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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 中学編 06 「いざ、遊園地へ」

 シュテルの代役でショウくんはレヴィと一緒に遊園地に行くことになった。それはデートなのではないか、と考えていると、それをふたりが私も行きたいのではないかと思ったらしく、私も遊園地に行くことが決まった。
 シュテルやショウくんが言うには、レヴィと遊ぶのは体力がいる。だから一緒に行く人数は多いほうがいいってことらしいけど……私、大丈夫かな。
 正直これまでにレヴィと一緒に遊んだことなんて数えるほどしかない。しかも、そのときは大体レヴィに慣れのあるシュテル達が主に相手をしていた。がっつりと遊ぶのは今日が初めてだと言える。
 フェイトちゃん達も誘ってみたけどお仕事だったし、アリサちゃん達も習い事があって無理だったんだよね。一応ひとりは誘えたけれど……体があまり丈夫じゃなさそうな印象があるし、無茶をさせちゃダメだよね。

「……よし、今日は私が頑張ろう! ……って、考え込んでる場合じゃなかった」

 さっさと服を決めないと。
 待ち合わせの時間にはまだ余裕はあるけど、服以外にも髪型や小物と決めなければならないものはたくさんある。女の子は大変なのです。
 レヴィはこういうので迷うことあるのかなぁ……。
 少なからずレヴィの性格を知っているだけに疑問に思ってしまう。冷静に考えてみても、よくもあそこまで何でも素直に言ったり行動できるものだ。
 特にショウくんに対しては、昔から手を繋いだり抱きついたり……出会った頃はまだしも、今は絶対ダメだよね。だってレヴィ、フェイトちゃんと同じくらいスタイル良くなってるし。
 というか、何であそこまで触れ合えるのだろう。男の子を何とも思っていないのだろうか。会話くらいならまだしも、触れ合うとなると多少なりとも意識しそうなものだけれど。

「……でも」

 レヴィって男の子のこと意識してないのに女の子らしいよね。着ている服とかもオシャレだし。大抵のことを直感で決めてそうだけど、そうなるとセンスが良いってことだよね。
 そう考えると実に羨ましい。あれこれ悩まずに人から褒めてもらえるのだから。今こうして迷っている自分が惨めに思えてくる。

「はぁ……昔はこんなこと考えてなかった気がするんだけどなぁ」

 大人になったのだと考えるべきか、無邪気さがなくなったと考えるべきか……。フェイトちゃん達と出かけるときは今日ほど迷わないはずなんだけど。ショウくんがいるからこうなっているのだろうか。
 ……って、別にショウくんとはこれまでに何度も今日みたいに数人で遊んだことあるじゃん。ふたりで行くわけでもないんだから、ショウくんは別に関係ないよね。
 と思いつつも、ふと気が付けばショウくんがどういう格好で来るのか、呆れたり困ったりする顔以外にも嬉しそうな顔が見れるのではないか、なんて考えてしまっている自分が居た。

「あぁもう、私はいったい何を考えてるの!?」

 どうにも今日の……いや、この前シュテルと一緒にお茶をした日からおかしい。あの日からどうにも今日のことばかり考えていた気がする。
 確かに今日のことは楽しみだったし、レヴィ達ともっと仲良くなりたいって思ってるけど……何でこんなに落ち着かないんだろう。ワクワクって感情以外にもどこか緊張してるし。

「私……こんなんで今日1日持つのかな」

 ★

 時間ギリギリまで服装と髪型に悩んでいたけれど、結論から言えば髪型はいつものようにサイドポニー。服装は白を基調としたワンピースにした。無難な格好なだけに評価されるにしても無難な言葉になると思う。
 ……まあこれといってそういうのはなかったんだけど。
 現在、目的地である遊園地に向けてバスで移動している。座っているのは最後尾で、窓際にレヴィとショウくん。そのふたりに挟まれる形でユーリと私が座っている。なぜユーリがいるかというと、彼女とはかなり頻繁にメールのやりとりをする友達だからだ。

「まだかな、まだかな」

 よほど楽しみなのかレヴィは会ったときからずっとそわそわしている。
 レヴィと出会ってからおよそ3年の月日が経っているわけだが、体は大きくなっても心のほうは出会った頃から何一つ変わっていないように思える。
 服装は長袖に短パンと動きやすさを重視した感じだ。髪は下ろして帽子を身に着けている。昔は遊ぶときはツインテールにしていたようだけど、最近はほとんどしなくなったらしい。
 見た目は大人っぽいのでシュテルやディアーチェにやめたほうがいいと言われたのかな。帽子は確かフェイトちゃんとの区別をつけやすいようにってことで被るようにしてるんだったっけ。

「まだですけど、ちゃんといっぱい遊べますから落ち着いてください」

 そうレヴィを嗜めるのはユーリだ。私達と比べると小柄なのは変わりはないけれど、会った頃に比べれば充分に身長は伸びているし、出るところは出ている。普段は髪を下ろしているらしいけど、今日は遊ぶのに邪魔にならないようにかポニーテールだ。
 淡い桃色の上着と白のスカートと主張が強すぎずかつ地味すぎない服装にセンスを感じる。ユーリの服装を見ていると、次第に私ももう少し違った格好でくればよかったかもと思った。
 ……地味とか思われてないかな?
 そう思って視線を右に動かすと視線が重なった。まさかこちらを見ているとは思っていなかったので、必然的に鼓動が強まる。
 ど、どうしよう……何で私のほうを見てるの。って、端っこに座ってるんだから普通にこっちを見るよね。というか、何で私はショウくんの隣に座っちゃったんだろう。いや別に嫌とかじゃないんだけど。ユーリがレヴィの面倒を見るって張り切ってたから今の席順になったんだけど……。

「本当に?」
「本当です。ね、ショウさん?」
「ああ……レヴィの好きなところに付き合ってやるよ。だから今は大人しくな」

 ショウくんの言葉にレヴィは元気良く返事をした。他のお客さん達の視線が集まったのが、一瞬と呼べる時間だったのが救いだ。長時間浴びていたら恥ずかしさのあまりずっと俯いてしゃべらなくなっていたと思う。
 ……ショウくん、私じゃなくてレヴィを見てたんだ。……まあ当然だよね。だってシュテルの代わりで来てるわけなんだから。
 そう割りきろうとするが、どうしても早とちりしてしまったことによる恥ずかしさが消えてくれない。これといって何もしていないのに顔を赤くしていたら変に思われてしまうだろう。それだけは避けたくてたまらなかった。チラリとショウくんの様子を窺うと、小さくあくびをしてから何度も瞬きをしていた。
 そういえば、今日は何だか元気がなかったかのような……。
 声からは判断しにくいけれど、昔よりも表情が豊かになったし、それなりに付き合いのある関係だ。何があったのかまでは分からなくても、元気があるかないかくらいは分かる。

「ショウくん、大丈夫?」
「ん……あぁ、少し眠たいだけだ」
「遅くまでお仕事があったの?」
「いや、昨日はシグナムとの訓練がな……それに、よほど今日が楽しみだったのかレヴィが泊まりに来たんだ」

 私の知る限り、ショウくんはシグナムさんと昔から訓練を行っているし、とても心身ともに疲労するものだ。訓練後の彼を何度か見たことがあるし、フェイトちゃんとの模擬戦を見たことがあるので少なからず理解できる。
 体力が減っている状態でレヴィの相手をしたら寝不足になるよね。レヴィって楽しみなことがあると寝れなくて遅くまで起きてそうだし……。
 あれ……今の言葉を信じると……疑うわけじゃないけど、レヴィはショウくんの家で一晩過ごしたってことになるよね。
 ショウくんの家にはディアーチェもいるから問題はないだろうけど、でも私達はもう子供じゃない。いや正確には子供だけど、子供から徐々に大人に変わりつつある年代だ。同性ならまだしも異性の家に泊まるなんてのは良くないのでは……。

「ふぁ……到着までにまだ結構掛かるよな?」
「え、あぁうん」
「じゃあ……少し寝る」

 そう言ってすぐショウくんからは安らかな吐息しか聞こえなくなった。少しと言っていたが、これだけ早く寝れるということはかなり眠気があったのだろう。
 ……ショウくんの寝顔……可愛いかも。
 普段落ち着いてて大人っぽく見えるせいか、とても子供らしく見えてしまう。歳相応の寝顔なのだろうが、ショウくんの家に泊まったことがない私としては珍しい光景だ。はやてちゃんやシュテル達は見慣れていそうだけど。

「――っ!?」

 ショウくんの寝顔を見ていると、不意に体が彼のほうに倒れそうになった。どうやら大きなカーブを曲がっているらしい。
 寝たばかりだし起こすのは悪いよね。
 と思った矢先、私の体に加わる力が増した。意識を向けてみると、レヴィとユーリがこちらに倒れてきているのが見える。
 ちょっ……ふたりとも耐えて。このままじゃショウくんに倒れて起こしちゃうよ……レヴィ、バスはジェットコースターじゃないよ! 楽しそうにしな……あぁ倒れる倒れる、倒れたらショウくん起きちゃうってば!

「く、くるしいです……」

 体に掛かる力に任せて倒れるレヴィ。ショウくんを起こさないように耐える私。必然的に挟まれているユーリが潰される。
 レヴィは私達3人の中で1番身長が高いし、発育も進んでいる。体重は最もあるはず(別に太ってるとか言いたいわけじゃない)。そしてユーリは最も小柄なわけで……くるしいと声を上げるのは当然だと思う。
 ごめんユーリ……悪いとは思うけど、今だけは我慢して。もうすぐ遊園地に着くならまだしも、まだ当分着かなくて、寝たばかりの人を起こすのは私はできないから!

「バスって意外と楽しいね!」
「楽しむのはいいですけど、もう少し別の楽しみ方をしてください。重かったんですから」

 カーブを抜けるやいなや、ユーリが少し頬を膨らませて無邪気なレヴィを注意した。ユーリが言っていることは間違っていないし、私にも似たような気持ちがあるけれど……重いという言葉をストレートに言うのはどうなんだろう。レヴィだって一応女の子だし……

「あっ、分かる~? 実は昨日計ってみたら前より格段に重くなってたんだよね。結構動いてるはずなんだけど、何で太っちゃったんだろう?」
「それは……太ったんじゃありません。身長が伸びれば誰だって体重は増えます……それにレヴィはスタイル良いですから」

 レヴィの胸や腰まわりに視線を向けながら唇を尖らせるユーリの気持ちは大いに理解できる。私もみんなの中じゃ1番発育が進んでいないし、レヴィの体重増加の理由が理由だし。
 今の発言からして多分レヴィって体重とか気にしてないよね。食べたいものは好きなだけ食べてそうだし……なのにこの体型。
 レヴィにそっくりなフェイトちゃんも食事制限とかしてないって言ってたけどスタイル抜群だ。いったいこのふたりの体はどうなってるんだろう。フェイトちゃんはまだ小食なほうだから分かるけど、レヴィは食べる量は私というか一般的な女の子からすると異常だ。なのに体重が増えるのは成長によるものだけ。不公平だ、不公平すぎる……。

「なにむくれてるのさ。ユーリもこれから大きくなるよ。だからボクみたいにいっぱい食べていっぱい寝るんだよ」
「睡眠はまだしも、レヴィほど食べるのは無理です。というか、レヴィみたいに食べたら普通は太りますから」
「ユーリは別に太ってもいいというか、太ったほうがいいと思うな。華奢というか線が細いし」

 太ったほうがいいという言い方はともかく、確かにユーリはもう少し肉を付けた方がいいかも。手足とか同年代よりも細い気がするし。

「これでもちゃんと食べてます……」

 ユーリは返事をしながら視線をレヴィからこちらのほうに向いた。一瞬自分に向けられたのかと思ったが、冷静に観察してみると私の奥のほうを見ているのが分かる。どうやらショウくんを見ているようだ。

「……太ったとか言われたくないです」

 声にもならない声だったのでよく分からなかったが、話の流れから予想するに体重に関することだろう。
 ショウくんを見たのは……あれかな、ショウくんには太ったとか言われたくないとかかな。私だってレヴィやフェイトちゃん達から言われるのと、ショウくんから言われるのとじゃ心へのダメージが違ってくるし。
 それにユーリからすれば、ショウくんはお兄ちゃんのような存在だろう。彼に甘える姿はこれまでに何度か見ているし……ここ最近は見ていないような気がするけど、まあ私はメールでやりとりはしていても直接会っているわけじゃない。私の知らないところで仲良くやっているのだろう。

「どったのユーリ?」
「何でもないです」
「何でもないって、何か機嫌悪いじゃん」
「別に悪くないです。ただレヴィの能天気さや体質が羨ましく思っただけです」
「え、そうかな~」

 いやレヴィ、ユーリは別に褒めてないと思うよ。
 なんて内心でツッコんだ直後、今度は先ほどとは反対側に体が追いやられる。先ほどユーリを潰してしまっただけに倒れるのは躊躇われ、全身に力を入れて必死に堪えた。
 一方ユーリは、突然のことに対応できなかったようでレヴィに胸に飛び込むような形で倒れこんだ。レヴィは「……っと」と声を上げたものの、大して苦には感じていないように見える。ユーリが小柄であることに加え、レヴィの豊満な胸が関係している気がした。

「大丈夫?」
「あ、はい、すみません……やっぱり大きいです。やわらかいです」
「ん、何か言った?」
「何でもありません。気にしないでください」

 何やらユーリの顔が赤い気がするが……まあ気にしないでおこう。いや、正確には気にしていられない。気にしていられたならどれだけ助かったことか。
 ど……どうしよう。
 肩くらいから聞こえる安らかな寝息。顔を正面に向けてはいるが、視界には黒い髪の毛が映っている。現状を説明すると……しなくても分かる人は分かるだろうけど、ショウくんが私に寄りかかっているのだ。先ほどのカーブが原因なのであって、彼が意図的にしたのではない。意図的だったら多分私は奇声を上げるか、飛び跳ねるかしていたことだろう。

「うぅん……」
「――っ!?」

 バスが停車した瞬間、ショウくんが少しだけ動いた。その際、彼の髪の毛が首筋をなぞったため、思わず声が漏れそうになった。
 あ、危なかった……いきなり「ひゃ――!?」とか言ったらユーリ達だけじゃなくて、他のお客さんにも注目されただろうし。それにショウくんを起こしたかも……えっと、何してるのかな?
 隣に座っていたはずのユーリがいつの間にかケータイを片手に私の前に来ていた。彼女はケータイをこちらに向けると、にこりと笑う。

「えーと……ユーリ?」
「きれいに撮れましたよ」

 こちらに向けられたユーリのケータイの画面には、頬を赤くしている私と寝ているショウくんが映っていた。彼女としては思い出の1枚として撮ったのだろうが、こちらの心境は穏やかではない。
 ちょっ、ちょっとユーリ……それはまずいよ。わ、私だけならまだしもショウくんまで一緒に撮るのは。起きてるならまだしも寝ているところ……それも私に寄りかかっての状態なのはすっごくまずいよ。私の精神的にも。
 そのように頭はフル回転してはいるのだが言葉が出てこない。それでも「それは消して」と身振り手振りで伝えようと試みるが

「あとでなのはさんのケータイにも送りますね」

 などと勘違いされてしまった。
 ユーリ、そうじゃないんだってば。隣にいるのがフェイトちゃんとかならまだいいけど、ショウくんとのツーショットはまずいよ。誰かに見られたら質問攻めされること間違いないし。嬉しいか嬉しくないかでいえば、ショウくんとはあまり写真撮ったことないから嬉しいけどさ。

「この席順にして正解でしたね」
「え?」
「わたしだと支えきれるか分かりませんし、レヴィだとじっとしていられないでしょうから。それにショウさん、とっても気持ち良さそうに寝てます。なのはさんのこと信頼しているんでしょうね」

 ユーリの言葉に顔に感じる熱が増したような気がした。
 し、信頼って……確かに出会った頃に比べれば、名前で呼び合うようになったし、会話する機会も増えたけど。でも気持ち良さそうに寝てるのは単純に疲れてるだけだと思うな……というか、そうじゃないと今にもこの場から逃げたくなるというか、席順を変わりたくなるし。

「ユーリ、ボクだってショウとは仲良しなんだぞ。それに気持ち良さそうに寝ている人を起こすような真似は……たまにしかしないかな」

 たまにはするんだ……まあイタズラしそうな感じはするけど。

「でも今日はしないぞ。その証拠を見せるためにもなにょは、ボクと場所変わろう。今のままだと寝にくいだろうし……うん、膝枕してあげたほうがいいよね」
「いやいやいや、それだと私やユーリが隅に追いやられるから。それに動いたら多分起きちゃうからね。私は大丈夫だからこのままでいいよ」

 ひ、膝枕とかこんな場所でしていいものじゃないだろうし……レヴィ大胆すぎるよ。深くはというか、これといって何も考えてはないんだろうけど。まだ遊園地に着いてもないのに、ここまで言動に振り回されるなんて……何か遊園地に着くのが怖くなってきたかも。


 
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