に崩れる。

「……完敗だ」

 負けた。
簡単に言ってしまえば負けたのだが、掌の上で転がされているようで、自分の無力さを知り、どうやっても勝てないというのが何だか酷な気分になる。

「俺の負けだ。やっぱりアンタには敵わない敵いっこない」

 条件は『恋也を惚れさせた方が勝ち』。
とっくに結果が分かっている勝負など、誰もしようとは思わない。
 それなのにこの男は勝負を受けた。
 初めから知っていたのだ。
恋也がルパンに惚れている事など、知っていて知らない振りをして、勝負に挑んだ。

「お前から本心が聴けるとは思わなかったけどな」

 肩を竦めながら言うルパンに対し、恋也はドアに凭れながら「だから諦めが早かったのか」と呟いた。

「ご名答。お主もまだまだ修行が足りぬぞ」

 指をパチンと鳴らして、ルパンは恋也に指を向ける。
その瞬間恋也は何を思ったのか、顔を赤くした。

「って事は俺、ルパンとキスしたのか……」
「今頃気付くの」

 ガックリと肩を落とし明らか落ち込んでますという雰囲気を出しつつも、恋也は口元を手で押さえ、視線を逸らしていた。
 その様子を机に腰掛けて見ていたルパンは頬杖を付きながら、「でだ、恋也。今回やれそうか?」と尋ねる。

「やるに決まってるだろ!」

 ほぼ反射と言って良いほど後先考えずに発言した。

 **

「信じらんない! 私が眠らされる間に決着つけるなんて、ルパンの卑怯者ー!!」
「言ったでしょ? 今回の仕事は厄介なんだって……」
「知らない」

 完全に愛想尽かされたなと恋也はぼんやりと思いながらも、テーブルの上にあるカップに手を伸ばしミルクティーを口にする。
 本当に何故ルパンに惚れたのか、自分でも分からないぐらい今のルパンは惨めだと言える。

「そこまでにしといてやれ」

 次元の一言で不二子は渋々と言う形でルパンを殴る手を止める。

「ところでルパン、この作戦に不二子も入れるとは本当でござるか?」

 床で座禅をしていた五右ェ門が尋ねる。
五右ェ門の質問にルパンはいつもの陽気な声で「そっちの方が面白いだろ」と告げた。

 作戦実行は今夜。

「しかしまぁ、厄介な仕事にしたな」

 次元がルパンに声をかける。
ルパンはイスに反対向きに座りながら「約束したって言っただろ」と言った。

 **

「銭形警部! ルパンが現れました!」
「何をしとるんだ! さっさと追いかけんか!」
「は!」

 いつもの様に銭形は指示を出しているが、どこか違和感を覚える。
何故こんなところに盗みに来たのだろうかと。
 対して良いものがあるわけでもなく、簡単に言ってしまえば今にも崩れそうな建物に何があるというのだ。

 そう思っていると1つの人影を見つける。

――ルパンか、いやあれは……。

「こいつは貰ってくぜ。とっつぁん」
「次元!!」

 見覚えのあるシルエットが銭形の目の前に現れる。
上から下りてきたシルエットはルパンの相棒の次元大介。
 手には盗まれた筒がある。
ルパン達はこれを盗んだのだ。
 銭形は盗まれた物を取り返す為に次元を追いかける。

『次元はコイツを持ってとっつぁんの前に行って、とっつぁんをおびき出せ』

 ルパンのからの指令を聞いて初めは訳の分からないと思っていたのだが、ルパンの『どうせ見るなら全員で見た方が面白味があるだろ』という提案で打ち消された。

 ―ルパン&不二子―

「上手くいったみたいだな」
「それよりどういう事なの? 良いものが見れるって」
「それは見てからのお楽しみ」

 ニシシと笑うルパンは不二子には『良いものが見れる』とだけ伝えている。
当然それだけでは乗らない不二子なので、ついでに盗みに来た宝をやると言えば二つ返事で了承したのは、不二子だからなのだろう。
 
 古びた窓から次元が銭形に追われる姿を見つつ、警官がやってきたので、気絶させて上を目指して階段を上る。
 鉄で出来た螺旋階段は足音が響くが気にしている暇はない。

――5時半か。

「五右ェ門はちゃんと上にいるのよね?」
「多分な。居なかったら連絡も入ってこないだろ」

 上に着けば連絡を入れる事になっている。
誰が1番初めに上に着くのかは事前に決めており、五右ェ門がこの建物の屋根の上で待機しているのだ。
今居ないとしても、先程連絡が入ったので、ルパンと不二子は上に向かって走り出した。

 ―恋也―

「何で俺が……」

 コツン、靴を鳴らして中に入る。
 宮殿と思われるそこは、上を見上げたら当然高そうだった物が大量に飾ってあり、左右を見れば賢そうな偉人の絵が飾られている。
今は大分古びているけれども。

 此処のセキュリティは厳しくない。
誰でも物は盗む事はできるのに、ルパンに『お前が盗め』と言われたので、盗むしかない。

 見たことある宮殿だが、そんな事を言っている暇はないのだろう。
6時には上に来いと言われた為、急いで作業を開始する。

 次元が持っていったニセの筒をどうやって用意したのかは知らないが、アレと似たような筒がこの中にあるらしい。
 それしか言われておらず、どうやって盗めば良いのかは普通は分からない。

 一度、盗みに来ていなければ。

――確か、ここだったよな。

 傍に置かれているピアノの鍵盤を押す。
煩くはないが、今恋也が居る場所は警察も居ないので、全体に響いたようにも感じる。
 
 ガタンッ、何かが動いた。

 ゆっくりと本棚が動きだし、金庫のような物が姿を現す。
何とも古いやり方で保管しているのだろうと思いつつも、南京錠に手を伸ばす。
 鍵は持っていないが、ピッキングは得意分野だ。

 カチャ。

 鍵が外れたので、南京錠を外し、金庫の取っ手を引く。
確かに中には次元が持っていた筒と同じ物が入っていた。
 違うのは古さだけだった。

「ルパン、言ってた筒、手に入れたから俺も上に向かう」
『早いな。上に来る道中警察には気をつけろよ』
「了解」

 無線を切って、階段を上る。
何故1階だけ木製で2階からは鉄の螺旋階段なのだろうかと思いつつも、長い階段を上っていると7階あたりに気絶している警官を見つけ、ルパンと不二子はもう上にいるのだと思い、後を追う。
 所々古びてるから階段に穴が開いていたのだが、飛び越えたりとしていると大体9階ぐらいで窓が割れた。

「とっつぁんもしつけーな」
「俺はルパンを捕まえる為にお前を追いかけとるんだぁー!」

 目の前に次元が現れ、そのまま銭形から逃げるように上に向かう。
一応今の姿は黒いフードに髪を縛っているのだが、一度顔を見られたので、あまり顔は見られたくない。
 その思いでフードを深く被る。

「ルパン、もう着くぜ。そっちはどうなんだ?」
『次元か。こっちも予定通りに進んでるぜ』
「あと何分だ」
『あと10分だな』

 恋也の隣でやり取りを繰り返しているのを聞きながら、集合場所の屋根に辿り着く。

「遅かったでござるな」

 屋根に続くドアを開けて開口一番が五右ェ門であった。

「なんだ、なんだ。五右ェ門に不二子にルパン!?」
「銭形のとっつぁん。丁度良い所だったぜ」
「お前ら一体何をしとるのだ?」

 銭形の問いにルパンは暫し考えた振りをして、すぐに口を開いた。

「何って、約束を果たしただけだって」

 陽気なその声は銭形にとっては意味が理解できずにいる。
無論、次元、五右ェ門、不二子は理解しているのだが、此処にもう1人理解が遅れている少年が居た。

「約束って、誰かと約束したのか。ルパン?」
「おいルパン、本人が忘れてやがんぜ」
「覚えてねぇのも、無理はねぇよ。まさかあん時のがお前だったとはな――ギルティ」

 聞いた事のある名前に恋也は身構えた。
自分が、此処に来たことあるのは1人で盗みを働いている時だった。
 腕試しに忍び込んで見たのだが、ルパン三世に見つかり、宝を持っていかれた。
 その時は特に悔しいとも憎いとも思わなかったのだが、ルパンにまさか『そんな顔するお前さんに盗みなんて似合わねぇよ』と言われるとは思っていなかったが。

 大分暴言を吐いた記憶があるが、それでもルパンはギルティという偽名を使っていた恋也を撃つことは無かった。
 それは彼の持っているものとも言える。
 それだけルパン三世は器が大きく、余裕があるのだろう。

「言っただろ、お前がイイ男になった時に良いモンを見せてやるって」

 ルパンの表情は笑っていた。

 **

『まさか、ルパン三世に盗まれるとは俺も思わなかったな』
『結構噂になってたから、腕試しって事で様子見させて貰ってたけどな』
『悪趣味な奴』
『お前が言うなよ』

 屋上で話しているのにも関わらず、警察は居ない。
誰も予告状を出してはないのだから当然なのだ。
 ルパンは噂になっているギルティ・クランという少年とただ腕試しをしていた。
 自分の気配に気がつけば結構な実力があるのだろうと思っていたのだが、盗みを始めたのが最近なのか、落ち着きはあるがプロとは呼ぶことは出来ない。

『よく俺が此処に来る事が分かったな』
『大人はこわーいからねぇ。子供が遊び心でやってるからこうなるんだって、ママに教わらなかったか?』

 ちょっとした挑発だったのだろう。
その挑発は少年にしてみれば、最悪な挑発なのだが。

『残念だけど教わった記憶はないな。それに俺の母さんはそんな事言わないって事ぐらい調べておけよ』

 それが唯一自分が平常で居られるための建前だった。
自分の中では分かっていても、体が反応する時がある。

 無視すれば良いのに、無視が出来ない。

 人はそれを「弱い」や「思いやりがある」と片付けてしまう。
確かに言っている事は正論だが、その人に本人にとって本当に「弱い」のか「思いやりがある」かなんてものは、長い間一緒に居て分かるものだ。
 それを知っていますよという風に言う同年代や大人が少年、恋也は嫌いだった。
 何も知らない癖に偉そうに言葉を並べる人間が嫌いで仕方なかった。

 それでも学校に行き、そういった感情を隠して友人を作って「楽しい」と言える日常というものは過ごしていた。
 でも実際は自分が嘘を吐いて、感情を隠して作った友人だ、本心を述べてしまえばきっと離れていくだろう。
 偉そうにする人間が嫌いなだけであって、人間が嫌いと言うわけではない。
だから素直に話していたらこんな風に堕ちなくても良かったのだろう。
 自分が話してしまって友人が離れて行くのが嫌だと思ってしまったのだから、話す事も出来ずにこうやって盗みを働いて、気を紛らわせている。

 そうすれば、友人が離れる事も無く、いつもの様な日常を過ごせると勘違いしてしまった。

『お前の母さん泣くぜ? こんな事してんのバレんのも、お前が望んだ事じゃないだろ』
『泣きも笑いもしないに決まってるだろ』

 もう、死んでるから。
そう言いたかったのに、口を開けば泣いてしまうと思い、視線を逸らした。
  
 周りの大人は親が居ないから可哀想、可哀想と何度も同じ事を言い、誰も助けようとはしないそんな大人ばかり。
 本当に可哀想と思うのなら、優しくして欲しいと思うだろう。

『そんな顔するお前さんに盗みは似合わねぇよ』

 優しく言われた言葉だった。
冷たい風が肌に触れ、髪からすり抜けていく感覚を覚えつつ、自分に放たれた言葉に拳を作る。

『何も知らない癖に、偉そうに言うな。お前だって腹の中では嘲笑ってんだろ、俺のを事を知ってからそんなセリフ吐けよ』

 睨みつけながら放った言葉は日頃の不満も巻き込まれていた。
日頃不満が多いから不満を解消する為に盗みをし、盗めた事に快感を覚え止められなくなる。
 物に興味はない、盗む過程が最高に楽しいのだ。
盗んだものはその辺りに捨てているので、元の持ち主か警察にいっているだろう。
 そんな事はどうでも良かった。
ただ、自分が満足できればそれで良かったのだ。

『お前は俺の何を知ってる、俺が普段何を言われ、どう過ごしてるかなんて知りもしない癖に盗みは似合わないだって? 笑わせるな』

 ギルティはルパンに拳銃を向ける。

『撃てやしねぇよ』

 ――パァン、銃口から煙が上がっている。
ルパンは撃たれていなかった。
 ギルティが持っている拳銃は確かに発砲したのが、ルパンに対して撃った弾は外れていた。

『だから言っただろ、撃てやしねぇって』
『予言者かよ……』

 諦めたように銃を捨て、その場に座る。
本当に敵わないと判断した。
 ルパンは筒を持ちながらも煙草に火をつけて、空を見た。

『お前の事は何も知りやしねぇ、けどな、お前さんが足を洗ってイイ男になったら、良いモンを見せてやる』

 どんなものだろうかと思いつつもギルティは溜息を零した。
本当に、敵いっこない。

『そん時はまたコレを盗みに来い、元の場所に返しておくからよ』

 そう言ってルパンは姿を消した。

 **

「あの時のかよ」

 溜息と同時に落胆する。
人の縁と言うものはよく分からない。
 けれど、そんなだから惚れたのだろう。

「っで、俺達は朝日を見てる、と」

 次元の呟きにルパンはそうそうと頷く。

「くだらねぇな」

 一言でくだらないと言われてしまうが。
とある宮殿の屋根の上で5人が夕日を見ているのを、他の誰かが目にしてしまうと、色々面倒になりそうだ。

「お主の事だ、どうせ忘れていたのだろう」

 五右ェ門の何気ない一言に顔を引きつらせながら、恋也を見る。
たまたま昔来たことのある場所に来たから思い出したと言うだけで、ずっと忘れていたのはルパンも同じだ。

「しかし、不思議な事もあるもんだ。ワシが捜して追ったギルティがルパンの仲間だったとはな」
「あれとっつぁん。なぁんでもっと驚かねぇの?」

 ルパンが不思議に思って尋ねても銭形は軽く微笑み「ワシの勘は外れん。そこの少年がルパン一味だったのには驚いたが」と言った。
 
「それにしても、綺麗じゃない」

 不二子が珍しく綺麗だと言った。
宮殿の屋根の上で、朝日を見つめるルパン一味と銭形。
 丁度宮殿を海が囲んでいるので余計に綺麗に見えたのだろう。

「俺は昔より人が好きになった気がする」

 恋也は全員に聞こえるように呟いて、朝日を背中にして笑顔を向けた。

「俺はやっぱりルパンに惚れて良かったんだ」

 その笑顔は一切負の感情は含まれていなかった。 
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