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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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アイングラッド編
SAO編
  《圏内事件》6

 
前書き
遅れました…。 

 



午後2時。いつもなら、迷宮区の攻略午後の部と俺の未だ密かに続けている報われない慈善事業が絶賛開催中の頃合いだ。

「天気がいいから」という理由で攻略をサボる俺達とは違い、攻略組のターポエンジンこと、アスナさんはさぞ心中穏やかではないだろうとその様子を見ていると、アルゲート裏通りの怪しいショップを冷やかしたり、何処に続くのかも分からない暗い通りを覗いたり、同じことを思ったらしいキリトや俺の視線に気づくと、ん?と首を傾げつつ微笑んでいたりする。

いや……怖いんですけど?

「どうしたの?」

じろじろ見すぎだ、キリト……

「い……いえ、なんでもないです」

なぜ敬語か。

「変な人。今に始まったことじゃないけど」

くすっと笑い、両手を腰の後ろで組み合わせと、軽快な足取りで進んでいく。

ふむ……どうやら明日辺りにでもマジで上層が降ってきかねん。

アルゲートそばがそんなにお気に召されたのか、それともただ機嫌がいいのか……。いや、わかってるさ本人達も気づいていない本当の理由は。だから、

「なあ、レイ。アスナはなんであんなヘンテコになっちゃったんだ?」
「乙女心とは時に不可解な化学変化をするものなのだよ、少年」
「わけがわからん……」

当たり前だ。そんな簡単にわかったら、全世界の男性は苦労しない。
どうやらアスナはあのラーメンのせいで思考回路が変なところに繋がってしまったようだ。



俺達は次なる証人の元へ向かっていた。

ギルド《聖竜連合》壁戦士隊リーダーこと、シュミット。
アインクラッドの中でもかなりの防御力を持つ有名人だ―――















シュミットの防御力をものともせずアスナは的確に彼の弱味を突き、外へ連れ出すことに成功した。

すると、シュミットは意外にも何でも話すと言い、その代わりにヨルコに会わせろと言った。

で、



「よし、双方武器は全て除装すること、ウィンドウも開かないでくれ」
「……はい」
「わかってる」

安全のため2人にそう警告し、部屋の唯一の出入口であるドアの両側に俺とキリト。2人の近くにはアスナが立った。
窓は開いているが、外からは不可侵なので問題は………

「リーダーが死んだのはギルド皆のせいよ。だから、その夫であるグリムロックさんは私達全員に復讐する権利があるんだわ」

ヨルコさんは窓際に移動し、静かに部屋の人達を見回している。

(敵はアンチクリミナルコードを無効化する………不味い!?)

とん、という音が部屋に響き同時に、ヨルコさんの眼と口がぽかんと見開かれた。
彼女はよろめくように振り返ると、明け放れた窓枠に手をつく。
その時、一際強い風が吹き、ヨルコさんの背に流れる髪をなびかせた。見えたのは投げ短剣の柄。刀身はまるごと彼女の背に刺さっていた。

「あっ……!」

アスナの悲鳴じみた喘ぎ声を漏らしたと同時にキリトが飛び出す。

「待てッお前も狙われるぞ!!」

キリトは俺の制止を振り切り、ヨルコさんの体を引き戻そうとするが、わずかにとどかず外へ落下していった。

俺も剣を抜きつつ窓に駆け寄り、そして見た。宿屋から2ブロック離れた、同じ高さの建物の屋根。漆黒のフーデッドローブに包まれた人影。

「野郎っ……!!」
「待てつってんだろ!!」

完全に犯人に神経がいってるキリトはまたもや飛び出して行った。

「ちっ……アスナ、暫く頼む!!」
「2人とも、だめよ!」

アスナが制止の声をあげるが、キリト1人では数倍心配だ。

敏捷値では圧倒的に勝っている筈の俺達の前方を駆ける黒衣の暗殺者は次々と逃走ルートを変えて俺達を巻こうとする。
キリトがピックを投げて隙を誘うがそれはコードによって弾かれる。

(恐ろしく冷静だ……やりにくいな)

距離が縮まらないまま、やがて暗殺者はローブから転移結晶を取り出す。

転移先を聞き取ろうとしたその瞬間ーーー



リーン、ゴーン……



「くそっ!?」



時刻を知らせる鐘の音に紛れてやつは逃げていった……。












宿屋まで戻り、投げ短剣を回収した。それは1本目と同じ逆棘の意匠で造られていた。

(怒ってるだろうなぁ……)

宿の2階に上がり、ドアを開けると仁王の表情をしたフェンサーさんがいらっしゃった。

「ばかっ、無茶しないでよ!」
「「ごめんなさい……」」

「……それで……どうなったの?」
「逃げられた。人相も性別も全くわからなかった。ただ、極めて冷静なやつだったな。まあ……あれがグリムロックなら男だろう」


「……違う」

声を発したのはシュミット。ソファーの上でカチャカチャと金属の鎧を鳴らしながら震えていた。
「……屋根の上にいた黒ローブはグリムロックじゃない。グリムはもっと背が高かった。それに……あのローブはリーダーのものだ。彼女はあのローブを着て指輪を売りに行ったんだ……さっきのあれはリーダーの幽霊だ……幽霊なら何でもアリだ。圏内PKぐらい楽勝だ」



ははははは、とヒステリックに笑い始めたシュミットを横目に俺は「少し出てくる」と言って外へ出た。
再びヨルコさんが死んだ場所までやってきて考える。
さっき、ヒースクリフと話し合った結果、アンチクリミナルコードを無効化する技術は存在しないということになった。あの男が断言したからにはまず間違いないだろう。



《貫通継続ダメージ》……

逆棘……

アンチクリミナルコードの無効化……

圏内殺人……

復讐……



(……何だ?)




何かが引っ掛かる……
大通りでうなり続けるという奇行はキリト達が出てくるまで続いた。













シュミットをDDA本部まで送りとどけ、俺達はグリムロックが気に入っていたというNPCレストランに張り込んでいた。

お腹の空いていた俺は変装して店の中でも張り込むことを提案したが、俺が壮年の老紳士に化けるとすげなく却下された。ちっ……。
考えてみれば、謎のそばを食べてから何も食べてない。
普段何かしら食べながら緊張感ゼロの攻略をしている俺はお腹が空いて仕方ない。横を見ると、キリトもあのレストランのメニューを試したくて仕方ないというような顔をしている。

すると、アスナが何やらメニューウィンドウを操作して何かを取り出した。

それを「ほら」とキリトに差し出す。

「……く、くれるの?」
「この状況でそれ以外に何があるのよ。見せびらかしてるとでも?」
「いえ…。すいません。じゃあ有り難く」

だから何故に敬語か……。

「レイ君もどうぞ」
「お、サンキュ」

出てきた大ぶりのバケッドサンドを一口……

(初めて食べるな……何処の店………いや、まさか?)

「ごちそうさま。いつの間に弁当なんて仕入れたんだ?通りすがりの屋台じゃ、こんな立派な料理売ってなかったよな?」
「こういうこともあるかと思って朝から用意しといたの」
「へぇ、何処の店の?」

「売ってない」
「へ?」
「お店のじゃない」

おお……やっぱし。

「え……ええと、何といいますか……がつがつ食べちゃって勿体なかったなあ。あっそうだ、いっそのこと……ぐぁ!?」

キリトが余計なことを言う前に大太刀の峰で思いっきりぶったたき止める。

「流石だな。……キリトの将来が羨ましい」

最後のはアスナだけに聞こえる超小声で言ったのでキリトには聞こえていない。
勘の良いアスナは俺の云わんとしたことをさっしてギラッとこっちを睨み、不可視の速度でレイピアを俺の喉元に突きつける。顔は既にニコニコだ。

「ナニカ……言ッタ?」
「ナンデモナイデス」
「ど、どうした!?」
「ううん、なんでもないよ。真面目に張り込みしましょ」

全く……ツンデレほど扱いに難しいものはない。

「ねぇ……」

30分ほど経ち、アスナがぽつりと声を発した。

「ん?」
「はっ……はい!」

だから……いや、もう言うまい。

「もし、2人が黄金林檎のメンバーならレアアイテムがドロップしたときどうしてた?」

「「…………」」

どうだろうか、例えばキリトのようなソロプレイヤーはそういうトラブルがいやでソロをやっている。

自分はどうだろうか、考えたこともない。

「自分が装備したいとも言えないし、他のメンバーに譲る気も起きない。……やっぱり売却派かな」
「俺は正直、そうゆう劇的にパラメータが変わるのがあんまり好きじゃない。でもまあ……売却しようと言うだろうな」
「アスナはどうするんだ?」
「ドロップした人のもの。KoBではそうゆうルールだから。隠匿とかのトラブルを避けたかったらそうするしかないわ。それに……」

そこで少し言葉を切り、アスナは目許を和ませた。

「……そういうシステムだからこそ、この世界での《結婚》に重みが出るのよ。結婚すれば、2人のアイテムストレージは共通化されるでしょ?それまでなら隠そうと思えば隠せたことでも、結婚した途端何も隠せなくなる。逆に言うと、自分にドロップしたレアアイテムを一度でもねこばばした人は、もうギルドメンバーの誰とも結婚出来ない。《ストレージ共通化》って、凄くプラグマチックなシステムだけど、同時にとってもロマンチックだと思うわ」


その口調にはどこか憧れが含まれていた。普段は泣く子も黙る攻略の鬼、でも実際は年相応の女の子。

(こんな世界でもそんなことまで考えられる……この子はある意味大物だな)

その後、キリトがいつものように地雷を踏んだり、それにアスナが過剰反応をしたりしてそれなりに賑やかな張り込みだったのだが、何処の世界に漫才やりながら張り込みするやつらがいるんだか……。

この事件の真相に到ったのはこの後すぐだった。そして、







後から思い返せばこの日がSAOプレイヤー、《紅き死神》レイの真なるプロローグ。






この日から数週間後に組織された《笑う棺桶》討伐部隊、そこに現れた《殺戮神》をレッドプレイヤー達が垣間見た瞬間だった。




――因果は要より伸びてやがて再び交差する。 
 

 
後書き
実はレイ君は変装好きのコスプレイヤーだったりします(笑)

というかオシャレ好きです。



次回、圏内事件最終回です。

ちなみに、心の温度はやることにしました。展開は考えてません、てへ♪ 
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