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DOG DAYS 記憶喪失の異世界人

作者:blueocean
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第8章 絆

「くうっ………!!」
「レイ、また来る!!」
「くっ!?」

アリシアに言われ、身構える。
四方から絶え間なく飛んでくる雷の槍、フォトンランサー。
いくら飯綱の力で消しされると言っても絶え間なく来ると対応にも限界がある。

「あら、こんなものなの?同じ魔力を使ってもデバイスの制御が無いとどうしようもないのね」
「デバイス?」
「そんな事も知らないで魔力を使っていたのね。本当は相当の実力なのかしら………まあいいわ、それならそれでなおのこと消えてもらう!!」

再びフォトンランサーを多数展開するアンネローゼ。

「また………!!」
「行け!!」

またも同様に多数向かってくるフォトンランサー。

「何度も同じ手を………」

そんな向かってくるフォトンランサーに向かって真っ直ぐ突っ込むレイジ。

「葬刃!!」

広範囲に展開する前に自身が放てる最高の抜刀術で多くを消し去った。

「なっ!?」
「葬刃追連!!」

そのまま抜刀した勢いを持ったまま一回転しながらアンネローゼに斬りかかるレイジ。
しかし………

「なっ!?」
「………まさか真っ直ぐ突っ込んで来るなんてね………あなたは痛みとか感じないのかしら?」

空に飛びながら言うアンネローゼ。
レイジの一閃はアンネローゼが空を飛ぶことによって避けられた。

「………空飛ぶとかあり?」
「魔導師じゃ基本だってグロリオサに聞いているわよ?違うの?」
「俺、記憶無いんだって………」
「なら私の勝ちね」

そう言って杖をレイジに向けうアンネローゼ。

「くっ、これは!?」
「これで終わりよ、サンダーレイジ!」

拘束されたレイジに向かって雷が降り注いだ………








「レイ………」
「レイジさん………?」

雷が落ちたの瞬間巻き起こった土埃でどうなったかまだ分からない。

「拘束されたままじゃどうにもならないでしょう………これで、邪魔者は居ないわ………」

そう言いながら地面に降りるアンネローゼ。
そしてゆっくりシンクに向かって歩いていく。

「くっ」
「抵抗するな」

瞬時にフォトンランサーを飛ばし、立ち上がろうとしたシンクに攻撃した。

「パラディオンを貰って『アンネ!』!?」
「………雷斬衝!」

雷を纏った斬り下ろしをアンネローゼに向かって繰り出した。

『プロテクション』

そんな不意の一撃もいきなり現れた黄色の盾によって攻撃は通らなかった。

「何!?」
「………やられた振りして地上に降りた私を攻撃か………優しい事言ってて結構えぐい事するじゃない」
「四の五の言ってられない状況だからな………でもまさかいきなり盾が現れて防がれるとは思わなかった………」
「だけど残念ね!!」

そのまま盾に押し返されるレイジ。
何とか体勢は崩れる着地できたが、それでもアンネローゼは再び空に飛び上がった。

「もう同じ手は食わないわ。………今度はしっかり仕留める」

そう言って先ほどと同じようにレイジを拘束するアンネローゼ。

「………何で抵抗しないのかしら?」
「抵抗する必要無いからな。お前に俺は倒せない」
「おかしくなった………?」
「さっき喰らって分かった。お前は本当はこんな事したくないんだ。じゃなかったら俺のこんな軽装なんて貫いて止めを刺すことも出来た筈なんだ。なのにお前は………」
「………違う、私はそんな………」
「なら来いよ。俺はどんなに喰らってもお前の攻撃には負けない」
「………いいわ、だったらこの一撃、私の最大威力で攻撃してあげる。覚悟しなさい!!」

そう言って杖の先に魔力を集束し始めるアンネローゼ。

「私の魔力を圧縮し、その圧縮した魔力をぶつける。今の貴方じゃ耐え切れないわよ」
「………いいから来いよアンネローゼ」
「………良いわ、なら………喰らいなさい、フォトンバースト!!」

そう言って圧縮した魔力の弾をレイジに向かって放った。

「レイー!!」

アリシアの叫びと共に、直撃した魔力の弾は着弾した瞬間膨らみ、全てを吹き飛ばした………









「何で………何で立ってるのよ………」
「へっ………だから言ったろ………?」

着ている白いコートは既にボロボロで所々焦げていたり、レイジ自身あちこちに出血していて誰がどう見ても満身創痍だった。

「お前は自分でも気がつかない内にセーブしてんだよ。お前の本当の気持ちは違うんだ。優しい奴なんだよお前は………」
「ち、違う!!私は、私は!!!」
「………アンネ」

そんなアンネローゼにアリシアが声を掛けた。

「アリシア?」
「アンネは温かい人。レイジやレオみたいに心が温かくなる………だから私はアンネを信じられた」
「アリシア………」
「アンネ、帰ってきて。私もレイジもアンネが必要なの………」

アリシアはメルクルに乗りながら一生懸命手を差し伸べた。

「アンネローゼ」

アンネローゼは恐る恐るゆっくりと手を差し伸べ………

「………」

静かに手を下ろした。

「アンネローゼ!!」
「それでも私は………!!」

そう言うアンネローゼの目には涙が浮かんでいた。

「私にはこの世界で!!これだけが生きる意味だった!!!それを、それを………!!!!」
「もうお前は違うだろ!!この世界で生きる意味があるだろうが!!!いい加減目を覚ませ!!!」
「あ、あ………あああああああ!!!!」

アンネローゼは俺を拘束せず、杖を向け、さっきと同様に魔力を圧縮し始めた。

「お前の居場所は既にあるんだよ………それを分からせてやる」

刀を鞘に戻し、抜刀の構えを取り、アンネを見る。

「全て消え去れー!!!」
「目を覚ませアンネローゼ!!」

足に集中した魔力を一気に放出し、アンネローゼに向かって飛び上がり、真っ直ぐアンネローゼに向かっていく。
それと同時に圧縮した魔力をレイジに向かって飛ばすアンネローゼ。

「邪魔をするな!!」

レイジはそれごと抜刀して斬り裂き………

「レイジ………」
「アンネ、俺と来い。絶対に悲しい思いはさせない。アリシアの為にも一緒に居てくれ………!!」

そんな思いと共にアンネローゼを抱きしめたのだった………












「レイ!!」
「レイジさん!!」

ゆっくり地上に降りた2人をアリシアとシンクが迎えた。

「くそっ、効かないって言ったけど、正直やっぱり堪える………」
「レイジ、ちょっと………!!」

フラフラのレイジは降りた瞬間、アンネローゼにもたれ掛かった。

「全く、アンタって奴は………」
「約束………だからなアンネローゼ………?」
「分かってるわよ。………本当は分かってたわ。アリシアと共に生活していく内に満たされる自分がいる。それが嫌で、ジュエルシードに全てを託したけど………それも実際成功するかなんて分からなかったのにね………」
「………アンネローゼさん、一体あなたに何………」

シンクが話そうとした時、アンネローゼは口に人差し指を添え口を閉ざした。

「まあその話と共に先ずはあなた逹の傷の回復をね………グロリオサ、お願い」
『イエス、アンネ』

先ずはシンクとレイジが光に包まれた………








「まさかそんな事があったなんてね」

2人の傷の回復の後、未だに気を失っていたエクレールを回復させた後、エクレールにもアンネローゼの話をした。

「エクレ………」
「分かってるわよ。流石にこんな事情だったら姫様だって許すだろうし………」
「それより姫様だ、お前らの所の姫様単独でレオに会いに行ったんだろ?」
「そうだった!!追いかけないと!!エクレ、急ごう!!」
「ああ!!」

「ちょっと待った!!」

急いでグラナ砦へ向かおうとした2人を止める。

「何ですかレイジさん?」
「私達急いでんだけど………」

「いや、何敵を前にして素通りしようとしてんだ?今は戦争中だぜ?」

「「………あっ」」

「理解したな?悪いがここは通さないぞ」
「くっ、そこは通してもらいます!!」
「あんたなんかさっさと倒して姫様の所へ行かなくては………」

「いいぞ、なら来い!2人一緒に相手になってやるよ。セルクル、アリシアとアンネローゼを連れて先にグラナ砦までよろしく」
「クク~!!」

そう言ってさっさと背中に乗るようにアンネローゼに指示をだし、乗せた瞬間、ダッシュで砦に向かう準備をする。

「レイジ、どうする気よ~!?」
「お前はレオと一緒にジュエルシードに付いて話してくれ~!!アリシア頼むな~!!」
「任せて~!!」

アリシアの返事を聞いた後、全速力でセルクルは走っていった。








「………レイジさん、何故ですか?何故レオ閣下は互いの聖剣をかけてまで戦争をしたがるんですか?ミルヒは凄く寂しがってました。事情があるなら貸したって良い、そうも言ってました。それなのに………教えてください、一体レオ閣下に何があったんですか?レイジさん!!」

勇者と言われてるだけあってとても優しい奴だ。
とても真っ直ぐで純粋。
だからこそ絶対にこいつも助けてやりたい。

「悪いが多くは言えない。………ただ1つ言えるとしたらこれはお前達の為でもある」
「僕達の………為?」
「言い過ぎたかな?………まあいい、お前のパラディオン、貰っていく!!」

そう言ってレイジが思いっきりシンクに向かって駆けた瞬間だった。

ドゴーーーーーン!!

晴天だった筈の空がいきなり暗くなり、グラナ浮游砦の上空に黒い雲が漂う。
その大きな音は浮遊砦の最上階にある天空闘技場で起きた。

「何があったんだ………?」
「か、雷だ………雷が落ちたんだ!!」

エクレールの大きな声を上げながら天空闘技場の方を指差した。

「まさかさっきのアンネローゼさんが………」
「違うわ、さっきの雷よろもっと大きな雷だった!!だけど………天空闘技場は何とも無いみたいなの」

エクレールの言う大きな雷が落ちたにも関わらずここから見ても天空闘技場には何にも損害が無い。

「一体何が………」
「グギャアアアアアアアアアアアアア!!」

そう思ってるといきなり獣の大きな声が響いた。

「何………あれ………?」

エクレールが震えながら呟く。
竜みたいな顔、そして馬みたいな体、両足に風になびく毛。
まるで………

「麒麟………?」

シンクがそう呟いたのだった。









「一体何が起こったというのだ………?」



ワシの所まで単身でやって来たミルヒに驚いていた時だった。
いきなり空が暗くなり、禍々しい気が辺りを包み始めた瞬間だった。

「あれは………」

その空から現れたのは大きな狐。妖狐でも言おうか。だがそれだけでは無く、

「なっ!?」

その妖狐に向かって九つの青い玉が四方から飛んできて妖狐に飲み込まれた。
その時起きた衝撃波でワシは耐えきったが、ミルヒは倒れてしまった。

「ミルヒ!」

ミルヒは何とか地べたを這いつくばって耐えきっていた。

「だ、大丈夫です!!で、でも一体何が起こったのですか………?」
「分からん、一体何が………」

ワシはその後の言葉が出なかった。

「レオ様………?」
「何だ………あれは………」

そこには先程の妖狐は何処にも無く、大きな竜の顔と馬の体をもった化物がいたのだ………















「アンネ………!!」
「一体何が起こったって言うの!?」

セルクルに乗り、グラナ砦に到着した2人は天空闘技場で起きている事を見て、驚いていた。

「あの青い玉はジュエルシード………何で?私は持っていないしこの戦場を囲むように置いた筈なのに………」
「願いが届いた………」
「アリシア?」
「願いを受け入れてしまった………『過去を変える』という願いを歪めて『この世界を完全に無くし、別の世界でやり直す』という願いに」
「別の世界で?………って事は………」
「平行世界………レイが来た世界と同じ………」
「レイジと?それにアリシア、さっきから様子が変よ、どうしたの?」
「止めなくちゃいけない………アンネ、時間が無い。天空闘技場まで私を連れて行って」
「アリシア………?………分かった、行きましょう!!………でもその前に………」

そう言ってアリシアを抱き上げた………










天空闘技場では現れた怪物、麒麟がレオ達に向かって口を開いた。

「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」

そして大きな咆哮と共に、口から雷撃を飛ばした。

「ミルヒ!!」

ミルヒに駆け寄り、抱え込んで何とか避けたレオ。

「レオ様!!」
「ミルヒ、大事ないか?」
「はい、私は………」
「くっ、また来るぞ!!」

「グギャアアアアアアアアアアアアア!!」

再び激しい咆哮と共に天空闘技場に複数の雷が落ちる。

「今度はワシ等に向かってでは無い………?」

レオがそう思っているとその雷から麒麟と同じ容姿をした小さな怪物が複数現れた。

「何!?」

「「「「「「グギャアアアアア!!」」」」」」

小さい化物達は揃ってレオ達に敵意を向けている。

「ミルヒ下がってろ。ワシが相手する………」
「………いいえ、私だって戦えます。足でまといにはなりません!!」
「しかし………いや、そうも言ってられんか。離れられると逆に守りづらいか………ミルヒ、なるべくワシから離れるなよ!!」
「はい!!」

2人は互いの聖剣、グランヴェールとエクセリードを構え、魔物に対し共に肩を並べるのだった………









「凄いなこれ、飛んでるし速い!」

サーフボードみたいな形状になったパラディオン、トルネイダーに乗っている俺、エクレール、シンク。
もの凄いスピードでグラナ浮遊砦に向かっている。
因みに乗り方はシンクが一番前で、エクレールがシンクにしがみつき、俺は一番後ろで足を下に向けぶらぶらしながら座っていた。

「レイジさん、気持ち悪く無いんですか?」
「いや、それが全く。記憶の中に似たような経験があったりな」
「変態………」
「いや、何でだよエクレール?」

本当に訳が分からない………もう完全に変態扱いだ。
エクレールは俺の範囲外なんだけど………

「何か………?」
「いいえ、何も………」
「空気が重いなぁ………」

そう思うならどうにかしてくれ勇者様………









「はぁはぁ………」
「くっ………」

ボロボロになりながらもその場に立つ、姫2人。
ミルヒは戦闘経験が無いので仕方がないとはいえ、複数の敵相手にミルヒを援護しながら戦っていたレオも同様にダメージを負っていた。

「だが後は貴様だけだ………」
「そうですね、後少しです………」

息を荒らげながら言葉を絞り出す2人。
そんな時………

『誰か………あの子を………』
「えっ!?誰?」
「ミルヒ!!」

いきなり誰かを探すようにキョロキョロしだしたミルヒオーレ。
そんなミルヒの行動を麒麟が見逃す事は無かった。

「ギャアアアアアアアア!!」
「あ………」

足から複数の触手を伸ばしミルヒを狙う麒麟。
そのもの凄い勢いにミルヒは体が動かないでいた。

「不味い、このままではあの、星詠みの様に!!」

慌てて駆け出してミルヒの所へ向かうレオ。

「絶対にやらせるか!!」

そしてミルヒが飲み込まれそうになった所を………

「ミルヒー!!!」

レオは突き飛ばした。
そして………

「あっ………」
「良かった、これでミルヒは………」

そのまま飲み込まれてしまった………

「レオ様ーーー!!!」

そんなミルヒの叫びも虚しく、再び大きな口を開けるミルヒ。

「私の所為で………レオ様を返して!!」

逃げずにエクセリードを構え、その場に立ちふさがるミルヒ。

「グギャアアアアアアア!!」

大きな咆哮と共に口に雷を溜め込み吐き出した。
逃げずに立ち向かうミルヒ。だが吐き出した雷球はミルヒよりも強大で簡単に飲み込める大きさだった。

「あっ………」

自分の選択に後悔しながら再びその場で固まってしまうミルヒ。
雷球はそのままミルヒを飲み込んだ………











「………あれ?」
「間に合ったのかしら………?」

ミルヒは黄色の盾の様なものに守られ難を逃れた。
当然それをやってのけたのはアリシアを抱き上げたまま飛んできたアンネローゼだ。

「駄目、レオが取り込まれちゃってる………」
「レオって確かレイジのお世話になってる国の王様?それって不味いんじゃない?」
「うん、まだ聖剣の力に守られてるけど、完全に同化するのに時間はかかないと思う………それに聖剣のエネルギーを吸い尽くしちゃったら、この世界が………」
「アリシア、一体どうしちゃったの?さっきからやけに詳しいじゃない………?」
「………うん、だって私はあの大きな魔物と同じ、歪めた願いによって蘇ったから………」
「歪めた願い………?」
「思い出したの、母親の子に対する愛情。そんな願いを叶える為に1つのジュエルシードが願いを叶えた。『自身の命と引き替えに娘を蘇らせる』」
「それって………!!それにそんな事可能なの!?」
「………分からない。だけど現に私はここにいる………」

そう言ったアリシアは麒麟をじっと見つめた。

「ジュエルシードは本来は次元干渉型エネルギー結晶体決。決して願いを叶えてくれる様なものじゃない。なのに私の様に歪めた願いを叶える。使っちゃいけない石なのジュエルシードは………」
「そうなの………それは分かったけど一体あの化物はどうすれば………」
「あの魔物にダメージを与えてジュエルシードと分裂させれば………だけどその前にレオを救わないと、分裂した時どうなるか分からない………」
「………なら先ずはレオって人の救出ね、特徴を教えて。私が必ず救ってみせる」
「白い長い綺麗な髪、そしてえっと『ないすばでぃ』だってレイが言ってた」
「………私より?」
「いい勝負」

そう聞くとアンネローゼは険しい顔をして自分の体を確認した。

「なら負けてないわね………」
「アンネ?」
「な、何でも無いわ!!それじゃあ行くわね、アリシアはそこで固まってる姫様と一緒に隠れてて」
「うん」

アリシアの返事を聞いたアンネローゼは空に飛び立った………









『ここは………』

何も見えない聞こえない暗闇の世界。
そこでレオは足を抱き、丸くなって漂っていた。

『ワシは何を………』

そう疑問に思ってもレオの体は動かない。

『気分が悪い………苦しい………助けて………助けて………レイジ………』








「レオ………!?」
「レイジさん、どうしたんですか?」

あの後、グラナ砦に着いた俺達は砦をよじ登ろうとしたシンクを慌てて止め、普通に砦の中を登っていった。

トルネイダーで飛べばと言ったのだが、砦を登るには輝力がもたないとか。
………まあ確かに戦闘やここまで運んで来て高い砦を登れと言うのは流石に無理があるか。

「また女の事でも考えてたんだろ………?」
「まあそうなんだけど………だけどシリアスな感じだぜ?」
「どうだか」

エクレールの態度が冷たくて心が折れそう………

「だけど、何か嫌な予感がする………急ごう2人共!」
「はい!!」
「命令するな!!」









「フォトンランサー、ファイア!!」

雷の槍を複数展開して攻撃するアンネローゼだが、致命傷にはほど遠く、相手から飛んで来る触手に手を焼いていた。

「まだ飛ぶのは得意じゃないのよ………!!」

ぶきっちょなローリングや急上昇、急下降を駆使しながら紙一重で避けているアンネローゼ。
空を飛べるようになったのは実は最近で、全然飛ぶのに慣れていなかった。

「これじゃあ大技を出す隙が無い………!?」

大きい体を持っていながらもスピードが速い麒麟にフォトンランサー以外の魔法を出せないでいた。

「でも何とか動きを止めて攻撃しないとこっちもいつまでも回避しきれない………バインドも相手がでかすぎて拘束出来ないし………どうする………?」

そんな事を呟いて居た時だった。

「魔神剣!!」
「グギャ!?」

斬撃の衝撃波が麒麟の足に直撃する。

「レイジ!!遅い!!」
「これでも急いで貰ったんだ!!それよりレオは!?」

「まだ中よ!!だけどアリシアの話じゃ急がないと不味いって!!」

「アリシアが………?」
「レイジさん、来ますよ!!」
「くっ!?」

飛んできた雷球をシンクの声で気がついたレイジは飯綱で雷球を斬り裂いた

「凄い………」
「シンク、俺は空を飛べない!!手伝ってくれ!!」
「は、はい!!」
「エクレは姫さんとアリシアの守りを!!」
「勝手に馴れ馴れしく呼ぶな!!」

「分かった分かった、頼むぞエクレ」
「うっー!!!」

そんエクレの唸り声を聞いてシンクとレイジは空を飛び上がった。





「レイジ!」
「シンク、暫くアイツの上を飛んでいてくれ!!アンネ援護を!!」
「!?分かった!!」

先ほどのトルネイダーに乗せてもらい、アンネローゼを通り過ぎ、指示をだした。
アンネローゼは直ぐ様フォトンランサーを飛ばし、アンネローゼに注意を引かせる。

「レイジさん、どうやって助けるんです!?」
「………飯綱で腹を斬り裂く」
「何処にいるのか分からない状態でそんなことしてもしレオ閣下を斬っちゃったら………」

確かにシンクの言う通りだ。
闇雲に斬り裂いてもしもレオに当たったら………

「どうします………?」
「………」

せめてレオの場所が分かれば………







『寒い………』

どんどん意識が薄れていくレオ。
暗闇の一部になっていく感覚、それに引きずられている様にどんどん呑まれていた。

『ワシは………このまま消えてしまうのか………?』

何も聞こえない感じない………

『レイ………』

その中でも最後まで心に残る1人の男の名前。
彼女の最後の希望であり、心の支えになってくれた人。

『彼のプレゼント………』

不意に首にかけているペンダントを握り締めた。
レイジに貰った初めてのプレゼント。

『もう一度………会いたい』

そう思って握り締めた時だった。
そのペンダントから暗闇を斬り裂く程の光が溢れ出た。

「レイジー!!!!!!」









「レオ!?」
「レイジさん?」

麒麟のちょうど上辺りでシンクと一緒にレオを探していると、レオの声が聞こえた様な気がして周りを見回した。
だが当然レオの姿は無い。
となると一体………

「どうしたんです?」
「いや、今、レオの声が………」

「グギャアアアアアアアアアアアアア!!!」

鳴き声は同じだが呻き声に似た声がこの場全体に響きわたる。

「レイジ、あれ!!」

アンネローゼの指を差した先には体のちょうど中心辺りに青白く光る部分があった。

「レオ!!」
「レイジさん!?」

俺はその場から飛び降り、光輝く場所に真っ直ぐ降り………

「レオーーーー!!!!」

刀をそのまま突き刺した。

「ギャアアアアアアア!!!」

痛みからか大きく体を動かし、背中から俺を落とそうとする麒麟。

「離されて………たまるか………!!」
「サンダーレイジ!!!」

そんな時、アンネローゼの放った雷が麒麟の頭部に直撃した。

「レイジ、行け!!」

アンネローゼの一撃で動きが止まった麒麟。そのタイミングで俺は刀を動かし、一気に斬り裂いた。

「何だこれ………?」

体の中は何も見えない真っ暗な空間で包まれ、何も無い。まるで言葉通り中は空っぽの様な………

「レオ!!」

しかしそんな中でも光輝くレオの姿が見えた。

「レオー!!!」

俺は思わずレオに向かって飛び込んだのだった………











『これは………?』

今、ワシの頭に入ってくる映像。
1つは狐の親子の映像。とても幸せそうに生活してる親子に悲劇があった。
落雷と共に落ちてきた刀が子狐の方に突き刺さり、その姿を魔物にへと変えた。それが最初に現れた魔物なのだろう………

そしてもう1つは………

『何なのだこれは………!!』

ワシの世界には存在しない世界。見たことがない建物がいくつも建て並び、その建物の合間を少女2人が飛び回っている。
そしてその中には………

『アリシア………?』

今のアリシアより少し成長したそっくりなアリシアが白い少女と戦っていた。
この映像はどうやらそのアリシアにそっくり似た少女の視点で映されているようで、彼女の思いや悲しみも映されていた。

そして最後は母親と永遠の別れを………

『お、お願い………アリシアを………私のアリシアを………』

変な空間に落ちた母親は9つのジュエルシードに望んだ。
その顔は既に衰弱しきっており、誰がどう見ても長くは無いと思うだろう………
しかしその願いを聞き入れたのか、ジュエルシードの一個が光り出した。

そして………

『アリシアの中に入った………?』

カプセルで眠っているアリシアの体の中に入り込み、再び出てくる。

『ありが………とう………』

それを確認した後、母親はゆっくり目を覚ました。
そして彼女達は光に包まれた………






『これはジュエルシードと呼ばれた石の記憶………?』

何故ワシにこんな映像を見せたのか分からない。一体何が………

「レオー!!!」

そんな中、今一番聞きたかった声が聞こえてきた。
ワシの支えになってくれる大事な人………

「レイジー!!!!」

今までの状態が嘘みたいにレイジに向かって力いっぱい手を伸ばした………









「レイジさん………?」
「飲まれちゃったの?」

レイジが消えた後、その斬り口も塞がり、光もどんどん小さくなる。
それに対して麒麟は不気味な程静かにその場から動かないでいた。

「どうします………?」
「もう少し様子を見ましょう、レイジに何か考えがあるのかも………」








「レイジ、レイジ!!」
「レオ、無事で本当に良かった………」

光に包まれたまま抱き合う2人。
その姿は神々しく、暗闇の中でも一段と輝いていた。

「来てくれたな………」
「ああ、来たんだけど………」
「だけど………?」
「どうやってでれば良いんだ?」

そんなレイジの一言に固まるレオ。
キョトンとした顔で何も言えずにいた。

「いやぁ、レオの姿が見えて思わず飛び込んじまって、何の準備もしてなかったわ!!」

と能天気に大笑いするレイジ。

「わ、笑い事じゃないわ!!」
「ぐふっ!?」

そんなレイジの腹にパンチを喰らって悶えるレイジ。

「全く貴様と言う奴は………」
「………まあ何とかなるだろ、俺とレオならな」

そんなレイジの言葉に耳を垂れさせながらそっぽを向いて頷くレオ。

「それじゃあ………ってあれ?何だかその青い宝石、更に光が増してないか?」
「そう言われれば………」

そう言ってレオはペンダントの石を見てみる。
青白く輝く石。そこにはローマ字でⅨと書かれている。

「これはもしやジュエルシード!?」
「ジュエルシードマジで!?でも9つの1つが何で………」
「ワシにも分からん………もしかしたら1個無くしたのではないか?話にあったアンネローゼが」

まさかぁ………

「だがこれは願いを歪めた形で叶える石。だったら………」
「いや、歪めるんだったら不味くね?」
「それでも出られるならマシだ」

まあ確かにそうか………

「レイジ………」

心配そうに俺を見るレオ。何だかんだ言って不安なのだろう………

「大丈夫、俺達は戻れるさ」
「そうだな。………頼む、ワシらをこの空間から出してくれ!!」

そうやって願うと更に光がますジュエルシード。
その光は前が見えなく程で、2人とも思わず目を瞑ってしまう程だった。

そしてその光が収まっていくと………

「何処だここ………?」
「何でこたつに潜ってたのに周りが暗闇なんだ?」
「アギト、何かした?」
「アタシは何も………?」

そこにパジャマ姿の男と小さな女の子が現れたのだった………
 
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