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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第四十話 最果て

/Alvin

 世精ノ途ってのは、とにっかく訳の分かんねえ場所だった。
 でかいキューブがいくつも連なって道を形成してる。でこぼこしてて歩きづれえなこりゃ。
 周りは真っ暗なのに、ちかちかと小さな光が無数に明滅してて、まるで夜空に放り出された気分だ。

「遅ぇぞ、ガキども」

 イバルとエリーゼが弾かれたように俺と繋いでた手を離した。

 おう、そこにおられましたかい、叔父上どの。それにヴィクトルも。
 先に行かずに待ってたってことは、俺たちが来るって信じてたからと思っていいのかね? 何度も引き返すように促したくせに。

「はいはい。で? これどこ目指しゃいいんだ? 上? 下?」
「私の時は下だったな。見えるか?」

 ヴィクトルがキューブの道の下を指差した。

 な……んだこりゃ。すげえ。青く光る惑星儀を中心に、それをいくつも取り囲む、彗星の軌道を描いた歯車。世界の縮図ってのはこんな感じかもしれない。

「すごいです……」
「あれが本物のマクスウェルの御座所だよ。飛び降りても衝撃はないはずだ」
「待てよ。飛び降りたら、帰りはどうすんだ」
「上手くご老体を説得できれば帰してもらえるだろうが、気分を害せば、どうなるかは私にも保証しかねる」

 そういう大事なことは小出しにしないでいっぺんに教えてほしかったぜ。

 ふとそこで俺の横を横切って、キューブを蹴って宙に身を投げた奴がいた。
 イバルだ。
 これにはさすがのヴィクトルも唖然としたみてえだ。

「んじゃ追っかけるか。どうする、エリーゼ。また手、繋ぐか?」
「一人で行けます!」

 エリーゼはティポをぎゅっと抱いて、目をきつく閉じて、跳んだ。
 しゃらん、と君影草の簪の細工が鳴って、小さな体はあっというまに落ちて行った。

 ここで遅れを取るのは年上として頂けねえ。俺もすぐにエリーゼの次に飛び降りた。

 今度は俺が先に行って「遅い」って言ってやるからな、ジランド。ざまあみろ。




 ヴィクトルが言った通り、着地には大して衝撃を感じなかった。フェイやミラが高いとこから飛び降りた時みたいな、寸前の浮力? みたいなのが働いた。

 俺の後ろで二人分の着地音。

「遅ぇぞ、オッサンども」

 ふり返りながら、主にジランドに向けて言ってやった。カチンと来てやがる。してやったり。

「君にまでそう呼ばれると、本当に自分が老け込んだように感じるよ」

 さすがにジランドよりは年下だろ、あんた。セルシウスもなんか同意して神妙に肯くんじゃねえよ。

「! だれですかっ」

 エリーゼの声をしたほうを見やる。

 空から降りてくる、妙ちくりんなデザインの空中浮遊する椅子に座った、爺さんが一人。

『まさかここまで来る人間がいるとは』
「貴方が……マクスウェル、なのか」

 イバルの呆然としたような確認に、爺さんは厳かに肯いた。

『私が造り隠した途を通ってここへ来たお前たちは何者だ』

 ヴィクトルが最前列に立って、スーツから取り出した黄金時計をマクスウェルへ向けて掲げた。

「貴様らが仕掛けた悪辣なゲームの被害者、ミラ・クルスニクの末裔だ」




/Victor

『その時計からはクロノスの力を感じる……我が天地にないはずの力を、何故貴様は行使できる』
「さあな。強いて理由づけするなら、貴方に道を説くために、始祖ミラの霊魂が力を使えるようにしてくれたのかもしれないな」
『戯けたことを』

 戯言で大いに結構だ。始祖の名を出したのはマクスウェルの精神を揺さぶるためだからな。

『お主、氷のセルシウスか。何故黒匣(ジン)を持つ者の側にいる』

 老体の目がジランドの横に漂うセルシウスに向けられた。

『「私」を現世に蘇らせたマスターに立てる義理はあっても、貴方に立てる義理はないからだ』
『我らが滅びかけていると知ったその人間たちが、貪欲にもこのリーゼ・マクシアを襲ったと知ってもか』
『ああ。断界殻(シェル)を造った時、貴方は一部の精霊だけを連れて世界を閉ざした。貴方は多くの同胞をエレンピオスに置いて行かれた。いずれ黒匣によって滅ぶと知っていて、だ。そのような主に、私は仕えない』
『ほだされおって……』

 マクスウェルは蔑みを超えて憐れみさえ湛えてセルシウスを見やり、首を振った。

「今日は貴方に頼みがあって来た」
『頼み、だと』
「断界殻を開いてくれ。リーゼ・マクシア、エレンピオス両国の現状を改善するために」

 私にとっても、後ろの皆にとっても。これが今、最も強い想いであり意思だ。

『愚かな! 外には黒匣が溢れている。リーゼ・マクシアを滅ぼす気か』
「逆に聞くぜ」

 ここに来て初めてジランドが声を上げた。

「このまま引き籠ってエレンピオスを見殺しにする気か」
『滅ぶと知って黒匣を使い続けることを選んだのは、貴様らエレンピオスの民ではないか』


「俺じゃねえ!!」


 空気が震えた気がした。ジランド……

「俺じゃねえ。アルフレドでもねえ。ユースティアでもねえ。セルシウスでもねえ。なのにどうして何も選んでねえ俺たちが、大昔の先祖のツケを払わなきゃならねえんだ」

 ジランドは今にも発砲しそうな勢いだ。傍らのセルシウスが不安げに『マスター…』と零した。

『不服か。ならばここで貴様が持つその黒匣(ぶき)を棄てるがよい。エレンピオスの民が皆、黒匣を棄てれば滅びは回避できよう。選んだのが2000年前の人間であれ、私の言うことが実行できぬほどに黒匣を人の営みに食い込ませたのは、貴様ら現代の人間だ』

 ジランドは顎を砕かんばかりに噛みしめ、俯いた。――擁護できない。
 私自身も源霊匣(オリジン)が出るまでは黒匣で生活してきた人間だ。銃もGHSも家電も黒匣。どれも欠かしては今日まで生きて来られなかった物ばかり。

『ようやく合点が行ったぞ。ミラが使命を忘れ、姿を消したのは、全てお前たちのせいだったのだな。そして此度、お前たちは断界殻を消して世界を滅ぼそうとしている。この破壊者どもめっ!』

 ちっ。人の話を聞かない所は、さすがミラの産みの親。

「来るぞ。逃げたい者はこれが最後のチャンスだ」

 ……。

 落伍者なし、か。嬉しいやら悲しいやら。ともかくフルメンバーで戦えることは確定した。

 心強い、と感じてしまう私はずいぶんと弱くなったと、我ながら思う。 
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