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ONE PIECE《エピソードオブ・アンカー》

作者:蛇騎 珀磨
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episode3

 17年前。この魚人島に1隻の船が訪れた。

 旗の色は黒。それに描かれたドクロのマークは、その船が海賊船であることを示していた。

 当時から『人間』は得体の知れない恐ろしい存在だと思われており、それが海賊だと分かると島の住人たちは警戒し外を出歩かなくなった。
 それでも、恐いもの知らずの若者や博愛精神の乙女たちは少なからず存在した。アンカーの母親たる乙女もその内の1人。

 海賊たちは長旅での疲れを癒し、体力を回復させていた。そして、それら全てが完了するのと同時に事件は起こった。

 海賊たちによる、通称『釣り』。
 博愛精神の乙女たちを捕らえるために、弱ったフリをした乗組員を放置。それを助けようと寄って行った乙女たちは、あっさり捕らえられてしまった。
 恐いもの知らずの若者たちにも『釣り』は行われた。
 見た目が強そうな乗組員とタイマンで勝負すると呼びかけ、それに寄って行った若者たちを大人数で捕らえるという卑怯な手である。

 その中でも、海賊の船長は気に入った乙女たちに暴行した。物理的に、精神的に、性的に...。「人間に逆らうな」と恐怖心を植え込み、機嫌を損ねると簡単に命を奪った。

 アンカーの母親は、そこからなんとか逃げ出すことに成功。見つかれば命は無いと思い、海賊たちが絶対に追って来れない場所...魚人街へと逃げ込んだのである。
 魚人街の外れに住居を作り、そこで恋人とひっそりと暮らしていくことを選んだ。そして、数ヶ月後ーー。

 ーー妊娠が発覚した。

 母親は、恋人との間に授かった命であると信じていた。しかし、生まれて来たのは、人間の姿をした赤子だった。
 1年、2年と月日を重ねても、子供の姿は人間のまま。母親は人間の姿をした我が子を愛することが出来なかった。それが、見た目ばかりであることにも気付いていたが、あの時の海賊たちが頭に浮かんできて対処出来ずにいた。

 精神的に衰えた母親は、床に伏せ、やがて病になり1年もしない内にこの世を去った。

 恋人は、子供に“海の底に留まる”という意味で錨...『アンカー』と名付ける。それから10年間を共に過ごした。




「ま、その育ての親も今は行方不明。それからずっと1人で生きてきた。ずっと、人間と海賊に憎しみを抱きながらね。ーーワタシは、人間が嫌いだ。海賊が嫌いだ。人間の海賊はもっと嫌いだ。これから先ずっと......」


 アンカーは自分が知っている全てを話した。時に目を伏せ、時に天を見上げ、震える声を必死に抑えながら話した。


「だから、アンタの...海賊の仲間にはなれない。ワタシは、海の底に留まる者だから」


 アンカーは笑顔で答える。彼女は、この魚人街しか世界を知らない。外の世界に興味が無いと言えば嘘になるが、自分から出たいと思ったことは無い。きっかけがあれば話は別だが...。


「......来い」

「え? あ、ちょっ......こら! 掴むなって! 下ろせ! どこに行く気っ!?」

「俺の船だ」

「はあ!?」


 アンカーを掴み、部下たちを連れて歩きだす。抗議の声は完全に無視して、いくら殴られようと噛み付かれようともその手を決して離すことはなかった。

 しばらく歩いている内にアンカーの抵抗は治まった。何をやっても無駄だと覚ったからである。

 魚人街の外れ。アンカーの住処とは逆方面のその場所に、アーロンの船はあった。船の上には、たくさんの魚人と人魚の海賊。自分たちの船長が掴んでいるモノを興味津々な様子で甲板から覗き込んでいる。それが人間の姿をしていると分かると、ざわざわと騒ぎ始めた。

 そんな仲間たちに、アーロンは声を張り上げて告げる。


「てめえら、よく聞けぇ! 今日からこいつを俺の船に乗せる。知ってる奴もいるだろうが、こいつは俺たちと同じくれっきとした魚人だ! 言わば、同士だ! 下等な人間共を憎む仲間だ! 俺の決めたことに異論がある奴ァ、今すぐ出て来いっ!!」

「はいはいッ! 異議あり、異議あり! ワタシは仲間にはならないって言ったよな!?」

「却下だ」

「なんでっ!?」


 アーロンはニヤリと笑う。ギラギラした尖った白い歯が剥き出しになった。それを見て、不安が過ぎる。


「“好きにしろ”と言ったのはお前だ」

「.........言ったけど。...言ったけど、そういうことじゃない!」

「知るか! シャーッハッハッハッハッハァッ!!」

「最悪だ。最悪の誕生日だ...」

「ほお? そりゃ、めでてぇ。野郎共! 宴だぁ!」 
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