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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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横浜騒乱編
  第23話 剣の術

爆音と振動を感じとった僕は、三高があがっているステージにいる名倉あかりを見ると、首を縦に振っている。イメージの中にあったもののひとつに、これがあるのだろう。

外部からは銃声らしきものが聞こえる。電波もサイオンも通らないようにしてあるのに、防音に難点があるなぁと思いながら、4箇所に分散している出入り口のプシオンの状態を確認してみたが、プシオンから幽体までを確認しても、現実世界での敵味方の識別は困難だ。これではやっぱり1人じゃあ無理そうだ。しかし幸いにも自警団は午後から防弾チョッキを着込んでいるから、後は成り行きにまかせるどうかだ。

4つの出入り口の内3つが一斉に開いて、荒々しい足音がたつ……とその侵入してきた集団は思っていたのであろうが、侵入してきた人物たちはバタリと倒れていった。ただし1つの出入り口だけで、1つの出入り口は1人は倒れたが後続にいた1人は立ち止まって、対抗魔法を放とうとしているし、もう1つの出入り口はそのまま入ってきた。

各出入り口には、しかけておいたプシオン検知型の自動発動型振動系エリア魔法だったのだが、2人とも侵入してきた出入り口は、さっき警備員が通ったので、キャンセルをかけて張りなおそうとしていたところだった。この状況をみるならば全ての魔法をキャンセルした。いつものごとく、サイオンを感知させない魔法も併用しているので、誰がおこなったかはわからないだろう。

そして、中に入ってきて客席にまぎれた2人のうち1人が、ステージにむかって銃声を響かせた。

「大人しくしろっ」

「デバイスを外して床に置け」

結局入ってきたのは3人で、さっきのような罠がないのか確認はしているみたいだ。しかしこの状況は、ホール全員を人質にとられたようなものだ。とりあえず、目立つ左腕に着けている汎用型CADは言われた通りに、座っている席の床下におき、手持ち型の汎用型CADは左腰あたりにきているポケットの中にいれてあるのと、シルバー・ホーンは左脇のホルスターの中にいれたままにしておく。

そうすると侵入者のうち1人が、ステージ前の通路に立っていたシスコン・ブラコン兄妹のうち達也の方に向かって、

「おい、オマエもだ」

ってどうも達也はCADを手放す気はなさそうで、相手を観察している目のようだ。

たぶん名倉あかりが言っていたのは、さきほどまでのところなのだろう。ただし、師匠が護身用の懐剣(かいけん)を持たせたのは、こことは違うだろう。これなら観客を気にしなければ、手持ちのCADで一機に殲滅できる。

まずは様子見をきめこんでいると

「早くしろっ」

そう怒声をあげる侵入者だが、達也は一向に動じない。どちらかというと動揺しているのは、声をかけている侵入者の方だ。それを侵入者の仲間が気がついたのか

「おい、待て」

銃声が1発。そして少し間をおいてから2,3発目の銃声として聞こえたが、結果は達也の背後に銃弾がとどくでもなく、達也が血を流すわけでもなく、達也の握りこんだ手の位置が動いただけのようにしか、普通はみえないだろう。

僕には達也の手からでた発散系を中心とした魔法式が見えた。あれは、春のブランシュの事件で、ドアを破った時の魔法とほぼ同一なんだろう。やはり先天性スキルなのか、発動スピードと事象改変力が尋常じゃないな。僕もあの小銃にかかっている指先と、銃口をみて、かわすだけならできるだろう。しかし、魔法をつかって3mという距離で直接弾丸を処理するのは不可能だろう。行なうなら、相手に直接魔法をたたき込むことだが、それだと、相手に引き金をひかせてしまい、観客を巻き込む恐れがある。

小銃を打った侵入者が、小銃をすててナイフに切り替えたが、普通の人間が多少の訓練を受けたからといって、達也の相手になるものじゃない。そう思ったが、達也がおこなったのはナイフを取り上げたり、手か指を折るのではなく、腕を切断するというものだった。こちらからは、達也の手先と侵入者の腕が近すぎて、はっきりとはみえなかったから確証はないが、さっきの弾丸を止めた魔法と同一系統の魔法だろう。

残りの侵入者が茫然としているので、僕は今度はまわりにもわかるように、シルバー・ホーンで振動魔法を直接かけたところで、深雪は達也に近寄って

「お兄様、血のりを落としますので、少しそのままでお願いします」

そう言い終わったところで、自警団は倒れている侵入者をしばりあげはじめる行動に移っていた。

レオやエリカたちが達也の方へ向かう中、僕はステージ方向へ移動して飛び乗った。そこへ名倉あかりが近寄ってきて、僕が声をかけるより先に

「翔がいてくれて、精神的に楽だったわ」

「……それはよかったよ。このあと、あかりはどうするんだい?」

「周りと一緒に行動することになると思うの。あなたは正面へ行くのね」

それって正面出入り口へ行けってことかよ。それに翔って、今朝の喫茶室でまわりから見聞きできるのが恋人同士のようになっていたようで、エリカには今までのは嘘だの、やっぱり彼女だったのねとか、散々にからかわれていた。今も、もう顔がすぐ近くまでに近づいてきていて、互いに目を見ながら話しているから、遠距離恋愛をしている男子女子にみえるだろう。

たしかに見た目だけなら、クラスメイトの南とか、操弾射撃部の滝川よりは上だと思う。しかし、クラスメイトのエリカに美月、生徒会室で会う深雪やほのかに、大衆アイドル的な存在である中条会長、プラットホームまでの帰りには一緒になることが多い雫とくらべると落ちるからなぁ。僕の美的感覚がマヒさせられてきている気がしてきた。

それはともかく、この『魂眼』をもつ彼女は腹黒そうだからな。

「ああ。そっちの無事を祈っているよ」

「翔。あなたの方が危険よ。操弾射撃大会で会えることを祈っているわ」

「また、あえるその日までなぁ」

「本当に気を抜かないでね」

2回忠告してきたってことは、こっちは危険いっぱいってのを感じているのかよ。がっくりしたい気分だが、正面へ向かうため出入り口に向かうと、先ほどの魔法をカーディナル・ジョージに『分子ディバインダー』扱いにされていた達也の背中を追う形になった。

魔法の名前には本質を表していることが多い。これは魔法師がイメージするのに都合がよいからだが、分子を分割する魔法なら、普通は放出系魔法が主になるだろう。カーディナル・ジョージは魔法式が判別できないタイプらしい。来年か再来年の九校戦の参考にしておこうっと。

普通は、魔法式を識別することが不可能なことを忘れている翔だった。



正面出入り口に向かったメンバーは達也、レオ、エリカ、幹比古に深雪と雫がいるのもなんとなくわかるが、およそ戦闘にかかわりがなさそうな美月にほのかまでいる。朱に交われば赤くなるとは言うが、朱色は誰なのやら。

最後方だった僕は、達也に首を引っ張られてレオがすっころんでいるのを見た。これだけの殺気といわれるものを、出してる相手の気配とプシオンの位置が一致するので、そこをターゲットに順次振動系魔法で気絶させていく。

僕が6人を倒していった直後に、2回の振動系魔法の発動を感じられた。14カ所と11カ所か。相手を知覚したのは達也で、魔法を発動したのは深雪。余力を残したと考えると、一度に達也の知覚というよりは、深雪の照準できる能力は15~17カ所ぐらいなのだろう。

「銃を止まらせてくれ」

そう達也が言って、深雪が実際に2回魔法を放った直後には達也が出ていってる。その結果、弾丸がでてこないことを確認して出ていったエリカに、僕もつられるようにして出ていった。

その時、シルバー・ホーンをホルスターにしまって、懐から取り出すは20cmあまりの2本の棒を両手に持つ。その先端にそれぞれボタンを押すと、刃渡り15cmのナイフとなり、その刃に書かれているのは梵字で、霊能力とそれの隠匿補助をしてくれる護身用の懐剣(かいけん)だ。

そのナイフに出す魔法は『炎雷の剣』。現代魔法では、これを広域にすると灼熱地獄『ムスペルスヘイム』と呼ばれ、空気が燃え上がり、気体分子をプラズマに分解し、更に陽イオンと電子を強制的に分離することで高エネルギーの電磁場を作り出す領域魔法だが、それを剣の形にとどめているのが、古式魔法でも円明流風に改良した魔法だ。

達也とエリカがいく方向とは別な方向にいる相手に、縮地をつかって向かって行き、左手の炎雷の小刀をの炎雷のみを飛ばして、相手にぶつかりそのまま骨の一部が残るまで燃やし尽くす霊能力がまじった炎。

そして走りながら、右手からは最大35mまで自由に伸ばせる剣で、相手を水平切り。僕の技に水平切りが多いのは、この技を前提に組まれているからだが、結果は同じく胴体がきれるとともに、相手の骨の一部が残るだけ。

CADを自由に使えるようになれるまでは、この暗器ではなくて、本式を主につかっていたからな。

この術の本来の想定は、肉体を持ったタイプの妖魔だが、人間相手だと肉体はもろいし、霊力も低すぎて、斬ったという感触が無い。そういう感じの中で聞こえてきたのは幹比古の

「達也、エリカ!」

達也とエリカだから、こちらとは異なる方向に風精を感じた。達也たちは退いたようなのと、相手からも戦意が揺らいでいるから、ある意味初陣である僕も皆の元にいったんもどることにした。



戻った先では出番がなかったレオが本気なのかそうでないのかいじけているのを、幹比古がはげまして、おう吐をこらえるかのような表情をみせていたほのかと美月には、達也と深雪がフォローに入っている。そういえば、達也たちの方は血が多い。これだけの血が流れたのを現実でみたのは、ブランシュのときに達也が相手に穴を開けていたのと、桐原先輩が、リーダの腕を切ったときだっけ。その時、魂が昇っていく様をみて、地縛霊などの魂が昇っていくのと同じだなと感じていた。

そんな中、話題をかえるためか本気なのかエリカが

「翔くん。円明流合気術の剣術って、もしかして宮本武蔵の流れ?」

「よくわかったね。二刀を使う事と、道場の名前に含まれているだけだけど、その円明流の流れだよ」

「そういえば、さっきの炎の剣って、まさか『倶利伽羅剣(くりからけん)』じゃないだろうね?」

「違うよ。『倶利伽羅剣(くりからけん)』って、これだよね?」

幹比古が言ったのに対して、渦巻く炎が竜のようにまとわりつく諸刃の剣を手先から1cmばかり離れたところにつくってみせた。

「それだけど、印も、言霊もとなえないで……いや、君の非常識さにもなれた」

「おい。非常識ってなんだよ。こんな効率の悪い古式魔法から、改良したのがさっきの術だよ」

なぜつかえるかというと、この効率の悪い古式魔法も先天性スキルとしてついてきた魔法だ。これが、自傷発火させる危険な魔法でもあるので、さっきのような剣で炎の剣の魔法を使っていた。

「それはどっちでもいいけれど、それよりも名倉あかりって女子と、やっぱりつきあっていたのね」

「もう、それでいいよ」

「何よ。プレゼン会場では、全力で否定してたのに」

「いろいろと込み入った事情がありまして……」

ちょっとこまっていたところで、達也がエリカの特殊な剣について聞いたりして流れも変わり始めて、少々話していたところ、空気を読んでいるのか天然なのかレオが、

「……それで、これからどうすんだ?」

「情報が欲しい。エリカも言ってたが、予想外に大規模で深刻な事態が進行しているようだ。行き当たりばったりでは泥沼にはまり込むかもしれない」

達也から情報がほしいと言えば、そこで雫が『VIP会議室』なるものの存在を言ったり、大抵の情報にアクセスできることや、そのための暗誦キーやアクセスコードを知っているというのには、あきれたものだが、この場合は非常にたすかるのだろう。

VIP会議室に向かっていき、入り込んで周囲の状態をモニターに受信した警察マップデータは、危険地帯を示す赤色が海から内陸部へ拡大しているのが見受けられたが、警察関係志望のレオや、身内や道場の弟子に警察関係者が多いエリカの反応が

「ひでぇな、こりゃ」

「何これ!」

なので、かなり悪いということは理解できた。そして地図をみての僕の考えは、

「やっぱり、ここに残るという選択肢はなさそうだね」

「そうだろうな。このビルは狙われているようだ」

そのあと幹比古のシェルターに向かうという方針が現実的というのと、達也のデモ機のデータは消しておきたいということで、まずは一高のデモ機がおいてあるステージ裏に向かうことにしたが、そこで十文字先輩に会った。

十文字先輩は、とっとと脱出しないのかということだったが、こちらは、一応はデモ機のデータ消去と、バラバラに行動するよりは良いかと思ってという、どうとでもとれる言葉を発したが、この際あまり細かいことは言われなかったが、服部会頭は

「しかし他の生徒はすでに地下通路へ向かったぞ」

「地下通路ではまずいのか?」

沢木先輩の言葉は、僕らがVIP会議室では地上を行くということにしたことで、地下通路ということで困惑な顔でもしていたのだろう。

話しているあいだに、すぐに地下通路では遭遇戦の可能性があることと、服部会頭と沢木先輩を地下通路を先導している中条会長のところへ行くように指示したのは十文字先輩だ。やはり判断力がある。

そして十文字先輩を先頭にして、ステージ裏に向かうと7人もの人がいた。そのうちの4人、七草先輩、渡辺先輩、桐原先輩、壬生先輩をみたのと、ここでVIP会議室でのマップを思い出して、春のブランシュの件と共通点が多いどころか、拡大再生産している感覚におちいっていた。
 
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