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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第九十四話 主と従者

 マイクロバスから降りてきた面々が長距離移動で固まった体をほぐすように伸びをしたり、肩をまわす。

 女性メンバーは風景を眺めたり、チェックインの手続きを行い、男性メンバーはマイクロバスの荷物を降ろし始める。

「部屋に移動するぞ」
「「「「「は~い!」」」」」

 士郎の呼び声になのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかは返事をして士郎についていく。

 年末から大人達で話していた年末年始の温泉旅行。
 その目的地である山奥の鄙びた老舗旅館に士郎たちの姿はあった。

 そして、なぜマイクロバスかというと面子の多さにある。

 高町家の五名、テスタロッサ家の三名、ハラオウン家の三名、月村家の五名、バニングス家の三名、八神家の五名、そして士郎とリインフォース、ユーノの合計二十七名という大人数なのだ。。
 ちなみにすずかの母親は仕事の都合がつかず不参加だが、アリサの両親は予定通り参加できたのである。

 予約した部屋は大部屋三部屋。
 大人の男性部屋と女性部屋、未成年組の部屋である。

「良いところだな」
「そうだね」

 士郎は部屋で荷物を降ろし、窓から景色を眺める。
 その隣にはフェレットモードではなく人の姿で今回参加しているユーノの姿があった。

「早いな。もう荷物はしまったのか?」
「ああ、必要なものは出してまとめてある。
 一人旅に慣れていると自然と早くなる」
「僕もスクライアの旅で慣れてるから」

 少し遅れ荷物を片付けたクロノと言葉を交わしながら、まだなのは達に視線をやりながら、ここにいて良いものかと頭を悩ましていた。

 なのは達の魔法のことを説明する際に士郎の魔術、吸血鬼のことは教えているのでここにいるメンバーで知らぬ者はいない。
 だが、若返っていることや平行世界については先日話した面子とリンディさんを通してエイミィにしか教えていない。
 ちなみにその際にエイミィから

「クロノ君と同じで呼び捨てでいいよ。
 士郎君にさん付けで呼ばれるとかしこまっちゃうし」

 ということで呼び捨てで呼び始めている。

 そして、士郎の悩みの原因はというと、若返ったとはいえ三十の大人が子供達と一緒というのはどうなのだろうかという点である。
 
 とはいえ男性組の部屋でと言えば、ややこしい事になるのは目に見えている。
 それに

「士郎君、ユーノ君、裏に散歩道があるんだって行ってみよう」
「ほら、士郎、早く行くわよ」
「良い景色の展望台があるんだって」

 なのはとアリサ、すずかに呼ばれ、フェイトとはやてが満面の笑みを浮かべて、ヴィータが少しそっぽを向いて待っている姿を見ると彼女達ならいいかと、悩むのをやめて上着を羽織る。

「クロノはどうする?」
「僕はエイミィと一緒に恭也さん達に合流するから行ってくると良いよ」
「了解、またあとで」

 クロノと別れ、なのは達と共に展望台への散歩コースをゆっくりと歩きながら景色を楽しみつつ、雑談に花を咲かせる。

 ふとヴィータがわずかに遅れたので士郎も歩みの速度を抑えてヴィータに並ぶ。

「先ほどまでは元気だったが、どうかしたか?」
「いや、はやてはまだしも私らもホントに来てよかったのかなって」
「まだそんなことを考えていたのか」
「うっせえ、私だって色々考えるんだ」

 プイッと拗ねてみせるヴィータに士郎はわずかに苦笑する。

 何でヴィータがそんなことを言うかというと話はこの旅行の直前にさかのぼる。

 今回の旅館は月村家の伝であり、アリサの両親などギリギリまで仕事の都合がつくかはっきりしないため参加者がちゃんと決まったの自体、この旅行の直前である。

 それ故に八神家の飛び入り参加も可能だったのだが、当初、八神家は参加を断ろうとしていたのだ。

 というのも

「皆様にご迷惑かけてしもうたし、年末に皆で過ごせるだけで十分やから大人しくしとこうかと思って」

 というはやての意見があったからだ。
 シグナム達も管理局への従事を行うとはいえ、後ろめたさはある。
 そのため、はやての意見に反論することなく従うつもりであった。

 だがここで待ったをかけたのが士郎であり、八神家を訪れて

「はやては夜天の書に偶然選ばれて蒐集の意思もなかったのははっきりしている」

 はやてとシグナム達の正面にリインフォースと共に座って話をしていた。

「やけど家の子達のことやから責任は夜天の主である私にあると思うんよ」
「管理責任という意味では間違ってもいないがな」

 はやての言葉にわずかに肩を竦めて見せる士郎だが、改めてはやてとシグナム達を見つめる。

「だが原因は夜天の書そのものにあった。
 それにシグナム達が魔導師を襲ったのは事実だが、これまで多くの被害を出してきた夜天の書の完全破壊の一翼を担ったことも事実だ。
 夜天の書の完全破壊という自身の死を覚悟して剣を執った。
 もしあそこに、はやてやシグナム達がいなかったら破壊できなかっただろう。
 それを考えれば十分な功績だ。
 さらに年明けからは管理局に従事するというんだから十分だろ」
「士郎君みたいに言ってくれるのはうれしいよ。
 やけどそんな風に思ってくれる人だけやない」
「当然だ」

 はやての言葉にはっきりとした士郎にまさか同意されるとは思っておらず、はやてもシグナム達も目を丸くする。

「誰もが認める正義などありはしない。
 主として責任を負う意思があるのが悪いとは言わないが、向けられる全てを受け入れようとするな。
 どれだけ優秀だろうと一人の人間に出来ることなどたかが知れている。
 間違えても俺と同じようにはなるな、はやて」

 正義の味方という名の破綻者になるな、という言葉は士郎の過去を聞いた者には重過ぎる言葉である。

「……それで良いやろうか」
「まじめに従事することは悪いことでない。
 だがこれはあくまで、はやて達のプライベートだ。
 これまでバタバタしていた上に年明けからも忙しくなるんだ、プライベートぐらい発散するべきだぞ」

 静かにはやてと士郎の視線が交差する。

「はあ、士郎君には敵わんな。
 なら皆でお邪魔させてもらうわ。
 ええな?」
「はやてちゃんがそう言うのでしたら」
「はい、私達はかまいません」
「はやてと旅行にいくのが嫌ってわけじゃないしな」

 はやての問いかけにシャマル、シグナム、ヴィータが答え、ザフィーラも静かに頷く。

 こうしてはやて達、八神家も今回の旅行に参加することが決まった。

 くよくよ迷うなどヴィータらしくもないと思いながら襲った側からすれば心の内は色々と複雑なのだろうと内心で苦笑する士郎。

 それを隠すように少し強めにヴィータの頭を撫でる。

「撫でんなよ」

 士郎の行動に文句を言うヴィータだが、言葉と裏腹に手を払うことなく、受け入れていた。
 はやてをはじめとする他のメンバーも士郎に撫ぜられるヴィータに気がついていたが、顔を見合わせ笑うだけで何を言うことはなかった。

 それぞれがゆったりと思い通りの時間を過ごし、温泉と夕食に舌鼓を打ち、夜の自由な時間を過ごし始める。
 大人達はお酒とおつまみを中心に囲み、未成年組みはおしゃべりと用意していたトランプで。

 ちなみに温泉に入る時に諦めずに美由希が士郎を誘い一騒動あったのは別の話。

 しかし楽しい時間はあっという間に経つものでヴィータがうとうとし始めたことをきっかけに、子供達が布団を用意された部屋に戻り、大人達も心地よくアルコールが回りそれから程なく解散となった。

 子供達は当然、大人達も寝静まった真夜中
 自然と目を覚まし、上着を手にして足音も気配も消して部屋を後にした者がいた。

「さすがに冷えるな」

 白い息を吐き、空に浮かぶ月を眺める一人の影。

「眠れないのかい?」

 中庭に佇む姿を見つけたのか、先客と同じく目を覚まして出てきたのかはわからないが、静かに先客に歩み寄る。
 無論、先客も気配で近づく者には気がついており驚くことなく

「いえ、ただふと目が覚めたので」

 月に向けていた視線を相手に向けた。

 中庭で向かい会う影の距離は五メートル程離れている。
 言葉を交わすには不自然な距離。

「こうしてちゃんと話をするのは、なのはがリンディさん達のお手伝いに行きたいと言った時以来かな」
「そうですね。
 こうして二人きりというのはあれ以来ですね」

 お互いに月や星を眺めるでなく、警戒するように視線を逸らさない。

 シンと静まった中庭の中で、高町士郎が先に口を開いた。

「シロ君、君は人を殺したことがあるね」
「はい」

 淡々と躊躇うことのない士郎の言葉に、高町士郎はわずかに目を丸くするが

「躊躇わないで返事をするね。
 なのは達に関わるなとか言われるとか思わないのかい?」
「結果としてそうなったら考えます。
 ましてや俺が血で汚れていることなど、自分で選択し、背負うと決めたものです。
 躊躇う必要がない」
「それが戦うことになっても?」
「万人に受け入れられるどころか、理解をされない、拒絶される生き方をしてきた自覚ぐらいはあります」

 静かに肩の力を抜き、視線を空に浮かぶ月に向ける高町士郎。

「損な生き方だね。
 恐ろしいぐらい真っ直ぐな。
 だけど、いやだからこそ君に頼みたい」

 視線を士郎に戻し、静かに歩み寄る。

「なのはを、皆を頼むよ。
 なのはは我慢をして無茶をする子だ。
 そして、他の子達も真っ直ぐで頑張る子達だ。
 だけどその分危ういところがある。
 こんなことを頼むのは迷惑かもしれないけど、魔法という私達の手の及ばないところに行くことを選んだあの子達の事を支えてやってほしい」

 高町士郎は静かに頭を下げる。

「承知しました。
 この身にかけて、彼女達の支えにならんことをここに約束します」
「ありがとう」

 大きくはない声。
 だが確固たる信念の篭ったに感謝の言葉を言い、中庭を後にするべく歩き始めた。

 と歩むを止めて振り返る。

「そうそう、シロ君ならなのはでも、美由希でも文句はないよ。
 恭也は反対するかもしれないが、覚悟が決まったならいつでも来てくれ」
「は?」

 高町士郎の言葉に、固まる士郎。

「いや、士郎さん、それはどういうこと……」
「それじゃあ、おやすみ」

 士郎の問いかけに答えることなく、高町士郎は中庭を後にした。

 残された士郎は小さくため息を吐いて、再び月に視線を向ける。
 そして、高町士郎と入れ替わるように士郎の背後から近づいてくる一人の影。

「あまり覗き見は感心しないぞ」
「すまない。
 だが、あんな空気を放っていて放置することは出来ない。
 それは理解してもらいたい。
 我が主」

 責めるようなリインフォースの言葉に振り返ることなく、わずかに首をすくめて見せる士郎。

 士郎自身、リインフォースが先ほどからいた事は気がついていた。
 当然、高町士郎も気がついていたが、話し始めのぴりぴりとした空気だけに何も言うことはなかった。

 そして、歩みを止めることなくリインフォースは士郎に歩み寄り、背後から士郎を抱きしめた。

 大人の女性と子供の身長差故に月に向けていた視線をさらに上に向けるとリインフォースの視線と交差する。

「士郎、我が主。
 貴方が胸に秘めた全てを理解しているとは言いません。
 ですが、今一度ここに誓います。
 私は永久に貴方の傍にいます。
 たとえ貴方の進む先が血に塗られた破滅の道であっても、この身が果てるまで」

 士郎が口に出さずともリインフォースは、自身の主がこの先の道について思い悩んでいることを理解している。

 そして、その道が違えばここにいる仲間達と刃を交えることすらあり得ることも理解している。

 それでもただ全てを士郎に捧げると思いを込めて、士郎を抱きしめる腕に力を込める。

 士郎も静かにリインフォースの腕に手を重ね

「ありがとう」

 感謝の言葉を伝え、視線を月に戻す。

 銀髪と赤い瞳を持った主と従者は月を静かに眺め続け、夜は更けていった。 
 

 
後書き
というわけで第九十四話でした。

九十三話のあとがきの予定より遅れて申し訳ないです。

始めはほのぼの年末旅行と考えていましたが、実は闇の書破壊時の契約はあくまで、助けるための協力というのが強かったなとずっと思っていたのです。

というわけで士郎とリインフォースの二人だけの本当の主従のの誓いを書いてみたいということで温泉旅行は簡単にまとめました。

そして、着実に外堀が固まってきてる。
なのはがヴィヴィオを連れて来たらいったいどうなるんでしょうね~。

それではまた次話でお会いしましょう。

ではでは
 
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