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とある緋弾のソードアート・ライブ

作者:常盤赤色
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第四話「ウェスト・ランド」

11月3日 PM1:54


 ファミレスことファミリーレストランは、家族連れに対応した業態ともされ、その料理の幅は老若男女に添ったものが提供される。
 また、多くの客に同時進行で食事が供されるように、広い店内が特徴的であり、料理の価格帯は概ね大衆的で、質と量共に低価格で満腹感が得られる傾向が強いものとなっている。
 もちろん学園都市にもファミレスは多数ある。しかし学園都市のファミレスに家族連れの客は少ない傾向にある。学園都市の殆どの生徒が寮での一人暮らしだからだ。そのため、学園都市のファミレスに訪れる家族連れと言えば大体が兄弟、もしくは姉妹ということになる。
 むしろ学園都市のファミレスは生徒が級友と共に駄弁るためにある、と言っても加減ではないだろう。大体の生徒たちは奨学金がそこまで無い故、単価の安いファーストフード店かファミレスで外食を取るからである。
 その辺は仕送りや、依頼解決での報酬などで金銭面が安定しない生徒が多い武偵校でも、事情は似ているだろう。
 かたや修正の使用がない人格破綻者のレベル5が入り浸り、かたや拳銃刀剣を所持した武偵校生が入り浸ったりと、ファミレス業界もかなり厳しいものがあるのであろう。……たぶん。

「っていうかあなたって、ファミレス来てもコーヒーしか飲まないよね。ってミサカはミサカはあなたのあまりのコーヒー好きに呆れてみたり」

 第七学区の駅周辺のファミレス。常盤台の超電磁砲や、「アイテム」のメンバーが利用するこの場所で、一方通行、打ち止め、番外個体の3人は少し遅めの昼食を取っていた。

 いつも通り──というか飲み物といえばコーヒー以外を頼んだ姿が見たことがない一方通行に呆れているのは、その正面でお子様ランチ(おもちゃ付き)のエビフライを口に加えた少女、打ち止めである。

「確かにね~。こんだけコーヒー飲んでるといつの間にか体が黒くなったりしないのかな~。なんて」

 その隣でカルボナーラを口にしている打ち止めと同じ顔をした高校生くらいの少女、番外個体も同じように呆れた。彼女の場合、からかいの意味が大きいだろうが。

「別に俺が何飲もうと食べようと俺の勝手だろうがよォ……ったく」

 そして連れ2人に呆れられながらもそれを咎めないこの少年が、学園都市に7人しかいないレベル5の第一位、学園都市能力開発の頂点に立つ男──一方通行(アクセラレータ)である。

 灰色や白に近い配色の髪色。赤い瞳。中性的な体格と、能力者が多い学園都市の中でも目を引く容姿をしているが、一番に目を引くのはそこでは無かった。


──眼。


 まるで獣の様な獰猛かつ鋭い眼。その細く頼りない身体つきや右側に置いてある杖とは対象的な眼光を彼は放っていた。
 それもそのはず。彼が今まで体験して来た出来事は──少なくとも平凡な人生の中では──想像もつかないほど、残虐で、悪意的で、救い様のないものばかりである。常人ならばまず発狂間違いなし、の。

 「学園都市第一位」。その名は同時に、学園都市の闇に最も近い能力者であることも意味していた。

「それによォ。好き嫌いのことでおめェらにとやかく言われたくねェンだが」
「うっ……ってミサカはミサカは思わぬ反撃に出た一方通行にうめき声を出してみる…」

 言葉を詰まらせる打ち止め。

 彼女は他の妹達に比べ、全体的に精神年齢が傾向にある。

 元々打ち止めは妹達の反乱防止装置として作られたため研究員たちが掌握しやすいようにわざと身体も精神も幼くして作られているのだ。
 子供というのは周囲の影響を受けやすい。他の妹達に比べて彼女の感情が豊富なのや個性があるのはその理由があるからだろう。
 その為、打ち止めも段々と「好き」「嫌い」の区別ができてきたのである。

「ちょっとちょっと。ミサカの場合のはこの子の性なんだからしょうがないじゃん。一緒にしないでよね」

 苦笑いする打ち止めとは対照的に余裕がありそうな顔を見せる番外個体。
 番外個体はミサカネットワークの一部、悪意的な思考や感情を強く抽出する特徴がある。それは勿論、食べ物に対しての「嫌い」という感情も取り出してしまうということだ。

 だから食事中の打ち止めの「食べたくない」という感情を強く受け取ってしまうというのだが……。

「オイ打ち止め。お前「トマト」って嫌いか?」
「(ビクッ)」
「?ううん。トマトは普通に食べられるよ。ってミサカはお子様ランチのミニトマトを口にして証拠を見せてみる」

 お子様ランチの、よくある飛行機型のプレートからミニトマトをフォークで刺し、そのまま口に入れる打ち止め。表情を見ても無理して食べているとは思えない。

「……」
「さっきオメェ、自分の好き嫌いが打ち止めの感情によるもンだって言ってたよなァ。じゃあオメェ、なんでトマト残してンの?」

 一方通行の指差した先。そこにはカルボナーラについてきたサラダ、その皿に一つだけ残っているトマトがあった。

「そ、それはアレよ。今、昼ご飯とか晩ご飯食べている妹達がいて、その感情が私に来てるんじゃ無いの?妹達なんて1万人以上いるんだし、不思議じゃ……」
「──確かに今ご飯を食べている妹達はいるよ。けど、今、ご飯を食べてる妹達の中でトマトが嫌いな子は1人もいないよ。ってミサカはミサカはネットワークを通じて得た情報を一方通行にリークしてみたり」
「げっ!打ち止め!?」
「いつもからかっているお返しだよ。ってミサカはミサカは心の中でほくそ笑んだり」
「声に出てるぞ。ま、なンにせよお前のトマト嫌いが発覚したわけだなァ(ニヤァ)」
「(こ、こいつら楽しんでやがる……)」

 これが因果応報というやつか。普段から2人の体格や性格をからかっている番外個体への、2人からの細やかな復讐というわけだろう。

 いっそトマトが嫌いなことを認めてしまうか。いや。それでは今日の夕食には強制的にトマトが出てくることになる。そしてあの熱血教師黄泉川のことだ。番外個体のトマト嫌いが発覚すればどうやっても治そうとするに違いない。トマトを食べればいいと言われたらそれまでだが、それが出来たら今頃苦労はしていないだろう──。
 どうやってこの窮地を抜け出すか。番外個体がこの問題を解決するために頭をフル回転させていた時だった。

「ン……」

 一瞬、何かに反応した一方通行はポケットから携帯電話を取り出す。どうやら誰からか電話が来た様だ。

「……電話だ。すぐ戻る」

 不意に杖を取り席を立ち上がる一方通行。そのまま足を引き摺りながらトイレへと向かう。
 何にせよ助かった、と心の中で安堵した番外個体と、滅多に出来ない番外個体いじりを邪魔され少しだけ不機嫌になった打ち止め。2人は全くの反対の心境を抱きながら、一方通行の背を見送ったのだった。













11月3日 PM1:06


「──ごちそうさまー。いやー美味しかったねー!」
「そうそう!特にこのパエリアなどは絶品だったぞ!な!シドー!」

 学園都市に来てからおおよそ1時間半。一行は、クラインがこの日のために学園都市在住のMMO内の友人にリサーチしていた第十四学区のレストランへと来ていた。
 第十四学区はその特性上、外国料理の専門店が多く、留学生だけではなく他の学区の学生達も利用しているのでいる。値段は普通のレストランよりは少し高めだが、それで現地と変わり無い食事を堪能できるのである。

「壷井さんありがとうございます。俺たちに店のこと提案してくれて」
「いやいや!イイってことよ」

 礼を言う士道に対し、何でもないという風に手を振るクライン。
 士道たちにしてみれば少しばかりの前調べしかしてない街で、こんなに美味しい店を紹介してして貰ったのだ。感謝するのは当たり前だ。

「クラインは見た目とは違って結構気が効くからな」
「おいそこ。一言余計だぞ」
「そういえば、貴方達って壷井さんのことを「クライン」とか、直葉さんのことを「リーファ」とか呼ぶけど……それって何なの?あだ名?」

 店員が下げやすいように食べ終えた皿を整理していた琴里は素朴な疑問を投げかける。
 確かにキリト達のグループは、他にも「キリト」や「リズベット」、「シリカ」とお互い呼び合っていた。結城だけは下の名前で「明日奈」というのは分かるが、他のメンバーのあだ名は本名とはとても関係するとは思えないものばかりだ。
 そう気になったのは士道だけではないらしく、十香達もキリト達のグループに顔を向けていた。

「あ、それはですね……」
「私たち、VRMMOの中で知り合った中なのよ。それでリアルでもあだ名感覚で呼んじゃうことがあるってわけよ」

 リズベットの説明に士道は、成る程、と納得した。
 VRMMOは今や幅広い層のプレイヤーが存在するオンラインゲームである。士道は似たようなものにあまりいい記憶があるからしたがこと無いが、ゲームの中からリアルでの付き合いを持つ人達も出てきてもおかしくはない。

「ああ、成る程……それでつい、ってわけですか」
「そういうこと」

 他の皆もそれぞれが納得したような顔を取っていた。
 人の呼び名というものは一度定着すると中々変えられないものだ。それはリアルでもバーチャルでも同じなのだろう。

「──?シン、どうした?私の顔に何かついているのか」
「あ、いや。何でもないです」

 慌てて手を振る士道。
 
「そう言えば琴里さん達はこれから何処に行くんですか?私達は第六学区のショッピングセンターに向かう予定なんですけど」
「ん。私達?私達も第六学区に向かうつもりよ。行くのは遊園地だけど」

 リーファの言葉にそう答えると琴里は、バッグの中から、ラタトスクが事前に手に入れてた学園都市の遊園地のパンフレットを取り出した。
 ラタトスクが調べた学園都市の観光名所の中で、一番精霊達に好評だったのが、この遊園地。学園都市の科学力でしか実現しなさそうな、他の遊園地には無いアトラクションの数々が、精霊たちの興味を引いたのだ。

「へー。改めて見ると色々と面白そうなアトラクションがあるわねー」
「今日は行けないけど……どうせ一週間いるんだしな。他の日に行ってみるか」

 どうやら琴里が見せたパンフレットにキリト達も興味を持ったらしい。パンフレットには学園都市にしか無さそうなアトラクションの写真や説明が大きく掲載されていた。どうやら学園都市の外部からの観光客向けに制作されたものらしい。













11月3日 PM2時32分



 第六学区にある学園都市内唯一の遊園地「ウィスト・ランド」は面積49万平方メートル、国内から見ても最大級の面積を誇る遊園地である。

 出来たのは2年前と最近で、開園当時から学生が多い学園都市にあること、学園都市の技術力を用いた最先端のアトラクションが外部の人間の興味も引いたこと、そして学園都市の学生ならば年齢問わず年に1度訪れれば無料で年間パスポートを手に入れられその後一年間の入場料は0となるという破格のシステムが人を呼んだ。

 それにより集客数はこの2年前で既に670万人、つまり単純計算で年に学園都市人口の8割が年に2回、この遊園地に来るのである。

 これは千葉県にある毎年2700万人近くいう桁外れな集客力の遊園地に負けず劣らずの数字である。

 ちなみに園内のスタッフの多くはこの遊園地を運営している学園都市の企業の特別な審査を受けた、外部の遊園地などでスタッフを勤めていたプロばかりである。一部のショーなど能力者が必要なアトラクションは園内に訪れた際の飲食の半額などのアルバイト割引などで学生アルバイトを雇用している。

 収入は同じ規模の遊園地に比べれば立地的な問題もあり低いが、学園都市の技術力や能力者を使うことでアトラクションやショー、着ぐるみなどに掛かる全体の管理費などのコストを、外部の遊園地の5分の1以下に抑えられることで収入は大きく支出を上回っている。来年には新たなアトラクションの建設を2つ計画するなどの余裕もあるくらいだ。
 園内は5つのエリアと1つのアトラクションに分割されており、それぞれのエリアには設定されたそのエリアのテーマを元に作られたアトラクションが集まっている。

 園内に入ればまず通る、グッズを扱うショップやレストランが立ち並ぶ商店街「ミーン・ストリート」。

 海や水のアトラクションを扱い、水流操作系の能力者と学園都市の技術によるダイナミックなショーが目玉の「シー・ベンチャー・ランド」。

 地下合わせて全高100メートルの巨大な洋館の中に、ウォークスルーからシアター、洋風、和風など数々の趣旨のお化け屋敷が詰まったホラーエリア「ホラー・ロンサム・マンション」。

 カヌーやジャングルクルーズなど自然をテーマとして扱ったアトラクション、動物との触れ合いを楽しめるアトラクションもある、高さ300メートルの人口山のエリア「ジャンク・マウンテン」。

 学園都市の最新技術をふんだんに使い、更なる未来の学園都市をモチーフにした「トゥモロー・アカデミック・タウン」。

 そして、この遊園地のシンボルである「ライト・ビューティ・キャッスル」。

 以上の5つのエリアと1つのアトラクションからなる「ウィスト・ランド」。そのメインエントランスにあるチケットブースには連休中とはいえ初日の午後だというのにそれなりの列が出来上がっていた。
 同時刻、キリトたちと別れた士道たち一行は遊園地の目の前に止まったバスを降車する。

「ここが「ウィスト・ランド」か……」
「へぇ〜。思ってたのよりしっかりした遊園地ね」 
『楽しそうな場所だね。ワクワクしてるよ、四糸乃』
「私もです。よしのん」

 「Welcome the Wist Land」の文字が書かれた門を通りながら遊園地の中へと入る一行。ここから先は遊園地という、他とは全く違う世界である。思う存分楽しまなくては。

「あれが入り口か……みんなチケットを配るぞ」
「むむ、これが楽園への招待状か……大事にせねばな」

 令音が配ったチケットをそれぞれ受け取ると一行はメインエントランス前に出来たちょっとした列に並ぶ。

 このチケットはラタトスクが事前に購入していたパークチケットで、これを使えばチケットブースに並ぶことなく園内へと入場することができる。ちなみにこの遊園地、事前のチケット購入は出来ないはずだがそこはあのラタトスクだ。あの手この手を使って、最悪脅しでもしてでもこのチケットを手に入れたのであろうことが士道の頭には容易に浮かんだ。

 メインエントランスにいるスタッフにチケットを提示し、ターンスタイルのゲートを抜けていく一行。その先はまさに外とは別の空間となっていた。
 
「へぇ〜。遊園地ってのは聞いたことあるけど、こんな感じなのね」

 メインエントランスを抜けると道はそのまま桟橋に繋がっており池を超えると正式に園内、という形になっているらしい。

 顔を上げると真正面には「ライト・ビューティー・キャッスル」がそびえ立ちその美しいは城は、ここから先は別の世界であることを来園者たちに感じさせるに十分だった。

「そういえば七罪は遊園地に来るの始めてだったっけ?」

 十香や四糸乃、八舞姉妹は夏休みに1度士道と共に千葉にある遊園地に訪れているし、精霊達の中では唯一、七罪だけが遊園地に来たことがないのだったことを思い出す。

七罪「そうね。どんなところかは何回か聞いたことがあるけど、実際に来てみるのは始めてだわ。ま、面白いかどうかは分かんないけどね」

「色々なアトラクションがありますから、七罪さんも楽しめますよー」

 桟橋を渡り切ると一本道となる。脇にはショップが立ち並び、この遊園地のマスコットの人形や様々なグッズがショーウィンドウに飾られていた。それらの飾り物を見ながら、一行は夢の国を進んでいく。

「む。あれのカエルはなんだ?」

 「ミーン・ストリート」を半分ほど進んだところで写真撮影をしているカエルのマスコットを見つけた十香。デフォルメされたヒゲのついたカエルはやってきたカップルとピースをしながら写真を撮られていた。

「回答。どうやらこの遊園地を運営している会社のマスコットで、「ゲコ太」というキャラクターみたいですね」
「ほほぅ、中々可愛げのあるキャラクターだな」

 メインエントランスで貰ったパンフレットを開く夕弦。そこにはマスコットの簡単な紹介も写真付きで掲載してあった。この遊園地の管理・維持を行っている会社のマスコットらしく、他にはケロヨン、ピョン子という名の、同系統のマスコットも園内にはいるらしい。

「へぇ……シドー!写真を撮るぞ!四糸乃や琴里達も来い!」

 見るとちょうどカエルのキャラクター「ゲコ太」が写真を撮っていたカップルがいなくなり手が空いたところで、耶倶矢と夕弦がすぐ様その次の写真撮影の順番を獲得していた。

「もぉ……仕方ないわね」

 琴里も仕方なさそうにマスコットに近づいて行く。しかしその目が「ゲコ太」に釘付けになっていることには士道すら気がつきはしなかった。

「あちゃースタッフいないな…」
「ん、仕方ない。私が撮ろう」
『えー。令音さんも一緒に撮ろうよー』

 よしのんが言うように本当なら令音も一緒に撮るべきなのだが、タイミングが悪く先ほどまでいたスタッフがいなくなってしまっていた。本来なら写真を撮るべきはずのスタッフがいないのであれば誰かが抜けて写真を撮るしか方法は無い。

「仕方ないだろう。また後で別の場所で一緒に……」
「──あの」

 その時、令音に話しかけて来たのは先ほどマスコットと写真を撮っていたカップルらしき2人の男女の、ボサボサの茶髪にジャージとジーパンというデートという状況にはとてもそぐわないラフな格好をした男性の方だった。

「?」
「良かったら俺が代わりに撮りましょうか?」
「いいんですか?」

 彼は恐らくデート中である。士道が言った「いいんですか?」はもちろん代わりに写真を撮ってもらっていいのかという意味もあるがデート相手の女性を待たせてもいいのか、という意味が強い。
 男性も先ほど2人で写真を撮ってるところを士道たちが見ていたことを知ってたからか、その真意を感じ取ったらしい。

「ああ、大丈夫っすよ。連れの方も写真を撮るの変わってあげなよ、って言ってましたし」

 どうやら彼女も承諾しての行動らしい。そうなればこちらも遠慮なくその好意に甘えさせてもらおう。

「なら、頼む。すまないな」
「いやいや。これがシャッターであってますよね」
「ああ」

 男性にデジカメを渡すと、既にマスコットの回りにスタンバっていた十香たちの中に士道や令音も加わる。マスコットを加えて10人とだいぶ大所帯だが、なんとかカメラに収まることはできたらしい。

「ハイ、チーズ!」

 男性の掛け声と共にデジカメのシャッター音が「ミーン・ストリート」に響いた。










 無事に写真撮影を終えた士道たちは写真を撮ってくれた男性にお礼を言い、その場を離れた。

 行きのバスの中で行くエリアやアトラクションについて話し合ったが、とりあえず明日もこの遊園地には訪れる予定なので、今日は夜のパレードまでこの遊園地を楽しむことになっている。

 時間も考えて、明日行われる3つの大きなショーのうちの一つの下見、そして比較的アトラクションが他のエリアより少なくこの時間からでもエリア全部のアトラクションを乗れそうな「シー・ベンチャー・ランド」に向かうことに決定していた。

 一行は「ミーン・ストリート」を抜けるとそこから西側の2つのエリアへと繋がる橋を渡り、そこから目的のエリアに入る。

 途中、大航海時代をモデルにしたアトラクションが密集した街「パイレーツ・ボヤージュ」にて行われていたハロウィンを記念したエリアごとのコスプレのイベントに食いついた耶倶矢と夕弦が、借り物の海賊服のコスプレを見せた時は2人の容姿の良さとノリの良さが合間って、まるでマスコットとの記念撮影のように列ができてしまい大変なことになったりしたが、なんとか無事に「シー・ベンチャー・ランド」に一行は到着。

 到着した後は水中を透明なチューブで巡るジェットコースター「スケルトンパイプ」や、乗り込んだボール型のライドが水流によって打ち上げられる「ハイドロポンプ・ジェット」などのアトラクションに乗り、始めてアトラクション乗る七罪や絶叫系が苦手な四糸乃、琴里の悲鳴、そして十香や八舞姉妹、士道の叫び声が何回も「シー・ベンチャー・ランド」に響き渡った。


11月3日 5:28
           「ウィスト・ランド」

「──ん。あそこ、これからショーやるのかな」

 「シー・ベンチャー・ランド」と遊園地の中央にある広場「キングダム・プラザ」のちょうどエリア同士が密接した場所にいた一行はそこで人だかりが出来ている簡易ステージを見つけていた。

 「キングダム・プラザ」の中央に設置されたそのステージの周りには少数だが徐々に人だかりが形成されていき始めており、これから、何かあそこで始まるという雰囲気が醸し出されていた。

令音「……どうやら6時からあそこで仮装大会を行われるらしいな」

 手持ちのパンフレットに載ったイベント表を見ながら士道たちの疑問を解く令音。

 令音の説明では、「なんらかの仮装さえしていれば」誰でも参加が出来るイベントらしく、来場客の飛び込み参加だけでは無く、イベント中のスカウトマンによる観客の指名参加という物もある、いわゆる参加型のショーらしい。

 ハロウィン期間限定のイベントで、参加者にはプレゼントもあるという。現にステージの周りには様々な格好をした来場客たちがスタッフに話しかけ、ショー参加のために案内されていた。

 それを聞き反応を示した2人がいた。耶倶矢と夕弦だ。

耶倶矢「ほう──我らが海賊皇帝の姫姉妹(パイレーツキング・オブ・プリンセスシスターズ)の参加を許すとはな……愚かな」

夕弦「同意。コスプレでの成り切り勝負は、第八七試合で経験済み。夕弦と耶倶矢の実力は間違いなしです」

七罪「えっ、参加するつもりなの?」

 独特なポーズで意気揚々と参加する旨を述べる八舞姉妹に驚く七罪。元の性格が引っ込み思案な彼女にはとてもでは無いが好き好んであのような人の目を引くイベントに参加するのか理解出来なかった。

琴里「……やる気をくじくようでごめんだけどこのイベント、優勝は無いわよ」

八舞姉妹「「えっ」」

 が、琴里が次に放った言葉に出鼻を挫かれる2人。士道がパンフレットを覗くと、確かにこのイベント。参加してコスプレを見せるだけで大会では無いようだ。

よしのん『午前中に大会型式のイベントはあったみたいだね。しかもこっちは上位10名は午後のパレードに出れるんだって』

耶倶矢「なん……だと……」

夕弦「落胆。そちらに出れば良かったです……」

 更によしのんの言葉で目に見えるように落ち込む2人。士道はそれを見ながら苦笑しながら宥める。



士道「午前中のイベントなら仕方ないよ。どうせ明日も来るんだし、その時参加すればいいじゃないか」

耶倶矢「それもそうだな。見ておれ……明日の舞台は我ら八舞が掌握するのだ」

夕弦「肯定。夕弦と耶倶矢に死角などは存在しません」

 どうやら無事に気を取り直してくれたらしい。……この2人、ノリがいいんだか、騙されやすいんだかたまにわからなくなるが。

 そうして一行がもう一度移動を開始しようとした時だった。

美九「…………あれ?」

 美九がある一方を見て静止する。

士道「?どうした?美九」

 あらぬ方向を見て動きを止めて美九を不思議に思い話かける士道。その声に気づいた美九はすこし悩んだ素振りを少し見せ、直後になんでもないように笑いかけてきた。

美九「いえ……なんでもありません」

士道「?ならいいけど……」

 なんでもなさそうに笑いかける美九を不思議に思いながら、士道は再び歩き出そうとする。

「──あのー。ちょっと君いい?」






第四話「ウィストランド」 完
 
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