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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  綱手

「……ユナトさん」

 テンテンはそっと呼びかけた。ユナトは振り返らない。怒っているのだとテンテンにはわかった。

「リーくん、下手したら忍者廃業だって」

 ユナトはテンテンの言おうとしていることから話題を逸らそうといているかのように言った。リーと我愛羅の戦闘中、テンテンは軟禁にも近い状態でユナトの隠れ家にいた。後に戦闘の件を聞き、その場にいられなかったことに唇をかみ締めたのは記憶に新しいが、こんなことには流されない。今彼女と話したいのはそんなことではない。

 ユナトはテンテンが欲しいと言った。ユナトには七班と九班に近しく、そしていざとなれば相手の左胸に確実にクナイを突き立てられるくらいには忍具の扱いに長けた人間が欲しかったと。けれど名家の子息ならば万が一発覚した時に大変なことになる。となると残された可能性は春野サクラ、いとめユヅル、ロック・リーにテンテンだ。しかしサクラは幻術タイプ、ユヅルは犬神持ちだから幻術が効かない上、余りに近すぎて逆に標的を傷づけられないという問題がでる。そこで選ばれたのがテンテンだ。
 「まあ、同じ女の子だからかな?」とユナトはリーではなくテンテンを選んだ理由についてそうはぐらかしたけれど、テンテンにはわかった。「リーがガイ先生に似てるからですね」と、冷静にそう言ったテンテンに、ユナトは頬を打たれたような顔をした。そうなんだと、テンテンは確信した。

「ユナトさんって、寂しい人ですね」

 ぴくん、と彼女の肩が跳ねる。
 彼女の血継限界を使えば里のどんな秘密だって直ぐにつかめてしまう。彼女は山吹やテンテンのような手下が何人も要るわけではない。彼女一人だけで十分なのだ。もしかしたら情報が漏れてしまうようなリスクを犯してでも彼女はたくさんの手下を集めた。
 寂しい人だと改めて思った。彼女の血継限界は無機物を通じて他人の言葉を拾うというものだ。だからこそ彼女は人と触れ合うことを求めているのだと思った。

「……だからってきみに何の関係があるっていうの?」

 小刻みに震えるユナトの声に、テンテンは目を伏せた。

 +

 すごい、と。
 ただそうとしかいいようはなかった。
 私は驚愕の面持ちで目の前の弟子を見つめる。荒い呼吸を繰り返しながら地面に崩れ落ちた少年の姿。その目の前で大木が真っ二つにされ、森には彼の水遁によって発生した水がばらまいた水滴によってきらめき、その背後の川は前より些か浅くなっている。
 アカデミーは次席でも。
 女顔で姉に虐待されていても。
 チームメイトに言われたことを何でも鵜呑みにしても。
 一文字はじめは、天才だった。

 これを僅か二日で完全に我が物にしてしまうとは。私が出来るすべての水遁をすべて習得し、幻術も体術のスキルもここまで高められるとは。――八門を開けるように、なるとは。
 このような弟子を持てたことに喜びが募る。私は崩れ落ちたはじめの体を支え、彼を褒め称え、励ます。はじめが僅かに微笑んだような気がした。

 +

 ナルトは修行の途中だった。
 我愛羅とリーの試合を見て、自分も頑張らねばという気持ちが再燃、もう入院している場合ではないといそいで病院を飛び出して修行を開始した。その日の途中で自来也にあったが、何か用があるとかで修行には付き合ってくれないらしい。最初こそ駄々を捏ねたナルトだったが、自来也の顔が珍しく真剣なので、渋々頷いた。そしてその日から既に二日間自力で修行を続けている。

「ネジと……ヒルマ?」

 ヒルマというらしい日向のお喋りな医療忍者が、ネジと柔拳で打ち合っていた。ヒルマは白眼を使用し必死に本気に戦っているが、ネジは白眼を使用せずとも余裕でヒルマと対等に戦っている。彼らの会話が風に乗って聞こえてくた。

「なんだか悔しいですね……年下の君に教わるはめになるとは」
「師は弟子より賢い必要はない、というだろう」

 例えばもし火遁の得意な忍びがいたとして。もしもう一人の忍びが彼の弟子だったとしたら、彼は火遁だけ教えてやればいいのだ。その弟子よりも上手く、弟子の得意な水遁を操れる必要はない。火遁だけ秀でている、それだけでも彼は、水遁なら自分を大きく上回る者を教えることが出来る――ということだ。ネジは医療忍術など使えないが、医療忍術の秀でているヒルマに柔拳を教えてはいけないなどということはない。

「そうですねえ。――にしてもネジくん、今度のナルトくんとの試合、どうするんですか?」

 ネジの姿を見て更に闘争心を燃やし、早く修行に戻ろうとしたナルトはふと足を止める。盗み聞きはよくないということはよくわかっていたけれど、気になった。

「……どうするもなにも。倒す、それだけだ」
「自信満々ですねえ? ただし、油断は大敵ですよ。予選での逆転勝利……中々の粘り強さ、しつこさ、そして諦めの悪さ。痺れを切らして油断した途端に一気に逆転されちゃいますよ。ね、そうでしょうナルトくん」

 ヒルマがにっこりしながら振り返り、ネジが白眼を発動してこちらを見た。白眼をつかっていなかったためにナルトの存在に気づけなかったらしい。ヒルマにはもう既に気づかれていたらしいことに若干驚きながら、ナルトはおずおずと進み出た。

「……いつからいた?」
「師は弟子より賢い必要はないのあたりから、ですねー。覗き見はめっ、ですよっ、ナルトくん!」

 茶目っ気たっぷりにウインクしてみせるヒルマに若干引き気味になりつつ、横目でちらりとネジを見る。不機嫌そうな顔でこちらを睨んでくる彼にこちらも苛々し、負けじと睨み返す。

「ヒルマさん……ネジに柔拳教わってたのか?」
「ええ。柔拳の実力だけならネジくんの方が上ですし、それにこの間カカシさんにヒルマは柔拳さえもっと強ければ直ぐに上忍になれるとか言われて悔しいし」
「カカシ先生ってばそんなこと言ってたのか……」

 むくれた顔をするヒルマにナルトは呆れたような顔をしながら、担当上忍を脳裏に思い浮かべた。試験が終わって直ぐ修行をつけてくれるよう頼み込んだのに彼ときたら、サスケの修行をつけにいってしまったのである。エビスがかわりに修行をつけてくれることになったのはいいものの、彼は始まって間もなくエロ仙人こと自来也にやられてしまい、自来也が修行をつけてくれることになったと思いきやその自来也でさえ今は自分でやれと言う。やれやれだってばよとため息をつくナルトにヒルマが微笑んだ。

「……今日は気が進まん。また明日だ」

 暫くナルトをにらんでいたネジが、やがてナルトから目を逸らしてぽつりと呟いた。すたすたと足早に去っていく姿にナルトはムッとした顔をし、ヒルマが苦笑する。

「なんだよあいつ、気にいらねー。予選でもヒナタのこと散々変われないだとかなんだとか言ってやがったし」
「まあまあ……そういう人生観の持ち主ですからね」
「……じんせーかん?」
「ええ。人生に対する見方、とでも言ったらいいのでしょうか。彼にとって人生とは運命に支配されたものであり、人間の能力も言動も一人の生き様も死に様も、運命に支配されて決して変わることはないものなのです」

 顔を顰めるナルトに、ヒルマは説明してきかせる。その笑顔は先ほどのそれのように朗らかではなかった。

「ゲジマユが、宗家と分家には宗家に有利な掟があるとか言ってたけど、それ、なんなんだってばよ?」

 ふとリーの言葉を思い出しながら聞いてきたナルトに「そうですねえ」とヒルマは顔を顰めて、それからため息と共に額宛てを取った。
 その下にあったのは不思議な絵柄だった。呪印ですよとヒルマが言いながら指先でそれをなぞる。

「これ、ですね。これは分家の脳細胞を破壊することが出来、分家の死後にはその白眼の能力を封印する能力も持っています。白眼の秘密が外に流出しないようにという、ね」

 しかしネジがそれだけの理由であそこまでヒナタを嫌っていたとはあまり思えず、怪訝な顔をしたナルトに、ヒルマはちょっとだけ考えてから、いった。

「ネジくんのお父上とヒナタさまのお父上、つまりヒザシさんとヒアシさまは双子の兄弟です。つまり、呪印がないって以外はそっくりです。その為にヒザシさんはヒアシさまの影武者となった――ということがありまして」
「……なんで、影武者にならなくちゃいけなかったんだってばよ?」
「……僕はわりとお喋りな方ですし、今ももう喋りすぎちゃったと思いますけど。でもこれ以上はナルトくん、君がネジくんに聞く番ですね」

 不思議そうな顔をしたナルトの前でヒルマが立ち上がり、優しく笑った。

「ネジくんは誰に理解されなくたっていいと思っているように『自分を思い込ませてる』。でももしかしたら彼は本当は誰かに理解されたいのかもしれません。――ヒナタさまへの仕打ちで彼を罵倒することから始めるより、彼の考えを理解することからはじめるのはどうでしょうか。罵倒するのは、それからでも遅くはないでしょう?」

 +

「具合はどうだ、マナ?」
「あ、大分よくなりましたっス……ありがとうございます、綱手さま」

 マナの頭くらいはある大きな胸と、二つに結われた金髪。額に描かれた青い菱型の模様。纏った衣服の背には「賭」の一文字――
 初代火影、千手柱間の孫にして伝説の三忍の一人、長い間医療忍者界から姿を晦ましていた天才的な医療忍者の姿だ。自来也や大蛇丸と同い年――つまりもう五十代頃であるにもかかわらず、その外見は肌理細やかであった。

「まだちょっと微熱があるみたいですけれど……でも大分よくなっていますね」
「ブヒィ」

 マナの顔を覗き込んだ黒髪の女性の名はシズネ。綱手の付き人だ。その腕に抱えられているのはトントンという、忍豚である。サクラといのがシズネの背後で嬉しそうに笑いあった。

「日向ヒルマ、だったか? あんな優秀な医療忍者がいるとは木ノ葉もまだ捨てたもんじゃないな」
「ええ。あんなに若いのに、すごく手際もよかったし、今回の中忍試験では彼が試験参加者の医療を担当していたようですしね」

 綱手・ヒルマ・シズネ。化膿したマナの腕を治療したのはこの三人だった。自来也に連れてこられた綱手とシズネは、ヒルマと共に見事マナの怪我を治して見せたのである。その豊富な医療に関する知識からユヅルに適した薬物の調合も始めているそうだ(ただし、調合にはかなり時間のかかる代物であるらしい)。
 ――綱手さまなら、きっとリーさんの手足も治してくれる
 期待に目を輝かせるサクラにいのも微笑し、「後でキバに伝えないとね。紅丸に会えなくてマナも寂しいでしょう」とマナに向かって悪戯っぽく笑いかけた。

「はい……ありがとうございます、綱手さま」

 礼を言うマナの姿に綱手が僅かに微笑んで見せる。穏やかな微笑ではあったが、ヒルマの描写するマナが使用したあの不可思議な術を思い出し、内心はあまり穏やかとは言える状態ではなく、そしてそれはシズネもまた同じだった。

 +

 最愛の弟縄樹、そして恋人加藤ダン。あの二人が死んでから綱手は血液恐怖症になり、シズネと共にあてもなく各地をさ迷い歩くようになっていった。
 そんな時会いに来た同期である自来也が、ジャシンやら暁やら、木ノ葉に迫る危険を如何に説いても、綱手は血液への恐怖から忍びに戻ることを拒否した――逃げていたのである。自分の大切な人がまた殺されてしまうかもしれないという恐怖から。
 その時、頬に感じた衝撃は。間違いなく自来也の拳であった。

「お前の人生は……ダンと、縄樹だけなのかっ!」
「――っ!? 自来也、何を……!」
「あの二人がいなくなった途端、お前の人生はどうでもよくなってしまうのか!? 病払いの蛞蝓姫はどこに行った! お前なら払える病がもっと沢山あるはずだろう! 忍びならば近しい者が死ぬのを覚悟するのは当然――それを二人殺された為に忍びをやめ目的もなく放浪し、人生を無駄にしてどうする!! 前途有望な忍びが木ノ葉で忍者廃業になるほどの大怪我を負っており、大蛇丸は木ノ葉崩しを目論み、ジャシンという怪しげな男が暁の存在を告げてきた。今木ノ葉は危機に陥っている」

 激しい口調にたじろぐ綱手に詰め寄り、自来也は言った。

「――木ノ葉の里にはお前が必要だ! そしてお前の人生は、決してダンと縄樹だけだけではない!」

 自来也が身を翻して去っていく。「インテリエロ助」と呼んでいたあの頃の自来也には決してなかった「もの」を、自来也はもう既に持っていた。彼は既に一人前の忍びなのだ。
 でも、自分は?
 綱手は打たれた頬に手を添える。心配そうな声をかけてくるシズネに、綱手は不意に思い知った。
 綱手の人生は決してダンと縄樹だけではない。綱手には自来也もシズネも、口寄せ動物のカツユもいる。今ではS級犯罪者と成り果てた大蛇丸さえ綱手の人生の一部だ。
 綱手の人生は綱手の人生であり、そしてそれを有意義に過ごすも無駄にするもすべて綱手が決めるのであって、ダンと縄樹の死が決めるものではない。
 そして綱手は決めた。木ノ葉に戻ろうと。
 綱手の人生を決めるのは、綱手だ。 
 

 
後書き
随分早く木ノ葉に戻ってきた綱手。ナルトとネジはこれからじっくり語り合う予定です。 
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