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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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第20話 ガンナーズ

 
前書き
登場戦術機補足


 F-15MJ陽炎 
Mは最新型を意味するModernizedの頭文字。巌谷中佐と異種間模擬戦闘訓練を行った初期型F-15Cと違い、帝国独自の仕様変更が加えられた1992年以降の後期生産型の改良型。
 後期生産型は重金属雲下でも安定したデータリンクを行うために通信バス幅やOBWの冗長性が強化されており、データフォーマットも第三世代機基準に仕様変更されたため、初期生産型F-15Jに比べ安価かつ容易に強化改修が可能であった為、周辺国の第三世代機の実戦配備とならびアップグレードが行われたもの。

 基本的にアメリカ軍のマイナーアップデートに準じた強化改修であり、既に日本帝国は陽炎の生産打ち切りを決めているため、国産部分以外のアップデートはアメリカからの輸入。
 プログラム面や、日本帝国の独自改修部分など以外は米軍の改修型F-15C、ゴールデンイーグルとほぼ同等で分類では第2.5世代機となる。
  

 
 ――――日本帝国軍 神奈川県厚木基地―――


 後ずさる鋼鉄の巨人、左肩に日の丸をペイントされたその戦術機は日本機にしては珍しく大型の膝モジュールを持ちつつも腕部にナイフシースを持たない。

 日本帝国が技術吸収と不知火配備までの国防空白期を埋めるためにライセンスを行ったボーニング社製第二世代戦術機、F-15MJ陽炎だった。
 世界中の戦地にて最強の荒鷲の名を関するその機体は今や、刈る者から刈られる物へと転じていた。

「くそっ!マリダリン03が食われた!!」
「ば、馬鹿な……こっちは中隊だぞ―――たった一個小隊でどうにか成る訳が…!?」

「ぐあっ!?」
「マリダリン04っ!?」

 F-15J三番機とエレメントを組んでいた04のマーカーが消失。―――状況開始から僅か三分で中隊総数の三分の一が既に撃破されていた。……残り八機。


「―――いくら向うが新型の第三世代機とはいえ、慣熟も終わっていない機体でこうも一方的とは……富士教導隊、噂通りの化け物かっ!?」


 辛酸を舐める隊長機―――今、自分たちを攻撃している不知火の改修型一個小隊と自分たちF-15MJ一個中隊の機体数の差は三倍。近代化改修された第二世代機は第三世代機に近しい戦闘力を保持している。

 正面対決に於いては突撃砲の砲門の数がモノ言う。如何に市街地戦で突撃砲のメリットが活かしにくいとは言え、こうも一方的とは信じられない事実だった。



『このままやられて堪るか……!!』
『隊長っ!!』

 下唇を噛むマリダリン01、其処にエレメントを組むマリダリン02の呼びかけに視線を巡らすとその複合センサーが捉えた視界に映る光景に目を向いた。

『単機……だと、舐めているのかッ!?』

 仲間の残骸の真横を通り過ぎる一機の不知火の系譜に属する機体―――漆黒の電磁波吸収塗料による塗装を施されたその機体は悠然と歩を進めてきている。
 その不知火の右肩には日の丸、左肩には組みあい角と桔梗の紋が目にえらく突く。

『――ただのマイナーチェンジ機ではないという事か、それとも中の衛士の能力が抜きんでているのか。』


 情報が少ない。中隊の仲間たちは交戦即座に撃破されたため情報が殆ど無いのだ―――しかも、相手が単機で的にしてくれと言わんばかりに近寄ってくる。…その真意も読めない。

『しかし、あの機体形状……まるで刺の少ないタイフーンかラファールだな――?』

 パッと見、腕部のナイフシースが大型化しつつも腕部本体と一体化するような形状に変更されている―――どの角度でレーダー波を受けても横に逸らせる三次元形状に加工されているのが見て取れる。
 それは頭部のマストセンサーは小型化し、位置がより中心よりに変更され更に丸みを帯びていた部分が全体的に直線と直面を三次元的に組み合わせた複雑な形状を持っていることから、この機体はパッシブステルスを強化しているのが分かる。
 あと、細かい違いといえば足首から先が左右非対称なスポーツシューズのような形状に変更―――全体の印象としては、突起物の少ない欧州製第三世代機だ。

 ……その三次元多面構造はステルス特性だけに非ず、空力特性をわざと不安定化させそれを高度なオペレーション・バイ・ライト技術で制御することでさらなる高機動性と高効率稼働を為す。
 ―――このような市街地戦では効果が発揮されにくいが、やや遠距離からの戦闘となればさらに一方的な展開となったことは想像難くない事実でもあった。

『隊長……奴は囮…何でしょうか』
『恐らくな、そして捨て駒だとするなら最も技量の低い衛士、そうじゃないというのなら最も強い衛士が乗っているという事だ。』

『どうします―――』
 『―――奴には試金石になってもらおう。06、08は奴にフラットシザースを仕掛けろ、おそらく其処を狙って他の連中が攻撃を仕掛ける筈だ。02と俺は其処を叩く。』

『『『了解!!』』』


 如何に、旧世代機のF-15とはいえこのF-15は後期生産型の機能拡張型だ。跳躍ユニットの出力も向上し、セントラルコンピュータと機体信号系のバス幅も拡張され応答性(レスポンス)も向上、パルス・ドップラー・レーダーもアメリカから輸入したスーパーホーネット用のレーダーを改良したフェイズドアレイレーダーに換装されている。

 第三世代機に対しても機体性能ではそう負けて無い筈だ。―――そして一対二だ、如何に富士教導隊が化け物クラスの精鋭だろうと、行き成りやられることはないだろう。


『よし……行くぞッ!!!』

 マリダリン01の掛け声と伴に右肩に06と08の刻印をそれぞれにされたF-15MJが跳躍ユニットの噴射と伴に駆ける。


『―――』


 そして、ターゲットロックオン。荒鷲の名を冠する鋼鉄の巨人がその手に携える87式突撃砲を斉射した。
 だが、しかし――――


『なっ!?』


 左右から襲いくる砲火、それは漆黒の不知火の機体を撃ち砕く筈だった。
 けれども、その車線上には既に機体の姿はなく、螺旋の軌跡を描きながらマリダリン08のF-15MJに急接近していた。

『う、うぁぁ!?』

 すれ違いざま一閃。不知火の腕部のナイフシースが展開したかと思うと内蔵された戦術追撃刀が左手に握られており、そのままそのスーパーカーボンとは異なる質感の黒刃は戦術機の急所の一つ。
 戦術機の稼働領域を確保しつつも上下を接続するために必要最低限の装甲に反し、全ての配線が集中している腹を切り裂いた。


『08っ!?』
『―――』

 無数の銅線と内臓機器のはらわたをぶちまける陽炎の機体が倒れるよりも早く、漆黒の機体が身を翻す。
 そして、マリダリン08の腹を掻っ捌いた勢いそのままに漆黒の不知火が反転し、右手の突撃砲から120mm砲を放つ。

『ちぃっ!!!』

 F-15MJの跳躍ユニットのロケットモーターを点火、急加速と強引な機動変更によりどうにかその一撃を回避したその時だった。


『―――なっ!?』

 120mmを回避した処へ襲いくる36mmチェーンマシンガンの斉射、劣化ウランの砲弾が跳躍ユニットに弾痕を穿ち、機体を爆散させた。
 120mm砲弾を回避しようとしたところでその回避先を読み切った射撃―――例え個であろうとも連携を極めれば多を圧倒することも可能。
 富士教導隊はアグレッサー部隊、日本帝国のどの部隊よりも連携に通じる最強の部隊で在らねばならない―――この程度、造作もなかった。

 機体の撃破を見届けた不知火の両脚が設置、地表の表面を石火を散らしながら削り、そして静止した―――その時だった。


『―――今だっ!!』
『油断したなっ!!!』

 漆黒の不知火に襲い掛かる二機のF-15MJ、先攻した二機のうち片方が撃破された時点で彼らは戦術を変更し、漆黒の不知火の撃破を優先と切り替えたのだ。

『戦力を小出しにし過ぎながって―――敵戦力の分散は兵法の基本、それを言わんでもやってくれるんやから世話無いが。』

 コックピットで呟いた彼は機体を操る。彼の操作を受けて漆黒の不知火が地を蹴り跳躍ユニットの噴射とともに跳ぶ、そして片方のF-15MJに対し、水平に機体を傾けたままの噴射跳躍、スライダーシューティングによる牽制を行う。

 それに対応し、回避しながらも二機のF-15MJが荒鷲(イーグル)の名に恥じない獲物を駆り立てる鳥のような機動で突撃砲を放ちながら漆黒の不知火を追い立てる。

 しかし、この近距離だというのに火箭を潜り抜ける不知火―――まさに本物の陽炎たる不知火を相手にしているように何時まで経っても、その砲撃が機体を捉えることが出来ない。
 焦れたマリダリン02は01の射撃に合わせ120mm滑空砲を放った。

『―――今ッ!!』

 その瞬間こそ、連携が乱れたその一瞬こそ致命のタイミングである。
 F-15MJ二番機、マリダリン02が突撃砲のトリガーを引いたその瞬間だった。漆黒の不知火は跳躍ユニットのスタビライザーと腕部・頭部の角度を一斉に変え、進行方向そのままに機体の半身を逸らした。

 120mm砲弾は不知火の寸差で通り過ぎ、同時にお返しと言わんばかりに漆黒の機体がその腕に持つ突撃砲の引き金を引いた。


『―グッ!?』
『02!?』

 吹き飛ぶF-15MJの片腕。120mm滑空砲が命中したのだ。
 そして続けざまに、機体を空中でひらりと翻すとマリダリン01に向け最後の120mm砲を撃つ。

『うぉおおっ!?』

 反射的な操作でどうにか回避する、しかしその大げさな挙動は連携を崩すには十分すぎた。
 ロケットモーターを点火し、咆哮する跳躍ユニットの大推力にて急接近する漆黒の不知火―――先ほど片腕を捥いだマリダリン02へと急接近する。

『た、隊長!!』

 突撃砲を撃ちながら後退しようとするマリダリン02のF-15MJ、しかし加速力が違いすぎた―――F-15と不知火の重量比推力では不知火の方に圧倒的な分がある。
 一気に肉薄する漆黒の不知火……咄嗟に突撃砲を構えようとしたところでF-15MJの肘から先が消えた。

 不知火がその手に携える小太刀にて切り飛ばしたのだ。


『02離れろ攻撃出来ない!!』

 そして、マリダリン02の腹から刃が生える。
 小刻みにロケットモータの噴射と空力制御を用いた第二世代機では許されない異次元の高速性を併せ持ったインファイトマニューバによって背後に回り込んだ不知火が小太刀でコックピットを貫いたのだ。

『くっそおおおおおお――――!!!』

 突撃砲を投げ捨て、背面の兵装担架が稼働。74式長刀を引き抜いたF-15MJ陽炎が跳躍ユニットを噴射させて一矢報いろうと疾走し――――


『なんだ―――と!?』

 跳躍疾走を行おうとしたその瞬間だった。その機体の跳躍ユニットが撃ち抜かれたのは。



『隊長、漁夫の利ですか?此処は俺に任せるって言ったくせにズルいですよ。』
『五分だけだって行っただろ。カップ麺の結構いいやつが出来上がってしまうじゃないか柾。』

『ちぇ、俺もまだまだか―――CP(コマンドポスト)、此方ガン03。ガン01が最後の一機を撃墜した、状況終了。』
『此方CP、マリダリン中隊の全滅を確認。JIVEA(ジェイブス)終了。』


 あちらこちらに散らばっていたf-15MJ陽炎たちの残骸が消え、代わりに無傷なまま地に伏した機体たちが姿を現した。
 戦術機と戦闘指揮所のコンピュータをデータリンクで連動させて行った機体実働を伴う仮想演習だ。先ほどまでに散らばった戦術機の残骸、実弾の斉射はすべてコンピューター上でシミュレートされ、機体に与えられる挙動を再現しただけの物、実際は何一つ壊れてはいない。すべて本物と見間違う精度のコンピュータ・グラフィックスだ。


 『くっそ、最新鋭機だからと粋がりやがって!!』

 たった一個小隊、しかも殆どがガン03、左肩に組みあい角と桔梗の紋を持つ機体の衛士にやられたのだ―――自分たちにもあの機体さえあれば、という思いが彼らの中に沸き立つのも仕方がないだろう。
 そんな中隊長機に通信機越しに非常に年若い、徴兵による速成プログラムを終えたばかりであろう年齢の少年の声が届いた。

『なら何度でも挑んで来い、だけど限定的とはいえステルス性を備えたこの機体に勝つためにはどうすればいいか考えてこい――――俺たちはその為に存在している。』
『―――見てろよ、次こそは吠え面を搔かせてやる。』

『その活きだ。―――いいか、帝都は日本の中枢。いわば心臓だ。それを守るのは直衛の守備隊だけじゃない。お前たちもその一柱なんだ俺らごときを下せないようでは、帝国衛士の名が泣くぞ』
『若造が知った口を利く。』

 マリダリン01、不知火のような最精鋭を与えられるほどの腕前じゃないとはいえ後方では最高峰のF-15MJに搭乗を許された歴戦の猛者である彼はその訓練兵上がりとは思えぬセンスを見せるガン03に対し苦笑を含ませた声でいう。

『俺じゃない、兄の言葉だ―――俺の名前は、柾 晄。斯衛の黒き虎王の弟だ!』
『柾 晄覚えたぞ……今度はお前ら”纏めて”相手にしてやる。』



 F-15MJ陽炎の鈍色の機体が視線を巡らす、そして周囲いから集まってくる漆黒の不知火たち―――何れも組みあい角と桔梗の紋の有無を除けば同一。
 通常、露軍迷彩を施された機体により仮想敵役(アグレッサー)を務める最精鋭部隊、富士教導隊。

 今、その部隊に配備された鋼鉄の甲冑は不知火のアップグレードモデル、不知火壱型甲であり、その身に纏う色は漆黒―――最新の電磁波吸収塗料。
 果たして、その意味は仮想敵である西側共産主義諸国がステルス機を用いての状況を想定したものか、はたまた現在唯一ステルス機の実用化に成功した国が含まれるようになったからなのか。

 それに答える者は誰もいなかった。
 
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