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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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修行編 その三

「打ち合いはここまでにしよう。
 縁、この山を自由に走ってきなさい。
 走る距離、時間、休憩などは自分の判断で行いなさい。
 だが、夜までには戻ってくるのだぞ。」

「分かりました。
 それでは行ってきます。」

私に一礼をして、縁は愛刀を持って森の中を走って行った。
縁が走りに行っている間、私は夕食の準備と自分の鍛練をする。
季節は冬。
息を吐けば白い息になるほど外は冷えていた。
そろそろ野宿が厳しい季節になってくるだろう。
流石に冬になれば宿などを利用する機会が増えるだろう。
私は野宿をして自然の氣を感じる事ができるのが良い氣の修行だと思っている。
しかし、雪が積もった荒野で野宿するほどではない。
自分の戟を持って素振りや構えの練習をする。
呼吸で氣を整え、身体全身に氣を送り身体を強化する。
私は氣を撃ち出すのは苦手で、逆に身体を強化するのは得意だ。
いずれ縁にもこの氣の扱い方を教えなければならない。
あの村で初めて縁を見た時、私は呂布を超える逸材だと一瞬で分かった。
今まで何人もの武人を育ててきたのだから分かる。
これは化ける、と。
漢王朝が腐敗していくのに耐えられなかった私は旅をしながら人々を手助けをしていた。
もちろん、これをした事によって何かが分かる訳ではない。
だが、何もしていないという事実に耐える事ができなかった。
旅をしていて人を助け、その最中で何人もの武人の才能を秘めた次の世代の子供達を見てきた。
私が一番の弟子だと思えるのが呂布だ。
少しぼんやりとしているが、天性の勘と武力。
呂布は私が教えた事をすぐに覚え、瞬く間に成長して私を超えた。
あれを超える者はもう存在しないと思っていた。
だが、あの村で縁を見た時直感した。
私が旅に出たのはこの子と会う為だったのかもしれない、と錯覚が覚えるくらい運命的な出会いだった。
縁を弟子に旅をして、その最中に修行をさせた。
そして、一つの転機が訪れた。
初めて傭兵として働き、人の死と人々が負の連鎖に囚われている現実に直面した縁は王になると言った。
彼と旅をしていて私は王になる器がこの子にはあると思った。
この子は人を惹きつける何かを持っているのだ。
縁自身から王になると言い出した次の日からだ。
格段に剣の速度や重さや集中力が爆発的に上がったのは。
おそらくそう遠くない未来、私はあの子に抜かれるだろう。
だが、悪い気はしなかった。
私は見て見たいのだ。
縁がどれほどまでに高みへ昇るのかを。
一通り訓練をして、いつも通り山草などを採りに行く。
縁の事だから夕方になるまでは戻ってこないだろう。
彼は真面目だ。
自分をとことん追い詰める。
彼ほどの才能があれば鍛練などせずにその才能に溺れる事もある。
しかし、縁はそれがない。
あくなき向上心がさらに強さに磨きをかけている。

(本当に将来が楽しみだ。)

今日は魚でもするか、と考えながら森の中を散策する。









師匠に走ってこいと言われて、全力疾走している俺。
適当に走っているので来た道を引き返しても迷うだけだと思う。
まぁ、ある程度走ってから考えよう、と適当に考えながら走る。
最初の方は森の中で走っても、整備されていない獣道、生い茂る木や草むらなどが邪魔をしてすぐに疲れを感じた。
それも回数を重ねれば慣れていき、今では全力疾走も長い時間続ける事ができる。
眼も良くなったのか、周りの状況などをしっかりと捉える事ができる。
適当に走って2時間が経っただろうか。
さすがに息が切れてきて喉が渇いてきた。
冬になったが修行しているとすぐに身体は暖まり、汗で服がびしょびしょになる。
肌に吸い付いた服の感触が少し気持ち悪い。
ともかく、どこかに川とかないかな、と周りを見渡した所だった。
ドン!、という鈍い音が聞こえた。

「?」

首を傾げながら音のする方に向かう。
少し走ると、そこには一人の少女が鋼鉄の手甲をつけた銀髪の少女が大きな木に向かって拳を打ち付けていた。
何度も打ち付けた痕がその木にはあった。
しかし、俺はその少女を見て思った。

(身体中が傷だらけだ。
 おそらくオーバーワークな修行をしているんだな。)

かく言う俺も人の事はあまり言えた義理ではない。
だが、本当に危険な時は師匠が止めてくれる。
しっかりとしたストッパーが俺の傍にいるから大丈夫だが、この子にはそれが見当たらない。

(このままじゃあまずいな。)

修行しているとはいえ女の子だ。
自分の身体に一生モノの傷ができれば気にしてしまうだろう。
よし、と言って俺は後ろから話しかける。

「おい、そこの君。」

「うん?
 何か用ですか?」

手を止めてこちらに振り返る。
顔の方にも傷ができていた。
このまま放置すれば痕が残るかもしれないほどの傷だった。
修行の邪魔をされて迷惑そうな顔をしている少女に俺は言う。

「その修行だけど、あんまり良さそうに思えない。」

「いきなり出てきたと思ったら、自分の修行内容に口出しをするのですか。
 余計なお世話です。」

そう言って木の方に向き直り、構えをとり木を殴る。
こりゃ、頑固だな。
そう思って横から手を出して、木を殴ろうとする手を受け止める。

「邪魔をしないでください。」

「いいや、邪魔させてもらう。
 自分の身体をよく見て見ろ。」

俺の言葉を聞いて自分の身体を見つめる。
しかし、首を傾げるだけだった。
どうやら俺の言いたい事が分かっていないらしい。

「君の顔にも身体にも結構深い傷ができている。
 医者じゃないから詳しくは分からないが、その傷を放っておけば一生モノになりそうな傷くらいわかる。
 俺も修行中の身だからね。
 傷の事くらいなら少しわかる。」

「自分には関係ない事です。
 強くなれるのならこの程度の傷など。」

「今は良いかもしれない。
 けど、後になってどうして止めておけばよかった、なんて後悔しても遅いんだぞ。
 確かに強くなるには修行が一番だ。
 でも、それで君の身体が傷付いては意味がないだろう。」

「・・・・・・」

「何より君は女の子だ。
 それも可愛い女の子だ。
 そんな子の身体に傷がついたら勿体ないだろう。」

「なっ!?」

俺の言葉を聞いて少女は顔を赤くする。
まだ幼いが、この子は可愛い。
将来はべっぴんさんになる事は間違いなかった。
だからこそ、自分の身体くらい気をつけてほしい。
しかし、少女は俺の言葉をどう捉えたのか。
2メートルくらい距離を開ける。

「「・・・・・・」」

二人の間に沈黙が続く。
汗で濡れた服が透けて胸元が見えそうになる事に気がついた少女は両手で胸を隠す。
その反応を見て分かった。
ああ、俺は変態だと思われているのか。
一応言っておくがロリコンではないぞ。
愛紗は、うん、まぁ、例外だ。
何事にも例外はある。

「一つ訂正しておくが、君の身体が目的とかそういう事じゃない。」

「私は何も言っていませんが?」

「お前がそう言いたげな視線をしていただろうが!!
 ともかく、近くに川はないか?」

「それならすぐそこに。」

「よし行くぞ。」

「えっ?・・・・わわわっ!?」

呆けた顔をしている少女の手を掴んで、強引に近くの川に向かう。
後ろから私の身体を狙って!?、というツッコみたくなる言葉が幾つか飛んできたが無視する。
少女の言うとおり川は近くだった。
持ってきていた手ぬぐいを川に浸して、水を搾り取る。
濡れた手ぬぐいを少女の顔の傷に当てる。

「いたっ!」

傷に沁みたのか痛そうな顔をする。

「女の子なんだから身体を大事にしろ。
 ほら、これで身体の傷を拭け。」

「貴方が勝手に拭いてくるのかと思いましたが。」

「お前はどうしても俺を変態扱いにしたいんだな!!」

乱暴に手ぬぐいを渡す。
一応、背を向けて川の水を飲む。
後ろから小さく笑う声がした。
ゴソゴソ、と服が擦れ合う音がするがいらぬ妄想をしないように冷えた川の水に顔をつける。
刺さるような冷たさが顔を襲う。
川から顔を離すと、後ろから手ぬぐいを渡される。
どうやら身体を拭き終ったようだ。
俺は手で濡れた手ぬぐいを川に浸して水を搾り取り、顔を拭く。

「そう言えば、名前を言っていなかったな。
 俺は関忠って言う。
 君は?」

「楽進と申します。」

楽進といえば曹操の軍に出てくる武将の名前だ。
本当に奇妙な縁があるよな。

「どうしてあんな無茶な修行を?」

俺がそう聞くと、少しうつむきながら楽進は話した。

「自分の村は前に賊に襲われたことがありました。
 その時は何とか撃退しましたが、何人か亡くなられたのです。
 自分ともう二人友達がいるのですが、自分達で何か役に立てないかと話し合いました。」

「その結果がこの修行って訳か。」

こくり、と頷く。
少し俺と似ている気がした。
親を賊に殺され、母さんに守られてばかりだったあの頃と。
あの時は母さんや皆の役に立ちたいと常に思っていた。
そこで師匠と出会って一緒に修行をしている。
でもこの子は一人で修行している。
だから、何をすればいいのか分からないのだろう。
正直、俺も師匠みたいに修行方法とか言えないし、言えるほど強くはない。
だけど、これだけは言った。

「でも、その友達は君が傷付いてでも修行している所を見たらどう思う?」

「それは・・・・」

その後から言葉が続かない。
俺は言葉を続ける。

「君の事情も村の事情も知らない赤の他人の言葉だから、無視してくれも構わない。
 でも、同じ武人を目指す者としてお節介だが助言させてもらう。
 自分の身体を大事にしろ。
 いざという時に、身体がボロボロで動けなかったら何のために強くなったか分からないだろ?
 修行も大事だけど、自分をもっと大事にしないとな。」

「はい。
 その、ありがとうございます。」

ちょっとは分かってくれたみたいで嬉しかった。
気がつくと辺りが暗くなっている事に気がついた。
結構話し込んでいたらしい。
これは今すぐ戻らないと夜までには戻れないぞ。
少し焦りながら俺は言う。

「んじゃ、そろそろ戻らないと師匠が心配しそうだ。
 それじゃあな。」

俺は楽進の言葉も聞かずに森の中を走って行った。
しかし、適当に走っていたのが裏目に出たのか、道に迷ってしまった。
やっとの事で戻る頃には夜になっていて、師匠に怒られた。
その夜は師匠が採った魚だったのだが、夜までに帰って来れなかったので俺は夕食抜きにされた。







「あっ!
 ・・・・・行ってしまった。」

突然やってきた関忠という人は自分の言葉を聞かずに去って行った。
お礼を言いたかったのだが。

(自分を大事にしろ、か。)

今まではがむしゃらに修行していた。
だが、それは間違っていたのかもしれない。
あの人は自分の身体を大事にしろと言っていた。
大事な時に動けなかったら意味がないと。
全くその通りだな、と今まで当たり前の事に気がつかなかった。

「凪ちゃ~~~ん!」

と、横から友人である沙和の声が聞こえた。
その横には真桜の姿も見える。
夕方になっても戻ってこない自分を心配したのだろう。

「凪どないしたん、その身体の傷!?」

「痛そうなの。
 凪ちゃん大丈夫?」

心配そうな顔をしながら自分に聞いてくる。
確かに友人を心配させてしまった。
今までの自分に反省しながら言う。

「ああ、すぐに医者に見て貰う。
 傷が残ったら大変だしな。」

「そうなの、そうなの。」

「凪は可愛いやし、傷が残ったら大変やで。」

そう言われて、私達三人は自分達の村に戻る。
その前に、あの人が入って行った森に視線を向ける。
いつか出会ったらお礼をちゃんと言おう。
そう思って村に戻るのだった。  
 

 
後書き
私は思うのです。
凪は傷がなければもっと可愛いと。

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