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Bistro sin~神の名を持つ男~

作者:黒米
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神の世界.1

.1
その事件は、今や誰もが知っている。発端はネットにあげられた、『咎人に断罪を』と言う動画。
『神』と名乗る男が、万引き、暴行をはたらいた人間に制裁を与えると言うもの。
その動画を見た人々は、酷評をしてみたり、或いは称賛する者までいた。
そんな噂が更に人を呼び、神の制裁は遂に殺人にまで発展してしまった。

とある水曜日、賢太郎は店の定休日を利用して街へ出向いた。
「そう言えば、釈放されてからまともに買い物もしてなかったな。」
そう思った賢太郎は、せめて何か服ぐらいは買おうと思って出掛けたのだ。

数ヵ月分の給料も、使い道はなく生活費に当てる以外は貯金していた。
とりあえず3万くらいあれば、と思って財布に3万を入れて街には出掛けたが
服屋に行っても、どんな服を選べばいいのか悩んでいた。

すると、服屋の前で難しい顔をしている賢太郎に、一人の女性が近づいてきた。
彼女はBistro sinの常連客の一人、グルメの評論家をしている大河原 美恵。

「あら?珍しい、あなたも身だしなみに気を使うのね。」
「あ、美恵さん!ど、どうも…」
賢太郎が悩んでいるのは大河原にもわかったが、まさか服のサイズから悩んでいるとは大河原は思わずに、
服選びを手伝うと言ってしまった。

結局2時間かけて、パーカーとジャケットとジーンズ、そしてスニーカーを買った。
しかも、持ってきた3万で会計をしようとすると、大河原はサッと会計を済ましていた。
「あ、あのぉ…美恵さん、すいません!お代を出してもらっちゃって…」
「いいのよ、ちょうどオフの暇潰しもできたし。それに、今は街中も一人じゃ気軽にフラつけないから。」
「え?」
大河原も、話題の事件を気にしているらしい。
いや、大河原岳でなく誰もがその事件を気にしている。
だが大河原は、そのオブラートに包まないの評論が
時として人に恨みを買うこともあるのだ。
「最近は何かと物騒で、前から脅迫文を送られてくることは幾つかあったんだけど、最近はそれに乗じてどんどん増えてきてね。歩き回るのにも用心しなきゃならないの。」

今や、神の制裁はただの無差別暴行殺人事件と言う訳でなく、それを見た人々を巻き込む大きな社会問題になっていた。
少数ながらも熱狂的に信仰する若者も居る。
そんな者たちの中では、もはや神はその者たちにとって本当の意味での神と言えるものだ。
そんな信仰者は、その行いを真似て過激な行いを行うこともしばしばあったのだ。 
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