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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第70話 雨の降ってる日には傘をさそう

 
前書き
最近になって急に寒くなりだしましたね。みなさんも風邪には十分注意して過ごしてください。

ヘックシッ!! 

 
 その日もまた、空は鉛色をしていた。空からは黒い色の雨が降り注ぎ、大地を濡らしていく。
 その日の雨は、何時もより冷たく、とても痛く感じた。

「・・・・・・・・・」

 幼い二人の少年少女。二人の前には一体の骸が横たわっていた。既に肉は土に返り、骨しか残っていない。
 少女はその髑髏を手に取り、まるで壺でも鑑定するかの様にじっと見つけていた。

「それが、お前の親父か?」
「間違いない……この欠けた前歯、お父ちゃんのそれと同じだ」

 少年、坂田銀時の言葉に少女、高町なのはは静かに頷き、髑髏をその両手で抱きしめて蹲った。

「やっと……やっと見つけた……見つけたよ、お父ちゃん」
「………」

 髑髏を抱き、泣き崩れるなのはと、それを隣で困ったような表情で見つめる銀時の姿があった。長い月日が経ったようにも思えた。今まで幾体もの骸をひっくり返し、その余りにも凄惨な死に様に幾度となく嘔吐した。その末にようやく、ようやく念願だった父に巡り合う事が出来たのだ。
 だが、その父は骸すらなく、骸骨となり果てていたのだが。

「お前の父ちゃん、相当昔にくたばったんだな。鎧の壊れ具合からして、こりゃ鉄砲にやられたんだろうな」
「お父ちゃん……」
「親父さんを見つけたんだ、もう此処にも用はないだろ? そろそろここら辺の骸にゃ碌なのが残ってねぇし、とっとと場所変えるとしようぜ」
「その前に……お父ちゃんの墓……作りたい」
「………」

 そう言って銀時を見上げるなのは。その目を見た銀時に、申し出を断る事は出来なかった。
 面倒臭そうに頭を掻き毟りながら溜息をつく。

「わぁったよ。だけど、こんな所に墓作んのか?」
「出来れば、戦場から離れた所に作りたいの……ダメ、かな?」
「別に良いぞ」

 ぶっきらぼうに答える銀時に、なのはは満面の笑みを浮かべた。今まで死人みたいな顔をしていたなのはの顔に生気が満ち満ちてくるのが見える。
 不思議な感覚だった。今まで一人で生きていた筈なのに、こいつに会ってから妙におかしくなりだした。何故か、こいつが側に居てくれないと落ち着かない。と、言うよりも……こいつが近くに居てくれないと不安で仕方がないのだ。

(ったく、俺ぁ保護者かよ!)

 自分で自分にツッコミを入れる銀時。とにかく、今はさっさとこの髑髏の墓を作らなければならない。そして早いところ雨宿りする場所を探さなければ風邪をひいてしまう。
 根無し草の二人にとっては風邪でも致命的な物になりかねないからだ。
 その日一日を生きるだけでも必至な上に、まだ二人とも年端もいかない子供だ。この時代で親の居ない子供が風邪をひくのは死と同義語とも言える。

「作るのは良いが、せいぜい持って行けるのはその髑髏位だぞ。幾ら二人居ても俺らじゃ親父さんの骸全部持ってくのは無理だ」
「うん、これだけで良い……これだけで、良いから―――」

 納得し、髑髏を抱き抱えてなのはは立ち上がった。その刹那だった。さっきまで自分たちの体に打ち付けられた雨が突然止んだのだ。
 雨が止んだのかと思ったが、目の前では未だに雨が降っている。一体何故?
 疑問に思った二人は空を見上げた。二人の頭上には大きな傘が差されており、その傘を持つ一人の青年が立っていたのだ。

「こんな雨の日に傘もささないでいると、風邪を引きますよ」
「!!!!」

 突然現れた青年に二人は怯えだす。なのはは銀時の後ろで震えており、銀時は持っていた刀の柄に手を掛けて抜刀の準備をしていた。
 戦場において骸漁り同士の小競り合いは珍しくない。増してや銀時やなのはと言った子供は恰好の獲物にされ易いのだ。
 故に銀時はこうして刀を持ち自分の身を守り続けていた。
 その銀時が、今は自分だけじゃなく後ろに居るなのはをも守ろうとしている。本当に一体何処で自分はこんなに変わってしまったのか。つくづく疑問に思えてしまった。
 そんな二人を青年はただじっと見つめていた。特に襲い掛かる様子もなければ切り掛る素振りも見せない。
 それに、青年の身に着けている服装や腰に挿している刀を見るからに明らかに骸漁りではなさそうだ。

「そんな風に構えなくても大丈夫ですよ。私は別に貴方達を取って食おうなんてしませんから。ただ、この辺りで死肉を食らう子鬼が居ると言うんで興味本位で訪れただけですからね」
「………」

 青年の言葉に二人は無言のまま睨んでいた。今の二人はお互いしか信用できない。他は全て敵でしかないのだ。生き残る為に見えるもの全てを疑わなければならない。何とも悲しい事であった。

「その目は、子供がする目ではありませんね。きっと、その目で今まで多くの修羅場を見てきたんでしょう。そして、その刀もまた、その修羅場から自分の身を守る為に其処に転がっている骸から剥ぎ取った代物、と言った所なんでしょうかね?」

 青年の言い分は当たっていた。銀時が手にしている刀はそこいらに転がっている骸から適当に拝借した刀だ。中は既に錆びついており一文の値打ちもない。だが、そんな刀でも自分の身を守る位の役には立つ。
 青年はその刀を一目で見抜いたのだ。

「ですが、貴方はその刀で自分だけではなく、後ろの子をも守ろうとしている。随分と優しい子鬼さんじゃないですか」
「………」
「でも、そんな錆びついた刀では、その子は愚か自分自身も守れませんよ。もし、私が怖い人斬りだったら、そんな錆びた刀諸共貴方を真っ二つに出来たでしょう。今の貴方はとても弱弱しい刀しか持っていない」

 何を言いたいのかさっぱり分からなかった。そりゃ確かに銀時の持っている錆びついた刀では男の持っている立派な刀の一撃を防ぐ事は出来ない。だが、妙にも引っ掛かる。この男が言っているのは何も刀だけではないような気がするのだ。
 言葉の真意を考えていた銀時に向かい、青年は主室に腰に挿してあった自分の刀を鞘ごと抜き取り、それを銀時に向かい投げ渡したのだ。

「!!!!!」
「捨ててしまいなさい。骸から拾った刀を使っていては、貴方の中に眠る刃は錆びついたままでしかない。本当に大切な者を守りたいのならば、貴方の中にある魂の刃を錆びつかせてはいけませんよ。分かりましたか?」
「???????」

 青年の言葉に銀時はすっかり混乱しきっていた。どうやら青年の言っている言葉の意味が理解できていないのだ。投げ渡された刀とそれを投げ渡した青年を交互に見ながら銀時は意味が分からずしどろもどろしていた。

「私の言った言葉の意味が知りたいのでしたら、この先に私が開いている寺子屋があります。其処に来ると良いでしょう。それに、そちらの子が持っている骸の供養もしないといけませんしね」

 青年が今度はなのはを見る。視線がこちらに移り、なのはは思わず肩を震わせるが、青年の持つ暖かさと優しさに心を許したのか、ずっと抱きしめていた髑髏をそっと青年に差し出した。

「お前!」
「これ……私の……お父ちゃん……だから……」
「えぇ、しっかり供養して差し上げましょう。貴方の大切な家族ですからね」

 青年はそう言い、なのはから髑髏を受け取ると、今度は自分が差していた傘をその代わりにとなのはにそっと手渡した。

「え? この傘……」
「今日の雨は何時もより冷たく、痛いですからね、貴方はその傘で彼を守ってあげなさい。その傘なら、どんな雨からも守れますよ」

 そう言い、青年は髑髏を両手に持ち戦場を後にした。その後に続くかの様に、銀時となのはもまた戦場を後にした。
 




     ***




「アラバスタァァ!!!」

 意味不明な奇声を挙げながら現実世界へとカムバックを果たした。窓の外はうっすらと光が差し込んでいるようだが、同時に打ち付けるような雨音がする所から察するに今日は雨なのであろう。
 少々残念な気持ちになった。外が雨だと大概その日一日が退屈になってしまいがちなのだ。
 それに洗濯物も乾かないし湿気が溜まるので部屋にカビが生えやすくじめじめした日は不快極まりないこの山の如しだったりする。

「ところで……ここ、何処?」

 気が付けば何処とも分からぬ場所に寝かされていたようだが、あまりにもその場所が殺風景過ぎた。あるのと言えば簡単な寝床位であり吹き抜けの窓位しか真新しい所がない。早い話が牢獄みたいな場所だったのだ。
 出口と思わしき所は一枚式の分厚い鉄製の扉のみだが、見るからに施錠されてる感満々に見えた。
 早い話が閉じ込められたと言った所だろう。

「もしかして、これってアレ? 良くスパイ映画とかである脱走しなきゃいけないパターンとか? でも参ったなぁ、私片目の蛇さんじゃないし、スーツが似合う7番目の人でもないから脱走の手引きとか知らないし―――」

 などと一人で意味不明な言葉をぶつぶつ言い出す若干9歳の女の子。一体どこにそんな知識が備わっていたのか至極気になる所だがこの際気にしないでおこう。
 どうせ本人は今の状況をまるで分かってないのだから。
 ふと、下半身に妙な違和感を感じた。誰もが感じる良くある現象と言う奴だ。
 まぁ、とどつまり―――

「か……厠……厠行きたい!」

 生理現象であった。生憎この部屋にはトイレなどは備わっておらず、このままでは部屋の中に薄汚れた青春の1ページを飾る羽目になってしまう。

「ま、不味い不味い不味いぃぃぃ! このままだと本当に不味いぃぃぃ! 私もう今年で9歳なのに人様の部屋で汚い青春の1ページとか飾りたくないよぉぉ! でも我慢も出来ないし! えぇい、こうなったらままよぉ!」

 祈る気持ちでなのははノブに手を掛けた。鍵が掛かってませんように。それだけを祈っていた。
 もし鍵が掛かって扉が開かなかったら……その時は天運に全てを任せるしかない。
 ノブを回し、思い切り扉を押し開いた。だが、余りにも勢いが強すぎたのか掛かっていた筈の鍵はひしゃげて破損し、扉は留め金部分がねじ曲がり飛出してしまった。まぁ、とどのつまり勢い余って鉄製の扉を破壊してしまったのである。

「や……やっちゃった……どうしよう……」

 余りにも慌てていたせいかも知れないがこれは相当不味い事になった。まさか人様の家の扉を壊してしまうなんて。これがこの家の人に知れたらとんでもない事になる。
 何とかして隠し通した方が良さそうだったので、とりあえず扉を元の位置に戻してその場を凌ぐ事にした。

「って、こんな事してる場合じゃないんだった! 厠、厠どこおぉぉぉぉ!」

 徐々に顔面が青ざめだし、必至になって厠を探し出す。カウントダウンが近づきだしている。急がなければ手遅れになってしまう。生まれて間もない赤子や幼児ならともかく9歳にもなって道の真ん中に青春の汚れた1ページを描くのだけは阻止したい。
 もう時間が余り残っていない。

「厠なら向かい側の扉っすよ」
「どうも有難う!」

 そんな矢先、背後から促すような声が聞こえ、その声が誰なのか判別する間も無くなのはは一目散に厠へと駆け込んだ。あの急ぎ様からして相当てんぱってたようだ。

「やれやれ、そう言えば此処に厠無かったのすっかり忘れてたっすよ。うっかり鍵まで掛けちまったからあの子にゃ悪い事しちゃったっすかねぇ」

 頭を摩りながらまた子はなのはを閉じ込めていたであろう扉を開こうとノブに手を掛けた。
 その瞬間であった。突如扉が外れ、また子の方へと倒れこんできたのだ。

「んなぁぁぁ!」

 突然の事ではあったが、どうにか扉に押し潰されるのだけは阻止出来た。全身の力を駆使して鉄製の分厚くて重い扉をその細見の体で支える。
 鉄製なだけあって見た目以上に結構重い。柔肌の乙女? なまた子には少々きつい代物でもあったりした。

「ど、どうなってるっすかぁぁ! 確か昨日までは壊れてなかった筈なのにぃぃぃ!」

 確かに、昨晩また子がなのはを部屋に居れた際にはちゃんと扉は機能していた。それが今日になって扉に手を触れた瞬間これであった。
 しかも壊れ具合から見るに一瞬の力で扉の金具その物を引き千切ったかの様にも見えた。
 こんな事が出来るのは相当な馬鹿力を持った怪物位しか出来ないだろう。
 少なくとも、あんな幼い子供に出来る筈がない。断じてある筈がないのだ。

「は~、良かった良かった。間に合って……って―――」

 厠から出てきたなのはの面前に広がる光景。壊れた鉄製の扉を必至に抑えるまた子の姿があった。
 その光景を目の当たりにした瞬間、なのはの脳裏に不安が過った。まさかその扉を壊した事がばれるのでは……
 それだけは不味い。人様の家の物を壊したとあってはその家の人達に何て言われるか―――

「い、今はちょっと……手が離せないから……あっち行ってるっすよ! ったく、一体誰がこれ壊したんすかぁ!?」
「あ、う、うん!」

 半ば安心しながらなのははその場から離れた。どうやら扉を壊したのが自分だとばれなかったようだ。ホッと一安心しながらも事のついでにこの中を見て回れる。そんな大義名分を得たなのはは早速中の探検へと洒落込んだ。
 元々好奇心旺盛な気が有る為かこの場所はその精神をくすぐる絶好の場所とも言えた。
 何処を見て歩いても真新しい光景が飛び込んでくる。子供にとってこれほど楽しい状況はそうそうないだろう。
 天井にはびこった太いパイプの束。床を歩く度に聞こえてくる金属音。無骨な壁に丸窓のついた鉄製の扉。どれもこれもなのはの好奇心を掻き立てるには十分過ぎる代物達であった。
 ふと、なのはの耳に聞き覚えのある音が聞こえてきた。何処となく懐かしい音源だった。そう、毎朝欠かさず見ていたあの音源だった。
 ちらりと外の光景を見つめる。外は生憎の雨だが江戸の町が明るく照らされている。即ち、今は朝と言う事になる。
 そして、今日は平日。平日の朝に欠かさず見ている物―――

『不思議魔女っ娘ととこちゃん、はっじまっるよ~~~』

 ビクッ!!
 思わず全身に電流が走った感覚を覚えた。そうだ、毎朝平日の7時にやるアニメと言ったらこれだ。なのはは物心ついたころからこのアニメに嵌ってしまい、以降毎朝これを見るのが日課になってしまったのだ。
 その為に、毎朝昼寸前まで惰眠を貪る銀時はその犠牲となってしまったのは言うまでもない。
 そうと分かれば居ても立ってもいられず、音のする部屋の扉を開いた。今回は壊さないように細心の注意を払いつつゆっくりと扉を開く。
 部屋の中は正に別世界と呼べる代物であった。壁一面に不思議魔女っ娘ととこちゃんのポスター。天井にはブロマイド。床には絨毯。その他ととこちゃん関連のグッズが所せましと置かれている。
 なのはにとっては正しく理想郷とも言えた。ととこちゃん好きにとっては何もかも喉から手が出る程欲しい代物ばかりであったのだ。
 しかも、テレビでは今現在放映中の不思議魔女っ娘ととこちゃんが上映されている。それも今日放映される話であった。

「うふぉぉぉぉう! これはまるで別世界じゃん! しかも、どれもこれも私が欲しかった物ばっかりだし!」

 マグカップ、テーブル、食器セット、枕、その他諸々……
 どれもこれもなのはが欲しいと父銀時に懇願したのがが結局買って貰えず諦めた代物ばかりであった。
 因みに買って貰えなかった原因と言うのが値段云々と言うのもあるがあれを赤の他人が発見し変な噂を持ち込まれたくない。と言うのがそもそもの原因だったりする。

「あ! これはアニメ上映100回記念に数量限定で生産された超レア物の奴で、そんでこっちのは視聴率45%突破記念に製造されたすっごい貴重な奴で、そんでこっちのは―――」

 一体何処にそんな知識があるのか甚だ疑問ではあるが、とにかくなのはの大好きな不思議魔女っ娘ととこちゃんグッズに囲まれて現在進行形でなのはのテンションは天井を突き抜ける勢いまでに上昇をしていたのであった。
 
「あ~、まるで夢みたい~。はっ! まさかこれは夢? 嫌、まさかそんな……でももしかしたら、いやいやいやまさかそんな……」

 不安と疑念の入り混じった感情で勝手に困惑しだすテンションうなぎ登り中の9歳児。何を思い立ったか自分の頬を思いっきり抓って見る。
 無論、そんな事すりゃ痛いのは確実であり、気が付けば目から涙が流れ落ち、抓った個所の頬は赤く変色していた。

「夢じゃないぃぃぃぃ! これは現実なんだぁヒャッホォォォ! それじゃ、このマグカップとか食器セットとかはこの際諦めるとして、その他のグッズはちょっと位拝借しちゃっても大丈夫かなぁ? う~、う~、どれにしよう……」

 口からはよだれを垂らし、目を血走らせる某何処かの魔法少女アニメの主人公だった筈の9歳児。とても世間にお見せできる顔じゃないのは言うまでもない。正直これが小説であって本当に良かったと思っちゃったりしちゃってます。
 そんな時であった。なのはの側頭部にとてつもない存在感を放つものがあった。その存在感を放つ物の方へと視線を移す。
 其処には、白い服が立てかけられていた。ただの白い服ではない。何処となく見覚えのある服装だった。そう、これこそ不思議魔女っ娘ととこちゃんの戦闘服その物なのである。
 ちなみに、そのととこちゃんの戦闘服となのはが魔導師化した際に着用したバリアジャケットが酷似している点については専門家に聞いてみて欲しい。

「こ……こここ、これははははぁぁぁ! あの幻の『不思議魔女っ娘ととこちゃん変身スーツ』巷のおもちゃ屋とかには絶対売ってない非売品で、前にお父さんに買って貰おうと何十回も頼んだけど結局買ってくれなかった幻の一品。それが、今目の前にぃぃぃぃ!」

 最早キャラ崩壊通り越してあんた誰? 状態にまでなってしまった。こうなるともう修正不可能みたいだし、折角なのでこのままもう少し精悍してみるとしよう。

「き……着たい! 着てみたい! いや、でも待つんだよ私、これは明らかに誰かの所有物。それを私が勝手に着ちゃダメだよ常識的に考えて……でも、着たい! 出来ればこれを着てポーズとか決めたい! いや、だめだめだめ! そんなことしたらダメだって……でも着たい!」

 欲望と理性の狭間で苦しみながら右往左往しだす少女。その様は余りにも不可思議かつ不気味な光景であった。まぁ、幾ら理性を働かせようと若干9歳児の理性などたかが知れているのであり―――

「もう我慢できない! 着たい、今すぐ着たい! こうなったら、えぇい! ままよぉぉ!」

 最早考えなど捨てた。後は本能に従うのみ。と言いたげになのはは壁に掛けられていた例の服に手を掛けた。




     ***




「全く、困りましたねぇ貴方には。よりにもよって鍵を掛けた挙句扉を壊してしまうなんて」

 通路を歩きながら横目でちらりと見つつ、武市は呆れた風な声を挙げていた。その横で、どうにか解放されたまた子は肩をぐるぐる回しながら武市の愚痴を耳が痛そうな顔で聞いていた。

「わ、私のせいじゃないっすよ! 朝になって扉を開けようとしたらあぁなってただけっすよ!」
「だからその時点で貴方が壊したんでしょ? この猪女が、だから貴方には女としての魅力が感じられないのです」
「武市先輩はただのロリコンでしょうが」
「だから言ってるでしょうが! 私はロリコンじゃなくてフェミニストなんです! ただ小っちゃい女の子が好きなだけなんですよ私は」
「それを世間じゃロリコンって言うんすよ先輩」

 痛い所を突かれたかと思われたが当の本人は全く顔色が変わってない。と言うかこの顔色をどうやれば変えられるのか正直凄い気になったりする。

「やれやれ、相変わらず貴方は口やかましいですなぁ。っとと、こんな事をしている場合じゃないんでした。急がないと」
「どうしたんすか? そんなに急いで」
「いやぁ、今日の朝に私の大好きな不思議魔女っ娘ととこちゃんが始まるんですよ。あぁいけない! 見逃したら大変だぁ。ま、こんな事もあろうかと録画してるんですけどね」
「あんた、やっぱりロリコンっすね」
「だからさっきも言ったでしょう―――」

 言葉を述べながら自分の部屋の入口のノブに手を掛ける。

「私はロリコンじゃなくてフェミニストなんです―――」

 自分自身のあり方を必至に論じながらマイルームへと足を踏み入れる。其処には武市自身が必至になって集め続けたととこちゃんグッズが所狭しと並べられており、テレビには丁度今放映したアニメが終わったらしく、その部屋の真ん中にて不思議魔女っ娘ととこちゃんの変身スーツを身に纏いテンション高めでポーズを決めまくるなのはの姿が其処にあった。

「あ!―――」
「あ!―――」

 互いに目と目が合うなのはと武市。そしてその後ろにてどの様に会話を切り出そうか困りだすまた子。一瞬にして場の空気が凍りだす。
 徐々になのはの顔が青ざめだしていく。まぁ、人様の家にて人様の持ち物を勝手に拝借したのだからそんな事したら怒られるのは必然的なのだから。
 だが―――

「す、素晴らしい!! まさかあの不思議魔女っ娘ととこちゃん変身スーツを見事に着こなす逸材がこんな近場に居たとは!」

 ところが、怒るどころかなのはと同じようにテンション右肩上がりに大いに喜びだす。
 そして、なのはの両手を硬く握り締めて大粒の涙を流しながら感動の意を示していた。

「有難う。この変身スーツを着こなす逸材を探し回っていたんですよ。まさかこんな身近に居たとは……有難う、本当に有難う」
「もしかして、これ叔父さんの部屋?」
「えぇ、そうですよ。私はこう見えて生粋のフェミニストでしてね。こうして人知れずグッズを集めていたんですよ」

 胸に手を当てて自信満々に語る武市。果たしてそれが世間的に自慢して良いのかどうかはこの際置いておく事にしておく。

「何自慢げに語ってるっすか? あんたなんかどっからどう見てもただのロリコンじゃないっすか」
「あ~はいはい、年増さんは黙ってて下さいね。今大切な時間なので」
「一辺脳天撃ち抜いたろうか?」

 拳銃を手に取り銃口を向けるが武市は一向に気にせずになのはに夢中になっていた。

「ねぇねぇ、それじゃ叔父さんもととこちゃん好きなの?」
「勿論ですよ。このアニメは私のフェミ魂をくすぐる名作なのですよ!」
「フェミ魂とかフェミニストとか良く分からないけど、私もうれしいよ! このアニメが好きな人が居るなんて。それにこんなにグッズとか集めてるんだね?」
「むぉぉちろんです! あ、そうだ。折角だしもっと私の秘蔵のコレクションとか見ます?」
「あ、見たい見たい! どんなのがあるの?」

 すっかり武市と意気投合してしまったなのは。その光景を遠目から見つめていたまた子に最早言葉はなかった。あるのはただただ、深い溜息をつくばかりであった。

「はぁ、類は友を呼ぶって奴っすかぁ? まさかあの武市先輩とガチで語り合える輩が居るなんて……ん?」

 ふと、また子はなのはの髪が乱れている事に気づいた。そう言えばなのはの髪は岡田によって無造作に毟り取られたまま何の手入れもしていない状態なのだ。乙女としてこれは非常に不味い。
 それに、彼女は高杉晋介の大事な客人だ。その客人があんな不恰好では示しがつかない。
 仕方なく、また子は懐から愛用のくしを取り出すと、背後からなのはの肩を掴み後ろへと引きずり出した。

「うえぇぇぇ! なになになにぃぃぃ!?」
「じっとしてるっすよ。全く、女の子がこんなぼさぼさの髪でどうするっすか?」

 見ていられなかったのだろう。また子は慣れた手つきでなのはの乱れた髪を綺麗に整えていく。最初はなのはも驚き暴れまくっていたのだが、次第に落ち着き、遂には完全に安心しきったのかまた子に身を任せる感じになっていた。

「あ~~~、何か良い気持ち~~」
「ただ髪を整えてるだけっすよ。あんま変な声出さない方がいいっすよ。でないと目の前に居るロリコンが変な事しそうになるっすからね」
「だから私はロリコンじゃなくてフェミニストですって言ってるでしょうが!」

 何度も必死に弁解しようと、また子の中では武市はロリコンでしかないのであろう。この事実は揺るぎない事でもあったりする。

「うし、こんなもんすかね?」

 そうこうしている内に髪の手入れが終わり、そっとなのはに鏡を手渡す。其処には、今までのツインテールな髪型から一変し、ショートな髪型へと変わっていた。分かりづらいと言う人は、ゲーム版の黒い人を連想して貰いたい。それとほぼ同じ感じなので。

「わぁ、良いかも。これ凄く良いかも。お姉さん有難う!」
「ま、まぁ……髪の手入れは女の嗜みっすからねぇ」

 満面の笑みで礼を行って来たなのはに対してまた子は頬を染めながらそっぽを向いた。予想していたよりもキュンとなってしまったのだろう。

「いけませんよまた子さん! 貴方がそんな感情を抱いてしまってはいけません! 私のフェミ道がけがされてしまうじゃありませんか!」
「黙れロリコンが! それにこの子は晋介様の大事な客人なんす! 絶対あんたの毒牙に何て掛けさせませんっすからね!」
「毒牙じゃありません。フェミニストです!」

 互いに激しい言い争いを始めてしまう武市とまた子。そんな二人の間で板挟み状態になってるなのははふと、上の空になっていた。

(皆、どうしてるんだろうなぁ……)

 なのはの脳裏に映る仲間達。万事屋銀ちゃんの仲間達。新八、神楽、定春、そして銀時。
 彼らは今どうしてるだろか? きっと丸一日居なくなったせいで皆心配しているかも知れない。
 特に父銀時に至ってはきっと血眼になって探し回っている筈だ。そう考えると、少し罪悪感を覚えてしまうなのはであった。




     つづく 
 

 
後書き
ふと思ったが、この小説のなのはは敵味方関係なく友好な関係を築けるスキルをお持ちなようで。
その代わり中々戦闘に出せずにいるので読者の中には変な誤解をお持ちの方もいたりして。
ま、それも二次創作の面白さって奴か。 
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