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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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異なる物語との休日~クロスクエスト~
  休日の⑦

「うぅう……ひ、ひどい目に合った……」

 翌朝。朝食を食べるために集合した時、眠そうな眼をこすって、コハクがそう呟いた。

「何かあったのか?」
「マリーちゃんが……大暴走して……」
「大変だったなそりゃ……こっちはメテオと理央だよ。雷斗筆頭で全力で阻止した」

 本当は自分も被害に合っていた、などとは口が裂けても言えない。コハクはこれで過保護だ。

 すると彼女は、不思議そうな顔をして返す。

「ふぅん……でもその割には声とか震動とか全然聞こえなかったわよ?」
「そりゃこっちもだ。防音対策が凄まじいな……」

 何故だろう。全くもって嬉しくない。《主》の施しだと思うと何でもかんでも悪いモノのように見えてしまって仕方がない。本当に信用無いな、と思うが、そうなのだから仕方がない。なまじ『≒陰斗』な存在であるだけあって、セモンとしても奴の事はあまり好きではない……というか嫌いだ。できれば二度と会いたくない。

 因みに朝食はバイキング形式だった。セモンとコハクは和食だったが、ゼツみたいに洋食を取っている奴もいた。ちなみに雷斗はこんな朝から何を考えているのかと言いたくなるほど大量に喰っていた。

「リュウ! はい、あーん!」
「それはもういいよ……」
「私の据え膳が受け入れられないというのですかこのビワツボカムリ」
「マイナーな微生物の名前を出すな!! というか言葉の使い方違くね!?」

 確かに「はいあーん」は据え膳ではないかもしれない。もちろん変な意味での《据え膳》でもない……まさかマリーはそれを狙っているというのか? 因みにものすごくどうでもいいが、《ビワツボカムリ》と言うのは琵琶湖にしかいないプランクトンで、ツボカムリという微生物の仲間だそうだ。小学校の理科の授業で聞いた。

 というか朝っぱらから「はいあーん」をやるのをやめてほしい。さすがに他にやっている奴らはいなかったが。むしろやっている奴らがいたら怖い。

 腹立たしいことに、朝食は非常に美味しかった。豪勢でない分、セモンとしては昨日の夕食よりも相性がよかった。

 取りあえず疑問に思った事としては、こんな山奥にあるのに海魚が謎の鮮度で出されているのはどういう事か、を始めとし、食料の鮮度が異常に高い事か。何かワープゲート的なもので運んだりしているのかもしれない。

 ――――あり得ちゃうから困るんだよなぁ……。

 もう《白亜宮》に関してはそう言う集団である、として諦めてしまうしかないのかもしれない。別に《白亜宮》騒動の後には、直接セモン達にかかわって悪さをしているわけでもないのだから。

 まぁ、かと言って、彼ら(比率的に『彼女ら』)の存在を野放しにするのも恐らく良くない。何と言うか、《白亜宮》の面々は、良くも悪くも《主》に忠実すぎる。彼に《設定》されて誕生した存在達ばかりなのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが……。

 あの騒動の折、《主》は「僕は人類に期待しているんだ」と言った。もし《主》が、人類は完全に期待はずれな存在だった、と認識してしまったら――――

 恐らく、なんの造作もなく、この世界から人類は消え去ってしまうだろう。それだけは、絶対に避けたい。ゆるやかに滅びを迎えるならば、それもまた世界の《変遷》だ。しかし、強制的に何者かに滅ぼされるのは違う。それは良くない事だ。

 まぁ、だがしかし。

 《白亜宮》は今のところおとなしいのであって。

「気にしたら負け、とか、そんなところだよな」
「気軽に行きましょ。清文はそっちの方が似合ってるわ」

 そんなことを言いながら、コハクと笑いあうのであった。



 ***



「いらっしゃいませ~」
「うるさい黙れ」
「はっはっは。『目を食いしばれ』とでも続けてやろうかい?」
「相当古いネタだなそれ」

 ――――そもそも知ってる人いるのか?

 そんなことを思いながら、セモンは目の前で売店員の服を着た青年――――アスリウをにらんだ。

 朝食を食べ終え、荷物をまとめたセモン達の元にやって来たグリーヴィネスシャドウが、「せっかくなのでおみやげでも買って行ったらどうですか?」と言って案内したのが、旅館のはずれにある売店だった。

 一体どこで『創られた』のか怪しい、やけに高級そうなお菓子や人気ブランドのご当地品など、そこで売られていたものの内容は多岐に及んだ。及びすぎではないかと思ったが。
 
 仲間たちは、それぞれ思い思いのお土産を購入していた。

「うわ、見ろよコレ、カントリーマ〇ムの限定味だぜ。ホワイトチョコぶっ掛けてるのとかとか見たことねぇよ」
「そもそも何でカント〇ーマァムが売ってるんだ」
「それを言ったらこっち何て……」

 食い意地の張った少年たちが限定味のお菓子をあさっていく。

「木彫りの熊なんてどうだ?」
「何でそんなものが置いてあるんだ?」
「うん? それは単純に僕が北海道好きだからさ。いいよね北方」

 謎の精密さでつくられた木彫りの熊を見て、アスリウが嬉しそうに解説していた。

「因みに熊が気に入らないというならこっちのベラルーシ名物の着飾ったフクロウはどうかな? それともカナダ産のメープルシロップとか、シベリアから発掘されたマンモスのはく製の一部とか……」
「最後のそれ何!?」

 思わず突っ込んでしまった。何でマンモスのはく製とかあるんだよ。というかどうやって手に入れたんだよ。

「ひ・み・つ、さ」
「イラッ」

 口元に人差し指の指先を当てて、可愛らしく首を傾けるアスリウに、セモンはイライラを押さえられない。何考えてんだこいつ。

「僕がアーニャにやってほしいことランキング第十三位。やってくれないから自分でやった」
「ウザいからやめろ」

 どれだけネタに走れば気が済むんだこいつ。

「人生は刺激だらけだからかな。そう言うのがあってもいいと思うぜ?」
「あれ? シュウ? ……何でこんなところに」

 気が付けば、いつの間にか隣にはアスナの兄、シュウが立っていた。今日は従業員の法被姿ではなく、私服なのだろう、パンクファッションのジャケット姿だった。

「いや、バイトは今日で終りなんでな。せっかくだから土産を買って行こうと思って」
「ああ、なるほど」

 そう言えば正式社員じゃなくてバイト何だったか。と言うか今更だが、《白亜宮》にバイトを雇う意味って……ああ、お約束のご都合主義か。

「大正解だよ。良く分かったねセモン君」
「そりゃぁ……嫌でも分かるようになってしまう」

 段々《白亜宮》、ひいては《主》の趣向が分かるようになってきてしまったのがつらい。もうやだ。

「そんな君に嬉しいお知らせ。あっちのコーナーを見てごらん」

 そう言いながら、アスリウは売店の隅を指さす。そこには――――


 メロンパンの天国があった。

「なん、だと……」

 五段にも上る陳列棚に、所狭しと置かれた十余種に上る数々のメロンパンたち。

 それに目を奪われ、我を忘れて絶句するセモン。メロンパンはセモンの大好物だ。メロンパンはこの世の至宝だ。同じく至宝であるコハクと同列ぐらいには至宝だ。セモンはメロンパンだけで一日の食事全てを賄いきることができる自信があった。

 因みにセモンには預かり知らぬことだが、この『メロンパンだけで一日を過ごす』という事は、自在式による強い自己暗示で、実際に実現することが可能である。あくまでネタ能力でしかないが、メロンパンを自在式で生み出せるほどまでになれば、何もなくてもサバイバルができるというとんでもない生存力を取得することとなる。

「くっ……」

 《白亜宮》で生産されたメロンパン……胡散臭い。とてつもなく胡散臭い。怪しい気配がとても強い。

 だが。だがしかし。()()()()()だ。

 こうやって見ていると、あの無数のメロンパンたちが、「たべて~たべて~」「買って~買って~」とキラキラした目を向けているような気がして―――――






「お買い上げありがとうございました~」
「……」

 ドヤァと笑うアスリウににらみを利かせると、セモンはすでにお揃いの湯飲み茶碗(夫婦茶碗というのか)を買ったコハクの元へと戻った。

「清文……」
「すまん琥珀。メロンパンには勝てなかった」

 呆れてため息をつくコハクに、セモンは弁明の余地なき事実を告げるのみであった。



 ***



「じゃぁな。次に会ったときは全力で戦おうぜ!!」
「もう、ライト君ったら戦いの事しか考えてないんだから」

 雷斗とサナが旅館を後にする。嵐のような少年だった。きっと彼は彼で、世界を救う楔をなったのだろうと思うと、あの人を小ばかにしたような性格もほほえましく思えてくるのだから不思議だ。

「今回は突込み役だったけどな。今度は俺も暴れさせてもらうぜ」
「また会いましょ」

 来人とミザールが、『狩人と黒の剣士』の世界へ戻る。年長者だった彼らには本当に世話になった。時間軸が違うので、もしかしたら次に会った時にはセモンの方が年上になっているかもしれないが――――それでも頼りになることに代わりはないだろう。

「楽しかったぜ! 今度はおれ達の世界にも来てくれよな」
「その時は、よろしく」

 理央と詩乃が、自らの世界へと戻るべく、旅館を出た。重い罪を背負った二人は、これからもその罪を分かち合い、いつか過去へと霧散させるのだろう。彼らならできると、不思議と感じることができた。

「楽しかったよ。生きててよかった、と思えるほどにはな」
「じゃぁね! 今度はみんなで遊ぼうね~!」

 ゼツとリナが、己の世界へと帰っていく。《紅蓮の帝》とその妃の幸せは、まだ始まったばかりだ。終わりではなく始まりが、彼らにはまだ待っている。

「あばよ。また会おう」
「もうっ、アツヤったら無愛想なんだから。じゃぁね、皆。また会おうね!」

 アツヤとヒメカが旅館を出る。まだ再出発したばかりの彼らの物語は、いずれあるべき決着へとたどり着くまで、加速し続けるだろう。彼らの未来が、栄光に彩られたものであることを祈る。

「今回は最高に楽しかった! 次はきっともっと楽しい! また会おうぜ!」
「落ち着きなさい、イオ……」

 メテオとアステが『星崩しの剣士』の世界へと戻っていく。星降る夜に誓った彼らは、これからも己と、その愛する者に報うべく生き続けていくのだろう。背負ったすべては、二人で分け合えるのだから。

「それじゃぁ皆。願わくば、皆の世界と再び逢い見えん事を」
「皆さん、さようなら~!」

 ハリンとオウカが、己の生まれた世界へと帰還した。宿命を背負った《神殺し》と、彼を支える少女が、くじけることなどあり得ない。いつまでもその慈悲の心で、彼らの世界を癒していくに違いない。

「……次は、いつ会えるだろうかは分からない。けど、命が……心がある限り、俺はきっと忘れないと思うよ」
「私の(フラクトライト)に、あなた達の事は焼きつきました。あなた達の(フラクトライト)に、私達の事が宿ったことを祈ります」

 理音とアリスが、『十一番目のユニークスキル』の存在する、彼らの世界に帰った。魂の世界と現実の世界が激しく交錯したその世界で、彼らの魂は、これからも揺れ動いていくだろう。それでも、そのともしびが消えることだけはあり得ない。彼らの心は、たった一つだけなのだから。

「じゃぁ、行くよ。みんなの世界の俺にも、よろしく言っておいてくれ」
「……ほどほどには、(楽しかった)

 キリトとミヤビが、己が支配する世界へと帰っていく。心と心が交錯し、蝕み合うあの世界で、二人の絆が世界を救う礎となってくれるだろう。それは予感であり、確信だ。きっとあの二人なら、どんな厳しい世界にも負けることはあるまい。

「次はデュエル大会にでも出て見たいな。もちろん、こんなふうな休みも面白いんだけどさ」
「刀馬ってば……まぁ、それがあなただから、それでいいかな。じゃぁね、皆!」

 ジンとシーナが、月に導かれた彼らの世界に戻った。星々の意思に揺り動かされ、あの世界はこれからも動いていく。だが、あの二人が引き裂かれることはもう二度とあるまい。それだけの絆が、気付かずとも彼らの間にはすでにあるのだ。

「じゃ、またな。俺の不運の分まで、お前らに幸運が来ることを祈ってるぜ」
「リュウ、リュウ、あなたが不幸なら、私がその倍以上幸せにしてあげるからね」

 リュウとマリーが己の世界へ帰った。二人には無限の不幸が降りかかり、これからも降りかかるだろう。だが、どうか忘れないでほしい。彼らにはその等倍以上の、無限の幸福があって、これから先に待っているのだ、という事を。

「人生は刺激があるから面白い――――忘れるなよ? 俺達の人生は、まだまだこれからなんだからな」

 シュウがそう言い残して、己の世界へ戻った。stylishでcoolな彼の物語は、完結こそすれ、終結することはありえないだろう。彼はこれからも、格好いい先導者として語り継がれていくはずだ。


「……俺達も、行こうか」
「うん」

 仲間たちが己の世界へと帰るのを見届け終えたセモンとコハクは、顔を見合わせて頷き合った。

 《白亜宮》が噛んでいる、という時点で、どうなることかと思った旅行であったが――――


「どうしてなかなか……こんな休日も、悪くはなかったな」
 
 

 
後書き
 お待たせしました。お泊り編、完結です!
刹「参加してくださった皆様に改めてお礼を。ありがとうございました!!」
 特にキャラ崩壊が著しかった亀驤さんと黒神先生には深くお詫び申し上げます。特に黒神先生! シュウさんの出番が少なかっただけでなく、決めゼリフしか言わないという事態になってしまった事、本当に申し訳ありませんでした!! すべてはAskaの実力不足故……。
刹「もっと精進しなさい」
 はい。

 さて、今回の最終話を書くにあたって、ネタ切れの際に天啓的なアイディアを出して下さった方々に感謝を述べつつ。
刹「次回もお楽しみに!」 
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