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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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アイングラッド編
SAO編
  《圏内事件》7

 
前書き
《圏内事件》最終回です。
メインは事件の解決では無いので、そっちは適当ですが、ご容赦を…… 

 





結論から言って事件の真相は呆気ないものだった。
シュミットに聞いた元《黄金林檎》のメンバーの名前の綴りでカインズの綴りが昨日確認した名前と違っていたのだ。

俺もそのメモは見たが、カインズの名前の綴りまで確認していなかったので気づかなかったのだ。

その情報を共有しようとしなかったのは俺の落ち度だからしょうがないとして、『演目《圏内殺人》』まで見抜けなかったのはヒジョーに悔しい。

トリックは簡単だ。

まず、前提としてヨルコさんとカインズのアバターのHPは1ドットたりとも減ってなかった。

そして、


①圏外にて武器を刺す。
②圏内に入って装備の耐久値が無くなると同時に転移結晶でテレポート
③装備の爆散と同時に消えたことにより、死亡エフェクトを演出。


というわけだ。
さて、事件も終わった事だし問題のレストランに行くか。
飽きた事象には興味はない。というか後は当事者達で決着を付けるべきだ。

「なあ……」

そこでキリトが声をあげる。
こいつとは何だかんだで長い付き合いなので、何となく分かる。
これは何も考えずにサラッと爆弾発言をする予兆だ。

「……なに?」
「アスナ。お前、結婚してたことあるの?」

ほらな?

ツンデレのツンが危険極まりない攻撃力をほこることに定評のある閃光様はこの2日間の間にキレぐせでもついたのか、間髪入れず攻撃姿勢に移行した。

「うそ、なし、今のなしなし!!そうゆう変な意味じゃなくて……お前さっき、結婚について何か言ってたろ?」
「言いました。それがどうかした?」

目が据わってますよアスナさん…。

「ええと……ぐ、具体的にはなんだっけ。ほら、ロマンチックだとかプラスチックだとか……」

プラスチックな訳ないだろ、よく考えろよ。

「誰もそんなこと言ってないわよ!ロマンチックでプラグマチックだって言ったの!プラグマチックっていうのは《実際的》って意味ですけどね、念のため!」
「実際的……SAOでの結婚が?」
「そうよ。だってある意味身も蓋もないでしょ、ストレージ共通化だなんて」
「ストレージ……共通化……」

………こいつめ。妙に鋭いな。俺も今その結論に達した。

「キリト、お前まさか……」
「いや……まだ確信はしてないんだが……。アスナ、離婚したとき、ストレージはどうなるんだ?」
「え……?ええっとね、確か、幾つかのオプションがあるのよ。自動分配とか、アイテムを交互に選択していくとか……私もよく覚えてないけど……」
「詳しく知りたいな。どうするか……そうだ、アスナ、試しに俺と」

わざとか?わざとなのか?お前実はそうやってこの子を怒らせるのが楽しいのか?
アスナさん、もはや怒りを通り越して笑顔なんだが……。

「試しにあなたと、なあに?」
「………お、俺と………質問メールを書いてみないか、ヒースクリフ宛の」
「……う、うん。そうした方がいいな。いい考えだ」

悲しいかな相槌を入れることしかできない。









1分で返って来たメールには、離婚時のストレージ扱いについて、詳細かつ簡潔に記してあった。
そして、キリトの疑念を晴らすのに確かなことも書かれていた。

『アイテム分配率を自分0%、相手100%にしたとき、無条件で離婚できる』

つまり、アイテムが受け取れない『死別』は自分100%、相手0%にできるのだ。

「じゃ……じゃあ《指輪事件》の黒幕は……」
「嫌な予感がするな……キリト、先に行け。念の為、援軍を組織してすぐ行く」
「わかった。アスナ、たぶんグリムロックはグリセルダさんのお墓の近くに隠れてる。時間差で来てあぶり出してくれ」

「……わかったわ」
「よし、行くぞ!!」

ったく、今夜はメシ抜きになりそうだな。

「待って!!」

俺とキリトが走り出そうとしたとき、アスナが焦るように呼び止めた。

「2人とも、気をつけてね……」
「「……ああ」」

まったく、ズルいやつだ。ほんの数分前まで(俺達のせいとはいえ)ぶちギレてた相手にそんな心配そうな顔しやがって……。
これから行くところに来るであろうやつらに心当たりはあるが、大丈夫。俺はもちろん、お前達も死なせはしない。

















「Wow……確かに、こいつはでっかい獲物だ。DDAのリーダー様じゃないか」

殺人ギルド《笑う棺桶》。そのトップスリーのPoH、ザザ、ジョニー・ブラック。こんな下層を理由なくうろついているレベルのやつらじゃない。

「さて……、イッツ・ショウ・タイム、と行きたいとこだが……どうやって遊んだものかね」
「あれ、あれやろうよヘッド」

待ってましたとばかりにジョニー・ブラックが叫んだ。

「《殺し合って、生き残った奴だけ助けてやるぜ》ゲーム。まあ、この3人だと、ちょっとハンデつけなきゃっすけど」
「ンなこと言って、お前この間結局生き残った奴も殺したろうがよ」
「あ、あー!今それ言っちゃゲームにならないっすよヘッドぉ!」

これがグリセルダとグリムロックの復讐なのかと諦めかけたとき、背中に密着する地面からかすかな震動が伝わってくるのを感じた。

PoHが鋭い呼吸音で部下2人に警告した。
漆黒の馬を駆り、自分達のいる小高い丘のふもとに達した黒衣の乱入者はよく知る人物だった。
停止したときに馬から落ちたのは決まってなかったが……。

「ぎりぎりセーフかな。タクシー代はDDAの経費にしてくれよな」

現れたのは攻略組ソロプレイヤー、《黒の剣士》キリトだった。

「よう、PoH。久しぶりだな。まだその趣味の悪い格好してんのか」
「……貴様には言われたくねぇな」

PoHの声には隠しきれない殺意を孕んでいた。
続いてジョニー・ブラックが上ずった声で喚いた。

「ンの野郎……!余裕かましてんじゃねーぞ!状況解ってんのか!」
「こいつの言うとおりだぜ、キリトよ。格好よく登場したのはいいけどな、いくら貴様でも、俺達3人を1人で相手出来ると思ってるのか?」

いかに攻略組トップの戦闘力をほこるキリトといえどもラフコフの幹部3人をまとめて倒せる訳がない。なぜ、せめて《紅き死神》か《閃光》を連れてこなかったのか?



「ま、無理だな。でもな、《紅き死神》がレッドプレイヤーが居るかもしれない所に来ないわけあるか?」









そう言って《黒の剣士》は丘の背後にある岩山を指差した。

刹那、フロアボスのような圧倒的な気配がそこに現れた。

岩山にいた人数は6人、全員が紅のローブを夜風になびかせている。



レッドギルド強行捕縛旅団(ブリゲイド)、《紅蓮の夜》。


レッドプレイヤー達にとって恐怖の象徴である6人組がそこにいた。


攻略組でもその存在が定かでなく、有力な情報屋すら超高額なコルで情報規制をしかれている闇の集団。PKプレイヤーを捕縛するために存在し、小規模のレッドギルドが幾つも消されている。


シュミットは意図せずしてその構成員を知ることになった。




中央にいるのは《紅き死神》レイ。




その両端にいる5人はレイと同じぐらいの有名人だった。
攻略組最強ギルドの一角《オラトリオ・オーケストラ》の幹部5人。
すなわち、


《雷閃》カイト、《幻影刀》ユウリ、《道化師》ホルン、《仁王》リオ、《猴王》アード。


1人1人が最前線でソロプレイを可能とする程のハイレベルプレイヤー。

「これだけの戦力にたった3人で相手出来ると思ってるのか?」
「………Suck」

PoHは一言罵ると、キリトに《魔剣・友斬包丁》を突きだし、低く吐き捨てた。

「……《黒の剣士》。貴様だけは、いつか必ず地面に這わせてやる。大事なお仲間の血の海でごろごろ無様に転げさせてやるから、期待しといてくれよ」

言い終えると、頭上の《紅蓮の夜》を警戒しながら足早に去って言った。
ザザは数歩進んだ所で振り向くと、キリトといつの間にか隣に並んでいたレイに向かって囁いた。

「格好、つけやがって。次は俺が、馬でお前らを、追い回してやるからな」
「なら、頑張って練習しろよ。見た目ほど簡単じゃないぜ」

そう応じたキリトにザザはしゅうと低い呼吸音だけ漏らし、去っていった。



















ラフコフが去った後、アスナがしょっぴいてきたグリムロック共々、驚いて腰を抜かしているヨルコさんやカインズ氏、そして落ち着きを取り戻しつつあるシュミットに《指環事件》の種明かしをした。


最後の抵抗もヨルコさんの機転により破られ、処分は3人に任すとして、今回の事件は終結した。
丘を降りていく4人を見下ろしながら、今日も昼寝しようと決めていると、不意にアスナがポツリと言った。



「……ねえ、キリト君。もし君なら……仮に誰かと結婚した後になって、相手の隠れた一面に気付いたとき、君ならどう思う?」

少し離れて立っているせいか、俺は完全に蚊帳の外だ。

まあ、いいけど。

「えっ………ラッキーだった、って思うかな」
「え?」
「だ……だってさ、結婚するってことは、それまでに見えてきた面はもう好きになってるわけだろ?だから、そのあとに新しい面に気付いてそこも好きになれたら……に、2倍じゃないですか」
「ふうん、変なの」

同感……だが、良い答えだな。キリトにしては。

「ま、いいわ。そんなことより……色々ありすぎて、お腹すいたわよ。なんか食べにいこう。レイ君の驕りで」
「何故だ!?」
「よし、じゃあ……アルゲート名物、見た目はお好み焼きなのにソースの味がしないというあれを……」
「却下」

そんな馬鹿話をしながら歩き出そうとすると不意に後ろに気配を感じた。

薄い金色に輝き、半ば透き通る、1人の女性プレイヤー。




「あなたの意志は……俺達が、確かに引き継ぐよ。いつか必ずこのゲームをクリアして、みんなを解放してみせる」
「ええ。約束します。だから……見守っていてください、グリセルダさん」



2人の言葉に女性はニッコリと大きな笑みが刻まれたーーー
ついで、俺に視線を向けてくる。

「ああ」

言葉は無くとも伝わってくる。俺はそれに頷いて応じた。

「キリト君、フレンド登録しようか」
「え?」
「今までしてなかったじゃない。知り合いなのに連絡が取れないと不便だわ」
「あ、ああ」






そしてまた、新しい1日が始まる。
 
 

 
後書き
真犯人が一言もしゃべらないサスペンス(笑)

最後の適当さが半端ないですね。我ながら。

旅団(ブリゲイド)システムはオリジナル設定です。そのうち補足します。

次回は「心の温度」ですが、まだできてません。もしかしたら更新できないかも……。

 
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