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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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横浜騒乱編
  第22話 霊感

論文コンペの当日である10月30日の日曜日。
僕は一高で、運送業者が機材を専用の大型車に搭載しているのに立ち合いをおこなっている。まわりには、裏方をおこなっているサポーターもいるので、僕の仕事は業者が本物かの確認と、発送と到着までの立ち合いだった。

僕は運送業者と一緒に移動するが、普通は生徒会から同行するのは、実戦魔法の実力が一番高そうな人がつくそうだ。それなら深雪になるはずが、中条会長の口から言えないということで、僕が指名された。

そして現在横にいるのは服部会頭で、この運送業者のトレーラーで一緒に同乗していく。

「これで、順調なんですよね?」

「そうだが、何か気にかかることでも?」

「何人かの知り合いが、今日の横浜で何かがおきそうと感じた、と言っているのが気にかかりまして」

具体的には、今朝は師匠に護身用の懐剣(かいけん)を持っていけと持たされたり、同級生の南が、昨日は突発的にプシオンが膨れ上がり、そのあと突然同級生たちとは応援に行かないと言いだした……結局はあとでわかったといえるか微妙だが、どうも自覚のない間歇性(かんけつせい)の霊能力者らしい。ちなみに裏賀茂でもない。裏賀茂は1人2科生にいるが、お互い知っていても、特に交流は無い。
裏賀茂といえば、さらに今日の論文コンペで三高のサポーターとして来る名倉あかりは、今朝になって『何か悪い霊感がするから、現地で話したい』と電子精霊をつかった上で、霊能者用の特殊暗号化したメールを送ってくるし。

僕の場合は、僕自身が波乱にまきこまれそうだという霊感はあるのだが、それが今日なのか、もっと先なのかがはっきりしない。

霊感はプシオン次元を経由してサイオン次元の未来へとアクセスするから、その間接性であいまいになっているのではないかというのが、霊能力者の間では仮説としてでている。魔法演算領域が精神であるプシオンにあるのに、プシオン次元を通るのが間接的というのもおかしいが、エレメンタル・サイトは、プシオン次元を通らずにサイオン次元へアクセスしているから、それはそれでありなのかもしれない。

「まあ、君の場合は、先週大物にあったから過敏になっているんじゃないのか」

「そうかもしれませんね。すみませんでした」

服部会頭が生徒会役員の時に、模擬戦での立ち合いとして何回か来ていたので、そこで話すことが多くなった。九校戦前の時には、多少トゲのある雰囲気は残っていたが、夏休み明けにあってからは、そうでもなくなっている。ある種の実力主義者なのだろう。今週はともかく先週のは、わかっているのか。まあ、会頭という立場だから、部活の中の誰かから情報が行ったのだろう。

トゲを感じなくなったといえば、夏休み明けからの森崎も、視線にトゲがなくなった。九校戦の最終日のパーティでは、いまいましそうな視線を感じていたが、それがなぜかなくなっていた。これはよくわからない。



運送業者は、手順がさだまっているのか、遅滞無く運びいれて、移動も順調で、会場で荷降ろしも手際が良いように見えた。あとはサポーターがOKをだしたので、往路の運送終了を生徒会のコードが入った携帯端末で、やりとりをして、また帰りにきてもらうことになっている。

会場には発表のサブである五十里先輩がいたというよりは、千代田先輩が、いちゃいちゃしたいために、早めに来たのが真実ではないかと思うが、シスコンブラコン兄妹に比べれば、甘い……甘くないというべきか? なので、すでに耐性ができつつあるのは、良いことなのか、悪いことなのか。

会場から運送業者がでていったら、帰りの立会いまで仕事は無いので、気乗りはしないが、名倉あかりに到着したことをメールで送った。メールの返信は1分とかからずに、『9:05分に喫茶室で』ともどってきた。朝一で何かがおこるという感触ではないのだろう。

こちらの到着が早かったので、その後はサポーターや警備のメンバーがぞくぞくと到着したり、エリカとレオが警備にまざりたいとか、千代田先輩を困らせるというハプニングに対して達也が対応したり、とあったがおおむね、いつものことといえよう。



僕は準備室も込んできたし、喫茶室ってどこだったかなぁ、と思ってうろうろしていると、発見したから準備室にもどる途中で、5月頃から達也の周囲の人物を監視している人物が、気配を薄くして一高の控え室の前に立っていた。その相手にばれてもかまわないから、まわりから見えないところへ一旦入って、気配をまわりになじませてから、その人物の斜め後ろにたって、何気なく控え室のほうを見ているふりをした。

とある20台半ばの女性が一高の控え室に近寄っていたところで、僕のそばにいる人物から微小ながら特徴のある電磁波を感じた。この電磁波を敏感に感じたのであろう。一高に控え室に向かっていた女性は、電磁波を発した場所へ気配のサーチをしたようだ。見向きもしなかったということは、特徴はつかんだということかな。

電磁波を発した人物は、そのことに気がつかずに携帯端末をとりだして、電磁波を発したと思われるカメラとつないで、

「やっぱり……エレクトロン・ソーサリス」

とつぶやいた。
僕はその言葉を聞いて、ここ数か月達也の周辺を視ていた人物として、言質がとれたということで、隠形をとき声をかけた。

「小野遥先生。ちょうどいいところにいました」

「えっ?……陸名くん、何かしら?」

悪いことをしている子どもが見つかったというかのように、一瞬驚いていたようだが、なんとか取り繕っているようだ。動揺が収まらないのはプシオンでまるわかりなので、成功しているとはいいがたいけれど。

「僕の友人のまわりをストーキングしている人が、学校にいましてね。僕は担任がいない2科生ですし、頼りになるのはカウンセリングの小野遥先生ぐらいなんです」

「……そういうことなら、明日の学校でよろしいかしら」

「ええ、まあ、詳しくはそれでもいいんですけど、その人は今日も来ているので、先生からも一言、忠告してもらえますか。ちなみに相手は幻影さんです」

遥は今度こそ、本気で驚いた。気配を感じさせないのと、気配を感じるぐらいなら、九重先生に聞いているので知っていて、逆に達也が論文コンペのサブになるまでは毎週土曜日の朝に通っていたので、公安に所属しているぐらいなら、知らされることもあるだろうとは思っていたが、幻影はファントム。つまり遥のコードネームである『ミズ・ファントム』は、非合法の諜報活動に手に染めている者だけが知っているのであり、特殊な形態で保護司の管理下にいたり、古流の武術や古式魔法にたけている少年だとは思っていても、非合法の諜報活動の関係者だとは思っていなかったのである。



驚いている小野先生をみながら、そこまで狭い範囲のコードネームだと知らなかった翔は、

「僕からも本人に言ってはみますが、今日はとりあえず、僕には視線を向けてもらいたくないので、先生からもよろしくお願いします」

「……わ、わかったわ」

翔の感想としては、小野先生って、本当に諜報活動のプロなんだろうか、と頭をひねったぐらいである。そもそも校内で小野先生が歩いているときに、忍術使いの歩法を使う時があって、あわててなおすという場面に何回かあっているので、隠す気はあるんだろうけど、そこまでの技量にいたっていないというところもある。ここに認識の差というのがでてくるのは、翔に中途半端な情報しか与えない翔の師匠が一番の問題であろう。



9時に論文コンペが始まるので、コンペ会場の外にいるのは、警備にあたるものがほとんどである。例外の1人として、翔はトイレの個室にこもっていた。そして9時も超えたということで、喫茶室に入って、とりあえずミルクティを頼んで待っていたら、名倉あかりがほぼすぐあとにやってきた。奥のわかりづらい席に座っていたのだけど、あっさりと見つけてくれて、飲み物を頼んだというところだ。

「それにしても、ひさしぶり」

「急に呼び出して、ごめんなさいね」

「いや、どうせ見たかったら、あとで図書館から結果の動画は見られるから、かまわないんだけど」

「その前に、ちょっとね」

見慣れない魔方陣が刺繍されているハンカチを置いて、名倉あかりがプシオンを流し込んだら、周囲が結界のようなものにつつまれた。

「うーん? この結界らしいもの大丈夫かい?」

「サイオンもプシオンも検知されないから大丈夫よ。周りからは、適当に会話しているように見えたり、聞こえたりするだけだから」

適当の中身は、さておいといて、本題の話を聞いてみて簡潔に直すと、三高の発表できるイメージが出てこない。これにつきるのだが、問題は

「つまり、今回の警備はあてにならないと言いたいのかな?」

「残念ながら、そういうイメージしかわいてこないのよ」

「プリンスには?」

「吉祥寺くんが信用してくれたら、動いてくれるかもしれないけれど、カーディナル・コードの信奉者よ。未来予測が期待されている多面体理論とかならまだしも、(霊)感なんてあいまいなものは、信用してくれないわよ」

「(裏)賀茂の方は?」

「連絡はしたけど、吉報がこないのよ」

「ビルの出入り口は協会が手配した正規の警備員に、実戦魔法師もまざっているから、少々のレベルの犯罪組織じゃ、突破できないはずなんだけどなぁ」

「けれど一番イメージが強いのは、小銃らしきものを持った人がいて、その時に三高がステージに上がっていて、なぜか、ステージの下にはあの霊的ラインを変態的な術でつながされている、司波兄妹がいるってところなのよ」

変態的な術ねぇと思いながらも

「単なる小銃なら、魔法師を突破することは困難だから、対魔法師用の小銃ってやつかな。共同会場自警団のトップになる十文字先輩には話してみるけれど、あの人も何を考えているかよくわからないところがあるから、あてにしないでくれよ」

「っというか、陸名くんは自分で直接動く気はないの?」

「霊能力者が対魔法師用小銃を持っているかもしれない相手と、直接的に戦えるわけがないだろう」

「けど、あのリユウカンフウに勝ったのでしょう?」

「あれは、相手がすでにわき腹に傷がおっていたのと、プシオンでごまかしただけだから、プシオンも霊能力者に匹敵するレベルだったら勝てなかったよ。それに本来の武具をつけていなかったからねぇ」

「幽体を伸ばす特技をもっていると聞いているわよ」

「あれは10mしか、視認効果なし」

「使えないわねぇ」

「敵味方の識別ができれば、プシオン経由の幽体を座標にして攻撃できるけど、『魂眼』にはそういう能力ないのかな?」

「わたしの眼の能力では、現実世界での知覚能力はないわよ」

「それならこの件について、僕が直接的な戦力になれるかどうかは、状況次第だと思うよ。とりあえず、こちらの十文字先輩をみつけて話すだけは話してみるけど、一緒にいく?」

「いえ、遠慮しておくわ」

そこからは、時間をずらして喫茶室をでるが、喫茶室を出るときに小野先生とすれ違ったが、歩法がやっぱり忍術使いのものを使っている。視線をあわせてこないけど、先ほどの要求は通ったということで、まあいいか。

十文字先輩を訪ねて共同会場自警団の本部となる1室に入ったが、自分の足で見回っているそうで、しばらくまってもどってきた十文字先輩には

「論文コンペ発表会場に、直接小銃を持って入られるというイメージを持った古式の魔法師がいます」

とだけ伝えたが、そのまま眼を視られたあと「うむ」のひとことで終わった。

名倉あかりには、このことをメールしておいて、まだ論文コンペのプレゼン中なので、ロビーにある椅子で一休みしてから、プレゼン終了とともにでてきた観客とは入れ違いに入り、いつものレオ、幹比古、エリカ、美月と一緒に観戦することとなった。

ほのかと雫が約束通りの時間にきたので、昼食を一緒にとり、達也と深雪以外のいつもの帰りのメンバーがそろったところだ。とあることで、エリカに多少はからかわれていたが、気にせずにいよう。

3種類のプレゼンをみて実用性があるんだか、ないんだかよくわからないテーマを半分眠気に誘われながらも一高のプレゼンで、電磁石の振り子の実験みたいなことをしている最中に突然轟音がなったので、一瞬、奇襲かと思ったが、なんてことはないともいえないが、クーロン力を低下させる新しい魔法式のお披露目だった。そのおかげで眠気半分の気分は持ち直した。

一高のプレゼンも終わり片付け作業で、三高は設置の作業をおこなっている。その最中に轟音とともに、会場にゆれがきた。

これが、多分、南がさけて、師匠や名倉あかりが感じていたものだろうと思った。
 
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