| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3部 始祖の祈祷書
  最終章 虚無

 
前書き
どーも作者です。

イラストの方はいかがでしたでしょうか?

気に入ってくださると、書いてくれた私の友人も喜んでくれるとおもいます!

では、本編へレッツゴー!! 

 
トリステイン魔法学院に、アルビオンの宣戦布告の報が入ったのは、翌朝のことだった。

王宮は混乱を極めたため、連絡が遅れたのだ。

ルイズはウルキオラを連れて、魔法学院の玄関先で、王宮からの馬車を待っているところであった。

ゲルマニアへルイズたちを運ぶ馬車だ。

しかし、朝もやの中、魔法学院にやってきたのは息せき切った一人の使者であった。

彼はオスマンの居室を尋ねると、足早に駆け去って行った。

ルイズとウルキオラは、その尋常ならざる様子に顔を見合わせた。

いったい、王宮で何があったのだろうと気になったルイズは、ウルキオラを引きずって、使者のあとを追った。




オスマンは、式に出席するための用意で忙しかった。

一週間ほど学院を留守にするため、様々な書類を片付け、荷物をまとめていた。

猛烈な勢いで、扉が叩かれた。

「誰じゃね?」

返事をするよりも早く、王宮からの使者は飛び込んできた。

大声で口上を述べる。

「王宮からです!申し上げます!アルビオンがトリステインに宣戦布告!姫殿下の式は無期延期になりました!王軍は、現在ラ・ロシェールに展開中!したがって、学院に置かれましては、安全のため、生徒及び職員の禁足令を願います!」

「宣戦布告とな?戦争かね?」

「いかにも!タルブの草原に、敵軍は陣を張り、ラ・ロシェール付近に展開したわが軍と睨み合っております!」

「アルビオン軍は、強大じゃろうて」

使者は悲しげに言った。

「敵軍は、巨艦『レキシントン』号を筆頭に、戦列艦が十三隻。上陸せし総兵力は三千と見積もられます。我が軍の艦隊主力はすでに全滅、かき集めた兵力はわずか二千。制空権を完全に奪われ致命的。敵軍は空から砲撃を加え、我が軍をなんなく蹴散らすでしょう」

「現在の状況は?」

「敵竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです……。同盟に基づき、ゲルマニア軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは三週間後とか……」

オスマンは溜息をついた。

「……見捨てる気じゃな。敵はその間に、トリステイン城下町をあっさり落とすじゃろうて」




学院長の扉の前で聞き耳を立てていたルイズは、戦争と聞いて、顔が蒼白になった。

タルブと聞いて、ウルキオラの顔色が変わった。

シエスタの村だ……。

ウルキオラは足早に歩き始めた。

ルイズは慌てて後を追う。




ウルキオラは中庭にでた。

ゼロ戦が視界に入る。

少しゼロ戦を見て考えていたが、ゼロ戦に背を向け再び歩き出した。

後ろから、ルイズがウルキオラの腰に抱きついた。

「どこ行くのよ!」

「タルブの村だ」

「な、何しに行くのよ!」

「あの村には俺の世界のものが他にもあるかもしれん。失うわけにはいかん」

ルイズはウルキオラの腕にしがみついた。

「だめよ!戦争してるのよ!」

「だから行くんだろう」

ルイズは首を振った。

「いくらあんたが強くても、あんな戦艦に勝てるわけない!勝てたとしても、無事じゃすまないわよ!」

「俺が人間に負けるとでも?」

ルイズはふにゃっと崩れた。

「死んだら、どうするのよ……いやよ、わたし、そんなの……」

ウルキオラは驚いた。

こいつは…ルイズは俺が勝てないと思ってるんじゃない。

俺を心配しているのだ。

ウルキオラはルイズの頭に手を乗せた。

ルイズは、普段では考えられないウルキオラの行動に目を見開いた。

「俺は死なん」

ルイズは顔を真っ赤にして俯いた。

「私も行く」

「なんだと?」

「私も行く!!」

「だめだ」

「やだ」

「だめだといているのがわからないのか?」

ウルキオラはルイズを見つめた。

ルイズはきっとウルキオラを睨んでいる。

しかし、そこにわずかに怯えている様子があった。

二人は暫し見つめあっていた。

すると、どこからともなく声が聞こえた。

『わた…をたた……せて……さい』

ルイズとウルキオラは、突然の声に驚いた。

「だ、誰?」

ルイズはあたりを見回す。

しかし、それらしき人影は見えない。

ウルキオラは歩き出した。

「お前か?」

歩きながら声を発する。

『やっと……たのですね』

また声が聞こえた。

「なに?誰なの?ねえ、ウルキオラ!」

ルイズはウルキオラを追いかけた。

ウルキオラを見る。

驚愕した。

ウルキオラの目の前にあったものは、緑色の体を持ち、どこか畏怖を思わせるもの。

ゼロ戦であった。

「あのときはまさかと思ったが、やはり貴様だったか」

ウルキオラはゼロ戦に向かって言い放った。

『はい。私です。ウルキオラ様』

ゼロ戦の声が再び聞こえる。

「こりゃおでれーた!こりゃー飛べるだけじゃなくて意思をもってんのか!」

ウルキオラの腰に差さっているデルフがかちゃかちゃと音を立ててしゃべった。

「いや、意思をもっているはずはないんだが……」

『その通りです。私はただの機械にすぎません。意思は持ち合わせていません』

ゼロ戦はウルキオラに肯定した。

「なら何故声を発している?」

『私に意思はありません。これは佐々木武雄様の意思です』

「佐々木武雄…お前をこの地に飛ばしてきた者の名か」

『はい』

ゼロ戦とウルキオラの話についていけず、ルイズは声を高らかにして言った。

「ちょっと、ウルキオラ!これ、魔法の道具なの?」

「ちょっと黙ってろ」

ルイズは頬を膨らませた。

「なによ!答えなさいよ!」

そんなルイズを無視して、ウルキオラは再びゼロ戦に尋ねた。

「それで?俺に何か用があるのか?」

ゼロ戦は少し黙り込んだ。

そして、決心したかのように声を発した。

『私を飛ばしてほしいのです。タルブの村に……』

「どういう意味だ」

ウルキオラは言った。

『そのままの意味です。私を飛ばして、タルブを攻撃している者を蹴散らしていただきたいのです』

「それは、俺がお前に乗れということか?」

『無理は承知です。おそらく、私を使わなくてもあなたほどの実力を持ってすれば、たやすく倒せるでしょう。しかし、それでも私を使っていただきたいのです』

ウルキオラは悩んだ。

しかし、もはや答えは出ていた。

これを操縦できるのは、この世界ではおそらく俺しかいないだろう。

なにより、人間とはいえ、俺と同じ境遇に立たされた者の意思による頼みなら聞くほかなかった。

「いいだろう」

『本当ですか?』

「ああ」

『ありがとうございます』

そういった後、ゼロ戦はそれっきり声を発することはなかった。

ウルキオラはコルベールの研究室に行こうとゼロ戦から目を離した。

「おーい、ウルキオラ君!できたぞー!樽五個分だ!」

タイミングよくコルベールが樽を浮かせながらやってきた。

「いいところに来た。コルベール」

コルベールは樽を地面に置いた。

「やや、いいところとは、まさかこれを飛ばすのかね?」

「ああ」

それからウルキオラはルイズの方を見た。

そして、ルイズが何かを言う前に言葉を発した。

「どうしても着いて来る気か?」

ルイズは腰に手をあて、堂々と仁王立ちしている。

「当たり前でしょ!」

「そうか…なら、後ろに乗れ」

ウルキオラから了承が得られたので、ルイズは嬉しそうだった。

「死んでもしらんぞ」

ウルキオラはゼロ戦にガソリンを補給しながら言った。

「あ、あんたが守るんでしょ!」

ルイズは当たり前のように言った。

ウルキオラは小声で言った。

「世話の焼ける主人だ」




広場にはゼロ戦が鎮座している。

操縦席にはウルキオラの姿があった。

その後ろにはルイズが心配そうにウルキオラを見つめている。

座席の後ろには、本来馬鹿でかい無線機が積んであった。

が、この世界には無線で連絡を取る相手が存在しないので、整備の時に取り外していたのだ。

それを取ってしまえば、あとは各舵を繋ぐワイヤーしか機体の胴体内には存在しない。

ルイズはそこにいるのだ。

「ね、ねぇ…」

ルイズは小鳥のような声で言った。

「なんだ?」

「ほんとに飛ぶの?これ…」

「怖いのなら降りてもいいぞ?」

ウルキオラはルイズを挑発するような口調で言った。

「こ、怖いわけないじゃない!」

「なら黙って乗ってろ」

ルイズは頬をぷくっと膨らませた。

ウルキオラはエンジン始動前の操作を行った。

そして、タバサに頼んだことと同じことをコルベールに頼んだ。

プロペラがゆっくりと回り始める。

「コルベール」

ウルキオラはコクピットから顔を出して言った。

「なんだね?」

「離陸する際に、前から風を吹いてくれ」

コルベールはぱあっと輝いた顔をした。

「なるほど!それで離陸を助ければよいのだな!」

そういってコルベールは呪文を詠唱した。

前から烈風が吹き荒れる。

プロペラが激しく回る。

ブレーキを踏みしめる。

カウルフラップ全開。

プロペラのピッチレバーを離陸上昇に合わせた。

ブレーキを弱め、左手で握ったスロットルレバーを開いた。

はじかれたように、ゼロ戦が勢いよく加速を開始した。

操縦桿を軽く前方に押してやる。

尾輪が地面から離れた。

そのまま滑走する。

魔法学院の壁が近づく。

「ちょ、ちょっと!ウルキオラ!前!」

ルイズの叫びで、壁にぶち当たるギリギリのところで操縦桿を引いた。

ぶわっと、ゼロ戦が浮き上がる。

壁をかすめ、ウルキオラとルイズを乗せたゼロ戦は空に飛びあがった。

脚を収納する。

計器盤の左下についた脚表示灯が青から赤に変わった。

そのまま上昇を続ける。

「わわ、ほんとに飛んだ!」

ルイズが興奮したように騒ぐ。

「当たり前だ。飛ぶようにできているんだからな」

ゼロ戦は翼を陽光に煌めかせ、風を裂き、異世界の空を駆け上った。




タルブの村の火災は収まっていたが、そこは無残な戦場へと変わり果てていた。

草原には三千もの大部隊が集結し、港町ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍との決戦の火蓋が切られるのを待ち構えていた。

その上には、部隊を空から守るため、『レキシントン』号から発艦した竜騎士隊が飛び交っている。

散発的にトリステイン軍の竜騎士隊が攻撃を仕掛けてきたが、いずれもなんなく撃退に成功していた。

決戦に先立ち、トリステイン軍に対し艦砲射撃が実施されることになっていた。

そのため、『レキシントン』号を中心とした十三艦のアルビオン艦隊はタルブの草原の上空で、砲撃の準備を進めていた。

タルブの村の上空を警戒していた竜騎士隊の一人が、自分の上空、二千五百メイルほどの一点に、近づく一騎の竜騎士兵を見つけた。

竜に跨った騎士は竜を鳴かせて、味方に敵の接近を告げた。




ウルキオラは風防から顔を出して、眼下のタルブの村を見つめた。

この前見た、素朴な村は跡形もなかった。

家々は黒々と焼け焦げ、黒い煙が立ち昇っている。

ウルキオラは胸が痛むのを感じた。

なんの痛みなのかわからなかった。

草原を見た。

そこは、アルビオンの軍勢で埋まっていた。

この前、二人で紅茶を飲んでいた時のことを思い出した。

シエスタの言葉が蘇る。

『何にもない、辺鄙な村ですけど……、とっても広い、綺麗な草原があるんです。春になると、春の花が咲くの。夏は、夏のお花が咲くんです。ずっとね、遠くまで、地平線の向こうまでお花の海が続くの。今頃、とっても綺麗だろうな……』

美しかった村のはずれの森に向かって、一騎の竜騎兵が、炎を吹きかけた。

ぶわっと、森は激しく燃え上がった。

心臓がドクンと跳ね上がる。

ドス黒い何かが、ウルキオラの頭の中を支配する。

「不愉快だ…」

低く唸った。

ウルキオラは操縦桿を左斜め前に倒した。

スロットルを絞る。

機体を捻らせ、タルブの村めがけてゼロ戦が急降下を開始した。




「一騎とは、なめられたものだな」

急降下してくるゼロ戦を迎え撃つため、竜を上昇させた騎士が呟く。

しかし、ずいぶんと見慣れない形だ。

まっすぐに横に伸びた翼は、まるで固定されたように羽ばたきを見せない。

しかもずいぶんと聞きなれない轟音を立てている。

あんな竜、ハルケギニアに存在していただろうか?

しかし……、どんな竜だろうが、アルビオンに生息する『火竜』のブレスの一撃を食らったら、ただでは済まない。

羽を焼かれ、地面にたたきつけられるだろう。

彼はそのようにして、すでに二騎、トリステインの竜騎兵を撃墜していた。

「三匹目だ」

唇のはしを歪めて、急降下してくるゼロ戦を待ち受ける。

驚く。

速い。

竜とは思えない速さだ。

慌てて、ブレスを吐くために火竜が口を開けた。

その瞬間、急降下してくるゼロ戦の翼が光った。

白く光る何かが、無数に飛んでくる。

バシッ!バシッ!と騎乗する竜の翼に、胴体に、大穴があいた。

一発が開いた火竜の口の中に飛び込む。

火竜の喉には、ブレスのための、燃焼性の高い油が入った袋がある。

喉の奥で機関砲撃が炸裂し、その袋に引火した。

火竜は爆発した。




空中爆発した竜騎士の横をすり抜け、ウルキオラのゼロ戦は急降下を続けた。

ドラゴンブレスより、ゼロ戦が装備している機関砲の射程は何十倍も長い。

ウルキオラは頭の中を支配するドス黒い何かに身を任せ、正面から七・七ミリ機銃を、竜騎士めがけて叩き込んだのだ。

村の上空には、さらに何匹もの竜騎士が舞っていた。

彼らは味方の竜騎士が、突然あらわれた敵の攻撃によっていきなり爆発したのを確認した。

ブレスじゃない。

してみると、魔法攻撃だろうか。

どちらにしろ、一騎ではいかほどのこともできまい。

三騎が連なって、迎え討とうと上昇する。

それが傲りだということも知らずに…。




ウルキオラは探査回路を展開する。

右下から三騎、上昇してくるのを捉えた。

三騎は、横に広がって上がってくる。

本来ならば、火竜のブレスを浴びると、ゼロ戦は一瞬で燃え上がる。

しかし、このゼロ戦にはウルキオラの霊力の膜が張り巡らされている。

生半可な攻撃では、破れることはない。

ゼロ戦は三騎の上空で、百八十度の水平旋回を行った。

瓶にさした上戸の緑を回り、瓶の中に流れ込むような軌道を描いて、竜騎士たちの背後に回る。

そのスピードに、竜騎士たちは追随できない。

竜騎士が跨る火竜の速度は、現世の速度に換算して、おおよそ百五十キロ。

ゼロ戦は時速四百キロ近い速度で機動を行っている。

止まった的を撃つようなものだった。

ウルキオラは十字の光像を描いた照準器のガラスから、火竜の姿がはみ出る位まで機体を近づけ、スロットルレバーの発射把柄を握り込んだ。

ドンドンドンッ!と鈍い音と共に機体が震え、両翼のニ十ミリ機関砲が火を噴いた。

命中した機関砲弾で、狙われた火竜は翼をもぎ取られ、くるくると回転しながら落ちていく。

間髪入れずに右のフットレバーを踏込、機体を滑らせ次の火竜に狙いをつける。

発射。

胴体に何発も機関砲弾を食らった火竜は、苦しそうに一声鳴くと、地面めがけて落ちていく。

三匹目は急降下して逃げようとしたところを、機首装備の七・七ミリ機銃で穴だらけにされた。

火竜は絶命し、垂直に落ちていった。

ウルキオラはすぐに機体を上昇に移らせた。

速度エネルギーを高度に変換させる。

自然と、機体をそんな風に操っていた。

光った左手のルーンによって、ウルキオラはベテランパイロットの機動をゼロ戦に行わせていた。

展開した探査回路が、次の目標を教えてくれる。

そっちに機体を向けようとしたとき、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

「すすす、すごいじゃない!天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士が、まるで虫けらみたいに落ちていくわ!」

ウルキオラはそんなルイズの声を気にも留めず、操縦桿を左に倒した。

探査回路が十一騎の竜騎士を捉える。

機体がくるりと回転する。

ゼロ戦の腹の部分に、ぶおっと火竜のブレスが通過する。

ルイズがきゃあ!と叫んで機体の中を転げまわる。

「もっと丁寧に操りなさいよ!」

ウルキオラは無茶言うなと小声で言って、回転させた機体を急降下させた。

それでもう、竜騎士は追随できない。

その勢いで機体を上昇させ、頂点で失速反転。

太陽を背にして降下する。

追いかけてきた竜騎士たちめがけて、散々に機関砲弾と機関銃を叩き込む。




機体の中で転がるルイズは、怖くて泣きそうだった。

やっぱり来なきゃよかった、と恐怖が心を掴もうとする。

唇をぎゅっと噛み、『始祖の祈祷書』を握りしめた。

ウルキオラ一人を戦わせはしない、そう思ったからこそ、乗ったのではないか。

なによ、とルイズは思った。

自分一人が戦ってるような顔しないでよ。

私だって、戦っているんだから!

といっても、今の自分はまったくすることがない。

いつも大体そうだが、なんだか悔しい。

とにかく恐怖に負けては始まらない。

ポケットを探り、ルイズはアンリエッタからもらった『水』のルビーを指に嵌めた。

その指を握りしめる。

「姫様…ウルキオラと私をお守りください……」と呟く。

右手に持った始祖の祈祷書を左手でそっと撫でた。

結局、詔は完成しなかった。

自分の詩心のなさをルイズは呪う。

馬車の中で詔を考えようと、手に持っていたのである。

そうだ。

姫様の結婚式に出席するために、自分たちは魔法学院で馬車を待っていたのである。

それなのに、いつの間にか戦争している。

運命とは皮肉なものだわ、と呟きながら、『始祖の祈祷書』を開いた。

ほんとに、他意なく開いた。

だからその瞬間、『水』のルビーと『始祖の祈祷書』が光りだし、意識が朦朧としたとき、心底驚いた。




「全滅……、だと?わずか十二分の戦闘で全滅だと?」

艦砲射撃実施のため、タルブの草原の上空三千メイルに遊弋していた『レキシントン』号の後甲板で、トリステイン侵攻軍総司令官サー・ジョンストンは伝令からの報告を聞いて顔色を変えた。

「敵は何騎なんだ?百騎か?トリステインにはそんなに竜騎兵が残っていたのか?」

「サー。そ、それが……、報告では、敵は一騎であります」

「一騎だと……?」

ジョンストンは、呆然と立ちつくした。

直後、かぶった帽子を甲板に叩きつける。

「ふざけるなっ!ニ十騎もの竜騎士が、たったの一騎に全滅!?冗談も休み休み言えっ!」

伝令が、総司令官の剣幕に怯えて後じ去る。

「敵の竜騎兵は、ありえぬスピードで敏捷に飛び回り、射程の長い強力な魔法攻撃で、我が方の竜騎士を次々打ち取ったとか……」

ジョンストンは伝令に掴みかかろうとした。

しかし、ボーウッドがすっと手を出して咎める。

「兵の前でそのように取り乱しては、士気にかかわりますぞ。司令長官殿」

激昂したジョンストンは、矛先をボーウッドに変えた。

「何を申すか!竜騎士隊が全滅したのは、艦長、貴様のせいだぞ!貴様の稚拙な指揮が貴重な竜騎士隊を全滅に招いたのだ!このことはクロムウェル閣下に報告する!報告するぞ!」

ジョンストンは喚きながら掴みかかってくる。

ボーウッドは杖を引き抜き、ジョンストンの腹めがけて叩き込んだ。

白目をむいて、ジョンストンは倒れる。

気絶したジョンストンを運ぶように、従兵に指示した。

しかし、その直後、ものすごい振動が『レキシントン』号を襲った。

「何事だ!」

ボーウッドはなんとか体制を立て直し、周りの従兵に言った。

しばらくして、新たな伝令が足早にボーウッドの元へ走ってきた。

「報告!本艦、レキシントン号、前甲板大破!」

「なんだと!」

ボーウッドは伝令に聞き返した。

「先ほどの報告にありました、一騎の敵竜騎士が爆弾と思われるものを上空から投下!甲板を突き破り、艦内で爆発した模様!」

伝令の報告が終わると同時に、艦隊右舷に緑色をした見たこともない竜が現れた。

「艦長!あれです!我が竜騎士隊を全滅に追い込んだ竜です!」

ボーウッドは唇を噛んだ。

「上方、下方、右方戦準備。弾種散弾。何としても撃ち落とせ!」




ラ・ロシェールの街に立てこもったトリステイン軍の前方五百メイル、タルブの草原に敵の軍勢が見えた。

アルビオン軍だ。

三色の『レコン・キスタ』の旗を掲げ、静清と行進してくる。

生まれて初めて見る敵に、ユニコーンに跨ったアンリエッタは震えた。

その震えを周りに悟られないよう、アンリエッタは目を瞑って軽く祈りを捧げた。

すると、遥か上空で爆発音が聞こえた。

即座に上を向く。

すると、そこには、先ほどまでトリステイン軍に砲撃を浴びせていた『レキシントン』号の前甲板が激しく燃え上がっていた。

周りのトリステイン軍もざわざわと騒ぎ始めた。

「マザリーニ!あれは一体……」

アンリエッタは隣にいるマザリーニに聞いた。

「わ、わかりませぬ……」

マザリーニも一体何が起こっているのか全く分からなかった。

するとそこに一人の兵士が現れ、アンリエッタの前で跪いた。

「報告申し上げます!緑色の翼を持った竜が、アルビオン軍全竜騎士隊、総数二十騎を撃墜いたしました!」

「なんだと!アルビオンの竜騎士隊をか!?」

マザリーニは驚いた。

アンリエッタも目を見開いている。

「はっ!その後、アルビオン艦隊『レキシントン』号の前甲板に爆弾らしきものを投下!レキシントン号の前甲板大破!現在、レキシントン号と緑色の竜が交戦中とのことです!」

マザリーニは上空を見上げる。

またも、爆発音が聞こえた。

今度はレキシントン号の後甲板で爆発が起こる。

前方のアルビオン軍から焦りが見える。

空からの支援がなくなったからである。

マザリーニはこの機を幸と捉えた。

「諸君!見よ!敵の艦隊は攻撃を受けている!伝説のフェニックスによって!」

「フェニックス?不死鳥だって?」

動揺が走る。

「さよう!レキシントン号の姿を見よ!伝説のフェニックスによって、レキシントン号は危機に陥っている!攻撃の機会は今しかありませんぞ!各々方!前へ!」

するとあちこちから歓声が上がり、前方にいるアルビオン軍に向かって攻撃を図った。




ウルキオラは舌打ちをした。

わかっていたことだが、60キロ爆弾を二発叩き込んだだけでは、巨艦『レキシントン』号は沈まない。

ウルキオラは艦隊の右舷側がピカッと光ったことに気が付いた。

慌てて風防を閉める。

自分は問題ないが、後ろにいるルイズに当たったらただでは済まない。

次の瞬間、ゼロ戦のいたるところに何かが当たった。

無数の小さな鉛の玉である。

しかし、ウルキオラの霊圧の膜でおおわれたゼロ戦は全くの無傷であった。

ウルキオラは前方を見た。

レキシントン号の後ろに、十二もの戦艦がいるのが目に入った。

レキシントン号は落とせなかったとはいえ、しばらくは消火活動に専念せざるおえないだろう。

ゼロ戦はレキシントン号から離れ、十二の戦艦へと矛先を向けた。




シエスタは森の奥で身を潜めていた。

しかし、突然、上空で二度の爆発があったので恐る恐る森から顔を出した。

驚く。

さんざんぱらタルブの村を痛めつけた船が前と後ろから炎と煙を上げていた。

ボケッとそれを見つめていると、空が緑色に染まった。

焦点を合わせる。

すると、レキシントン号の後方、十二からなる艦隊の一つが緑色の閃光に飲み込まれ、爆発する。

見覚えがあった。

宝探しの時、あの人が放っていたものと酷似していた。

またもや空が緑色に染まる。

艦隊が爆発する。

繰り返される。

少し経つと、十二のすべての船が爆発し、地面に落下した。

シエスタは胸の前で手のひらを組んだ。

「まさか……ウルキオラさんが…?」




ウルキオラは虚閃を用いて、十二の艦すべてを撃沈に追い込んだ。

ウルキオラは再びゼロ戦をレキシントン号がいる方角へと向けた。

次の瞬間、探査回路が敵を捉えた。

「相棒!上だ!」

はっとして上を見上げると、一騎の竜騎士が、烈風のように向かってくる。

ワルドであった。




ワルドは風竜の上で、にやっと笑った。

彼はこの時を、雲に隠れ、待っていたのだ。

次々に味方の竜騎士を倒し、レキシントン号に打撃を与え、十二もの艦隊を叩き落とした、謎の竜騎兵。

しかし、十二の艦隊を叩き落としたとき、ワルドは気が付いた。

この竜もどきに乗っているものの存在を。

失った左腕がうずく。

風竜のブレスは役に立たぬが、自分には強力な呪文がある。

左の義手で手綱を握り、ワルドは呪文を詠唱した。

『エア・スピアー』。

固めた空気の槍で串刺しにしてくれる。




後ろにぴたりと風竜は張り付いて、離れない。

スロットル最小。

フルフラップ。

ゼロ戦は後ろから何かに掴まれたように減速した。

操縦桿を左に倒す。

同時にフットバーを蹴りこんだ。

鮮やかに天地が回転した。




呪文を完成させたワルドの視界から、いきなりゼロ戦が消えた。

辺りをきょろきょろと見回す。

どこにもいない。

後ろから殺気を感じ、ワルドは振り返る。

ゼロ戦は滑らかに、瓶の内側をなぞるような軌道を描いて、ワルドの風竜の背後に躍り出た。

機首に光が走る。

機銃弾が火竜に比べて鱗の薄い風竜の体を引き裂いた。

ワルドは肩に、背中に弾を食らい、苦痛に顔を歪めた。

風竜が悲鳴を上げた。

ゆっくりと、滑走するような形で、ワルドを乗せた風竜は撃墜していった。




ウルキオラは再びゼロ戦を上昇させた。

あんな機動を行ったので、ルイズの状態が気になり、後ろを振り向いた。

驚く。

ルイズの目に生気がない。

「相棒!屋根を開けろ!」

デルフの叫びですぐさま風防を開ける。

風がコクピットに流れ込んでくる。

ルイズが立ち上がる。

「ルイズ?」

ウルキオラはそんなルイズを怪訝な表情で見つめた。

ルイズが杖を構える。

それを見て、ウルキオラは気が付いた。

「ようやくか……」

ウルキオラはルイズが『虚無』に覚醒したの読み取った。

「相棒!気づいてたのか!だったら話は早い!こいつをあの船の真上に!」

ウルキオラは、いまだに炎が立ち込めるレキシントン号の真上でゼロ戦を旋回させた。

ルイズの口から低い詠唱の声が漏れてきた。





『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ』

ルイズの中を、リズムが巡っていた。

一種の懐かしさを感じるリズムだ。

呪文を詠唱するたび、リズムは強く唸っていく。

神経は研ぎ澄まされ、辺りの雑音は一切耳に入らない。

まるで、夢の中にいるような感覚であった。

自分が自分ではないような。

これが本当の自分なのだろう?

『オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド』

体の中に、波が生まれ、さらに大きく唸っていく。

『ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ』

体の中の波が、行き先を求めて暴れだす。

それを読み取ったウルキオラが操縦桿を倒す。

ゼロ戦が、真下の『レキシントン』号めがけて急降下を開始した。

ルイズの目に輝きが戻る。

『ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……』

長い詠唱ののち、呪文が完成した。

その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を、理解した。

巻き込む、すべての人を。

自分の視界に移る、すべての人を、己の呪文は巻き込む。

選択は二つ。

殺すか。

殺さないか。

破壊すべきは何か。

烈風顔なびる中、真っ逆さまに降下する自分。

目の前に広がる光景は巨艦。

戦艦『レキシントン』号。

ルイズは己の衝動に準じ、中の一点めがけて、杖を振り下ろした。




アンリエッタは信じられない光景を目の当たりにした。

十二の艦隊が撃墜させられた時以上に驚いた。

上空に光の玉が現れたのだ。

まるで小型の太陽のような光を放つ、その玉は膨れ上がる。

そして……、包んだ。

空を遊弋するレキシントン号を包んだ。

さらに光は膨れ上がり、視界すべてを覆い尽くした。

音はない。

アンリエッタは咄嗟に目を瞑った。

目が焼けると、錯覚するほどの光の玉であった。

そして……、光が晴れた後、艦隊は炎上していた。

巨艦『レキシントン』号の帆が、甲板が、さらに燃え上がる。

まるで嘘のように、あれだけトリステイン軍を苦しめ、二回の大きな爆発にも耐えた艦隊が、がくりと機首を落とし、地面に向かって撃墜していく。

地響きを立てて、艦隊は地面に滑り落ちた。

アンリエッタは、しばし呆然とした。

辺りは、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。

誰も彼も、己の目にしたものが信じられなかったのだ。

一番初めに我に返ったのは、マザリーニだ。

彼は、レキシントン号を落としたのが緑色の竜だと推測した。

して、それは当たる。

彼は、戦艦が遊弋していた空に、煌めく緑翼を見つけた。

ウルキオラたちが乗ったゼロ戦であった。

マザリーニは大声で叫んだ。

「諸君!見よ!あれがトリステインが危機に陥った時に現れる、伝説のフェニックスですぞ!」

いたるところから歓声が漏れる。

「うおおおおおおおおおぉ!トリステイン万歳!フェニックス万歳!」

アンリエッタは、マザリーニにそっと尋ねた。

彼女は十二の艦隊が沈んだ時に空を包んだ緑色の光に見覚えがあったからだ。

「枢機卿、フェニックスとは……、真ですか?伝説のフェニックスなど聞いたことがありません…あれは…」

マザリーニはいたずらっぽく笑った。

「真っ赤なウソですよ。しかし、今は誰もが判断力を失っておる。目の当たりにした光景が信じられんのです。この私とて同じです。しかし、現実に敵竜騎士は全滅し、レキシントン号を含む十三の艦隊も撃沈。あのように報告にあった竜が舞っているではござらぬか。ならばそれを利用せぬという法はない」

「はぁ…」

「なあに、今は私の言葉が嘘か真かなど、誰も気にしませんわい。気にしているのは生きるか死ぬか。そして、勝つか負けるか、ですぞ」

マザリーニは王女の目を覗き込んだ。

「使えるものは何でも使う。政治と戦の基本ですぞ。覚えておきなさい殿下。今日からあなたはこのトリステインの王なのだから」

アンリエッタは頷いた。

枢機卿の言うとおりだ。

考えるのは……、あとでいい。

枢機卿は前方のアルビオン軍に向き直った。

その距離は百メイルにまで近づいていた。

「敵は我々以上に動揺し、浮足立っておるに違いありません。なにせ、頼みの艦隊がすべて撃沈したのですから。あとは、目の前の敵だけです」

「はい」

「殿下。では、勝ちに行きますか」

マザリーニが言った。

アンリエッタは再び強く頷くと、水晶光る杖を掲げた。

「全軍突撃!王軍!我に続け!」




ルイズはぐったりとして、ウルキオラに寄り添っていた。

「ルイズ」

「ん?」

ルイズはぼんやりと返事をした。

体中を気だるい疲労感が包んでいる。

しかし、それは心地よい疲れだった。

何事かをやり遂げたあとの……、満足感が伴う、疲労感だった。

「気分はどうだ?」

ルイズははぁ、と溜息をついた。

「悪くないわ」

「そうか…」

眼下では、タルブの草原に布陣したアルビオン軍に、トリステイン軍が突撃を敢行したところだった。

トリステイン軍の勢いは、もはや素人目にも明らかであった。

数で勝る敵軍を、逆に押しつぶしてしまいそうな勢いだった。

黒く焼け焦げた村を見た。

シエスタの顔が浮かぶ。

無事だろうか。

この時、既にウルキオラの頭の中に、あのドス黒い何かは存在しなかった。




夕方……。

シエスタは弟たちを連れて、森から出ていた。

トリステイン軍が、草原に集結したアルビオン軍をやっつけたとの噂が、森に隠れていた村人に伝わったのだ。

アルビオン軍はトリステイン軍の突撃によって潰走し、多くの兵が投降したらしい。

確かに、昼間中、村を闊歩していたアルビオン兵の姿はない。

先ほどまで続いていた怒号や、剣戟や、爆発音は収まっていた。

草原には、黒煙が立ち上がっていたが、とりあえずはほんとに戦は終わったようだ。

空から爆音が聞こえてきた。

一度聞いたことのある音だ。

見上げる。

見慣れたものが空を舞っている。

『竜の羽衣』であった。

シエスタの顔が輝いた。




ゼロ戦をタルブの草原に着陸させたウルキオラは風防を開いた。

村の南の森から、誰かが駆けてくるのが見えた。

シエスタだった。

ウルキオラはゼロ戦から下りて、歩き出した。




ルイズは歩き出したウルキオラを見て、溜息をついた。

ま、あの子が生きてて良かったけど。

もっと私を労ってくれてもいいんじゃない?と思う。

先ほどの呪文……、虚無の系統、『エクスプロージョン』。

実感はない。

ゼロ(虚無)だけに、唱えた実感がないのかもしれない。

自分は本当に『虚無の使い手』なんだろうか?

なにかの間違いなんじゃないのか?

でも、ウルキオラは虚無を司る存在だと言っていた。

それに、伝説の使い魔『イーヴァルディー』のルーンが刻まれている。

それが、自分が虚無の使い手だということを肯定していた。

とにかく、これから忙しくなるだろう。

あまりにも実感がなくって……、自分が伝説の担い手ということが、信じられなくて、ルイズはぼんやりと溜息をついた。

これが夢だったら、どんだけ楽な気分かわからない。

でも、あまり深く考えないことにした。

その辺は、あの使い魔を見習おう。

ウルキオラ、伝説の使い魔のくせに、まったく気負いがない。

そのぐらいでいいのかもしれない。

とにかく自分には荷が重すぎるのだ。

『伝説』なんてものは。

操縦席に立てかけられたデルフリンガーが、そんなルイズに話しかける。

「よう、伝説の魔法使い」

「なによ、伝説の剣」

デルフリンガーはからかうような調子で、ルイズに言った。

「意地張るのもいいけど……、追いかけねえと、あの村娘に取られちまうぜ?」

ルイズは頬を赤く染めて、膨らませた。

「い、いいわよ…あんなの」

「本気かい?」

デルフリンガーが呟く。

あーもお!と叫んで、ルイズは操縦席から飛び出し、駆けだした。

ウルキオラの背中を追う。

デルフリンガーは、そんなルイズの後ろ姿を眺めて、大声で笑った。

「相棒を落とすのは、戦より大変だぞ!」




走りながらルイズは思った。

ウルキオラの背中を見つめていると、鼓動が速くなる。

頭の中が白くなる。

ヘンなの。

なによばか。

そんなにあの子がいいわけ?

そりゃ可愛いかもしれないわ。

お料理も得意だし、男の子はそういう子がいいんだってことも知ってるわ。

でも、私だって。

私だって……。

始祖の祈祷書も、虚無の系統も……、この瞬間はルイズの頭の中なら飛んでいた。

とにかく、走り出したら追いかけないと、置いてかれてしまう。

でも、それなら……、自分は追いかけ続けてやる。

どこまでも追いかけて……、振り向いた瞬間、思いっきり抱きついてやると、ルイズは思った。 
 

 
後書き
どーも作者です。

原作第三巻分ここで終了です。

長かった…

この回が異様に長かった。

疲れました… 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧