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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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九校戦編
  第17話 策

2人のローブ姿を見て三高のチームメイトから

「ただのハッタリじゃないのか?」

その推測に、将輝と吉祥寺は揃って首を横に振った。

「『奴』はジョージのことを知っていたし、陸名翔はスピード・シューティングで直接観ている……あれは不可視の弾丸『インビジブル・ブリット』対策か?」

「分からないが、あの剣を持たないで通常の汎用型CADだけに変更したのだから、手の内をさらさないで、ここまで来ていたのは確かだ。『彼』の意図を読もうとすると、『彼』の策略にはまる恐れがあるから、いつも通りにいこう」

そして、スタートの合図とともに意外な第一弾が訪れた。

いきなり、チームメイトが倒れた。いや、その前に振動魔法を浴びたのは確かだが、将輝と吉祥寺は、無意識に展開している情報強化の防壁で防いでいた。

将輝は領域干渉の魔法によって、自身を守りつつ前へ移動しはじめようとしたが、吉祥寺は、今使われた魔法が無系統魔法なら、この距離では届かないのはもちろんだが、加重系統だったはずだという分析に思考が向いた分、防御のための魔法発動が遅れた。そこには、格下だと無意識に思っていたための行動だった。だが、そのわずかの時間にきたのは、雷撃魔法。

倒れた2人のチームメイトを見て、『この草原ステージで奇襲か!』

達也が純粋な振動系統魔法という手札を隠していて、古式魔法の発動スピードは遅いという既成概念にとらわれていた、という思いも一瞬よぎったが、相手のモノリス付近で火の結界が張られているのを観て、「いつもの通りに行なうか」と将輝はつぶやいた。そして普段よりは慎重に、砲撃魔法を放ちながら様子をみるが、全部の魔法が術式解体『グラム・デモリッション』で迎撃されていく。いつものように相手の500m手前で停止して、本格的に砲撃魔法を開始しだすと、それまでの火の結界が消えて、青、赤、黄、緑と4色ながら、それぞれは単色に輝く8つの球体が浮かんでいた。

先ほどの火の結界の内側にあったから、何かの術だろうが、知らない魔法とはいっても、やることは1人で義勇兵として進んでいったようにすること。魔法の種類は今回、砲撃魔法なのだが、相手の4つの球体が移動しはじめるとともに、2人がその球体の中でそろって歩いてくる。それならまだしも、残っているのは、陸名翔ではなく、吉田幹比古。

ここで、将輝にとって致命傷だったのは、すでに吉祥寺が倒されていること。戦術の変更においては、吉祥寺を参謀としているので、次に打つ策を考え出すには、時間がなかった。ただひとつ吉祥寺に先に作戦として言われていたことは、防御魔法をかえておくこと。これをおこなったおかげで、ジョージが放った術式解散『グラム・ディスパージョン』と同じ魔法の感触を感じるが、それは失敗に終わったようだ。ただ、その瞬間、相手のエリア魔法に揺らぎを感じた。ふとそのことに疑問を覚える。

しかし、500mを歩いてきた司波達也と陸名翔の2人だが、陸名翔についてはあの奇妙なフード付きローブをきていないことも不思議なことだ。それを気にする余裕はあったが、砲撃魔法を放ったところ、ほとんどは司波達也の術式解体『グラム・デモリッション』に迎撃されて、司波達也からの振動系魔法や、吉田幹比古からと思われる雷撃魔法を防御魔法で防ぐというところがあるので、砲撃魔法は昨日までと同じ速度しかだせないところに焦りを感じはじめていた。

一部の迎撃されなかった魔法も、4色の球体の間の空間で、防がれた。しかしエリア魔法と思われた物は結界魔法の一種なのだろうとはわかったが、接近してくるうちに、砲撃魔法を撃ち込むたびに、その結界に揺らぎを感じる。将輝の判断は、攻撃優先。防御魔法を相手の攻撃から耐えられるぎりぎりのところまで弱くして、砲撃魔法の事象改変力を最大にして放った。しかし、そう思った瞬間に意識がとぎれた。

これで終了のサイレンが、鳴って決勝戦は終わったのが、あとで一条将輝がみた画像だった。



しかし、これも観る人間が観れば違い、例えば来賓席で観戦していた九島列が愉快そうにしながら、席をたっていた様子がある。



僕は勝ったと認識したところから振り返ってみると、今の攻防は僕らからみると、最初の達也が振動系魔法を放つ瞬間に、その後ろで、僕が短身型の特化型CADをローブの中で真下に向けたまま使った。照準補助がついていないタイプだからこそできる芸当だが、照準はプシオンを経由しての幽体……人間ならば同じ形状をとるので、その座標にむかって振動系統魔法を放った。これによって、いかにも達也が撃ったかのように見せるもの。

そして雷撃魔法は、幹比古の雷童子『らいどうじ』の派生形。振動系魔法にも有効な防御魔法は織り込んだ上での、あくまで予備のための魔法だったのだが、カーディナル・ジョージの防御魔法の発動の遅れが、結果としてそのまま雷撃魔法を受け止めてくれて、倒れてくれたというものだ。もしかして、防御魔法が遅いので、ディフェンス位置にいたのかなというところだ。それがなかったら、もう1回振動系魔法をカーディナル・ジョージに放つ予定だったが。

そんな意識とは別に、古式の結界魔法で最速でおこなえるのは、火精結界。発火念力の先天性スキルをもつ僕とは相性のよい精霊だ。他の精霊には嫌われていないというところぐらい。むしろ精霊に好かれているのは幹比古だ。
達也より渡されたローブに縫いこまれていた魔方陣には、円明流合気術の古式魔法の初伝で、練習用に使用するものも織り込まれていた。ようは精霊を制御するのに、2人で制御して相手に制御を渡して、練習をするものだ。

師匠が、九重先生のところに送ったのだろう。本当に大人気があるのだろうかと、大いに悩んだものだが、ある物は使うということで、小規模の結界魔法を起動してから、その制御をこの魔方陣が織り込んだローブを使用して、幹比古へ制御を渡したのだ。もともと精霊魔法……吉田家では神霊魔法の使い手である幹比古にとっては、難易度は低く、制御だけならできる……制御はプシオンで魔法の維持に使う力は僕のサイオンなのだが、4つの球体には風、水、土、火の精霊を集める魔法式が展開されているのだが、それを隠すための光振動系魔法だ。光振動系魔法を使っているのは、幹比古の精霊に関する色のイメージを表しているのと、他者に対しては術式を見せないためだ。ローブの魔方陣がなくても結界そのものを2つ作って、制御もできただろうが、精神的にかなり疲れる結果になっただろう。

なので、火精結界を張って、8つの球体の光振動系魔法によってつくり、そこへ2つの結界を作っている最中に、ローブと特化型CADを地面において、この結界、四精結界が完了したあと、精霊の制御を幹比古に渡した。

そのあとに、外の火精結界を解いて、1つの結界の制御をしながら歩いていくのを、達也が横にいてもらい、なるべく迎撃を多くしてもらって、結界への負荷がかかるのを下げてもらった。一応、作戦としては、達也が振動系魔法で、幹比古が雷童子『らいどうじ』の派生形で、プリンスを攻撃して、防御魔法へ魔法力を分散させておくというのも戦術としてとりこんでいる。

プリンスの直前で術式解散『グラム・ディスパージョン』を放ったが、今まで使っていた防御魔法と異なるようだ。この時、いかにも魔法力がぎりぎりなように見せるというところで、結界が揺れるように精霊を使役するという作戦だ。ちなみに達也には、魔法式を直接分析ができる能力はあるが、僕には、それに対処できる術式解散『グラム・ディスパージョン』の起動式が無いので、聞くだけ無駄と判断してここは聞かなかった。

プリンスからの砲撃魔法に対しての感触では、全魔法がきても耐えられそうだが、ここでも結界が揺れるように精霊を使役する。現代魔法と古式魔法で威力は古式魔法にあるのは、古式魔法師の常識だ。この魔法は対妖魔用の簡易防御結界だが、防御力だけなら普通の戦術級魔法師ではやぶるのは無理だろうが、この結界魔法の欠点は重力魔法。重力魔法は古式魔法には無い概念の魔法なので、重力魔法に弱いものが混ざっている。それでも割合に重力魔法に耐える魔法もあるのは不思議なのだが。

この結界にたいして有効で重力魔法が得意そうなカーディナル・ジョージは、早めにねらっておく必要があった。それよりも、先にもう一人を狙ったのは、先が読めない相手を真っ先に気絶してもらおうというところだ。倒せなかったら倒せなかったで、別なもっと面倒な結界魔法を使うところでもあったが。

そんなところで、プリンスの位置が下がれば、神経的な負けとなるだろうが、それをさせないために、わざと砲撃魔法にあわせて結界をゆらして、いかにも砲撃魔法がきいていますよ。もう少し強く放てば、結界魔法を抜けるかもと思わせるもの。
とどめの雷童子『らいどうじ』の派生形も、最初から少しずつ弱めていって、プリンスが防御魔法よりも砲撃魔法を優先した時のための作戦。防御魔法が弱くなったところで、幹比古が最大の威力で雷童子『らいどうじ』の派生形を放って終わったというところだ。

九島烈が楽しそうに笑っていたのは、これらの作戦のこともあった。



試合終了とともに、最後は予想外の正攻法に見える方法で勝ったことに、驚きの方が大きかったようだが、一高の特に1年生女子選手が観戦していた席では、勝ったことで拍手がおこって、そこから全体に拍手がわきあがった。

一高の天幕で観ていた、真由美や十文字も、3人がかりとはいえ三高のプリンスと真正面から勝負して、勝つとはさすがに思っていなかった。それは天幕にいた他のスタッフもそうだった。それゆえに勝ったというのに、反応したのは、観戦席より後であったのは、翔たちの知らないことだった。

この中で十文字が真由美を説得して、達也を筆頭にモノリス・コードへ出場させた思惑は、元々1年生に対しての、てこ入れの一環のつもりで、3位に甘んじるのではなくて、2位に浮上させること。1位はさすがに不可能だと思っていたのだが、結果は1位をとった。満足すべき結果といえるかどうかは、十文字も次期当主としては考え込むところだった。



その夜は、普段の年なら、新人戦優勝のパーティが開かれるらしいのだが、今年はその立役者と完全にみられている達也と、明日に本戦出場の深雪がいないということだ。なぜなら、明日のミラージ・バットの成績次第では、総合優勝もかかっているので、当然のごとくそっちが優先されたからだ。

手持ち無沙汰な僕は、結局レオたちと一緒にいて、今日のモノリス・コードについて幹比古とともに、話すはめになった。

ちなみにエリカからは、剣の使い方はまぁまぁ良かったけれど、なんで逆けさ切りのところを、水平切りなのよっと問い詰められた。レオだったら、まず先にノートで頭を叩かれている場面だろうなぁと思いながら、逆けさでたたきつけたら、下手をすると気で肺を痛めて、最悪肺が破れるかもしれないというと半分は納得したが、なんとなく腑に落ちないようだ。このあたりは、刀の使い方が千葉家剣術と円明流合気術の違い、というところで納得してもらった。

ちなみに『小通連』は重たい。気功術ができていなかったら、片手で持ってなんかいなかった。あとは、筋力だけで普通に振り回せるレオが使えるように、達也が再調整する予定だ。

最後に幹比古の魔法が届かなかったらという話にもなったが、

「そんな『たられば』だよ」

と答えたら、幹比古が

「達也と翔とで、術式解体『グラム・デモリッション』を打ち込む予定だった」

そう、まわりにつげた。
ちなみに術式解体『グラム・デモリッション』が当たった時の幻痛はかなりきついらしいので、プリンスにとっては、幹比古の魔法で気絶できたのは、不幸中の幸いかもしれないという話もしたが、

「幹比古も隠し玉を、まだ用意してあったくせに」

と手の内の暴露合戦もはじまったが、結論は、三高を相手にするまで手の内を隠し続けるという作戦をたてた、達也が一番の詐欺師とのことで落ち着いた。

このような暴露話をしたおかげで、翌日は、神経的に疲れることをするはめになったのだが、うっかりもらした僕の自業自得なのだろう。



大会9日目。
本戦が再開されて、僕は雫の横で、モノリス・コードを観戦している。モノリス・コード・フリークの雫の見解を聞けるという意味ではよかったのだが、逆に雫から

「競技者としての視点で、どう観えているのか教えて」

ということだった。ほのかも一緒だが、雫を挟んで座りあっているぐらいだ。事前にほのかのことを聞かれたら、どうしようと考えていた自分が、バカらしく思えてきた。

本当の目的は一高とその対戦高の競技者のCADで、電子精霊が活動したかどうかを、見極めるのだが、それっぽく話さなければ不自然だろう。自分なら、こうするという視点も入れながら観察する。雫に話す必要もあるから、見るつもりはなかった、他校同士のモノリス・コードも見るはめになってしまった。

もとはといえば、昨晩のレオの部屋で集まったときに

「明日はどうする」

と聞いたのが間違いだった。

「明日はいつもの場所で待ち合わせでもするかい?」

ぐらいでよかったのだ。おかげで美月が

「もし精霊が原因だったら、わたしも見なきゃいけないわよね」

って言いだして、エリカやレオに、一高に関連する事故は、大会委員が怪しいということがもれてしまったのだ。精霊をみるプシオンを観る眼なら、美月より僕のほうが確実に捕らえられる。かくして、美月がミラージ・バットで、僕はモノリス・コードを監視するということになってしまった。



そして、今は一高の関係者観戦席で雫の見解を聞くとともに、こっちからは、異なる視点や戦い方があるならば、それを言うというところで、まわりの一高関係者からは、

「あいつ、来年のモノリス・コードを狙っているのか」

そういう言葉が聞こえてきた。あー、頭が痛いぞ。
うん。電子精霊のプシオンの兆候を見逃さないように、6つのCADに注意を向けて、雫の見解に答えていたら、『纏衣』系の術とプシオンの能力以外は、ほぼ素のままで答えていた。なので、昨日の対戦でいかに手札を隠していたかが、まわりにもわかってしまったらしい。

これがあとで、本当かということになるのだが、それは九校戦のあとの話で、今の僕には知りえないことだった。

昼食時に、「達也は妹にちょっかいをだされると怒り狂うシスコン兄貴」というフレーズが一高の天幕では広がっていた。CADに細工していた大会委員を捕まえたというところが真相だったので、もう電子精霊探しはしなくても良くなった。

美月とレオは天然で連絡するのを忘れていたらしいのと、幹比古は他の3人の誰かが行なうと思い込んでいたのに対して、エリカは

「そういうこともあるわよね」

これって、気が付いていての確信犯だな。こういうのがエリカだと、あきらめることにした。

午後は、雫が離してくれない、と言うと語弊を招くが、戦い方のバリエーションが雫の知っているバリエーションと異なるので、興味をもたれたらしい。もちろん、モノリス・コード・フリークとしてだ。そこは勘違いしてはいないぞ。

結局は午後も雫の横で観戦することになって、レオたちもついてきていたが、今度は、素のままになりすぎないように、少し考えてから言うようにした。しかし、雫から「もっと違う方法は?」と問われて答えていると、一高の関係者からは、隠している手札はどれだけあるんだ? という視線を感じ続ける、という悪循環に陥っていた。それも一高の競技のときだけ、一高の関係者が多くなるので、そこは不幸中の幸いといえよう。

一部、他校からの視線も感じたが、そこまで気にしていたら、神経がもたない。



モノリス・コードの本日の分が終わったら、今度は夕方からの、ミラージ・バット決勝戦を観戦して、全員が飛行魔法ばかりというのには驚かされたが、先月発表されたトーラス・シルバーの起動式はA級ライセンスをもっている魔法師なら取得できるので、師匠に頼んで、試している最中だ。いまだプシオン誘導式のパラメータが確定できなくて面倒だ。

誘導式がなくても、サイオンにひきずられるプシオンが少ないっていいよなぁと、飛んでいる深雪を観ていた。そして最後になると深雪1人だけが飛んでいて、優雅に光球をたたいていく。最後に競技終了の合図があって、深雪が1位となり、一高の総合優勝を決めた瞬間となった。



その夜は、お茶会がミーティング・ルームにて行なわれて、幹比古は呼ばれるのは当然として、エリカが軍の施設を借りてくれたからという名目に、レオ、美月も呼ばれていた。達也がいない中、幹比古とだけ一緒なら、学校での魔法実技が同じだからといっても、話題はすぐにつきそうだ。

達也は「朝まで起こすな」ということらしいが、深雪から伸びる見えづらい霊気のラインは、下へとのびている。いったい何をしているのかと興味をもっておってみると、達也のそばには、なぜか『ミズ・ファントム』ことカウンセリングの小野遥先生、それと『エレクトロン・ソーサリス』……たまに師匠が『行き遅れの魔女』とつぶやいているが……のプシオンを感じられた。小野先生がいるのはともかく、確かに藤林響子は防衛相の所属の肩書をもっているから、いても不思議ではない。

しかし、普段と異なる波動をはなっているプシオンの持ち主であった達也は、あれは獣を体内に飼っている。深雪のプシオンで縛り付けられているのかと思っていたが、どうもそうでは無いようだ。何かやっかいごとにかかわっているのかと、僕は『君子危うきに近寄らず』をきめこんだ。
 
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