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俺の名はシャルル・フェニックス

作者:南の星
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雷光と不死鳥

「ふにゃぁ……やっぱり人間界はいいわね。娯楽がたくさんにゃん♪」

「ういうい。くろちゃんわかってるねー」

「お日様があると……ぽかぽか、気分がよくなる」

「お手玉難しかった。
白雪ちゃん凄い」

今日は黒歌、白音、理子、恋の四人と白雪のいる星伽神社の分社に遊びにいっていたのだ。

まぁ、ついでというか本題は"姫島"について調べてもらっていたのでその結果を聞きに来た。

流石は星伽だ、と報告書を見て思った。

何故なら、バラキエルと駆け落ちしたから姫島と殆ど縁を切ってるはずの朱璃さんの居場所が分かったのだから。

白雪に何故調べるのか聞かれたので言い訳をするのに気を使ったのがかなり大変だった。

まぁ、原作知識あるんだ、とか言えねぇしな。

だから、眷属探しって言っておいた。

まぁ、そのあと色々と悶着があったが、「俺の女王(クイーン)は白雪、てめぇだ」という一言で撃沈させた。

まぁ、元からそのつもりだったしな。

因みに恋は戦車、黒歌は僧侶、理子は兵士を使う予定だ。

さてと、居場所も分かったことだし、あとは襲撃があるまで監視……ってクソ大変そうだな……

何て言ったってドMでも一応戦争を生き残った堕天使の幹部だ。

まず、今の強さなら、ここにいる全員でかかっても瞬殺される。

俺だって同年代くらいなら強い自信はあるが、経験が違いすぎだ。

まだ勝てねぇ。

それくらいは分かってるからな。

だから、バレない距離から安全に見張る必要がある。

幸い姫島家が有るところは堕天使の領域ではない―もし堕天使の領域なら堕天使が姫島家襲撃時に助けにはいるだろうから―みたいだからあそこにいるだけで即抹殺とかはないだろう。

本当に嫌な立ち回りだねぇ。

考えることがありすぎる。




3年がたった。

そして俺は全力で飛行してる。

姫島家襲撃が迫ってるのだ。

兆しはあった。

そのために使い魔の監視をつけていたのだから。

そしてそれを察知してから行っても十分に間に合う筈だった。

監視をしてる使い魔には時間稼ぎ程度なら戦闘ができる奴をいれてるのだから。

けれどタイミングが悪すぎた。

ちょうど婚約についての顔合わせをしていたのだ。

相手は伯爵家のご令嬢(歳上)。

例え大侯爵家であるフェニックス家出身だとしてもたかが四男坊、しかも純血という付加価値もない俺にしてはいい婚約相手だ。

まぁ、婚約はご破算にする予定だが。

そして何故遅れるはめになったか。

いずれご破算にするなら抜け出してもいいじゃないか、と思うがそうも言ってられねぇ。

フェニックス家の面子がかかってることもあるし、親父様が逃げ出さねぇように見張ってたためだ。

そこから逃げ出すことは一応可能だった。

けれど俺はしなかった。

何故ならそんなことをしてしまえばフェニックス家を放逐されてしまうからだ。

ただでさえ、黒歌達の件と人間である理子と恋を連れてきたこと、白雪をスカウトしてることで睨まれているのだ。

次なんかはねぇ。

一応、フェニックスの宝涙の製作者であることと"鬼才"だから、首の皮が繋がってるに過ぎねぇ。

もし放逐されたとなると俺は四人を養いながら、生活しなければならなくなる。

はっきり言って無理だ。

だから、俺は朱璃さんよりも仲間を選んだ。

俺はその選択に後悔はしないだろう。

絶対に。






姫島家へと辿り着いた。

そして――

「母さまぁぁぁぁっ!」


絶叫が聞こえた。

チッ!使い魔が殺られたか……

けれど、まだだ!まだ間に合う!

俺はそのまま急降下し、部屋へと飛び込む。

目の前にはこちらに背を向けた大人達が。

「邪魔だ!」

手から炎の塊を出し、数人の頭へとぶつける。

室内だから火事の原因にならないように気を使うぜ。

そして空いた隙間を縫うようにして飛ぶ。

見えた。

朱璃さんの体の側で茫然としてる朱乃の姿が。

持ってきたフェニックスの宝涙を素早く朱璃さんの体に撒き散らす。

「これをてめぇの母親の傷にかけろ!
そしてあんまこっちを見んな!
わかったな!」

宝涙を2瓶ほど朱乃に押しつけ返事も聞かずに俺は大人達の方へと向く。

「……フェニックス…………悪魔か!?」

「悪魔が何故ここに!?」

俺の突然の登場に驚愕の声を上げる。

隙をありがとなド三流ども。

「ただ通りすがっただけだ。
んじゃ、燃え果てな!」

目眩ましに弱めの炎を大人達の頭部へと放つ。

そして羽を羽ばたかせ、大人達へと肉薄する。

「ハッ!こんなショボいほ――ぐぺっ!?」

嘲笑われたことに苛ついたので腹を思いっきり蹴っ飛ばした。

二人も巻き込んでぶっ倒れたのでそのままのし掛かり片手に留めていた炎で心臓を抉る。

多対一なのだ。

必ず戦闘不能にするにはこれしかない。

ついでに押し倒された大人二人のも抉っておく。

これで3人。

敵はあと4人。

「よくもぉぉぉ!」

すぐ近くにいた大人が斬りかかってくる。

俺は再び羽を羽ばたかせ避け、他の3人にさっきより強めの炎を放ち牽制する。

そして返す刀で再び斬ろうとしてくる敵の目に小さな炎を放つ。

敵は本能的に攻撃よりも炎を避けようと行動をとる。

その隙に蹴りをいれ、外に飛ばす。

追い討ちで焼け死ぬほどの高温の炎を放ち、3人へと向く。

外にいるなら燃やす心配をしなくて済むからな。

背後から断末魔の叫びと肉が燃える音が聞こえた。

「……化け物……」

そう3人のうちの1人が呟いた。

確かに俺は化け物さ。

だから、情け容赦はしねぇ!

両腕に炎を燃焼させる。

「……どうだ?
こんな子供に好きなようにやられる気分は」

ゆっくりと歩み寄る。

ズズッと3人の敵が後ずさる。

顔面は蒼白だ。

恐怖で震えている。

「……さみいなら、暖めてやろうか?
熱くするのは得意だぜ?」

「ヒッ……!」

敵が情けない声を出し、もう1歩後ずさろうとした時、大きな体躯をした10枚の黒き羽を持つ男が一瞬にして刈り取った。

プシャァァァッ!!とタイミングを逃した血飛沫が上がる。

作戦成功ってか……

だいたい4人目を殺したくらいから来ていたのだ。

バラキエルが……

だから、俺に注意を引き付けて最後の締めは譲ってやった。

それにしても……これは……

ツゥーッと額から汗が垂れる。

こえぇ、素直にそう思った。

濃密な殺気、そして圧倒的なまでの強者の雰囲気。

本気を出して、全力を出してもたぶん分の壁を超えることなく俺は死ぬだろう。

目の前の相手が全力で殺しに来たら。

俺はまだまだ弱い。

あそこまではまだ至れてはいない。

「朱乃を助けてくれて感謝する。
フェニックスの子よ」

バラキエルが俺を見た。

心臓を捕まれたかのような錯覚がした。

「いえいえ、俺は通りかかっただけなんでね」

そうか。"朱乃を"か。

でも一応駄目元で聞いてみよう。

「母親の方は……」

バラキエルはゆっくりと首を振った。

フェニックスの宝涙でも駄目だったか。

「そうっすか……」

原作通りに事が進むことになるな。

はぁ、何なんだよ。

このモヤモヤは……

「じゃあ、俺は行きます。
悪魔なんで」

羽を羽ばたかせその場を去った。

そして途中で敵が集まっていた場所で使い魔たちの死骸を回収する。

まだ使い魔にして1年もたってない奴らだ。

けれど、俺なんかを主としてくれたいい奴らだった。

無駄死にさせちまった。

不甲斐ない主で済まねぇ。

ちゃんと供養はするぜ。

さて、朱乃についてどうしようか。

何故か会いたくない。

せめて原作開始、いや、リアスが眷属に迎えるまで会わない。

けれど一応黒歌に頼んで黒歌の使い魔を3匹ほど監視につけて貰おう。

そして何かがあったらかげながら助けに行く。

その方向でいこう。






フェニックス家の庭の誰も来なさそうな場所に使い魔達の墓をつくった。

木と石で造った簡素な墓だ。

今はこれくらいで許して欲しい。

またちゃんとしたのを造ってやるからな。



最後に花を供えて墓を後にし、別邸である我が家に帰ってきた。

使用人はいない。

飯は作りにきてくれるが、それ以外は5人だけで暮らしてる。

水でも飲もうとキッチンに向かうと、途中にあるリビングに4人はいた。

どうやら、トランプで遊んでいたらしい。

「……おかえり」

「おっかー」

「おかえりにゃん」

「おかえり」

「ん。ただいま」

「おー?どったの?顔真っ青さおだよぉー?」

「ちょっとな。疲れたから先寝るわ。
飯要らねぇから食っとけ」

理子に手をひらひらさせて適当に返事をしてキッチンへ行こうとするが、黒歌に呼び止められた。

「待つにゃん。
ちょっとこっちにきなさい」

嫌とは言わせない、そう言った物言いだったから、嫌々頭を掻きながら黒歌の座るソファーへと足を進めた。

「何か用か?」

つい語気を荒げてしまう。

そんな気はねぇんだがな。

調子がわりぃ……

「ここに頭をのせて寝なさい」

黒歌はトントンと自分の太股を叩いた。

嫌がる理由もないし、逆らうと後々面倒そうなので指示に従う。

おい、理子、顔がにやけてるぞ。

むにゅっとした柔らかさが――とかそんなことはない。

一応黒歌は歳上だが、精々10代になるかならないかくらいの年齢だ。

柔らかいには柔らかいが、そこまでの肉感はない。

「んで、何がしてぇんだ?」

訳がわからねぇ。

何で俺に膝枕をしてんだ?

「シャルは私たちを助けてくれたわ。
恋も理子もそうだって聞いた。
今も私たちが暮らせるように頑張ってくれてる。
でも、私達はシャルに何も返せてないの。
だから少しはお姉ちゃんに甘えて欲しいにゃ」

ぱちっと黒歌がウィンクをする。

そして頭を撫でられた。

撫でたのは黒歌ではなく、いつのまにか黒歌の隣に座っていた恋だった。

「……恋、難しいこと分からない。
でも、シャル守る」

意思の宿った強い目だった。

次は腹の辺りに重みを感じた。

俺の腹に乗って来たのは白音だ。

「にゃあ……暖かい」


確かに暖かい。

ぽかぽかする。

「あれれぇ?りこりんの場所がないよー
せっかく優しくしてシャーくんをメロメロにしようと思ったんだけどなー」

ハッ、残念だな。

優しくされたくらいじゃ俺は堕ちねぇぜ?

難攻不落キャラだかんな。

逆に堕ちないよう気をつけるんだな。


でも、まぁ、今くらいは休んでもいいかねぇ。

ちょっと休憩してから、また頑張ろうかね。

俺は目を閉じてこの暖かさに身を委ね思考に耽る。


何故俺は調子が悪くなったのか。

朱璃さんを救えなかったから?

それははっきり違うと言える。

助けたかった。

親が居なくなる辛さは2度も味わってるから。


木場やアーシアだって助けたいとは思った。

けれど、助けはしねぇ。

天使の領域に入りたくないし、入ったら厄介なことになってしまうから。

その厄介事のせいで4人に危害を加えてしまうかもしれないから。

だから、救わねぇ。
酷いことだとは思うが、俺に出来る範囲は限られてる。

黒歌や朱乃の件でも危ない橋を渡ったのだ。

これ以上は無理だ。

そう俺は割り切ってる。

なら、初めて人を殺したから?

それも違う。

赤の他人を殺したくらいで罪悪感を感じていいほど『最強』の名は甘くない。

目指したその時から人を殺すことになるのはわかりきっていた。

それに人殺しならもう、一度している。

この世界に生まれたその時に。

実の母親で……


だから、違う。

なら、使い魔達が死んだから?

それもある。

けれどちげぇ、ちげぇんだ。

俺はそんなまともな理由で調子が悪くなってるわけじゃねぇ。


俺は身勝手で浅ましく愚かしい悪魔なのだから。




なら、何故……?

嗚呼、分かった……

分かってしまった……

「……初めて負けたんだ」
つい、口から漏れてしまった。

今日初めて俺は戦わずに負けを認めた。

俺よりつえぇ奴なんて幾らでもいる。

だって精々今の俺の実力は中級悪魔上位程度しかないのだから。

分かってるつもりだった。

けれど、何処かで思ってたんだ。

やりようによっては勝てる。

100回戦えば1回は勝てるって。

でも、バラキエルはそうじゃねぇ。

1000回やろうが、10000回やろうが勝てねぇ。

そう思ったんだ。

朱乃に会いたくねぇのは自分のことで手一杯で今は会いたくねぇから。




何処かで俺は傲って天狗になってたんだ。

俺はつえぇってな。

今分かった。

だから――


「俺、俺、強く、なるぜ。
約束なんだ。
たった1つの母さんとの。
だから、だから」







――俺を見捨てないでくれ。



そこで俺は温もりに包まれて凍えるように意識を失った。


 
 

 
後書き
書き直しました。

悪い点がありましたら言っていただけると嬉しいです。

 
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