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ボスとジョルノの幻想訪問記

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紅の十字架 その③

 ボスとジョルノの幻想訪問記 第26話

 紅の十字架③

 午前3時31分。

 ドッピオが目を閉じる直前に部屋に入ってきたのは、ジョルノと妹紅だった。二人の目には部屋の中央でドッピオが地面から10センチ程度浮いているように写っただろう。

「ドッピオ!!」

 ジョルノはすぐに彼の元へと近付いた。と、ドッピオが実は透明の何かの上に倒れているのが分かる。

「KOAAAAA!!」

「――――ッ!?」

 妹紅も扉を閉めてすぐに二人の元へ駆け寄った。

「ドッピオの拘束を解いて離れてろジョルノ・・・・・・。下にいる『何か』私が消滅させる」

 妹紅のジョルノは頷き、彼と下の何かを固定している両肘のナイフを抜いた。

「KOOOOOOAAAGHHHHHッッ!!!」

 同時に透明の何かが声を上げて立ち上がろうとするが――――。


「最後の言葉はそれでいいか? ――――蓬莱『凱風快晴 ーフジヤマヴォルケイノー』」


 妹紅のスペルカードによってそいつは何かを言い残すこともなく、一瞬で消し炭になった。

「・・・・・・妹紅ッ!! 終わったんならこっちに『血』をお願いしますッ!! 『ゴールドエクスペリエンス』!!」

 ジョルノはドッピオの首元を凝視する。そこからは絶えず血が噴水のようにこぼれ出ており、一刻の猶予もない状況だった。

 スタンドで糸切れを『血管』に変える。もちろん、ジョルノに破裂した血管を塞ぐ手術能力は無い。だが、ドッピオの頸動脈は空気中に出た状態で破裂しており、ジョルノはそれを掴んだ。

「破裂を縫合するのではなく! 新しい道を作る発想!」

 ジョルノは破裂した血管の辺りを『GE』で綺麗に切断し、すぐに新しい血管をそこに差し替える。だが、まだ不十分だ。そこで用いるのが――――。

「私の血だ! 蓬莱人の血は傷口に実によく馴染む!」

 妹紅は落ちていたナイフで指を切り裂き、ドッピオの傷口に馴染ませる。するとものの数秒で――――。

「・・・・・・塞がった」

 ドッピオの首の傷は塞がった。だが、大量に血を流しているせいで意識がない。

 その後、足首と両腕の肘の応急処置も完了し二人は息を着く。

「――――意識は失っていますが、おそらく大丈夫です。ですが早く輸血処置を行わないと後遺症が残る恐れがあります」

 ジョルノはそう言ったが一旦は安心である。妹紅が「そうか」と胸をなで下ろした時、ドアが開かれた。

「妹紅、ジョルノ!」

 入ってきたのは紅美鈴。彼女は少し前にレミリアから命令を受けてこの部屋にやってきた。

「美鈴さんじゃあないですか。普通に元気そうですね」

「あ、ありがとうございます。・・・・・・じゃなくて!」

 普段から気を遣っている美鈴は社交辞令をせずにはいられない性分らしい。律儀に礼をしてからノリ突っ込みをしている。

「違います、私はあなた方と茶菓子を食べながら世間話に興じに来たわけじゃあないです!」

 そんなことは現在の紅魔館の状況を見れば分かる、と妹紅は眉をしかめた。

「知ってるよ。で、何の用だ?」

 美鈴の答えはパチュリーを助けて欲しい、というものだった。うすうす気が付いてはいたが、ベッドの上にも二人ほど動かない人間がいた。

 一人は美鈴の言うパチュリー・ノーレッジ。そしてもう一人は十六夜咲夜である。

(・・・・・・ドッピオはこの二人を守るためにわざと敵ごと地面に自分を括りつけていたのか?)

 幻想郷に来てまだ日が浅いドッピオがそのような行動を取るとは思えなかった。だが咲夜への拙い応急処置を見るとドッピオの仕業に見えなくもなかった。

 それより、咲夜の右眼球が無いが・・・・・・一体ここで何があったのだろうか。

 そしてパチュリーの状態もよく見ればおかしい。ドッピオのように血管が、それも全身の血管が、外気に触れるように露出して破裂しているのに全く出血していなかった。何か、見えない力で血の流れを強制されているような感じだ。

「この人の治療のことですが・・・・・・いいですよ」

 と、ジョルノは二人の状態を見て首を縦に振った。もちろん、妹紅は反対する。

「待て、ジョルノ。こいつらを治療して、一体私たちに何のメリットがある? 美鈴はいい奴かも知れないが、パチュリーの詳しい人格については私もよく分かっていない。咲夜はお前も戦ったように言わずもがな、情緒不安定だ。しかもこいつらは全員あの吸血鬼の手の者なんだぞ? あいつの一言で美鈴だって――――」

 そこまで妹紅が言って、言葉を止めた。ジョルノの目に揺るぎのない覚悟の色が見えたからだ。

「妹紅。あなたの言い分は実によく分かります。僕は間違ったことをしているかもしれない。ですが、僕自身は間違いだとは思いません」

 手に持った糸切れを血管に変えながらジョルノは話し続ける。

「ドッピオが守ろうとしていたものを僕は見殺しにすること。僕はそれこそ間違いだと思います。僕は彼女を治す」

 そう言ってジョルノは同じようにパチュリーの破裂した血管を治していく。

「・・・・・・まぁ、言っても聞かないってことはこれまでで重々承知だ。手伝うよ」

 妹紅はハァ、とため息を付いて傷口に血を馴染ませていく。それを見た美鈴は帽子を胸に当てて深く頭を下げた。

「ありがとう二人とも。レミリアお嬢様に代わってお礼申し上げます」

 その言葉に妹紅は「いや、いいよいいよ」と手を振るが。

「・・・・・・ついさっきまで拒否ってたじゃあないですか」

 とジョルノに咎められてしまっていた。

*   *   *

 美鈴と別れた後、レミリアは地下へと向かう階段に差し掛かった。だが、その階段は異様な気配が立ちこめている。

(・・・・・・いるわね。数匹、いや、十数匹くらい)

 レミリアはスペルカードを出す。『キラークイーン』がまともに使えない今、やはり弾幕による攻撃が最適だと考えたからだ。

「神槍『スピア・ザ・グングニル』」

 彼女の手に生成されたのはどこまでも紅い紅い巨大な槍。狭い階段の中ではせいぜい突く程度でしか使えない(そもそもそれで十分なのだが)ので、何をするかと思いきや――――。

「・・・・・・槍は『投げるもの』」

 大きく振りかぶって、階段の下に向かって投げたッ!! そしてレミリアはすぐに飛び、槍に追いついてその上に乗った。

「そしてッ!! 『乗り物』ッ!! これぞカリスマの権化ッ!!!」

 見たことがあるはずだ。誰もが思う、『自分で飛んだ方が速い移動方法』。

 だが、その移動方法はこの場面においては正しい。なぜなら狭い狭い階段には至る所に、透明の敵が潜んでいたからだ。

「HOORAAAAAAAAAAIII!!!」

「JAPPAAAAAAAAA!!?」

「ROOOOOONNNNNNN!!!」

 レミリアの槍は凄まじい破壊力で次々と断末魔を生み出していく。透明の敵が一体どれほどいようと、一体一体が雑魚ければ何の意味もない、と言わんばかりの進撃。カリスマ。

 ズガンッ!! と、槍が地面に突き刺さりクルクルと回ってふわり。ゆっくりと床に降り立った。ものの数秒で地下へとたどり着いたレミリアはフランドールの自室を目指すが、やはり地下には敵が大量にいるのが分かる。姿が見えないのはやはり全員透明だからだろう。すかさずレミリアは二枚目のカードを切った。

 カードを切る前に数匹がレミリアの血管を破壊しようと近付くが――――。

「MARIAAAAAAAAACHI!」

「ORLEAAAAAAAAAAANNNN!!」

 彼女に触れることさえかなわない。

「紅符『スカーレットマイスタ』」

 レミリアは能力の使えない『キラークイーン』の手のひらに乗り、自身の脚力と『キラークイーン』の投擲力により爆発的な推進力を得て加速。もはや誰も追いつけまい。敵の攻撃を余裕で振り切り、ついでに弾幕を当てながら、わずか10秒程度で階段からフランドールの部屋にたどり着いたのであった。

「フランドール!!」

 そのままの勢いで部屋のドアを蹴り破る。美鈴はこの部屋にフランドールがいると言っていた。

 だが返事はない。レミリアの視界には何も写っていない。

「・・・・・・フランドール?」

 もう一度名前を呼ぶ。僅かな可能性にかけて、もう一度だけ自分の愛する妹の名を。だが返事はない。

 そこにいたのはフランドールじゃあなかった。

「・・・・・・槍符『キューティー大千槍』」

 レミリアの背後、更に頭上、顔面の正中線上ッ!! そこから突然声がかけられたのだッ!!

(違う、声じゃあないッ!! スペルカードだッ!!)

 そうすぐに気付くが、遅かった。レミリアが気が付いたときには背後から背中を一突き、二突き、三突きとそれだけでは収まらない。彼女の小さな小さな背中に何度も何度も鋭い槍のような物が深々と突き刺さった。

「ぐ、がふッ、ブフッ!!」

 その内の一発が彼女の喉を背後から串刺しにしたようだ。レミリアはたまらず血を吐いた。だが、敵は攻撃の手を緩めはしない。

「呪符『魔彩光の上海人形』」

 レミリアを挟むようにレーザーが展開され、その間を反射するように二本のレーザーが彼女を焼き切り刻む。

「・・・・・・あッ!!」

 高熱線に肉をえぐられる痛みに顔を歪ませる。

「――――恋符」

 ボロボロになっている彼女を更に追いつめるのは――――巨大な光線。だが、その声の主は変わっていない。全て同じ人物が唱えているのに――――。

 レミリアは分かっていた。一つ目と二つ目のスペルカードの持ち主と、今敵が使っているスペルカードの持ち主は別人であることを。

 声の主はおそらく、人形遣い。アリス・マーガトロイド。

 そしてこのスペルの持ち主は――――。

「『マスタースパーク』」

 失踪事件で話題だった霧雨魔理沙だ。

*   *   *

「――――そんな大技が私に当たると思っているのか?」

 避けた。レミリア・スカーレットは槍で何度も刺され、レーザーで切り刻んだにも関わらず、おおよそスペルカードの種類では予測しきれないマスタースパークを意図もたやすく避けた。

「・・・・・・」

 一瞬で飛翔し、部屋の入り口付近からレーザーの届かない端の方に移動していたらしい。レミリアは私の方を見る。

 見えないはずの私の方を確かに見る。

「・・・・・・何と言ったか、私は聞き覚えがある。小耳に挟んだ覚えがある。霊夢の友人だった・・・・・・名前はあんまり記憶してないが、霧雨魔理沙とか言う奴だ。――――その名前を私はついぞこの前失踪事件の張本人として聞いたのだけれど」

 この言葉は私に向かってかけられていると取ってよいだろう。

「・・・・・・アリス・マーガトロイドか? お前は・・・・・・」

 レミリアの予想は当たっている。見えない、透明の私に向かって私の名前を確かにはっきりと告げた。

「・・・・・・飛んでいるのか、なぜそんな『高い位置』にいるのか分からないけど・・・・・・」

 レミリアは翼を広げた。彼女の言う『高い位置』――――正確には私は天井に立っているのだが、何故立てるのかという疑問については今は割愛する。

 つまり、レミリアは飛んだのだ。私のいる位置に、まっすぐに。

 私は糸を操って魔理沙を背後に隠した。そして上海人形と西班牙人形を前に出す。迎え打て、舞え、情熱にたぎれ。私の糸を通じて人形に意志が宿り、向かってくる悪魔を迎撃せんとする。

「――――話は後だ。とりあえず、下に降りろ」

 だが、レミリアは見えない人形たちのレーザーに射殺されながらも全く意に介す様子もなく私に肉薄し、掴み、地面に叩きつけた。まるで私が目に見えているかのような動作だ。

「頭が高いぞ、貴様・・・・・・」

 レミリアの貫通したばかりの傷がもう修復され始めている。私は一緒に投げ飛ばされた魔理沙を庇うようにして受け身を取った。

 やはり吸血鬼相手には攻撃による消耗戦では不利だ。攻撃を入れた所から回復されてしまう。

「・・・・・・さて、一ついいか」

「?」

 レミリアは再び私の元に飛んでくるのでは、と思ったが違った。空中で滞空して私を見下ろしている。

 言葉通り、私が上にいるというのが気に食わなかったらしい。

 と、レミリアが神妙な顔で私に一つのことを質問した。

「――――フランドールを、どうした?」

「・・・・・・」

 目的は何だ、とか。何故こんなことを、とかではなく。自分の妹の所在を尋ねてきた。目的ならある。その答えなら正当な理由とともに用意していた。

 だが妹の所在となると、今一度ロジックを組み立てる必要がある。あまり想定していなかった。

 私は彼女の妹をどうした? 思い出に欠けているが、正直な話、忘れてしまったというわけでもない。説明しようと思えば出来るのだが、しかし、そんなことよりも私は魔理沙のためにこうしているのだ、ということを先に説明する方が早い。

 私は魔理沙のために、寂しくないように、友達を増やしているに過ぎない。(決して私怨ではない。そもそも私と魔理沙を殺したあの男も家の近くで死んでいた。)

 そう・・・・・・フランドールは魔理沙の友達になったのだ。

 魔理沙は喜んでいるだろう。今夜だけでたくさんの友達が出来たんだから。幸福だろう。きっと魔理沙は幸福だろう。

 フランドールはその一人だ。じゃあ『私が』フランドールに何をしたかという疑問に立ち返ると、うまく答えに出来ない。

 私は魔理沙が友達を作るための仲立ちでしかないのだ。私がしたことといえば・・・・・・。

「・・・・・・血を抜いて、眼球を抉り出し、魔理沙と同じく人形にした」

 そのくらいだろうか。

「・・・・・・あなたの目の前にいる『妹』にしたことと言えば・・・・・・」

「――――ッ!?」

 実はレミリアと話している最中、私はその人形になったフランドールを操り、レミリアの目の前まで移動させていた。私の人形はどういうわけか、上下の区別が無くなるからフランドールは天井に立っている。そして顔の高さは上下逆さだがレミリアと同じ位置だ。

「妹が人形になったことを悲しむというのなら、あなたもなればいい。その方が幸福になれるわ・・・・・・あなたも、魔理沙も・・・・・・」

 レミリアは完全に油断していた。やはり姿が透明だからだろうか、私の大体の位置は掴めても私が操っている他の人形たちの気配は分からないようだ。

「禁弾『スターボウブレイク』」

 私が代わりにスペルカードを唱える。レミリアの眼前に打ち出されたのは虹色の弾。それはすぐにでも破裂し――――彼女に死を刻むだろう。


 27話へ続く・・・・・・

*   *   *

 アリス・マーガトロイド スタンド名『リンプ・ビズキット』

 一度死んだことによって元から埋め込まれていたDISCのスタンドが発現した。いつ・どこでDISCが脳内に埋め込まれていたのかは誰も知らない。
 アリスは透明の状態で復活し、さらに人形も透明となる。透明の人形はアリスの糸によって操られるが、操られていない状態では本能的に生きている人間の血を抜き、眼球を抉り出す。血を抜かれ、眼球を抉り出された人間もアリスの人形となり透明になる。アリスが全ての透明化した人形を把握できているのかは不明。
 更に、人形化した人間のスペルカードを使うことも出来る。ただし、スペル発動場所はその人形の位置に準ずる。


 ちなみに、現状人形化している東方登場キャラは魔理沙、フランドール、あと明記はしてないけど小悪魔も。小悪魔はディアボロに心臓をつぶされ、人形たちに血と眼球を綺麗に抜かれた後、妹紅に消し炭にされました。とても可哀想。

*   *   * 
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