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歪んだ愛

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第3章
  ―8―

「何で殺した後、強姦した?」
課長の問いに仙道は煙草を消し、差し入れされた愛煙する煙草に火を付けた。
半分無くなる迄無言で、だって、と煙草を消した。
「不公平じゃねぇか。」
「不公平?」
「まどかは強姦されたのに。…だからヤッた。東条まどかなんだろう?東条まどかには強姦被害歴がある、まどかを名乗るんだったら其れも要るだろうが。良かったじゃねぇか、望み通りまどかで死ねて。」
笑う仙道の胸倉を和臣は掴み、なんで此の刑事はつっかかんの?と平然と聞いた。
「木島、離せ。命令だ。」
「ほらほら、御主人の命令だぜ、犬は犬らしく尻尾振って従っとけよ。」
「誰が…犬だ…、犬にも劣る畜生の分際で…」
「国家の犬がうるせぇよ、早く、離せよ。」
早“く”、は“な”せよ。
語尾手前が上がる特徴的な語調に和臣は手を離し、デスクに手を付いた。
「今年からのストーキングの理由はなんだ?」
「まどかがな、ストーカー被害に遭ってるって云ったんだ。だからゆりかにもした。まどかだけとか可哀想だろうが。」
「東条まどかのストーカーは御前じゃないのか?」
「俺がまどかのストーカー?何でだよ、する理由がねぇよ。俺の目的はあくまで、東条の盲愛するゆりかなんだ。」
未だ何か云おうとした和臣の口前に課長は手を置き、じっと仙道を見た。
「ちょいちょい引っ掛かるな、御前。」
獅子の言葉に仙道は煙草を咥えた侭少し視線を逸らした。
「何が?」
「御前、まどかに惚れてるのか。」
仙道の丸い目が一瞬開き、ゆったりと煙を吐くと他所向いた侭首を掻いた。
「で?だったらなんだよ。悪いか?父親程の男が娘程の女に惚れたら、淫行罪か何かでしょっ引かれるのか?そうだよ、だからゆりかを殺したんだよ。まどかは世界に一人で良いんだ、あんな紛いモン、まどかじゃねぇよ。」
火の粉が飛ぶ程仙道は煙草を灰皿に押し付け、課長に向いた。
「まどかは、まどかなんだよ。まどか以外に有り得ない。ゆりかみてぇなまどかの人生食いモンにしたクソ女じゃない。其れだけじゃねぇ、あの女はな、まどか其の物を奪ったんだよ。じゃあ、まどかは何処に居る。此の先一緒ゆりかで居なきゃなんねぇんだぞ。東条まどか何て人間、もう何処探しても居ねぇんだよ!」
仙道の目には涙が滲んでいた。
「東条だ、全て、東条が悪い。まどかを邪険にするだけじゃ無く否定迄した。強姦されたのがゆりかじゃなくて良かった…?誰の所為でまどかは強姦に遭ったんだよ!全部テメェの撒いた種だろうがよ!」
父親の吐いた台詞とは思えない残酷な言葉に又和臣は不愉快を覚え、口元を押さえた。
「腹が立った、暢気に生きてるゆりかが。ゆりかが居なけりゃまどかはまどかで存在出来たんだよ!テメェがまどかを物みたく扱った結果ゆりかはクソな性格になったんだろうが!裏であの女がまどかの事なんて云ってたか知ってるか!?側用人だって云ったんだぞ、笑い乍らな。だから殺した、此れ以上、我慢出来なかった。」
逸そ清しいなと、仙道の笑顔を見て和臣は思った。
愛する女の為なら男は何にでもなれる。権力者にも殺人犯にも、聖人にも悪人にも。
其れを目の当たりにした和臣は仙道の手首に、熱情の結果を掛けた。
「仙道英介、殺人及び死体破損、死体遺棄の容疑で逮捕します。」
「あははっはは。」
清々しい迄の笑い声だった。 
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