ジョジョは奇妙な英雄
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『悪霊使い』の少年その③
その日は全てが充実していた。千城の目に映る世界の何もかもが美しく見えるほどで授業時間もまた然りである。頭が冴え、その日は教師に指名されても難なく答えることができた。日頃から成績は安定しているが、この日はいつも以上だったので教師に良く褒められた。
幼馴染みからの手紙が来ただけで此処まで出来るのは安っぽい感じがするが、千城にとってはアーシアにまた会えるという想いが日々を生きる活力をより強くさせたのだ。その場に立ち会っていたも同然のチェザーレやレイナーレもこの日の千城を見て苦笑いしながらも、普段よりは笑うようになっている千城を見ていると心が安らいだ。日頃からあまり笑わない少年であるからか、自分も不思議と嬉しくなったのだ。
「お前、今日一日幸せそうだったな」
「そう見えるか?」
「ああ、俺にはそう見えたよ」
放課後、帰宅の用意を整えているときに一誠はふと千城に声をかけた。レイナーレを待たせまいとして早くしているのはわかるが、容姿端麗かつ健気に千城に尽くすとして学年に知られている『天野夕麻』を待たせて三匹のエロの一人と会話しているのは良いように捉えられていないようで、こうして視線を受けている。先に帰った松田と元浜は「リア充凄まじく爆発しろ!」と言いながら先に帰って行ってしまった。凄まじく爆発しろ、とはどんな意味なのかと突っ込みどころが満載だったがチェザーレに止められた。やめておけと。
「実は幼馴染みにまた会えるかもしれないんだ」
「良かったじゃないか、いつから会ってないんだ?そういえば、俺もいたな………」
「お前も?」
「ああ、海外に転校しちゃったけどな。いや、転勤か」
どうも一誠とは共通点があるらしい。ふと物思いに耽る一誠だったが、千城を射抜かんとする視線が学友以外にも金髪の一年上の先輩らしき男、嫁にしたい女子ランキング一位の金髪少女、そしてレイナーレの視線に気づいて早急に言った。
「もう、早く行ったほうがいいんじゃないか?実は俺、今日はデートなんだ」
「………兵藤、お前、頭大丈夫か?」
「お前に言われたくねえよ!?マジだよマジ!朝に聞いたろ!?加奈ちゃんだよ!」
哀れみの視線を送る千城が待たせている三人の元に向かっていく背中を見ながら、ふと一誠は思った。
思えば、千城と出会って今年で二年になる。
無愛想でかつ無口、そして周囲にあまり興味がないようで彼の世話をしているらしい少女(家は裕福なのかと一誠は思った)や現在ではすっかりお節介で有名になった、チェザーレ先輩によると決して悪い子ではないとのこと。そのことを否定せんとして二人に無言の威圧を向けるが、決して千城はただ無愛想にしているだけには思えなかった。瞳の奥にある孤独は一誠にもなんとなく見えるものの、深過ぎて千城が助けを求めない限り助け出すことができないのだ。そのときまで千城を誤解していた一誠だったが、以降はクラスで浮いている千城と積極的に関わろうと思った。エロいかもしれないが、気の良い友人を紹介して家でのビデオ鑑賞会での反応がやけに白々しかったのは記憶に新しい。
「………早く行くか」
***
幸せそうな腐れ縁とユマちゃん、夢美ちゃんとイチャイチャしているのを見たときに既にこのチェザーレ・A・ツェペリは弟分だと思っていたJOJOが『男の世界』に足を踏み入れていたことに気づいた。JOJOのことだから、とあまり気にしていなかったが矢張り奴は鈍い。急用を思い出した、とユマちゃんが夢美ちゃんに関係性を問いただす修羅場をJOJOを置いてはじめようとしていたのでオレは逃げ出した。このオレの反応にJOJOがキレてオレに対し、波紋疾走ならぬ『回転』を加えた鉄球の攻撃を行ったのでオレは回避せざるを得なかった。なにすんだテメェ!このスカタン!と言おうものなら、ヤツはキレるだろう。
このチェザーレにはお見通しなのさ。
まぁ、オレ以外に仲が良い友達ができて嬉しい限りだが、あの幼馴染み以外目に入らないという精神は如何なものかと思う。夢美ちゃんはまだ分からないが、JOJOの親父と重ねてJOJOを見ているユマちゃんはわからん。どこに転ぶのかもだ。確かJOJOの親父はコスプレした綺麗なオネーサンの部下だったとのことらしいが、真実は如何に。
で、気遣いのできるチェザーレは現在は門限まで外を徘徊しているのである。一年下、つまり三年生であるオレの一つ下の二年生の村山ちゃんとかと遊んだりしてオレは貴重な学生生活の青春を謳歌しているのだッ!勉強はしなくていいのか、だと?皆まで言うな、受験から逃避したいのだよ。
「イッセー、私………」
「う、うん………」
おやおや、JOJOの友人のイッセーとやらじゃないか。三匹のエロの構成員である彼に彼女とはなかなかやるな、そしてイッセーくんの彼女の身長高いな。で、デカイ。何がかって?察しろよ、なぁ?
んで、そのやけにボディラインを強調する服装はまるで狙ったかのように見えるが、気の利くチェザーレは自販機で炭酸でも買いながら見ていましょう。
「頼みがあるんだけど………」
「お、おう!なんでもいえよ!」
うん?今なんでもーーこれ以上はよそう、好き嫌いが激しいネタだからな、この辺の分別ができてこその男の中の男。ナイスガイの嗜みだ。さぁ、少年!勝負服に身をまとい、色気あるシーンだがお前はどうするんじゃい!
「死んでくれない?」
………ん、んんん?雲行きが怪しくなってきたぞ、聞き間違いでは………なさそうだな。あのイッセーくんの彼女とやらも目がガチだし、イッセーくんは動きが止まっちまってる。そりゃそうだ、突然言われたら吃驚するもんな。さて、ーー受験からのリフレッシュだ。
「おいおい、それがせーしょーねんの純情を知っての上での台詞か?」
「加奈ちゃん!ッんだよ、それ!ツ、ツェペリ先輩!?」
「誰だ貴様は!?」
「通りすがりの波紋戦士さ、麗しいお嬢さん」
イタリア仕込みのナンパ文句にきっと釘付けさ、とオレは呼吸を整える。これがツェペリ家の男が戦いに備える理由である。ツェペリ家の男は喧嘩や戦いこそすれど、その中に意味を見出す。意味のない戦いはそれこそ獣染みている。じいさんのじいさんが言って以降、家訓も同然になった『人間賛歌』に反するからな。『波紋』によるブーストを与えた、オレの得物である鉄球の『回転』はいつも以上に回っている。ボディコン調の服装にアキハバラのコスプレイヤーのような黒翼を生やした加奈ちゃんとやらはサディスティックに笑い、光の槍を構える。形状は鉄パイプを伸ばしたようだが、太さは通常のそれではない。
「神器の反応がしたので待っていたら、よもや奇妙な能力者まで釣れるとはな」
「能力!?神器!?ツェペリ先輩!なんだよ、それ!」
「話はあとだ、イッセー!とりあえず、逃げろ!」
「は、はい!」
イッセーくんはオレの言う通りにとりあえず逃げさせた。どこまで逃げたかは知らないが、できるだけ遠くまで逃げればいいと思う。たぶん、土地勘とかなさそうだからな、なんとなくだが加奈ちゃんとやら。
「邪魔をしてくれたな、人間風情が!」
「おいおい、人間風情がと言われちゃあ黙ってられん。人間賛歌は勇気の賛歌、勇気の美しさは人間の美しさ!ってな。何言われようたって関係ないさ、後輩は護るモンじゃねえかァ〜〜ッ?それとも、お前らにはそういう概念がないのか?」
「ぐッ………、奇妙な能力者め………!」
加奈ちゃんとやらが接近し、突き出してきた光の槍を鉄球の『回転』エネルギーによって受け流す。波紋のビートも加わって強力無比!な?波紋って凄いだろ?波紋は太陽エネルギーと同じ仕組みらしく、肉を焼く時のジューシーな音が聞こえ………って、アッツ!?
「フンッ、人間如きはこの程度か。早く貴様を殺し、追いかけて神器を抜くとしよう」
「………相手にされない、ってのはツラいな。だったら、見せてやるぜ!とっておきをな!」
「!?」
大袈裟なポーズをとったからか、加奈ちゃんが怯んだ。光の槍で焼くたぁIHもビックリなベイク・ハウツーだが、ソーラーなコンロでも焼けることは焼けるらしい。ホラ、太陽光を鏡で反射させれば、ってやつ。アレ、小学生の時に同級生の目に誤射しちまって怒られたっけ。………今はそれどころじゃねえ!お見せしましょう、チェザーレ・悠理・ツェペリのショータイム!
光の槍を受け止めながら、オレは波紋のビートを刻む。グワングワンと唸る鉄球の音、『回転』が奏でるオレのソロは今日も調子が良いらしい。ちょっとした『仕込み』を加えておいたので、きっと加奈ちゃんはオレのこの手品のタネに釘付けになるだろう!エンターテイナーたるもの、客人を楽しませなくてはな!
「な、なんだこれは!?」
加奈ちゃんの周囲を取り囲むように包み込む、鉄球。オレの放った二つの鉄球はやがて弧を描きながら、新たに出現させた光の槍によって二刀流の構えを取って鉄球の進路を阻む。確かに武人のような構えはじいさんが昔戦ったらしい柱の男の子とやらの一人のワムウに似ているが、不審なもの、それも敵の放った得物に触れるもんじゃあないぜ?そこで発動する、『オレだけのバトルスタイル』。
「3、2、1。さァ!描けェェェ〜〜ッ!」
「これは………『糸』!?」
ここでサラリとタネ明かし。そう、オレが鉄球に付けていたのは他ならぬ糸だったのさ!ジョセフさんの若い頃にはアメリカンクラッカーを使ってのクラッカーヴォレイを使っていたとのことなので、そこに『回転』の技術を加えてのアレンジ!波紋のビートによって速度は増して囲い込んだところでの波紋疾走!と思った矢先だが、オレの目的悲しく糸の結界を切り刻む誰か!
「………ったくよぉ、しっかりしてくださいよォ〜〜ッ?」
『違いない。俺が来なければ、絶ッッッ対負けてたぜェェェ〜〜ッ?』
ケタケタ笑う白髪とどこからか聞こえる声。銃刀法違反もそっちのけな剣を構える、教会でいうところの神父さんが着てたカソックての?なんか見たことある。そいつは互いにケタケタ笑い合いながら、加奈ちゃんとオレの前に現れた。
「チッ、一時撤退か」
「待てよ!敵に背中を向けて逃げるつもりか?」
「人間如き、敵ではあるまい。波紋の一族」
トリッキーな技を使っておいてオレの言えたことじゃあないんだけれど、一応は挑発をしておこう。
これで下手に激情されたら、溜まったもんじゃないんだけど様式美として一つ。どうも、そいつはオレのような波紋の戦士を知っていたらしいようで思わせぶりな口ぶりがなんとも言えない。その後、加奈ちゃんはオレと加奈ちゃんの前に現れた白髪神父を連れて消えた。
***
「ここまでこれば大丈夫か………」
一誠が逃げ延びた先は公園であった。といっても、チェザーレと運良く出会えた方ではなく町外れの公園だ。周囲に人の気配はなく、チェザーレはpまた説明してくれるとのことだが、果たしてチェザーレはまず探し当てることはできるのだろうか。
「おーい、イッセー」
「ツェペリ先輩!生きてたんですね!」
「ふへっ、オレがカンタンに死ぬかっての!困ってるヤツは助ける!これ、ツェペリ家の家訓ね」
「なんというお人好し………。あっ、そういえば!聞きたいことが!」
「ああ、波紋?ウチで習う?」
「そうじゃなくて!………って、いいんですか?」
「うん、ツェペリ家はいつでもウェルカム」
手をパタパタさせながら、息を一つ荒げずに走ってきたチェザーレを気遣うイッセーだったが相変わらずな様子に安堵する。キリッとしてポーズを決め、くるりと回るチェザーレは巨体の割に愛嬌がある。
さりげなく、一般人が見れば怪しみそうな『コォォ………!これぞ仙道!波紋呼吸!ツェペリ一門のよる波紋レッスン。門下生募集!』というチラシを渡した。あの数々の奇妙な動きは波紋とやらのおかげか、と一誠が見入っている時だった。
「御機嫌よう、チェザーレ・悠理・ツェペリくんに兵藤一誠くん」
「あっ、夢美ちゃんとグレモリーじゃねーか。んだよ、いきなり」
「ツェペリ先輩に兵藤一誠くん、『はじめまして』」
赤い髪にスラリと高い身長、そしてプロポーションや美貌はある意味で人間離れしている。
リアス・グレモリーはお付きのオカルト研究部のメンバーとともに現場にやってきていた。構成人員は姫島朱乃、木場夢美、塔城仔猫、そしてリアス・グレモリーだ。夢美の言葉の妙な違和感にチェザーレが眉尻を上げるが、美少女に声をかけられたことで一誠のテンションは駄々上がりの様子。
「堕天使の気配がしたので現場にやってきたんだけれど、反応がなくなっていたことと、現場には神器の反応とそれ以外に反応が見当たらない人間………。説明してもらえるかしら?」
「なんでオレが一から十まで………わかった、落ち着け、にゃんこちゃん。オレに拳を向けんな。悪魔様がお出迎え、ってか?」
「何故それを………?」
「あ?知人に心当たりがあるからな、それにグレモリー。家ではどんな教育を受けてきたかわからねーが、オレの家ーーツェペリでは、そんな高圧的な言い方は噛ませ犬だって聞いてるぜ。オレが何をしたのか、と聞いたな?手品だよ」
チェザーレがリアスの方へと近づいていくと、いつも通りの『手品』をして見せた。確かにリアスと朱乃とチェザーレは同じクラスでチェザーレが手品と偽るものを得意とするのは知っていたが、まさかここまではぐらかされるとは思わなかった。別れ際、チェザーレが一誠の肩に手を置いて去って行ったが、あれではまるで逃亡だ。
「ちょ、ツェペリせんぱ………」
「兵藤くん!?朱乃、魔力での治療を!仔猫、大公に連絡を、夢美、貴女は周囲を見回して」
「はい、部長」
「わかりました」
「了解です」
「ツェペリ………、ーーまさか、ね」
疲れで失神した一誠を朱乃に治療するように言うと、ふとリアスの脳裏に浮かぶ名前と口伝てから聞いた伝承。頭を振って払い、チェザーレの行っていた手品とチェザーレのファミリーネームから連想した『英雄』については頭の隅に置いてその後の処遇について考えた。
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