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ルドガーinD×D (改)

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三十三話:事前に連絡位して欲しいよな


「お久しぶりね、ルドガー君」

「人違いです」


俺は玄関の扉を開けてその向こう側に居る人物を見た瞬間に扉をバタンと閉めた。
そして、その場でゆっくりと深呼吸をして、息を整えながら頭を整理する。まず、扉の向こう側にいた人物だ。端正な顔立ちにショートカットに整えたダークカラーの銀髪の女性だった……うん、よく似た別人だろうな。

そうだ、そうだ。こんな所に白い龍を宿した白龍皇なんてカッコイイ名前をもった奴が居るわけがないだろ。よく似た別人が俺の事を別の“ルドガーさん”と間違えただけなんだ。そうだ、そうに決まっている。俺はそう自己完結を済ませてリビングに戻る。


「おい、ルドガー、一人だけ逃げるんじゃねえよ! 俺っち達を助けてくれよぅ!」

「ルドガー、私達もいるのです。そんな手は通じませんよ」


この声は美候とアーサーだな。くそ、これだと人違い作戦が通用しないじゃないか!
一体全体、俺に何の恨みがあるって言うんだ。そもそも、どうして一緒に来ているんだ。
どういう繋がりなんだよ、一体。それと、美候、必死なのは分かるが助けてくれと言ったらそれだけ面倒事があるというのを理解させてしまうから簡単に口を開くのはやめろ。
おかげで必死に会いたくないと思っていた人間がさらに会いたくなくなったじゃないか。
なんなんだ、一体全体どれだけ面倒くさい人物なんだ?


「もしかして、彼女とお取込み中だったかしら。ごめんなさいね。そこまでは気が回らなかったわ。今日は帰らせてもらうからベッドの上でじっくり楽しんで頂戴ね」

「お、お取込み中ですか……?」


ダメだ、想像以上に面倒くさい相手だった。いきなりこんなことを言ってくるなんて俺の想像の遥か斜め上にいっていた。というか、ルフェイちゃんが居る前でそんな事を言うなよな。顔は見えないけど、ルフェイちゃんの顔が真っ赤になっているんだろうなというのは分かるぞ。
ルフェイちゃんは天使なんだ、そんな汚れたことを教えるんじゃない!
俺はルフェイちゃんの純情を守る為に厄介事を覚悟で玄関から飛び出す。


「ルフェイちゃんの前で変な事を言うなよな! 俺は別に何もしていないからな。
 ほら、用があるなら早く家に入ってくれ」

「本当に大丈夫かしら? 彼女がベッドの上であなたを待ちわびているんじゃないの?」

「「「しつこい!」」」


思わず、アーサーと美候と一緒に揃ってツッコミを入れてしまう。美候が助けてくれと言った理由が今分かったぞ。ツッコミが足りないからツッコミを求めたんだな。ふざけているわけではなく、恐らくは素で言っているからヴァーリはたちが悪い。

いかなる場面でもこんな感じのテンションなんだろう、ずっと一緒にいたらかなり疲れそうだ。ここは早いところ、話を終わらせて帰っていただくとしよう。俺はそう心に決めて四人に家に上がってもらう。





みんなには椅子に座ってもらい、その間にお茶を出す。それに対して久しぶりにアーサー達と喋っていた黒歌は何食わぬ顔でお茶を飲むが他の四人は違った。何やらげんなりとした顔をしているアーサー。トラウマが再発したかのように頭を抱えこむ美候。黒歌の様子を見て恐る恐る飲もうとしているルフェイちゃん。そして珍しい物を見たかのようにしげしげとグラスに入ったお茶を見るヴァーリ。


「ルドガー君、これは何かしら?」

「『フレッシュトマトティー』だ。新鮮なトマトとジャスミンティーとブレンドしてシロップで甘みをプラスしたものだよ」


ヴァーリの質問にそう答えると彼女は納得したように頷き、口をつける。そして目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。ふっ、どうやら俺の作った『フレッシュトマトティー』の余りの美味しさに驚いたようだな。しかし、その『フレッシュトマトティー』はただ美味しいだけじゃない。

トマトに含まれる色素リコピンは、抗酸化作用が強い。だから、美白・美肌の効果も発揮するんだ。まあ、黒歌はそんなもの必要ない程、肌が綺麗なんだけどな。さらにだ、リコピン同様に含まれる成分ペクチンには、疲労回復効果もあるんだ。この暑い夏を乗り切るためにトマトはぴったりな食材なんだぞ。まあ、俺は一年中食べているけどな。


「ルドガー君。あなた私のお嫁に来る気はない?」

「にゃん? ルドガーは私の嫁にゃ。誰にも渡さないにゃ!」

「俺も黒歌以外の所に行く気はないけど……まず、最初に俺、男だから嫁じゃないんだけど」


ヴァーリの言葉に対して警戒したように俺の腕にギュッと抱きついて言い返す黒歌。
そう言ってもらえるのは嬉しんだけど、俺は男だから嫁にはなれないぞ。婿だ、婿。
第一なんで俺が嫁みたいに見えるんだ。俺はただ単に料理が趣味で、掃除と裁縫のスキルを極めているだけの男だぞ。

一体全体どこに嫁要素があるんだ、こんなの最近の男子なら持っていて当たり前のスキルだろ? え、違う、俺だけ? ……兄さんと二人で暮らしていたから仕方ないだろ。兄さんは完璧超人だけど、家事だけは出来なかったんだよな。そんな兄さんを支えるために覚えただけなんだ。だから、これは至って普通の能力だ。異論は許しません。


「どうして私じゃダメなのかしら? 胸、やっぱり女は胸で判断するの?
 あんな脂肪の塊、肩が凝るだけで邪魔なだけでしょ!」


何やら、触れてはいけない所に自分から触れてしまったのか、鬼気迫る表情で語り始めるヴァーリ。そして気になったのでヴァーリの胸部に目をやって全てを察した。そこにあったのはまごうことなき絶壁だった。見事なまでに絶壁だった。小猫の数段上を行く絶壁具合だった。そしてそんなヴァーリの様子を見て黒歌は勝ち誇ったような表情を浮かべ、グルグルと肩を回してそのたわわに実った胸を揺らし始めた。


「うーん、かたがこってつらいにゃー。るどがーかたをもんでほしいにゃー」


見事なまでの棒読みで喋る黒歌に対してヴァーリはどす黒いオーラを放ち始める。
その様子を見て急いで避難を始める美候とアーサーとルフェイちゃん。ルフェイちゃんの目が涙でちょっぴり濡れているのはヴァーリが同じようにルフェイちゃんの胸にまで嫉妬したからかもしれないな……子供にも負けているのか。


「うふふふふ……アルビオン、『Half Dimension』の準備よ。みんな同じ大きさになってしまえばいいのよ!」

『ヴァーリ、そんなふざけたことに使うなら俺は泣くぞ?』

「半減の力で半減した胸を私の胸に回せない、役立たずは黙りなさい」

『恨むなら一ミリたりとも増えることなくcapacity overを起こす自分の胸を恨め』

「あら、先に死にたいの? アルビオン」


何やら仲間割れを起こし始めるヴァーリとアルビオン。……俺はどうすればいいんだ?
思わず、溜息を吐きたくなるがそれは心の中だけに止めて現状の打破に向けて頭を回転させる。
とりあえず、無理やりでもいいから話題を変えるか。俺はそう決めて今にも邪悪な負のオーラで爆発しそうなヴァーリに声を掛ける。


「ゴホン……結局のところ、何しに俺の家まで訪ねて来たんだ? ただ単に遊びに来たってわけじゃないんだろ」

「っ! そう言えばそうね。すっかり本来の目的を忘れていたわ」


俺の言葉にハッとしたような顔を浮かべ、どす黒いオーラを引っ込めるヴァーリ。取りあえず危機は脱したみたいだな。隣の黒歌は少しつまらなさそうにしているけど、今回ばかりは我慢してくれ。あのどす黒いオーラは俺の精神に多大な被害を及ぼすんだ。それにルフェイちゃんも怖がっていたから止めないと可哀想だろ。何度でも言おう。俺はロリコンじゃない、エルコンだ!


「で、何なんだ?」


「ルドガー君、あなた私のチームに入る気はない?」





ヴァーリ達が帰った後、鏡の前で風呂上がりの黒歌の髪を梳かしながら先程の事を思い出す。結論から言うとヴァーリ達の言うチームには入らなかった。簡単に概要だけを聞いたけど、ヴァーリのチームは戦いの好きな人間が集まる、どこにも属さないチームらしい。

最初は美候やアーサーのいる、なんとか団に入ったらしいけど、結局の所、集団に属したらその集団とは戦えないことに気づいてどこにも属さないチームを自分で作ったらしい。
因みに黒歌もなんとか団に入っていたらしいけど今は俺の元に居るために抜けたらしい。

そのことに関しては、アーサー達は何も言ってこなかったから少なくともアーサー達には容認されているんだろうな。それにしてもヴァーリ達は……本当に戦いが好きだな。流石に全てを敵にまわすのは骨が折れるだろう。

俺も黒歌の為以外では好き好んでしたいものじゃない。それを自分からやろうというのだから相当なもの好きだ。黒歌が入ると言えば入ったけど当然のことながらそんな事を黒歌が言うわけはないので断りを入れて、ルフェイちゃんに手作りのお菓子を持たせてから帰ってもらった。
その時のルフェイちゃんの表情が天使だったとだけは言っておこう。


「ルドガーって本当に何でも出来るけど、髪を梳くなんてどこで覚えたのにゃ?」

「昔、一緒に旅をしていた女の子の髪を梳いてあげたり整えたりしていたからその影響だな」

「ふーん」


少し、不機嫌そうに頬を膨らませる黒歌。俺が他の女の子の話をするといつもこんな感じの表情をするんだよな。見た目の妖艶な雰囲気に反して黒歌はこういった子供みたいな反応をするから本当に可愛らしい。俺は髪を梳く手を止めて後ろからギュッと抱きしめる。そんな俺に対して黒歌もこちらに体重を掛けてきてくれる。


「女の子と言っても八歳の子供さ。背伸びをしているけど自分で髪を結んだり整えたり出来ないから結局は俺に頼んで来ていたんだ……可愛かったな」

「“娘”みたいな感じかにゃ?」


「違う!」


思わず、声を荒げてしまいビクッと黒歌が震えてしまう。そして驚いた表情で俺の方を見つめて来る。しまったな……つい、叫んでしまった。あくまでも俺とエルは『アイボー』なんだ。
俺はエルの父親でもないし、エルは俺の娘でもない。たいとーな『アイボー』なんだ。
そのことをどうしても否定されたくないんだよな……。


「ごめん、驚いたよな。そうだ、そう言えば授業参観には来るのか? 小猫も黒歌が行ったら喜ぶと思うぞ」

「え、う、うん。勿論、白音の授業参観には行くにゃ」

「ああ、それがいいよ。そう言えば、髪を梳いている途中だったな、続きをしないとな」


俺は無理やり話題を変えてエルの事から話を逸らそうとする。それに対して黒歌は驚いたものの気遣ってか俺の話に乗ってくれた。ごめん……本当は話さないといけなんだけど……これを話してしまったらこの幸せが壊れてしまいそうでどうしても言えないんだ。
最近は嫌な予感がする……この幸せを―――“俺”自身が壊してしまうような、そんな気がする。





授業参観の日、塔城小猫、もとい白音は授業中に強い視線を自分に感じていた。視線の送り主が誰かは見なくても分かる。しかし、分かっていても見ないという選択は出来なかった。チラリと後ろを振り返ってみるとバッチリと姉、黒歌と目が合った。黒歌の姿は黒色のジャケットに同じく黒のワンピース、スカート裾から覗く脚にはこれまた黒のストッキングと明らかに今日の為に用意したと思われるフォーマルないでたちであった。

白音はここで一端、目を逸らし黒板に目を戻す。正直に言えば、今までこういった機会があっても自分は家族が見に来ることがなかったのでこうして姉が見に来てくれるのは嬉しいと白音は思う。しかし、どうにもこの視線は恥ずかしい。当たり前と言えば当たり前だが保護者は自分の子供を中心に見る。黒歌もその例に漏れず、いや、むしろ他のどの保護者よりも気合を入れて白音を見ていた。彼女は彼女で今まで自分のせいで寂しい思いをさせてきたと思っているので白音から目を離すことが無い。

そのせいで白音は今まで感じたどのプレッシャーとも似つかないプレッシャーを感じていた。今まで授業参観を友達が恥ずかしいと言っていた理由が分からなかったが今日初めて白音はその理由を理解できたと頭の隅で思う。そして、再びチラリと後ろを見るとビデオカメラを構えた姉と目が合った。白音のプレッシャーが跳ね上がった。失敗できない、無様な姿を晒してしまえば一生記録として残ってしまうと思い、ソワソワとし始める。

一方の黒歌はそんな妹の様子に身悶えたいのを我慢して必死にカメラを回し続けていた。
黒歌の頭の中には妹が可愛いということしか入っていなかった。緊張してソワソワとしている様子など見る側からすれば、ただ、ただ、可愛いのだ。帰ったらこれをルドガーと一緒に見て感動を分かち合おうと黒歌は心に強く誓う。後日、そのことを妹がルドガーから実に微笑ましそうに伝えられて身悶えることも知らずに。そうした様々な思いの中、授業参観は進んで行くのだった。

 
 

 
後書き
授業参観は多分、小猫と黒歌の分しか書きません。
ルドガーは……保護者と呼べる人が居ませんから。 
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