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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百三十八話 違和感

 
前書き
はい、どうもです。

さて、今回はつなぎの一話。

此処からMRの肝となる部分に入って行きますので、少し怖かったりします。

では、どうぞ! 

 
正月休み等の長い休みが終わると、必然的に多くの人間は休みより朝が早くなる。朝からやることが既に沢山あるからだ。いや寧ろ、朝は一日の内で一番忙しい時間帯だと言う人も、世の中には少なくあるまい。

桐ヶ谷家も例に漏れず、朝は忙しい。
と、言っても、直葉や涼人は元々朝が早い人間なので其処まででは無いのだが……
さて、この家の朝は、先ずその日の家事担当が前日の洗濯物を洗濯機にかけるところから始まる。今日の担当は涼人だ。

「おーらよっ」
カゴの中の洗濯物をドカドカと洗濯機にぶち込みつつ、手元で洗濯機のスイッチを入れる。重量の計測によって水や洗剤はセットされている物を自動的に入れられる仕様なので、行う操作はスイッチを入れるだけだ。

「こうして、人間の行う仕事はますます減るのであった……」
その内ほんとに人類が全ての仕事をせず暮らせる世界とかくるのではあるまいか。そんな事を考えていると。

「わー!待って待って待って~!」
「……お前懲りろよいい加減に!前回から二週間経ってねえんだぞ!?」
聞こえた声と共に洗面所に飛び込んで来たのは直葉である。小脇に抱えて居る物を見るに、どうやらまたしても洗濯物を出し忘れたらしい。

「ごめんごめん、つい」
苦笑して言いながら、直葉は洗濯機に駆け寄り、狭いその部屋で辺りをキョロキョロと見回す。その目は真剣、強いて言うならALOで不意打ちを警戒するリーファその物だ。

「……なにしてんのお前?」
「りょう兄ちゃんの仕掛けた罠を警戒してる、何時まで中に居るの!ほら出た出た!」
「お、わっ、とっ」
言いながら直葉は涼人の背中をどすどす押して洗面所の外へと叩き出す。

「よーし……」
辺りをひとしきり見回して、タオル置きの棚や洗面台の下の予備の洗剤入れまで確かめると、直葉は腕組みしてフフンと息を巻いた。そうして持ってきた洗濯物をぽいぽいと洗濯機に投げ入れ始める。その様子を見て、呆れたように涼人が口を開いた。

「スグさんさぁ……だからいい加減投げ入れるの止めれば?」
「やだ、前も言ったけど、負けた気するし!私は勝つまでやるの!」
「あぁ、そう」
直葉の返答に一体いつから勝負になったのかと涼人が考えていると、直葉が例のブラジャーを投げた、その瞬間……

「んじゃ、もうしばらくは続けることになりそうな」
ニヤリと笑って涼人が言った。パスっと小さな音と共に突然空中に現れた細い糸と、その先に付いたプラスチック製のフックに直葉のブラが引っ掛かり、宙を漂いながら持ち去られて行く。

「な、ん……」
「ほっ。おっし成功!」
空中を移動したブラはあっという間に涼人の元へとたどり着き、その手に収まり涼人は嬉しそうニヤリと笑う。

「な、なにそれ……」
「ん?お、これか?」
直葉は涼人の方を指さして言った。ただし、彼女が指差しているのは涼人自身でも、まして自分のブラでも無い。そのブラを涼人の方へと持ち去った物体。丁度某有名漫画の空を飛ぶための竹トンボ染みたフォルム……と言っても、二枚羽では無く四枚羽に、明らかに軽そうなシャープなフォルムの飛行物体だ。プロペラの下に超小型のモーターとバッテリーが付いて居て、それによってかなり全体的にも軽量化がなされている。
更にその下に、銀色の細いワイヤーとフックが付いて居た。ただしフックはプラスチック製であまり鋭利には尖って居ない。その辺り、釣った物を傷つけない意図なのだろう。

「これはだな、カズに手伝ってもらって俺が久々に制作した、[俺式ボット]の久々の最新作!その名も、[プロペラフック壱号]!!」
『わぁ、名前そのまんま……』
直葉が内心で突っ込みを入れている間に涼人は説明を続ける。

「ニ週間前はまだ完成して無くて間に合わなかったけどよ。正月休みの間にコツコツやって完成したんだこれが。ちなみに、お前さんの今日の敗因はだな、先ずこれの存在を知らなかった事」
「知るわけないでしょ!?」
「次に俺にボディチェックをしなかった事」
「え、何、洗濯機に洗濯物入れるのに其処までの警戒しなきゃいけないの!?」
「最後に、頭上に気を配らなかった事な。だから何時も言ってんだろ前後左右だけじゃなくて上下も気にしろって。お前今回下には気ぃ配ったけど、一番大事なのは上だ上。人間の一番の死角だからな頭上は」
「ALO内でならまともに受け止めるご忠告どうも!!」
次々突っ込んでぜーはー言っている直葉に、すまし顔で涼人がとどめとばかりに一言を言った。

「ま、これでまた仕掛けの幅が広がったな。次はなに作っかな~」
「ニ週間も使って何してんのよこの馬鹿ァ!!!!」
「あ、ちょま、木刀は流石にホント死ぬ……ごふぉぁ!!」
鈍い音と涼人の悲鳴が直後に上がったのは、言うまでも無い。

────

「今日の夕飯の要求はラビオリだってよ。どこで覚えたんな料理……つか、専用の生地なんか売ってんのかよ面倒くせぇ!」
「いや兄貴が悪いから、てか、なんで俺が手伝ったって言うんだよ!お陰で今日竹刀で起こされかけたんだぞ!?」
「躱したんだから良いだろうが。いやさすが、殺気に敏い!」
「馬鹿にしてるだろ!?」
言いながら学校までの道のりを歩くのは、涼人と和人だ。この二人が一緒に登校する頻度と言うのは、まぁまちまちである。ちなみにだが大体別れて登校する場合は、涼人の方が遅い。

「まったく……ま、それなら今日の夕飯は期待させてもらうよ」
「手伝ってくれても良いんだぜ~」
「丁重に遠慮させてもらいます。足手まといだろうし」
「にゃろうめ」
コツンと涼人が和人を小突き、二人は校門を通過する、と……

「ん、お、明日奈~」
「…………」
校門の向こうに見慣れた栗色の髪の後ろ姿を見つけて、涼人は片手を上げて声を上げる。が、明日奈と思われるその少女は全く反応する事無く、何処か覇気の無い足取りでトコトコと歩いて行く。

「……ん、あら?別人か?」
「いや、明日奈だよ。間違いない」
「はは、お前が言うなら違いねぇ」
だとすると聞こえなかったか、音楽を聴いていたりするかのどちらかだろう。彼女が登校中にイヤホンを付けている姿を見た事は無いが、まぁどちらでも良い。

「おーい、明日奈さーん」
「…………」
「……あらっ?」
今度はより近くで、より大きな声で言ったのだが……無視された。と言うより、気が付いていないような……?

「明日奈?なぁ、大丈夫か?」
「ふぇっ!?あ、き、キリト君!?お、おはよう……!」
「あぁ、うん。おはよう」
「おーっす、なんだなんだ、二度も声掛けたんだぜ?」
「えぇっ!?ご、ごめん。気が付かなかった……」
涼人が言うと、明日奈は驚いたように目を剥きぺこぺこと頭を下げる。どうやら本当に全く気が付いて居なかったらしい。

「おいおい何だよまだ正月ボケか?それとも二日前の勢いの反動ですか……っと」
「ち、ちがうよー!」
肩をすくめて笑う涼人に焦ったように明日奈は否定した。その様子にますます笑いながら、涼人は先に歩いて行く。

「俺先行くわ、後でなカズ」
「あぁ」
そう言いながら飄々とした様子である居て行く涼人の背中を見ながら、明日奈は何処となく安心を。和人は内心で、感謝を感じていた。

「なぁ、明日奈……何かあったのか?」
「えっ……?」
後ろに聞こえる声を聞きながら、立ち去った涼人は呟く。

「……やれやれ、単純な話だと良いがな……」

────

「ほれ、終わったぞ会長」
「ん、お疲れ」
完成したデータをそのまま杏奈のパソコンに送ると、軽く目を通した杏奈が頷く。

「いいわ。これで今日の分は全部よ」
「ふー……ったく何で新学期早々仕事があんだよ……」
「私に聞かれてもね。あるものはあるんだから仕方ないわ」
言いながら、杏奈は持参したポットからコーヒーを注いで一息をつく。と、不意に生徒会室の扉が勢いよく開いた。

「ただいまー!買ってきたよ~!あ、おわった?」
「おーう。何とかなぁ」
「ま、副会長パシったんだからその分は働いて貰わないとね」
部屋に小走りで飛び込んで来たのは、副会長の美雨だった。彼女は杏奈の言葉にニコリと笑うと、手に持った缶ココアを涼人に手渡しながら言った。

「さっすが!私もお使いしてきた甲斐があるねぇ。はい涼人くん!ご褒美!」
「はいはいThanks.パシったってお前な、こん中で一応一番働いてんの俺なんだから良いだろこんぐれぇ」
「あら。なら労いの意味も込めて私の特性コーヒーをあげても良かったのよ?“子供舌の”会計士さん?」
「要らん、ったく……」
クスリと笑いながら悪戯っぽく言った杏奈に、涼人はしかめっ面で答える。
杏奈はその様子に満足げに澄まし顔を作ると、椅子に深く腰掛けて一息つく。

一瞬の静寂が場を包み……

「仲良しだねぇ」
「「ないわよ(ねぇよ)!!」」
打ち合わせたように息ぴったりの突っ込みが入った。

――――

「そういえば、ねぇ、涼人くん」
「あ?」
そのまま一悶着あってようやく再び一息吐いたとき、不意に美雨が口火を切った。

「今日さ、明日奈ちゃんに会った?」
「明日奈?あぁ、今朝会ったな、校門で」
それが?と言うようにココアを飲みつつ美雨を見た涼人に、美雨は少し迷うように首を傾げた。

「そっか。うーん……ねぇ、今日の明日奈ちゃん何か変じゃなかった?」
「あん?」
「あら……美雨もそう思った?」
「あ、やっぱりアンも?」
やや自信なさげに言った美雨に、杏奈が興味深そうに言って二人が目を見合わせた。

「なんだか変だったよね?何時もより上の空って言うか……」
「えぇ。普段の結城さんにはもっと明るさがあるけど、今日は奇妙な程それを感じなかったわね……」
「…………」
真面目な顔で話し出す二人に、涼人はカリカリと頬を掻く。と、二人の顔が涼人に向いた。

「「で?」」
「……で?って……なんだよ」
ココアを呑みながらもまるでコーヒーを呑んだように渋い顔をしたリョウに、杏奈が言った。

「桐ケ谷君も会ったんでしょ?何か感じた所はあったんじゃないの?」
「……さて、な」
「あー、誤魔化してる」
肩をすくめて言った涼人に、美雨が不満そうに頬を膨らませて顔を覗き込んで来る。面倒そうに唸って、涼人はすぐに顔を逸らした。

「あのな、オレ個人の印象でどうこうこの場で言ってどうすんだよ。特に明日奈の現状が変わるわけでもあるまいに」
「だってー」
「まぁ、どうこう成るとか、成らないとかはともかく、彼女の心配をしておく事は悪い事じゃないんじゃないの?」
「むぅ……」
そう言った杏奈に、涼人が唸る。
実際の所、彼女が言っている事は正論だ。何も彼女をネタにして笑おうと言っている訳ではないのだ。純粋な心配でなら、話し合っておくことにも価値はあろう。
少し息をついて、涼人は杏奈を見た

「やけに今日はこだわるな」
「まぁ、ね。ちょっと気になってるのよ。ほら、あのギルドの子達の援護したでしょ?あの事と関係あるんじゃないかって」
「うん、ちょっとタイミングが近過ぎたもんね……」
「ふむ……」
彼女達の言いたい事も分かる。リョウ自身も、アスナの意気消沈が例のギルドの一件以降である事は少し気になって居た。ただ……

「攻略は成功した筈なんだよな……」
「そこよね、失敗したとかならともかく、何で成功して覇気が無くなるのかが分からないわ」
「うーん、狙ったドロップが来なかったから?」
「そう言う事情じゃないでしょう?今回の彼女達は」
其々首を傾げながら言っていると、不意に校内放送のチャイムが響いた。

『えぇ~、最終下校時刻に成りましたぁ。生徒の皆さんは速やかに下校してください』
「ん、もう、か……とりあえず、今日は此処までにしましょう。先生にも迷惑だし」
「は~い」
「ん、おう」
杏奈の一言で、涼人や美雨は帰り支度を始める。
自身のUSBやワイヤレスマウスなどをカバンの中にぶち込みながら、涼人は少しだけ頭を掻いた。

────

「うっ、し」
鍋の中身を軽く小椀に移して啜り、リョウはニヤリと笑う。場所が場所なら相手に威圧感を与える其れも、エプロン姿で、キッチンに立ったまま言っては、唯の得意げな料理青年である。

「あー!できたー?」
「おう。さてと、スグ、お前カズ呼びに行くのと此処で飯よそうのどっちが良い?」
「んー、じゃあご飯分けとく。廊下寒いし……」
「運動部が何をへこたれた事を……んじゃよろ~」
言いながら涼人はエプロンを脱ぎ、手をヒラヒラトふりながら涼人は階段を昇っていく。和人の部屋の前まで来ると、涼人は数回のノックをする。が、返事が無い。

「ただの屍のようだ~っと、カズ、おーい、開けるぞ~」
直葉(じょし)の部屋ならばともかく、和人(だんし)の部屋となるとお構いなしに涼人は侵入する。直葉も女子かどうかは正直微妙だと涼人は思っているのだが、そう言う時だけは女子化するのだあの妹は。

「HEY、メシだぞ。何してんだ少年」
「ん?あぁ、兄貴か。って、ノックくらい「したぞ」ありゃ?」
パソコンの前で何やら唸っている和人に、涼人は近寄る。彼が見ている画面には、とある病院のホームページが表示されていた。

「?何だお前、風邪でもひいたのか?」
「そう見えるか?」
「いや全然」
苦笑する和人に笑いながらそんな事を言う。和人は頭をポリポリと掻くと、椅子に深く腰掛け、画面を見た。

「今日のアスナの様子さ、気が付いたか?」
「まぁ、な。てか俺だけじゃねぇ。風巻も天松も気が付いてたぞ?」
「はは、やっぱりか」
苦笑しながらそんな風に言う和人は、少し困ったような顔をしながら続けた。

「絶剣が、居なくなった」
「あぁ?居なくなったってお前、ALOからか?」
「うん。けどその居なくなり方が何て言うか……妙でさ」
「妙?」
「あぁ」
頷き、和人は少し視線を鋭くした。

「絶剣さ、アスナを[姉ちゃん]って呼んだらしいんだ」
「…………!」
「それで、其れをアスナが彼女に指摘した直後にログアウトしたらしいんだ。泣きながら」
「……そりゃあまた、恥ずかし過ぎて、ってわけでもなさそうだな」
「それなら話は単純なんだけどな……以降、一度もログインして無くて、連絡も取れないらしい」
「ふむん……言うて、ログアウトしたままインして無い位なら、一日くれぇ普通だよな?」
「あぁ、けど……明日奈曰くどうしても気になるって話でさ」
後ろ手に頭を掻きながら、涼人は小さく息を吐いた。

「で?んじゃその病院はあれか。メディキュボイドを使ってる……」
「あぁ。日本で唯一の臨床実験施設だ」
「ふぅん……」
小さく行った涼人が、画面に表示された病院の名を見る。[横浜港北総合病院]、画面の右上には、妙に整った字で、そんな名が表示されていた。

「…………」
『おにーちゃーん!!まだー!?』
と、不意に階下からそんな声が聞こえて、和人が振り向きながら言った。

「おっと、兄貴、行こうぜ」
「ん、あぁ」
パソコンをシャットダウンして立ちあがった和人の後ろを、涼人は付いて行く。と……

「……なぁカズ」
「うん?」
ふと立ち止まり、涼人は和人を呼びとめる。振り向いた彼に、涼人は親指で頬を掻いて言った。

「お前、病院の事明日奈に話すよな?」
「……あぁ、そのつもりだけど……反対?」
「いや。それ自体には、ただ……な」
其処で涼人は、言いにくいように首をかしげつつ俯く。そんな珍しい涼人の様子に、和人は若干驚いたように言った。

「……?なんだよ、珍しくはっきりしないな」
「……だな。んじゃはっきり行くか」
和人の言葉に自分でも可笑しいと感じたのか、苦笑しながら涼人は顔を上げる。そうして、真っ直ぐに彼を見ると、調子を戻そうとするようにはっきりとした声色で言った。

「その話、ちょっと俺にも噛ませろ」
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

原作だと描かれていなかった、ナイツとのボス戦と病院シーンの間の三日間の話ですねw
物語の流れや雰囲気も、此処からは少し変わり始めます。

ではっ! 
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