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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―

作者:鳩麦
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第一章
  二話 高町家の現在(いま)

17:30 高町家

この時間帯になって、クラナは帰宅した。

普段はもう少し遅いのだが、今日に限っては夕飯が早く、学校も早めに上がったため早い。

「……ただいま」
呟くように家に入る。数時間前に家に帰ってきた彼の妹とはえらいテンションの差だが、まあツッコむのも野暮と言うものだ。

「あ、お兄ちゃん……おかえりー!」
「クラナおかえり」「おかえり。クラナ」
「……?」
クラナは内心で首を傾げる。普段は二人である筈のやたら賑やかな「おかえり」が今日は三つだったからだ。しかし、その少し物静かな声の正体は彼の脳内Go●gle検索一秒もかからず結論が出た。知り合いだ。

「……フェイトさん」
「うん。久しぶり、クラナ」
「……どうも」
長い金髪を腰下まで流して先端部で一つ結びに縛り、エプロンを着た隣に居たなのはと同じ位の年齢の女性。

フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
時空管理局に置いて空戦魔導師兼執務官のポストに付き、執務官としては次元世界内を飛び回ってあらゆる事件に置いて捜査を行い、空戦魔導師としては母、なのはと同じく歴戦のエースとして空を駆ける。
名実ともにエリート魔導師である。

クラナや、ヴィヴィオにとっては彼等がなのはの養子となる際に後見人を勤めた人物で、かつヴィヴィオに至っては、幼少の頃、二人を同時に母親と思っていた名残から「なのはママ」「フェイトママ」と呼ぶ、彼女の二人の母親の一人である。

ちなみに言っておくが、ヴィヴィオは断じてなのはとフェイト、この二人の間に生まれた子供ではない。彼女等はいずれも女性なのだから当然だが、あえて言っておく。
キマシタワーとか言いたくなるのは分からないでも無いが、断じて言ってはならない。

閑話休題(それはともかく)

「…………」
エプロン姿のフェイトとなのはにぺこりと頭を下げた後、クラナは二階へ上がろうと足を進める。その背中に、フェイトの声が掛かる。

「もう少しで晩ご飯出来るから、着替えて降りておいで?」
「……はい」
殆ど聞こえるか聞こえないかギリギリの音量で放たれた返事だったが、フェイトにはしっかり聞こえたらしく、微笑んでそのまま彼を見送る。対し半ば避けるように視線を逸らされた母親ことなのはと、完全に無視された妹ことヴィヴィオは、少し落ち込んだように俯き、息を付いた。

「「はぁ……」」
まるで同じ動きで同じように息を吐くなのはとヴィヴィオを見ながら、フェイトは困ったように、しかし二人の仲の良さを微笑ましく思いつつ苦笑するのだった。

――――

「……ごちそうさまでした」
なのはやフェイト、ヴィヴィオの賑やかな食事のすぐ横で、終始(時折母二人がアプローチした時のみ短く返答する)無言で食事をこなしていたクラナが一言呟き、皿を纏めると席を立つ。

「あ、クラナ!」
流し台にそれを入れて、静かにその場を立ち去ろうとした彼を、なのはの声が呼び止めた。

「今日、ヴィヴィオの、来たけど……見て行かない?」
なのはの問いの意味は恐らく話題の中心であるヴィヴィオ本人には「?」な物だったが、二人の間では通じるらしく、クラナは即座に首を横にふる」

「……いえ、結構です」
「そっ、か……じ、じゃあ、おいしかった?」
趣旨の繋がらない問いに、クラナは一瞬眉をひそめたが、特に何も言わず答える。

「美味しかったです。御馳走様でした」
「あ……」
そう言ってぺこりと一つ頭を下げると、クラナは二階への階段を上って行った。

「……はぁ」
なのはは又しても深めの溜め息を付く。フェイトが心配そうにその顔を覗き込んだ。

「えっと……やっぱり、相変わらず?」
「うん……」
訪ねたフェイトに、なのはは如何にも落ち込んでいますと言った様子だ。それはヴィヴィオも同様で、食べる手が止まってしまっている。

「声掛ければ返事はしてくれるし、頼めば家事もしてくれるんだけど……」
やっぱり、避けられてるみたい。と、なのは困ったように「にゃはは……」と笑う。その表情は悲しげで、それをごまかそうとしているように笑う彼女の姿は、フェイトにとっては心の痛む表情だった。

――――

こうなってしまうと最早言う意味があるか事態謎だが、なのはとフェイト。この二人の保護者とも、クラナはあまり関係が思わしくない。

先ず事実上の母親であるなのはに、クラナは殆ど関わろうとしない。基本的に自分から話し掛ける事はなく、顔を合わせるのも食事や帰宅の時程度。自分の事は殆ど自分でやってしまうため、なのはの方から構う事も殆ど出来ない。
彼女の方から声を掛けなければ、一日の親子の会話は「おはよう」「いただきます」「ごちそうさまでした」「行って来ます」「おやすみなさい」の五つで終了する……失礼。訂正する。コレはもはや会話ですら無い。挨拶で終わりだ。

ちなみにフェイトの方はと言うと……まだましだ。少なくとも家に来ていれば挨拶くらいは飛んでくるし、稀にだが……なんと会話のキャッチボールが三往復する。これは高町家の中では結構な記録だ。少なくとも一問一答以上に行かない母親Aや、返事すら返って来ない妹よりはましである。

「ヴィヴィオも……やっぱり、相変わらずかな……?」
「……うん」
フェイトが問うと、ヴィヴィオもまた、母親に近い悲しげな表情で俯く。二人の間に血縁的なつながりは無いはずだが、どういう訳か時折二人の間には似通った所が表れる事があった。やはり親子なのかなと、こんな話の中でも微笑ましさを感じてしまう。
そんな事を思って居ると、ヴィヴィオがパッと顔を上げた。

「でも、大丈夫!今は嫌われちゃってるけど……やっぱり私のお兄ちゃんだもん。私は、仲良くしたいから!」
「そっか」
笑顔で、そう言い切ったヴィヴィオに、フェイトは微笑む。隣にいたなのはもまた、その声に勇気付けられるように嬉しそうに娘を見た。

「そうだね……」
その愛娘を見る瞳はどこか眩しそうで、けれどもその胸中を少しだけ察して、悲しさが混じる。
彼女も、もう10歳。同年代の子供達と比べでも聡明なこの娘は、きっと既にクラナの態度の意味に……彼が彼女を、嫌い、恨んでいる事の意味に、気付き始めているだろう。おそらくだが、徐々に苦手意識も生まれ始めている筈だ。本当の意味でヴィヴィオがクラナを苦手に、最悪嫌いになってしまったらその関係を改善する事は困難だ。しかし……

『どうしたら……』この四年間をクラナと共に過ごして来た。その中でも、解決策は未だに見つからない。
何故クラナがヴィヴィオを嫌い、なのはを避けるのか……分かってはいる。しかしその原因にどう向かい合えば良いのか、クラナにどう踏み込むのが正しいのか……あるいはそもそも踏み込むべきではないのか。なのはもフェイトもあるいは彼女等の周囲の友人、仲間達も、誰一人としてその問いに答えが出せずに居る。
結局の所、堂々巡り。何時も考えては、答えを出せずに、話は自然消滅してしまう。
問題がデリケートで有るからこそ、下手にクラナの心に踏み込めば取り返しの付かない事態になってしまいねない。いや。あるいは取り返しの付かない事態を彼は起こしかねない。そう自分に言い聞かせて……言い訳をして、なのはは問題を先送りにする。
きっといつか、やがて、いずれ、楽観的だと感じつつも、クラナを信じる事を自らの中で決めているフェイトは、踏み込みすぎる事をしない。長期戦の構えで、じっくりと機会を伺う。

「あ、そだ、ヴィヴィオにお知らせがあるんだった……」
「へ……?」
思い出したようになのはがそう言うと、彼女はフェイトにウィンクをして、彼女達二人の娘へのサプライズの話が始まる。数分後にはまた元の明るい三人が戻って居ることだろう。

二人の母の行動は、一見すると同一だが、しかして互いの奥に眠る根幹となる意志はほぼ逆の物で有ると言えた。
どんな家庭にも、問題の一つや二つは有るように、高町家に取ってはクラナが、そんな問題の一つと言えた。

――――

『相棒、偶にはまともに受け答えしたら如何ですか?』
クラナにアルの念話が届くが、クラナはそれをスルーして階段を上る。

『相棒〜』
『……あぁ、もう分かったよ。アルが言いたい事はよーく分かった』
『なら実行に移して下さいよ』
『分かるのと実行するのは別。却下』
『相棒〜』
呆れたような、訴えるような声の念話が届くが、クラナは「あー、あー、聞こえなーい」と知らん振りをする。

『どうしてそう、頑ななんですか』
『……いいだろう?もう……』
ポケットから取り出したペンライト……アルを机の上に起き、すぐ横のパイプベッドにクラナは寝転がる。ペンライトには背を向けて、だ。

『…………』
『…………』
お互いに黙り込むと、そのまま数分が過ぎる。と、暫くして、アルのライト部分がチカチカと瞬いた。

『相棒、相棒』
『うん?』
念話に反応して、思わず同じように念話で返す。アルはそのまま続ける。

『下で何やら始まるようですよ?魔力反応が増えましたが……』
『何やらって……あぁ、そっか。そう言えば届いたんだっけ』
念話上ながら、納得したようなクラナの声にアルは疑問の声を返す。それに対してさしたる事も無さそうにクラナは言った。

『マイデバイス、届いたって言ってたじゃんさっき』
『あ、あれはヴィヴィオさんのデバイスの事でしたか』
『うん。となると家族全員デバイス持ち、か』
『賑やかになりますね!私も挨拶してきたいのですが……』
アルの申し出に対して、クラナは少しだけ考える。

『んー……、後でね。多分テスト兼ねて公園かどっか行くはずだし』
『ですか……あ、魔力反応上がってます!マスター登録が始まりますよ相棒!』
『ふーん……』
素っ気ない返事だったが、クラナは動いた。カーテンをほんの少しだけ開いて、アルに『光っちゃだめだぞ』と小さく告げて外を覗く。

庭には二羽ニワトリが……ゴホン。
庭には金髪の少女……言うまでもなくヴィヴィオだが、彼女が立ち、魔法陣の上で何事かを呟いている。恐らくはマスター登録に必要な、氏名、術式型(タイプ)。そしてデバイスの愛称(マスコットネーム)と正式名称で構成される固有名称を述べているのだろう。
特に知りたかった訳でも無いのだが、クラナはヴィヴィオが登録するであろうデバイスの名称を知っていたりする。
と言うのも、以前ヴィヴィオが答える訳も無いのにクラナに意見を求めて来た事が有ったのだ。

――――

『どれが良いと思う!?』
『…………』
まだ持つかどうかも分からない幾つものデバイスの名前候補がつらつらと書かれたテキストデータをホロウィンドウに載せて見せられた時は、軽く呆れてしまったものだ。そしてくしくも、彼女のデバイス名を決めたのは半分クラナであったりする。

『…………』
『?どれ?これ?』
答えを返すつもりも無い癖に、反射的にクラナはその名簿じみたリストをざっと眺めてしまったその中に……

『……』
『っ!コレッ!?』
反射的に、クラナが目を止めてしまう名前があった。その瞳が止まったのを目ざとく見つけたヴィヴィオが、的確に其処を指差す。そして其処で上手くごまかせば良い物を、反射的にクラナが目をそらしてしまったためヴィヴィオは質問を確信に変えてしまった。

『……』
『…………』
目を逸らしたままで、クラナとヴィヴィオは数秒固まった。そして、彼女はにぱっと笑うと……。

『私と同じだねっ!』
それを聞いて、クラナが頭を抱えたくなったのは仕方ないと言うものだろう。
何が悲しくてなるべく関わりたくない妹と同じ趣味の名前を選んでしまうのだ……

――――

「…………」
結局、ヴィヴィオはそのままその名前を自らのデバイスにつけることにしたらしい。聞いてもいないのに勝手に話していたので恐らく間違いない筈だ

そんな事を思っているウチに登録が完了したらしく彼女が自身のデバイス……“動く兔のぬいぐるみ”を手に取り、光に包まれる。
セットアップ。つまり、魔法戦モードへの変身だ。

「…………」
『おぉ!』
感嘆したようなアルの声を聞きながら、クラナはその光景を見ていた。光が収まると、そこに先程までのヴィヴィオの姿は無く、変わりにヴィヴィオと同じ質感の金色の髪を一つ結びにした16、7歳位の少女が立っていた。当たり前だが、勿論ヴィヴィオである。
彼女の基本戦闘用魔法である、変身による疑似身体成長。彼女達風に言うならば、《大人モード》である。

基本的に、魔法練習や彼女がよく練習している格闘技を使用する際に色々と都合が良い、と言う理由で考え出した魔法で、成程確かに生長後の間合いを図ったりするのには魔法練習に役立ち、また格闘技では重要性の高い手足の長さ……すなわちリーチも、元の十歳児であるヴィヴィオの身体と比べれば遥かに伸びている。都合が良いのは間違いあるまい。ちなみに、胸なども十歳ヴィヴィオと比較すると「いや、それインチキだろ」と突っ込みたくなるほど膨らんでいる。母親譲り……では無いはずだが……

?論点がズレている?……それもそうだ。話を戻そう。

さて、ちょくちょく見ていたクラナとしては見慣れた《大人モード》だが、見た目だけであればクラナのあまり見慣れぬ部分もあった。バリアジャケットだ。デバイスを使ったため当然ヴィヴィオはバリアジャケットを纏っているのだが、白を基調したそれは、クラナにとって見慣れて居るとはいえない……が、見覚えはあった。それは……

「…………!」
『あ、相棒?』
「……」
頭の芯がカッと熱くなるような感覚がしてクラナは奥歯を噛んだが、アルの声を聞いて正気にもどる。

『……ごめん、何でもない何でもない』
『相棒……』
そう言うとクラナはもう一度ヴィヴィオの姿を見る。セットアップの成功に飛び上がって喜ぶ彼女の表情は、その身体に不釣り合いな程幼く、その内面が変わらず十歳の少女である事を告げている。

「…………」
デバイスの名を、彼女はきっとクラナに聞くよりも前に半ば決めていたのだろうとクラナは予想していた。恐らく自分が図らずも、その背中に最後の一押しを与えてしまったのであろう事も。

……何故解るか?単純な話だ。
幾つも並んでいた名前の中で唯一その名前だけが、彼女が愛してやまない母の愛機……不屈の心(レイジング・ハート)の名を受け継いで居たからだ。

これからの人生、恐らくは永くヴィヴィオの相棒になるであろうその名は……聖なる心(セイクリッド・ハート)と言う。

カーテンを閉じて、クラナは再びベッドの上に寝転んだ。
 
 

 
後書き
「アルです!今回から何やら次回予告を担当させていただく運びとなりました!!」

「とりあえず自己紹介からでしょうか?え?必要ない?作中でやる?わ、わかりました……では、何を……え、もう文字制限ですか!?」

「で、では、次回、昔の話とか」

「ぜひ読んでくださいね!」



今回から、遊び心でこんなんつけますw
しんみりしたヒロインの集まりを書くのって結構難易度高いですね……

ではっ! 
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