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英雄伝説~西風の絶剣~

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第1話 リィン・クラウゼル

 
前書き
side:○○の時はそのキャラごとの目線、side:??の時は三人称で書いていきます。読みにくかったら感想を頂けると幸いです。 

 
 

side:ルトガー


 <猟兵>……それはゼムリア大陸に存在する凄腕の傭兵に付けられる名称だ。猟兵は戦場で生き戦場で死ぬ。
 猟兵が求める物は唯一つ……「ミラ」と呼ばれるこの大陸の金だ。ミラさえ払えば戦場で戦い時には虐殺や誘拐、護衛など如何なる依頼も引き受ける無法者として人々に恐れられている。
 そしてこの俺も猟兵の一人だ。
 


「へへっ……中々大きな戦場だな」


 俺は眼前に広がる光景、『戦場』を眺めていた。死の匂いが常に漂う場所、ここに決められたルールなんて存在しない、どんな手を使っても勝つことを求められるこの場所で俺は今日も武器を振るうだけだ。


「もう、こんな所で何してるのよ」


 俺に声をかけてきたのは狙撃用の銃を背負う金髪の女性だった。
 彼女の名はマリアナ、俺が率いる『西風の旅団』の一員で戦場では銃弾を意のままに操り敵を打ち抜くことから《魔弾》の異名を持っている。
 

「おおマリアナ、部隊の配置は済んだのか?」
「もう皆それぞれの指定された場所についてるわ。貴方だけよ、こんな所でのん気に高みの見物してるのは。」


 マリアナはやれやれと呆れたようにジト目で俺を睨む。


「たはは、わりぃわりぃ。ちょっと考え事をしててな」
「もう、しっかりしてよね。団長である貴方がそんなことじゃ成功する依頼も成功しないわ」
「悪かったって……」


 俺はマリアナに謝ると時計を見る、針は12時を刺しておりそれが仕事の開始の合図だ。


「時間だな」


 そう呟くと戦場の一角で大きな爆発が生まれた。ゼノの部隊が行動を開始したんだろう。


「よし、俺達はターゲットを仕留めに向かうぞ。遅れるなよ、マリアナ!」
了解(ヤー)!」


 そして俺は崖から飛び降りて腰に差してあった太刀と双銃剣を抜き、下で待機していた敵の部隊に向かって攻撃を開始した。


「いくぜ!」



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



「ちゃんと付いてこいよ、マリアナ!」
「了解!」


 敵をなぎ倒し戦場を駆ける俺とマリアナは敵拠点の一つに向かっていた。無論敵兵達も食い止めようとするが悉くやられていく。


「おらおらッ!死にたい奴から前に出ろ!!」


 俺は迫ってくる何十人の兵達を一振りで吹き飛ばす、遠くから槍で攻撃しても槍ごと斬られ離れた位置から矢を放とうとしても双銃剣で打ち落とされる。敵兵からすれば悪夢のような光景だろうな。


「くそ、化け物め、だがこの距離なら……」


 敵拠点から狙撃銃を構えた兵が俺に狙いを定める、俺は銃弾をかわそうと身構えるが……


「がぁッ!?」


 銃弾が兵の眉間を打ち抜いた、頭を打ちぬかれた兵は信じられないといった表情を浮かべ絶命した。


「ルトガー、余り一人で突っ込まないでよ!」
「マリアナ、サンクス!」


 マリアナの放つ銃弾が的確に敵を打ち抜いていく。本来彼女の持つ狙撃銃は遠く離れた場所から標的を撃つ兵器だ、そのためこのように走りながら撃つような使い方は出来ない。だが彼女はそんな事はお構いなしといったように巧みに銃を操る。
 標準を合わせる、撃つ、弾の補充、それらの動作を一瞬でこなし俺の死角をカバーしている。勿論相手もバカじゃないのでマリアナに接近しようとするが今度は俺がそれをカバーする。


「な、何て奴らだ。これが西風の旅団……!」


 彼らが守っていた拠点には少なくとも50人の兵がいた、だがたった二人の猟兵にここまでやられるとは思わなかっただろう。



――――――――

――――――

―――



「制圧完了だな」


 その後俺達は数分で敵拠点を制圧しターゲットを抹殺した。他の団員達も制圧が終わったらしい、この紛争は西風の旅団側の勝利で幕を閉じた。


「お疲れ様、今回は私達の勝利ね」
「ああ、それに全員無事だったようだ、一安心したよ」
「ふふっ、貴方って本当に心配性ね」
「当たり前だ、全員俺の大切な家族だからな」
「そうね……なら早く大事な家族の元に戻りましょ、皆も合流地点に向かってるはずよ」
「そうだな…………ん?」


 俺はふと離れた場所にある森を見た。


「ルトガー、どうかしたの?」
「……悪いマリアナ、先に行っててくれ」
「あっ、ルトガー!」


 背後からマリアナの怒る声が聞こえるが俺はマリアナに先に拠点に行くように言って森に向かった。


「確かこの辺から聞こえたが……どこだ?」


 一瞬だが何か鳴き声のようなものがこっちから聞こえたような気がしたんだが…気のせいか?

 
「……ん、あれは…………」


 森の奥にある開けた空間……他の木々よりも一際大きな木がありその根元に何かがあった。俺は辺りを警戒しながら木に近づく、そこにいたのは…………


「こりゃ……人間の子供じゃねえか……!?」


 俺が見つけたもの、それは木の根元に隠すように置かれた布……それの包まれていたのは三歳くらい男の子だった。




side:マリアナ


 依頼を終えた私達はあらかじめ指定された場所に集まっていた。それにしてもルトガーには本当に困ってしまうわね、勝手な行動は慎んでっていつも言ってるのに……心配するこっちの身にもなってほしいわ。


「姐さん、団長がフラッといなくなるなんていつもの事やないか」
「姐御……少し落ち着け」


 私に声をかけたのは二人の男性、サングラスをかけた細目の男性とドレッドヘアーの体格に恵まれた色黒の大男、彼らは私が所属する西風の旅団の仲間よ。
 

 サングラスの男性はゼノ、ブレードライフルを得物としており罠を仕掛ける事を得意としていて彼の罠は猟兵の中でもトップクラスであり《罠使い》の異名を持っているの。
 

 そして色黒の男性はレオニダス、団員からはレオと呼ばれその体格通り豪快な戦い方をする、得物であるマシンガントレットであらゆる物を破壊する姿から《破壊獣》の異名を持っているわ。
 彼ら二人は西風の旅団の分隊長を勤めている優れた猟兵よ。


「それはそうだけど、やっぱり心配なものは心配なのよ」
「ホンマ姐さんは団長の事が好……」
「何かいった?」
「……何でもないです」


 私がガチャリと狙撃銃を突きつけるとゼノは冷や汗を流しながら謝る。もう、ゼノはいつも私をからかってくるんだから。


「むッ、どうやら団長が帰ってきたらしい」


 レオが指を指した方角からルトガーの足音が聞こえてきた、どうやら無事に戻ってきたようね。ならしっかりとお説教をさせてもらうわよ。


「おお、悪かったな、遅くなっちまった」
「ルトガー、貴方また勝手にいなくなるなんて何やってたのよ!」
「何だよマリアナ、俺はちゃんとお前に先に行けって言っただろう?」
「要点も言わずに行ったことに怒ってるのよ!」


 いつも通り飄々とした態度で私のお説教をかわそうとする、でも今回こそちゃんと言ってやるんだから!


「ちゃんと聞いてるの!?いつも心配ばかりかけて……」
「そうだな、いつも心配かけてごめんな、俺はいつもお前に甘えてばかりだ」
「あっ……まあ分かればいいけど…」


 ルトガーが申し訳ないって表情を浮かべて私の頭を撫でてくる。ズルいわ、こんな事されたら怒れないじゃない……


「団長も姐さんもホンマようやるわ」
「お決まりの光景だな」


 ゼノとレオが呆れたようにそう話していた、私がキッと睨むと二人は顔を背ける。


「団長、また姐さんほったらかして何処行ってたんや?」
「もう諦めているがせめて姐御には行き先くらい言っておいてほしい」
「ゼノ、レオ、悪かったな。次は気を付けるからよ」


 ルトガーはすまないと謝るが私達は「またやるな」と思っていた。


「所でゼノ、団員達は全員戻ったか?」
「ああ全員戻っとるよ、依頼の報酬も俺が受け取っといたで。本来ならこれは団長の役目なんやからな?」
「そりゃ悪いことしたな、今度高い酒奢るよ」
「お、流石団長。気前がええやん」


 嬉しそうにするゼノ、私にも何かご褒美はくれないのかしら……はッ⁉私ったら何を!子供じゃないんだから今のは無しよ無し!!……ってあら?


「…ルトガー、その手に持っているものは何?」


 私はルトガーが抱えているものを指さした、さっきまであんなもの持っていなかったはずだけど……


「あ~……これかぁ」
「なんや団長、言いにくそうにして?」
「まあその、何だ、驚くなよ?」


 言いにくそうに頬をかくルトガーにゼノが疑問を言う、だがルトガーは説明するより見たほうが早いといった感じでそれを見せた。


「えっ、これって!?」
「はぁっ!?」
「なんと……!」


 私達が見たもの、それはルトガーの腕の中ですやすやと眠る子供の姿だった。え、そんなまさかこの子、ルトガーの……うふ、うふふふふふふ。


「だ、団長!いつの間に隠し子を作っとたんや!」
「なっ!ゼノ誤解だ!この子は……」
「女癖が悪いとは思っていたが、まさか子供を作ってしまう程とはな……」
「レオ、マリアナの前で変な事を言うんじゃねえよ!」
「ねえルトガー……」
「……マ、マリアナ?」
「どういう事か、説明してくれる?」


 私がニコッと微笑むと、ルトガーやゼノ達が顔を真っ蒼にして怯えていた、あらあら、何をそんなに怯えているのかしらね?



side:ルトガー


「さあルトガー、教えてちょうだい、この子はどういう事かしら」


 俺はこの子の事を話すために、西風の旅団に所属している団員達を隠れ家の広い場所に集めたんだがマリアナが滅茶苦茶怒っていやがる。集まってきた団員達はマリアナを見て萎縮し正座する俺を見て「またか……」というような表情を浮かべている、俺が何をしたっていうんだ。


「不味いで、姐さんガチギレやんか」
「あそこまで怒っている姐御は見たことが無い、まるで初めて戦場に出たかのような恐怖だ」


 西風の旅団が誇る分隊長すら恐怖するほどマリアナは怒っているようだ。


「ゼノ、レオ、助けてくれ……」
「すまん団長、俺はまだ死にとうないんや」
「日ごろの行いと思って諦めてくれ」


 俺は二人に助けを求めるが二人はやんわりと拒否された、この白状者どもめッ!!


「ルトガー、今は私と話してるのよね。まさか後ろめたいことでもあるの?まあそうよね、ここに所属している女性団員の殆どが貴方に夢中ですものね。それ以外にも手を出している女性は多いし心当たりなんていくらでもあるはずだわ」
「マ、マリアナ誤解だ!その子は森で拾った子なんだ!」
「えっ……?」


 俺は自分がこの子供を拾った流れをマリアナに話した。正直今までしてきた交渉の中で一番あせったぜ。


「え、じゃあこの子は貴方の隠し子じゃないの?」
「ああ、というか戦場にいた俺がどうやって隠し子なんか連れてくるんだよ」
「じゃあ全部私の勘違いって事……!!」


 俺の必死の弁解を聞いたマリアナは少し何か考える仕草をとったあと、顔をトマトみたいに真っ赤にして慌てている。一体どうしたんだ?


「団長、姐さんは団長が他の女と子作……」
「ゼノ、余計な事言ったら穴開けるから」
「……なんでもありません」


 ゼノが俺に何か言おうとしたが、マリアナに銃を突きつけられて黙ってしまう。マリアナは若干顔を赤くしながら俺の方をチラチラと見ていた。


「ああ、そういう事か……」


 俺はマリアナの勘違いに気が付いてニヤっと笑みを浮かべる。そしてマリアナを抱き寄せて頭を撫でた。


「ルトガー……!?」
「すまねぇな、マリアナ。不安にさせちまったみたいだ。だが俺が最初に子供を産んでほしい女性はお前なんだ。だから他の女と子供を作るなんてことはしねぇよ」
「えっ……」
「愛してるぜ、マリアナ」
「わ、私もルトガーの事を……」


 顔を真っ赤にして俺を上目遣いで見るマリアナ、そんな彼女を愛おしく思った俺は彼女の唇を奪った。マリアナはそれを自然に受け入れて少しの間静寂が生まれる。そして彼女からそっと離れるとマリアナは嬉しそうにほほ笑んだ。


「ルトがー……私、貴方が望むならいつでも……」
「んで、俺達はいつまでこんな甘ったるい空気を感じなきゃいけないんや?」
「やるなら俺達のいないところでやってほしいものだ」


 蚊帳の外にいたレオとゼノがそう言うと、マリアナは顔を赤くしながら俺から離れた。


「あ~コホンッ!!……で、ルトガー。この子を森で拾ってきたって言うけどよく気が付いたわね」
「ああ、微かに人間の気配を感じたんだ、しかしよく見つけたと自分でも思うよ」
「やっぱり捨てられたのかしら」
「あんなところに一人で放置されていたんだから、間違いなく捨て子だと思う」
「無責任な親もいたものね」
「せやな、んで団長、その子はどうするんや?」
「決まっている、俺達で育てる」


 俺の言葉を聞いて団員達は驚いた表情を浮かべた、俺何か変な事言ったか?


「何だよ、お前ら不満なのか?」
「そうやないけど……でも団長分かっとるんか、俺らは猟兵やぞ?」


 なるほど、ゼノが言いたいのは『猟兵』が子育てをするリスクか。常に戦場を求め歩く俺達は死と隣り合わせの生きかたをしている。例え直接戦闘に関わってなくとも猟兵団の関係者と知られれば周りからどう見られるかは分かり切っている、子供であろうとな。
 

 ましては自分達は西風の旅団、その圧倒的な強さは有名だが逆に言えば恨みも相当あるということだ。実際今までに何回か襲撃されたこともあり、返り討ちにはしてきたがそれほど危険という事だ。そんな危険な連中が子育てなんて冗談にも聞こえない。


「ゼノ、お前の言う通り俺達猟兵の元にいたんじゃ危険極まりないだろう、どこかの孤児院に預けたほうがよっぱど安全だ」
「なら……」
「でもよ、俺が見つけたのに後は他人に任せて知らんぷり……っていうのは納得できない。それに俺も捨て子だった、尚更この子の気持ちは分かる。だから最後までこの子を見守りたいんだ」
「ルトガー……」


 俺も親に捨てられた子供だった、そんな俺を拾ってくれたのはかつて猟兵をしていた人だった。彼に拾われ様々なことを教えてもらった、そして恩人が死に俺は猟兵を目指した。色々あったが今では仲間という家族ができた、そして今は西風の旅団の団長として家族を守るために戦っている。
 そんな自分が赤ん坊を拾った、かつての自分を育ててくれた恩人のように……だからこそ俺はこの子をほっとけなかった。


「せやけどな……」
「ゼノ、諦めろ」
「レオ……」


 それでも納得ができないゼノに、レオが声をかけた。


「団長は一度決めたことを決して曲げない男というのはお前も知っているだろう。元々俺達も団長に拾われた身、団長が決めたならそれでいいじゃないか、なあ皆」


 レオの言葉に団員達が頷いた。どうやらゼノ以外は賛成してくれたようだ。


「なんや、これじゃ俺だけが悪者みたいやないか」
「すまないなゼノ、お前の言う事も分かる。それでも俺はこの子を育てたい」
「分かっとるよ、そこまで言うなら俺はもう言わん。唯団長がちゃんと子育てできるか心配なだけや」
「お前なぁ……」


 そう言って笑うゼノを俺はジト目で睨む。


「でも確かにルトガーだけじゃ不安よね」
「マリアナ、お前まで……」
「なら俺達でフォローすればいい、団長の子なら俺達の家族でもあるからな」


 レオがそう言うと、他の団員達もそれに賛同した。


「そうだよな、団長だけじゃ不安だもんな」
「子供ってどうやって育てればいいのかな?」
「何か食べられるもの持ってこい」
「子育てなんて初めてっすよ」
「何だか楽しくなってきたわね、あの子が着る物あったかしら?」


 すると団員達はそれぞれが自分が出来ることを話し合いだした。


「……はあ、何だよ、お前らのほうがノリノリじゃねえか」


 自分よりも子育てに張り切っている団員達を見て俺はため息をついた、だが同時に嬉しくも感じた。やっぱりこいつらは最高だぜ。


「それでルトガー、この子の名前はどうするの?」
「この子が巻いてあるこのマフラー、よく見ると名前が彫ってあるんだ」


子供の首に巻かれた赤いマフラー、そこに違う色の糸で『リィン』という文字が付けられていた。恐らくこれがこの子の名前なんだろう。


「なるほど、この子はリィンっていうのね」
「姓は俺の子にしたからクラウゼル……『リィン・クラウゼル』だ」


 俺はすやすやと眠る子供の頭を撫でた、今日から新たな家族になる俺の息子を……


「よろしくな、リィン・クラウゼル」

 
 

 
後書き
ちょっと無理やりですがこの小説ではルトガーは捨て子だったという設定にしました。 
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