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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第十九話 風紀委員その七

「わかっているな」
「はい、よく」
「そういうことだ、では今日から頼む」
 先輩は僕に対してこう言ってだった、そして。
 先輩は僕の前を後にした、その凛とした後ろ姿が小さくなっていくのを見届けてだ。
 廊下の右手の階段のところに入って見えなくなったところまで見てからだ、僕は今も一緒にいる宮下君に言った。
「ううん、何かね」
「思いも寄らなかったよね」
「まさか風紀委員長さんがね」
 八条荘に入るなんてことはだった。
「考えもしていなかったよ」
「そうだよね、けれどね」
「それでもだよね」
「入居することになるんだったらね」
 それならだった。
「僕は迎えるだけだよ」
「凄いね、その考え」
 宮下君はここで僕を驚いた顔で見てこう言って来た。
「あの部長さんが来るんだよ」
「僕が管理人しているアパートにだね」
「本当に真面目で厳しい人なのに」
「それはわかるよ、初対面だけれどね」
 ひしひしとだ、本当によくわかった。
 けれどそれでもだ、入居されるのならだ。
「犯罪者でもない限り大歓迎だから」
「君のアパートは」
「うん、だからね」
「物凄く言われるよ」
「いや、それでもね」
 そうしたことが予想されてもだった、僕は。
「いいよ」
「大物だね」
「いや、騒いでも仕方ないから」
「だから?」
「それはさ、親父が戻って来るとかなら別だけれど」
 あの最悪のお騒がせ人物のことを思えばだった、どんなに厳しくて口煩い人がアパートに入って来てもだ。
「井上さんならいいよ」
「ああ、あの親父さんのことを思うと」
「全然平気だよ」
「そこまで凄いんだね、親父さんって」
「うん、何度も話してるけれどね」
 まだ話足りない、本当に女好きで酒好きで浪費家で。どれだけ揉めごとを起こしてきたかわからない親父だからこそ。
「凄いから」
「それでなんだ」
「誰でも大丈夫だよ」
「そう思える様になったことが凄いけれどね」
「じゃあ僕を何事にも動じない人にしたのは?」
「親父さんじゃないかな。大家君のね」
 そのお騒がせ人物の親父だというのだ。
「やっぱり」
「そうなるのかな」
「なるよ、絶対にね」
「ううん、そう言われるとね」
 僕は腕を組んで宮下君に応えた。
「そうなるかな」
「そうだよ、絶対にね」
「そういえば家でそんなのだったから」
 それこそ毎日だ、親父の引き起こす騒動と付き合わされてきた、そのせいで学校で何が起こってもこれ位ならと思えていた。
「学校でのことはね」
「平気なんだ」
「大抵のことはね」
 そうだとだ、僕は宮下君に答えた。
「何とも思わないし」
「普通に対応出来るんだね」
「ううん、そうしたことを考えたら」
「あの親父さんも?」
「いい親父なのかな」
 またこう思った、不思議なことに。 
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