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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico7恋する乙女の道は恋する乙女

 
前書き
恋する乙女の道は恋する乙女/意:恋する乙女の心情は、同じ恋する乙女なら容易に推測出来るというたとえ。 

 
†††Sideイリス†††

学校生活2日目。わたし達はスクールバスに乗って登校中で、車椅子(はやて)専用乗車スペース周囲の椅子に座ってお喋り中。

「でも不幸中の幸いだったわよね。シグナムとヴィータ、打撲と擦り傷だけだったんでしょ」

「フィレスさんとセレスちゃんもそんなに重くないダメージだったんだよね・・・?」

話題は昨日起きたある事件について。ウスティオっていう管理世界で、シグナムやヴィータ、セレスにフィレスと言ったわたし達の友達であり家族、それに2個航空隊・戦技教導隊班長2人、首都航空隊が全滅する事件が起きた。
スクライア一族と機動一課が湖底遺跡でロストロギア発掘中、ロストロギア収集家リンドヴルムの私兵隊が出現。これを迎撃。そこまでは良かった。でも、湖底遺跡のさらに地下から想定外のロストロギアが現れた。甲冑姿の巨人。ソイツがまず2個航空隊と教導隊班長2人を撃墜。その後の人為的に起こされたとされる爆風によって首都航空隊やフィレス・セレス、シグナムにヴィータ達も残らず全滅した。

「うん。シグナムとヴィータはもう昨日の内に全快して、今日も仕事や」

「フィレスとセレスは爆心地に近かった所為もあって全身打撲と数ヵ所の骨折。だけど命には別状なし。爆風起こした張本人を捕まえてやるって意気込んでる」

買い物から帰ってすぐリンディ提督やクロノ、エイミィ、わたしの知り合いから次々と連絡が入った。それから通信越しのお見舞いをしたら・・・

――調査によれば、最後の爆風は人為的に起こされたものみたいなのよね――

――ロストロギアの効果か、それとも信じたくないけど個人の魔法でしょうか・・・?――

――どちらにしても、ここまでコケにされた以上は黙っていられない――

――絶対にわたしとお姉ちゃんで捕まえてみせます!――

――そうね。局員として逸脱した捜査ってことになるなら教会騎士として捜す!――

包帯グルグル巻き姿なフィレスとセレスだったけど、やる気だけは漲らせてた。あの2人に目を付けられたらアウトかもね、爆風を起こした張本人。フィレスは聖王教会騎士団が一、橙蘭騎士隊オラーンジェ・オルヒデーの隊長だ。教会騎士団団長の許可が下りれば即座に捜査に入ると思うし。

「でもさ。そのとんでもなく危ない巨人、リンドヴルムに盗られちゃったんでしょ・・・?」

「そ。しかも湖底遺跡で回収したロストロギアもついでと言わんばかりに機動一課から奪ってった。まったく。本当に厄介な連中だよ」

わたしはアリシアにそう答えて嘆息する。ロストロギアを狙う奴はごまんと居る。大半がついでみたいなものだけど。でもリンドヴルムはロストロギア専門。そこが恐ろしい。飽きるまで眺めた後、武器型は私兵に武装させて、他のは売り払う。そして他の犯罪組織が買ったロストロギアでまた罪を犯す。最悪な循環。

(捕まえたいのは山々なんだけど、広域指名手配の次元犯罪者プライソンと同じようにリンドヴルムの首領もまた一切の個人情報が無いし、居所ももちろん不明)

そんな平和な登校風景に似つかわしくない会話が終わる頃には学校に到着していた。スクールバスを降りて、エントランスへ向かう。昇降口で靴から上履きに履き替えてると、「ふふ♪」鞄に目が行ってつい笑っちゃった。

「どうしたん? なんか面白いことあった?」

「思い出し笑いなんかして、気持ち悪いわよ」

「気持ち悪い言うな」

アリサの失礼発言にツッコみを返して、「お弁当よ、エイミィ力作の♪ わくわくしてるんだから♪」笑った理由を答える。お弁当なんて初めてって言っていいもん。余計にドキドキわくわくだよ。

「それじゃあ、今日は温かいし、お昼は屋上で食べようよ♪」

「いいわね」

「うん、賛成♪」

「お昼休みになったら2組に迎えに行くよ」

「おかずの交換とかしようよ♪」

今日から通常授業が始まって、お昼も学校で摂る。だからのお弁当なのだ。なのはからのお誘いの提案には1組メンバーのアリサ、すずか、フェイト、アリシアが諸手を上げて賛成したんだけど・・・。

「「「・・・・」」」

2組メンバーのわたしとはやてとルシルは即答できなかった。フェイトからの「どうしたの? 3人とも」って問いに、「悪いけど俺はパスだ」ルシルが先に答えた。もちろん納得できないアリサが「なんでよ」不満げにルシルを見た。

「いやさ、いま俺が陥っている問題、アリサも知っているだろ?」

「あ、ルシル君にやきもち焼いてる男の子が居るっていう・・・」

「ルシルも大変だね。せっかく出来た男友達だったのに」

なのはとフェイト、続いて「頑張ってね、仲直り。手伝えることがあれば遠慮なく言って」すずかがルシルに同情の目を向けた。ルシルは室内専用車椅子が置かれたスペースに歩み寄って、壁の手摺とホイールを繋ぐ鎖に付いた南京錠(鍵は先生から貰ってる)を外しながら、「ありがとう、すずか」すずかに微笑みを向けた。

「そういうわけだからさ。俺はパスな」

「おおきにな、ルシル君」

はやてを抱きかかえて室内用車椅子に乗せ換えたルシルは、今度ははやての乗って来た車椅子を室内用車椅子スペースに置いて、手摺とホイールを鎖で繋いで南京錠をかけた。

「ごめんなんやけど、わたしもルシル君のお手伝いしたいから今日は・・・」

はやても手を合わせてごめんなさい。ここでわたし1人が誘いを受けるわけにもいかなくて。だから「う、うぅ、ごめんなさい・・・」わたしも誘いを断ることにした。

「あー、泣かないでシャルちゃん。ほら、これからずっと一緒なんだから、いつでも一緒できるよ。だから、えっと、うんっ、まずは、クラスの子たちとの親睦を深めるのを大事にしようか?」

「そうだよ。あと3年もあるんだから。最初の数日くらい、どうってことないよ」

「だから大丈夫。問題を解決して、クラスメートともうんと仲良くなった後で、みんなで一緒に食べよう♪」

「うぅ、なのは、フェイト、すずか・・・。ありがとう。ぐす」

なのは達ばかりに偏っちゃダメなんだよね。判ってる。今はまだクラスメートのみんなともっと仲良くならないと。そう改めて思ったわたしは袖で涙を拭って、「よしっ。サクッとルシルと武塔君を仲直りさせよう!」グッと握り拳を作って高々と突き上げた。

「えっと、それじゃあ帰りはどうする? 私たちは休みだけど・・・」

なのはからの確認に「帰りは・・・」これもまた即答できなかった。放課後もまた仲直り作戦の活動時間内かもしれないし。作戦リーダーのルシルからの「未定かな。一緒に帰れそうなら念話で。いいかな?」提案に、「それでいいよ」なのは達はオーケーした。

「咲耶個人を選ぶなら反対なんだけど、2組全体だって言うんならしょうがないわね」

「アリサ。いい加減に仲良くしたら?」

「向こうから歩み寄ってきたら考えてやるわよ」

アリサと咲耶もまた仲良しになれば、もっと楽しい学校生活が遅れると思うのに。とにかく、お昼はクラスのみんなと済ませる事、帰りは未定で、一緒に帰れるなら思念通話で伝えるってことを決めた。

†††Sideイリス⇒はやて†††

接続塔の中央階段でルシル君やすずかちゃん達と一旦別れた後、わたしはシャルちゃんを付き添いとして一緒にエレベーターに乗った。すると早速、「・・・で? ルシルは一体どうしようってしてるの?」シャルちゃんから訊かれた。

「ルシル君は、刀梅ちゃんと武塔君をくっ付けるって言うてたけど・・・。ホンマに上手く行くんかなぁ~・・・」

答えた後に腕を組んで唸る。ルシル君の案を聞いたシャルちゃんが「また思い切ったことを考えるね~。なるほど~」微妙に賛同するようなことを言うて苦笑。そんなシャルちゃんに「上手くいくと思うんか?」って訊いてみる。

「どうだろ。刀梅が武塔君をどう思っているかだよね」

「刀梅ちゃんも、武塔君のことを少なからず特別に思ってるって、ルシル君は言うてたよ」

「・・・そう?」

「さあ?」

「まぁ、他の男子よりかは親しそうだったよね。下の名前で呼んでいたし」

「あ、それはわたしも思うてた。そやけど、それだけで刀梅ちゃんも武塔君が好きかどうかは・・・」

「判んないよね~」

シャルちゃんと一緒に唸る。わたしは「とりあえずは、刀梅ちゃんに武塔君のこと訊いてみようって思う」って自分なりに考えた行動予定を伝えると、「まずは状況把握からね。うん、情報収集は大事だよね」シャルちゃんがウキウキし始めた。
エレベーターが3階に到着。シャルちゃんに車椅子を押してもらって外に出て、ルシル君たちが来るまで接続塔と4年の教室が在る第2校舎の繋ぎ目で待つ。みんなが来るまでの間にわたしらの前を通り過ぎるクラスメートや他のクラスの子らと「おはよう!」挨拶を交わしてく。

「お待たせ、はやて、シャル」

ルシル君が駆け寄って来て、「ありがとう、シャル。代わろう」車椅子のグリップを握るためにわたしの後ろに回った。シャルちゃんは「なに? 今日は随分と素直というか何と言うか・・・」少し困惑しながらルシル君と交代、なのはちゃんの側に駆け寄った。

「これから君にも協力してもらうからな。ここで反感を買って敵に回ると厄介だし。それに、君に嫌われるのも嫌だしな」

「~~~~っ! ルシルがわたしにデレたぁぁぁ~~~~❤」

唇を突き出した上でルシル君に抱きつこうとしたシャルちゃんやったけど、ルシル君は「だからって調子に乗るなよ?」シャルちゃんの顔をガシッと両手で鷲掴んで阻止。わたしも「人目のあるところでやったらアカンよ!」注意する。

「つまり2人っきりになれば、キスしてもい――あだっ?」

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。周りを見なさい」

アリサちゃんのチョップがシャルちゃんの脳天を直撃。よっぽど効いたんか頭を押さえてしゃがみ込んだ。なのはちゃんが「魔力付加打撃はさすがにダメだよ、アリサちゃん・・・」シャルちゃんの頭を撫でながらアリサちゃんをやんわり責めた。

「これくらいの罰は必要よ。ねぇ? ルシル」

アリサちゃんがわたしらの周りに居る他の生徒を横目で見たからわたしらも見る。シャルちゃんの、キス発言を聞いた男子・女子関係なく興味津津って風にわたしらを見てた。ルシル君は溜息ひとつ吐いて、「仕方ないよな」アリサちゃんに同意。フェイトちゃんやアリシアちゃん、果てには「これからは気を付けようね、シャルちゃん」すずかちゃんまでもがこっち側に付いた。

「学習能力が無くてごめんなさーい」

素直なシャルちゃんからのごめんなさいでこの話は終わった。わたしらは「またね」手を振り合いながら、それぞれの教室に入った。2組の教室にはすでに何人かのクラスメートが居った。

「おはようや♪」

「おっはよーっ♪」

「おはよう」

わたし、シャルちゃん、ルシル君と続いて挨拶すると、「おはよう♪」クラスメートから挨拶返しを貰った。そんでわたしらは自分の席に鞄を置いて、「うん」シャルちゃんと頷き合う。目標は刀梅ちゃんと武塔君。そやけどまだ来てへん。そやから他の子らからも情報を得よう。

『ルシル君。ちょうガールズトークするから、少しの間近付かんといてな』

『?? ああ、了解だ』

ルシル君がわたしらに向き直って小さく頷いた後、教室を出てったから『教室から出てかんでええよ!?』慌てて引き止めようとした。すると『外に用事があるから行くだけだよ。追い出したとか思わないように』ぷっと吹き出したって感じで返してくれた。嘘やないってことは声色で判るから、おトイレかな、って考える。

『・・・じゃあ、シャルちゃん』

『ヤー』

シャルちゃんと一緒に、教卓のところでお話ししてる女子グループに刀梅ちゃんと武塔君のことを訊こうってした時、「ごきげんよう、みなさん」咲耶ちゃんと、「おはよー」依姫ちゃんが教室に入って来た。2人はすぐにわたしとシャルちゃんに気付いて「ごきげんようですわ」「おはよ」挨拶してくれた。

「「おはよう!」」

わたしとシャルちゃんも挨拶を返して、「あ、そうや。委員長の2人なら・・・」去年もこのクラス全体を見て監督してた2人ならきっと、刀梅ちゃんと武塔君のことも何か気付いてるかな。そう思うて、「ちょう訊きたいことがあるんやけど、ええかな」刀梅ちゃんと武塔君について訊いてみることにした。

「――刀梅ちゃんと武塔君の関係・・・? 家が隣通しの幼馴染だったんじゃないっけ?」

「ええ、そうですわ」

「実際さ、武塔君って刀梅のこと・・・好きでしょ」

「バレバレよね~」「周知ですわ」

クラスの女子の大半・男子の一部が武塔君の想いに気付いてるってことや。そやけど一番知っててほしい刀梅ちゃんは気付いてへん、と。漫画みたいやなぁ。本人が気付いてへんくて周りにバレバレやなんて。
とまぁ、教室隅でひそひそ話してたんやけど、気が付けば他の女子のみんなも集まり出して来て、「さっさと告白すればいいのにね」って意見や、「いやぁ、無理でしょ」とか、「八重さん、鈍いですし」とか、「そうそう。弟を見てる感じだし」みたいな悲観的な意見もチラホラ。

「えっと、纏めると・・・武塔君は刀梅ちゃんに片想い。それに気付いてるのは女子の大半・男子の一部。けど当の刀梅ちゃんは気付いてへん。しかも武塔君のことを弟として見てる・・・と」

「随分と難儀な恋ね・・・」

わたしとシャルちゃんは大きく溜息を吐いた。武塔君を1人の男の子として見てるんならまだ望みはあったけど、異性やなくて弟として見てるってゆうのは望み薄・・・みたいな。シャルちゃんが「ルシルの案、やっぱ没ね」肩を竦めてポツリと漏らした。

「ルシル君の案とはなんですの・・・?」

ルシル君の案について訊ねてきた咲耶ちゃんに、刀梅ちゃんと武塔君をくっ付けてしまおう作戦のことを伝える。すると、「幼馴染は恋人になるってセオリーは所詮フィクションだよね~」途中参加の天音ちゃんがやれやれって肩を竦めた。

「でもさ。2人をくっ付けることだけが解決法とは思わないんだけど・・・」

「武塔君に告白させてサクッとフラれちゃえば、ルシル君を嫌うこともなくなるんじゃ・・・?」

「いやぁ~、武塔君はフラれてもしつこそうだよ? あんなにやきもちをハッキリと態度で示してるんだもん。フラれた後も引きずって、刀梅ちゃんと仲良しな男子にまたイライラするかもだよ?」

「ちっちゃ~」

「うざぁ~」

女子のみんなから散々な評価を受けた武塔君に同情したくなってきた。みんなでどうやってルシル君と武塔君を仲直りさせるか話し合う。そんな中で、「おはよう!」刀梅ちゃんが教室に入って来て、「みんな集まって何の話してるの?」わたしらに気付いて首を傾げた。

「刀梅ー! ちょっと来てー!」

天音ちゃんが大手を振って刀梅ちゃんと呼んだ。自分の席に鞄を置いて「なに~?」刀梅ちゃんがやって来た。そんな刀梅ちゃんに「今ね、恋バナしてるの❤」シャルちゃんが話を切り出す。

「恋バナ? 珍しいって言うか初めての話題だね♪ どんなの、どんなの?」

「ほら、やっぱり好きな男子とか、憧れのシチュエーションとか、みんなで話し合ってたわけ♪ だから刀梅も教えてよ♪」

息をするかのように嘘を吐くシャルちゃんがいきなり核心を突いた。その流れに感心したり、呆けたりとみんなの反応は様々。それはともかく。刀梅ちゃんは「何を?」それでも理解できひんって風に人差し指を顎に当てて明後日の方を見た。

『(アカン。刀梅ちゃんに恋愛感情そのものが無い・・・)シャルちゃん・・・』

「『もうちょい踏み込んで訊いてみるよ』・・・ねえねえ。もしさ、男子から・・・そうだなぁ、・・・付き合って下さい、って告げられたらどうする?」

「う~ん・・・。うん、いいよ。どこに付き合えばいいの?って、答えるけど・・・」

わたしやシャルちゃん、他のみんなが一斉に大きく溜息を吐いた。そんなわたしらのリアクションにさらに首を傾げる刀梅ちゃん。ルシル君。アカン、これはアカンよ。武塔君とくっ付けるなんて夢のまた夢や。

「わたしさ、恋とかしてみたいんだけど・・・。どういうものか全然解んなくて」

「ひょっとして初恋とかも・・・?」

「あ、うん。それもまだ。ねぇ、私って変? みんな、初恋とかもう・・・?」

初恋がまだやってことで不安そうになってる刀梅ちゃんからの問い。みんなが、うんって頷いてく。もちろんわたしとシャルちゃんも頷いた。みんなが初恋を済ませたことを知った刀梅ちゃんが「やばい、よね・・・?」焦りを見せた。

「そうでもないと思うよ、うん。初恋が早いも遅いも関係あらへんよ」

「でも気になる男子くらいは居るんじゃない? もっと仲良くしたいなぁ、嫌われたくないなぁ、みたいな?」

「えっと・・・。男子女子関係なくもっとみんなと仲良くしたいし、嫌われたくもない・・・けど。でも・・・亮介君とは物心つく前から一緒だったから、亮介君には嫌われたくないかも」

来た、来た来た来た。希望の光が見えた。ルシル君の推測通り、少なくとも武塔君を特別視してるのは確かや。刀梅ちゃんの胸の奥に眠る思いは確認できた。なら後は、その特別な思いを想いにするための作戦が必要になってくる。
どんな作戦を立てるかシャルちゃんと相談しようとした時にチャイムが鳴って、「はーい。みんな座ってー!」担任の矢川先生がやって来た。そうゆうわけで一旦解散や。

†††Sideはやて⇒イリス†††

出席確認・健康観察・今日の予定の知らせを行うホームルーム、そして1時限目の算数(前知識にあった通りすんごい楽勝だった)を終えて、本日最初の休み時間。時間にして10分。わたしは早速「刀梅~! ちょっと時間ちょーだーい♪」机に教科書やノートをしまい込んでた刀梅に声を掛ける。

「さっきの続き? うん、いいよ」

話を再開する前におさらい。刀梅の恋愛感覚がとんでもなく未発達だっていうのは判った。恋に恋することも未経験な刀梅。それでも武塔君を大切な存在だとは思ってる。ま、先にクラスメートから聴いてた通り弟感覚だろうけど。弟から好きな人へとシフトチェンジさせてあげれば両想いになって、晴れてミッションクリア。

(はやてに想いを自覚させた時みたく、強制的に自覚させるのがベターかな~)

ふと、武塔君がルシルと刀梅をチラッと横目で見ながら他の男子と一緒に、わたしとはやての席の側にある出入り口から廊下に出て行こうとしてた。ちょうど側に来てくれて、刀梅の視界にも入ってる今なら・・・。わたしの側を通り過ぎる際、武塔君にスッと足払いを掛ける。

「のわっ!?」「きゃあー」

わたしの足に蹴躓いた武塔君。前向きに転ぶより早く武塔君の身体の前にわたしの身体を入れる。すると当然、わたしは武塔君に押し倒される形になるわけで。こんなこと、もうこれっきりだよ。わたしを押し倒していいのはルシルだけなんだから。転倒時に衝撃を和らげるために、みんなに気付かれないように受け身を取る。

「あいたた・・・。うわっ、えっと、えっと!」

四つん這いになってわたしに覆い被さってる武塔君が顔を真っ赤にして大慌て。クロノみたくからかいがありそうな純情さ。やらないけどね。さーて。刀梅のリアクションはどうなのかな~っと。チラッと見ると刀梅も顔を赤くして唇をわなわな震わせて、思考が追いついてないって感じ。そんなわたし達を見て女子は「キャー❤」黄色い歓声を、男子は「何やってんだよー!」武塔君をからかう。

「いや、だって、誰かが・・・!」

「ちょっ、亮介君! 何してんの! 早くシャルちゃんから退いて!!」

「え、あ、おう」

刀梅が武塔君の左腕を両手で鷲掴んでグイッと引っ張って、わたしの上から強制的に退かした。そんで刀梅に引っ張られるままに立ち上がりかけた武塔君の足首をわたしは引っ張って、「のわっ?」「きゃあっ!?」改めて転ばせて、今度は刀梅を押し倒させた。

(イエーイ、押し倒し作戦完了♪ これで刀梅も少しは意識するでしょう♪)

「うわっ! ごめん刀梅! おれ、こんな・・・!」

「あ・・・う、ううん・・・」

わたしの時とは違って大慌てで刀梅の上から退く武塔君。当の刀梅は頬だけを赤く染めてボケーッと仰向けに呆けたまま。オチた。確かな手応えを感じた。刀梅は確実に、武塔君をさらに特別視した。武塔君が「なあ、刀梅?」名前を呼ぶと、「気にしないで亮介君・・・。大丈夫だから」刀梅もようやく立ち上がって、「ごめん」そう一言謝って教室を飛び出していった。はーい、わたしもてった~~い。教室を出て、刀梅を追う。

『シャルちゃん。これ、やりすぎちゃう・・・?』

教室に残ってるはやてからの思念通話。

『そう? 言葉でどれだけ恋愛を語ってもああいう子にはたぶん伝わらない。以前のはやてと全く同じ。恋の対象を家族として見ているから、本当の想いに気付かず、気付いた時にはもう手遅れ・・・みたいなね。はやてはどう? あのまま自分の想いに気付かなくて良かったって思う?』

『・・・感謝してる、シャルちゃんには。あのままなんも知らずにモヤモヤして、ルシル君がわたしから離れて行くんを黙って見送る羽目にならずに済んだ・・・』

『どうも。わたしは騎士だからね。正々堂々の戦いを好むんだよ』

『おおきにな』

『どういたしまして』

はやてからの思念通話が切れたら、「シャル」教室から出て来たルシルがわたしの側に歩み寄って来た。わたしは「ルシルもやり過ぎって思う?」先制発言。

「・・・いいや。俺もさっきの見せてもらった。刀梅も自分の想いに自覚しただろうな。なかなかなやり方だったよ、シャル。まず亮介に自分を押し倒させて、それを刀梅に見せたのが大きかった」

「気付いた? さっすが♪」

始めっから刀梅と武塔君を抱きつかせても、無いとは思いたいけど刀梅がそれでも武塔君を弟感覚で見るかもしれない。となると、武塔君の精神ダメージは計り知れない。自分はあくまで弟役なんだって思い知った武塔君が塞ぎこんだらアウトだもん。
だったら最初にわたしを押し倒させて、刀梅に武塔君も男の子だってことを自覚してもらうのが手っ取り早い。その光景を見た刀梅は、自分と一番仲良かったって思ってた男子が、別の女子と急接近したって焦りを憶える。そしてそれが自分の想いを気付くためのキーとなる。

「はやてと同じ手か。君の強引さには困ることもあれば助けられることもあると理解したよ」

「惚れ直した?」

苦笑したルシルにウィンクしながらそう訊ねてみると、「微妙」とか返してきた。微妙とは何よ、微妙とは。せめて、見直した、くらいは言ってくれてもいいのにさ。ぷぅっと頬を膨らませたわたしは、「お礼の1つくらい言ってくれてもいいんじゃない?」えいっと、ストレートパンチをルシルの胸に軽く打ち込む。

「っと。感謝はしているよ。君のおかげで早いうちに亮介と仲直り出来そうだよ。ま、9歳で考えつき、尚且つ実行していいような作戦ではなかったよな。子供らしさが無いと言うか」

「ふっふっふ。わたしはもう大人なのだ❤」

自分でも恋愛に関しては変だって思えるほどに考えが子供らしくないと思う。ひょっとしてシャルロッテ様の影響でも受けてるんじゃないかな。とにかく。えっへんと両手を腰に当てて胸を張ると、「あはは。どの口が言う」ルシルがわたしの頬をツンツン突いてきたから「っ!」ドキッとした。こういう不意打ちにはホントに弱いなぁ、わたし。

「さて。刀梅は亮介への想いを自覚したことで両想いになったわけだ」

「だね。あとは、武塔君が勇気を出して刀梅に告白すれば・・・」

ルシルと頷き合った。刀梅の姿も見失っちゃったし、教室に戻ろっか。ルシルと一緒に教室へ戻ってると、「刀梅からの告白でもアリだよな」そんなことを言ってきた。だから「えー? ここはやっぱり男子からの告白でしょ」反論する。

「いやいや。女子から告白を受けるのが男のロマンだろ?」

「好き❤」

「・・・いやぁ、好きな子からじゃないと断る時は辛いよな」

「ちくしょー! 勇気出して告白したのに! しぃーたぁーのぉーにぃーっ!」

握り拳にした両手を上下にわたわた振るう。女子からの告白が嬉しいって言ったからしたのに、返ってきたのは相も変わらず拒絶の言葉。

(でもま、だからって挫けないけどね♪)

この流れに乗じて「はぁ。でもさ、男子からの告白だって女子のロマンだよ?」と言ってみる。ルシルのノリが良ければきっと・・・

――そうなのか。じゃあ、好きだ――

(みたいな❤)

両頬に手を添えて頭を振る。たとえこの場限りの冗談だとしても、その一言でわたしは幸せになるのだ。期待を込めてルシルへと目をやると、「・・・っておい!」すでに自分の席に戻って次の授業の準備をしてた。

「はぁ・・・『とりあえず、種は蒔いた。少し様子を見ようと思うんだけど?』」

『ああ、それで良い。ここで焦って事を急いて台無しなんて、俺たちより刀梅と亮介が可哀想だからな』

というわけで、今日の作戦は終了。日を置いて少しずつ刀梅と武塔君をくっ付けていけばいいよね♪

 
 

 
後書き
ブエノス・ディアス。ブエナス・タルデス。ブエナス・ノーチェス。
サクッとルシルと武塔亮介を友人関係に戻すために、2日目にて解決間近まで行きました。それにしても日常編はやっぱり難しいですね。それに比べ、事件編のネタの方は溢れ返ってしまいそうです。
 
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