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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第切話

「ほら、早く行くデスよムソー!」
「はいはい・・・って、そこまで急ぐのか!?」

 氷柱とデートした翌々日、ヒルコの際の約束で氷柱と同様の約束をした切歌とデートしているのだが・・・ちょっと振り回されていた。
 いや、うん。権能使って長崎まで来て、着くなり繋いだ手を引っ張られたんだから仕方ないと思う。
 どうにかここまで来るに当たって使ったジェット機を米粒に変えることに間に合い、それをポケットにしまいながら走る。
 ちなみに、これを使うに当たって様々なところへの許可とか細かいところは正史編纂委員会に頼んだ。快く引き受けてくれて感謝感謝だ。

 それにしても、なぜ長崎なのだろうか。どうせ行くなら沖縄くらいまで行けばいいのに。いっそ外国でも、カンピオーネ権限でどうにかなるし。
 ・・・聞いてみるか。

「なあ、切歌」
「なんデスか、ムソー?」
「いや、なんでわざわざ九州まで来たんだ?」
「何となくデスよ?」
「・・・マジ?」
「強いて言えば、一昨日のツララ状態になりにくいからデス」

 あぁ、なるほど。
 確かに氷柱は、近所の祭りに一緒に行くって形にしたから、色々あったわけだし。クラスメイトに遭遇したり、気づいたら家族につけられてたり。それも、クラスメイトには屋台めぐりをしている間ではなく、お互いに食べさせあっている時に会った。「大好き」発言の時に遭遇しなかっただけ良かったけど。家族の皆には、ほぼ最初から見られていたらしい。家に帰ったら色々と言われた。
 でも、確かにここまで来ればクラスメイトはいないだろうし、家族もつけてくるのは無理だろう。電車を使っても半日近くかかるし、飛行機もそれなりに時間を食うし。なんにしても、知り合いに会う可能性はかなり低くなる。

「それにしたって、また極端に遠いところを選んだな・・・」
「中途半端に遠くても跳躍か飛翔の術を使って来ちゃうかもデス」
「そこまでするか?・・・いや、するだろうなぁ・・・」

 正確には、一部の人間が・・・リズ姉にマリー、立夏、ビアンカなんかがノリノリできそう。それにつられて何人か来るだろうし、結果として全員、って流れに・・・

 まあ、面白がってるだけなんだろうけど。

「で?着くなり走り出したところを見ると、何か目的はあるのか?」
「それは・・・無いデス!」
「オイ」

 胸を張ってはっきりと言われた。普通より少し大きいくらいの胸が揺れ、つい反射的に視線をそらす。
 それにしても、考えなしかい・・・

「何も予定がなく歩き回るのも楽しいデスよ!」
「確かにそんなのんびり散歩デートも楽しいだろうが、これは歩いてないからな?走ってるからな?」
「山に入るまで競争デス!」

 なるほど、散歩は山でするのか。宣言と同時に手を離されたので、とりあえず切歌のペースに合わせて走る。

「山のなかにいい散歩道があるのか?」
「デス!毒蛇注意とか蜂に注意とかありマシたけど、たぶん大丈夫デス!」
「あー・・・まあ、俺がいれば大丈夫か」
「デース!」

 医薬の酒、あれさえあれば毒はどうにかなるし。
 そうでなくても、すぐに吸い出してしまえばいい。幸いにも、俺はそんな毒を飲もうがなんともないし。

「ちなみに切歌さんや。競争って言ってたが、負けた方には何かあるのか?」
「勝った方の言うことを一つ聞くデス!」
「ん、了解!」

 その瞬間、俺はカンピオーネの身体能力をフルに発揮する。近くにまつろわぬ神がいるわけではないから本当の意味で、というわけではないが、まあ十分だろう。

「あっ・・・ず、ズルいデス!?」
カンピオーネ(俺たち)相手に、勝負って言葉を使ったのが悪い!」

 途中でどこの山なのか聞いていないことに気づいたが、知に富む偉大なる者(ルアド・ロエサ)があるためたいした問題にはならなかった。



◇◆◇◆◇



「負けたデス・・・」
「まあ、権能を使ってないとはいえ俺はカンピオーネだからな。勝てる人間なんて世界に数人いるかいないかだ」
「それはそうデスけど、なにも素の身体能力まで高くなくていいデスよ・・・」
「ま、ごもっともだな」

 とは言え、そんなんじゃ神の相手なんか務まらない。いや、両腕失った状態でシヴァ倒したりした俺が言えたことじゃないが。
 それでも、なぁ・・・ヒルコ戦では足が消滅しても太陽の力吸収したら生えたし、なくてもいいんじゃなてなくなっても元に戻るんだよ、うん。

「いや、そんな自分に対する言い訳とか要らないデス」
「なんでさらっと人の心を読むのでしょうか?」
「ウチの家族は分からない人の方が少ないデス。ムソーは分かりやすいデスから」

 マジか・・・そういや、何人かにそんなこと言われたな・・・

「はぁ・・・で、ムソーはあたしに何を命令するデスか?」
「んー・・・保留で」
「それは禁止デス」
「マジデスか」
「マジデスよ」

 ついデスが移ってしまったが、まさか保留禁止だとは。つっても、特に今命令したいことはないし・・・

「じゃあ、切歌は何をやらせようとしてたんだ?」
「ひ・・・秘密デス!」
「なら、それを言うのが命令の内容、ってことで」

 まあ、少し興味はあるし、こんなところだろう。何より、延期を禁止した切歌が悪い。うん。
 さて、どんなことが返ってくるのか・・・

「うぅ・・・鬼デス、悪魔デス」
「まあ、魔王とか呼ばれるな」
「もっとひどかったです・・・」

 切歌はそう言いながら肩を落とし、赤くなった顔をそらして、

「今日一日、恋人ごっこ、デス・・・」

 ・・・なんか、こっちも恥ずかしくなってきた。そうきたかぁ・・・
 氷柱は、デートではあったものの兄妹という意識がどこかにあった。しかし、恋人と言われてもなあ・・・
 いた試しがないから、どうしたらいいのか分からない。とは言え、ここまで恥ずかしがりうつむいてしまった切歌を前になにもしないというのは、兄としてどうなのか・・・という結論に辿り着き、

「・・・・・・・・・」
「・・・あっ・・・」

 とりあえず、切歌の手を、握った。指を一本ずつ絡ませる、いわゆる恋人繋ぎというやつで。
 その瞬間に切歌が驚きの声をあげ、まだ赤い頬が残るままの顔をこっちに向けてくる。恥ずかしいので俺は顔をそらし、赤くなっているであろう頬をポリポリと掻きながら、

「あー、その、なんだ。恋人がいたことがないからどんな感じか俺にはよくわからん。だからかなり変になるかもしれないが、それでもよければ・・・こんな感じでいいなら、いいぞ?」

 氷柱にも同じことをしたのに、どういう立場としてやるのか、というのを意識するだけでこうも変わるものなのか・・・

「はい・・・はいデス!」

 まあ、むちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、切歌がこれだけ笑ってくれるなら、いいか。そう考え、俺たちは山道を歩き出した。



◇◆◇◆◇



「・・・なあ、切歌。もしかして、道なき道を歩いてたりするんじゃないか?」
「今更デスか?お昼が山菜を摘んで、だった時点で気付いてほしかったデス」
「なるほど、これは意図的にこうしたんだな・・・」

 今になってようやく、切歌の意図が分かった。一日、完全に自然の中で過ごすつもりなのだ。また何というか、突拍子もないことを思いつくというか・・・

「ちなみに、ノープランなのはそれが理由デス」
「何が起こるのか、何があるのかも分からないしな。計画なんて立てれるはずがない」

 事実、これまでにも普通に山を登っていたのだったらかなり危ない場面は何度かあった。それに、こう言うところに来るなら何も決めずに来た方が楽しめる気がするし。

「ちなみに、今日の夜までに山頂に行くのが目標デス」
「また一日で結構高めに設定してきたな・・・この山なら、いけそうだけど」

 そこまで高い山ではないので、行けるとは思うけど・・・そこまで、山頂に行きたいんだろうか?というか、山頂に何か建造物があるのが見えるんだけど・・・

「ほらほら、いくデスよムソウ!目指すはあの建物デス!」
「って、あれが目的地なのか」

 それならまあ、山頂に行くのもありかな。
 というか、実は完全にノープランじゃないじゃないか。最終目的しかないみたいだけど。

「あそこ、何があるんだ?」
「まだ秘密デスよ!さあ、山頂を目指すデス!」
「あ、ちょ!」

 悪戯っぽい笑みを浮かべた切歌は、そのまま走りだした。
 確かに、もう昼も過ぎて少し急がないと山頂につく前に真っ暗になる可能性もなくはないけど・・・

「走らないといけないほどじゃないだろ!」
「早く着く分にはいいんデスよ!ほら、早く早くデス!」

 あぁもう・・・!ってか、恋人っぽくするって言ったのは切歌の方だったよな!?なのに何でこうなってるんだよ!いや、すっごく切歌らしいけど!切歌らしいけども!



◇◆◇◆◇



「はぁ、はぁ、はぁ・・・ついた、デス・・・」
「息切れするぐらいなら、あんなに走らなければよかったのに・・・」
「山道を走るのが、意外と楽しかったんデスよ・・・」

 そうか。それなら仕方ないね。というわけにもいかず、俺は建物の中に会った自販機で飲み物を買ってきて渡す。

「ぷはぁ、生き返ったデス」
「そいつはよかった。・・・それで?ここに来た理由・・・それも、わざわざ走ってこんな時間に」

 今、切歌はバテてここの建物に有った椅子に横になってしまっている。そうなるくらいの勢いで走ってきただけあって今はまだ夕方だ。短いスカートで横になっているので色々と危ういんだけど・・・まあ、俺以外に人いないし、よしとするか。俺が出来る限り見ないようにすればいいだけだし。

「それはデスね・・・って、ムソウ。どこを見てるデスか!?」
「・・・悪い、俺も男なんだよ・・・」
「・・・はぁ、あの家に暮らしてるのに、慣れないんデスか?」
「慣れねえよ、絶対に・・・」

 むしろ、あれだけの人数がみんな魅力的だから、どうにもならない。一瞬でも気を抜いていたら、ものすごくドキドキさせられるのだ。気を張っていないと表情に出てからかわれるので、気疲れは絶えなかったりするんだよなぁ・・・

「お前だって、男の俺が同じ家で暮らしてるからって慣れるわけじゃねえだろ?もし俺が家で上半身裸でいたらどう思う?」
「・・・ダメデス、それは」
「だからしてないだろ、俺は・・・」

 まあ、ここ数年は風呂に突撃してくる人がいるから暑いときは脱いでいいんじゃないかとか思った時はあるけど。その度に、感覚が狂ってきてるなぁと実感する。

「それに、慣れられるってのも女子的にはどうなんだ?」
「あー・・・確かに、あんまりいい気はしないかもデス。そのままでいいデスよ、ムソウ!」

 許可を頂けたので、このままでいくことにする。
 いや、積極的に見るわけじゃないぞ?ついつい目が行っちゃうことはあるかもしれないけど。さすがにそれはどうしようもないので、仕方ない。うん。

「・・・それで、ここに来た理由は?」
「あ、そうデシた・・・」

 切歌はそう言うと勢いよく立ちあがり、建物の中に入っていく。
 それどころか、そこの階段を勢いよく登り始めた。

 慌ててその後を追うと、建物の屋上に・・・展望台に、ついた。
 切歌を探すと、柵に向かって走っていき・・・

「ここには、この景色を見に来たデス!」

 くるり、と。手を広げて回り、満面の笑みを見せてくれている。
 その後ろには、確かに綺麗な景色が広がっている。今目の前に広がっているのは夕焼けで赤く染まって見える景色。これが夜になると、また違った景色が見られるのだろう。
 ついでに、わざわざ登ってきた、というのもいい効果をを出してくれている。

「へぇ・・・確かに、いい景色だな」
「あたしの予想してたよりも凄い景色デス!」
「・・・来たことがあるから誘ったんじゃないのか?」
「無いデスよ?調べたら出てきて、見てみたいと思ったデス」
「・・・ここに来るまでの間に迷ったらどうするつもりだったんだよ・・・」

 この妹には、色々と驚かされる。行動が自由すぎると思うんだよな・・・
 そうして呆れていたら、「ムソウ」と切歌に呼ばれたので、そちらを向く。

「どうした?」
「いえ・・・このタイミングで言うのもおかしいかもしれないデスけど、あの時、あたしと調をたすけてくれて、ありがとうデス」
「?・・・ああ、ザババの時のことか」

 あの神とは意思疎通が出来なかったから理由は分からないが、俺がザババを倒しに行ったとき、切歌と調の二人はザババにつかまっていたのだ。で、俺がザババを殺してそのまま連れて帰った。

「にしても、あの時はあそこまで警戒してた切歌が、一緒に出かけるまで気を許してくれるとはなぁ・・・」
「う・・・それは言わないでほしいデス。どうしても、カンピオーネのイメージがあったデスから・・・」

 ついでに、同じ家には血のつながらない美人の女性ばかり。そんな中男一人となれば、まあ勘違いされても仕方なくはある。切歌の行動が早かったおかげで初日のうちに誤解は解けたんだけど。

「その認識自体は間違ってないから、そのままでいいぞ。どいつもこいつも自分勝手だし」
「分かってマスよ。身近にいい例がいるデスから」

 何も言い返せない。事実、俺も自分勝手に動いてきた結果が今なわけだし。

「それでも、感謝してるのは事実デス。調と違ってムソウに色々迷惑をかけたあたしのことも受け入れてくれて」
「家族として迎える以上、歓迎するのが神代家だからな。切歌もそうなってくれれば、それでいい」
「もう充分に染まったデスよ、あたしも。・・・全部、あなたのおかげデス」

 切歌はそう言うと、つま先立ちになって俺の唇に自分のそれを重ねる・・・キス、してきた。

「大好きですよ、ムソウ!」
「な、お前・・・」
「あ、返事はまだいいデス。あたし一人だけもらうのもズルイデスし」

 混乱している俺を無視して、切歌はそう言ってくる。とりあえず、何とかそれは理解したけど・・・え、え?

「さあ、早く帰るデスよムソウ!」
「いや、ちょ・・・って、今から帰るのか!?」
「デス!今日の事、調べに話すって約束してるデス!」

 と、最後に一気にあわただしくなったことで俺は無理矢理自分にの件を納得させたんだけど・・・
 ちゃんと考えないといけないことが、どんどん増えて行くなぁ・・・


 すっごく、幸せなことだ。
 
 

 
後書き
次回から本編に戻ります。 
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