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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  秘密

 「おぬし、信じられないほどにチャクラが足りないのぅ…」

 呆気にとられた様子でそう言っている自来也を、ぜぇはぁと形で息をしながら、キッとカトナは睨み付けた。自来也はその視線からさっと目を逸らし、未だにピンピンしているナルトの方を見る。
 ナルトは術でチャクラを使っているわけではないが、チャクラコントロールが下手なのに水面に立っているため、チャクラの消費量は半端ではない。
 のに、カトナよりもぴんぴんとしているナルトに、自来也は呆れたように息を吐いた。

「封印式にチャクラを取られるとしても、ここまでないのか…」
「スタミナは、あ、る」

 そういいながらも、立ち上がったカトナは、むっとした顔で自来也を見る。
 カトナ自身もチャクラの総量は少ないことは自覚していて、何よりものコンプレックスなのである。
 変化・逸脱・封印式という三つの術を同時で重ねがけしているからだと分かっていても、それにしても、カトナのチャクラの総量は少ない。
 折角のコントロール能力も、この総量ではプラマイゼロ…いや、マイナスになってしまうのである。
 忍術の腕は並外れているのに、使えなくては意味がない。
 それは自来也に言われなくても、カトナ自身もわかっていることである。
 が、どうやれば、チャクラの総量が増えるかが分からないのだ。
 チャクラの総量を上げる方法なんて、体を鍛えるくらいしかのっていない。

 「…今からやれば、仙術が、使えないわけではないと思うんだがなぁ。この総量の少なさだとなぁ…」

 ぶつぶつと、何事か考えているらしい自来也を見ながら、カトナは少し落ち込んだように顔を下に向ける。ナルトはそんな姉の姿を見て、後ろからげしりと自来也の足を蹴飛ばした。

「やい、エロ仙人。カトナをちゃんと強くしろってばよ!!」
「ええい、分かっとるわい! こうなったら、新しい術でも作るべき…いや、待てよ」

 ふと、何かを思いついたらしい自来也の瞳が見開かれ、カトナの腰のあたりを凝視した。
 その視線を追うように目を向ければ、自分の腰に携えられた大太刀を食い入るように、自来也が見ていることに気づいて、カトナは警戒するように自来也を見た。
 カトナにとっての大太刀は、切り札でもあり、奥の手だ。
 下手に弱点を見抜かれて万が一に備えられないのは、正直痛いし怖い。
 カトナは自分でも自分が弱いことを自覚している。そんな彼女がぎりぎりのところで強者と渡り合えてるのは、この大太刀の存在が大きい。
 自分だけの獲物。信頼に値する道具。そういったものがあることで、彼女は精神的に落ち着き、同時にいくつもの手段をとれる。
 彼女にとって、これはある意味、強さの象徴ともいえるのだ。
 次の瞬間、がしりと、カトナの両肩を掴み、じっと、その赤い目を見つめる。カトナと言えばカトナで、こちらも本来の負けず嫌いを発揮し、じっと見つめ返す。
 数分の間の後、自来也はうんうんと頷きながら、カトナの背中を勢いよく叩いた。
 わっと、その衝撃でいくらかバランスを崩したカトナの腰に携えてあった大太刀を、無理やり引き抜き、自来也はカトナの眼前に突き出していう。

「おぬし、自分の刀の本来の能力を引き出してみたことはあるか」
「え?」

 きょとんと、目を見開いたカトナは、自分の大太刀をしげしげと見る。
 本来の能力…といえば、まっさきに思いつくのがあの変形能力だ。
 チャクラの通り方次第で姿形を変える、まさに魔法みたいなもの。
 変形は約6種類ほどとれるようだが、カトナはその全てを使えるわけではない。
 今のカトナが使える限界は、大太刀の「黄昏」。短刀の「夕暮」。薙刀の「真昼」の姿だけである。
 普通の刀では備わっていない、その能力を何故目の前の男が知っているかを訝しがらず、カトナは自然とそれを思いつき、尋ねる。

「変形?」
「いや、違う」
「…音?」

 次に浮かんだのは、カトナが名前を呼べば、それはまるで呼応するかのように、それぞれがそれぞれ、独特の音を立てるのだ。
 これはカトナが名前を呼んで反応してたのではなく、名前を呼ぶという行為で微妙にチャクラの流れが変わり、それに敏感に反応しているようだと、今までの結果から分かっているが、それにしても、摩訶不思議なものである。
 が、どうやらこれもまた、自来也のお気にはめさなかったらしく、首を振られる。

 「瞬間移動?」

 最後に脳裏をよぎるのは、戦闘時にも大活躍している、謎の空間移動だった。
 カトナが名前を呼べば、もしくは赤い鞘・青い鞘から一定の距離以上、一定の時間離れれば、わざわざ取りに行かなくても、勝手に鞘に戻ってくるという能力。
 これもまた、特筆したものだ。
 鞘にも刀にも、どうやら内側に忍術の式が刻まれており、ある一定の条件を満たせば、問答無用で発動するらしいことは、分かっている。
 術式は、多分、四代目火影が使っていた、飛雷身の術の仕組みとほぼ同じだろう。
 それを言われているのかと、今度こそ正解と思ったカトナの期待を裏切る様に、自来也は首を振っていった。

「いいや、違う」
「じゃあ、なに」

 痺れを切らしたように言ったカトナに、慌てるなと言わんばかりに手を振り、自来也は言う。

 「その刀、封印式が込められているのは、知っとるか?」

 なっ、と目を見開いたカトナは、首を振る。
 そんなこと、まったく気が付かなかった。模擬戦で何度か、この大太刀をふるったことがあるが、封印式が作動した…なんてこと、一度もない。
 自分の目の前にいる男が何故気づけたかは知らないが、実戦でその効果を発揮していれば、カトナはすぐにでも気が付いて、実験を繰り返し、検証しただろう。
 だが、カトナが気づいていないのだ。
 しかも、何年もである。
 実戦では発動しにくい封印式なのだろうかと、今までの知識や経験を総動員して、頭を働かせていたが、該当せず、舌打ち一つして、カトナは自来也の目を見つめる。
 声を出さずして続きを催促してきているカトナに、呆れつつも自来也は答えた。

「対象に触れながら、チャクラを流せば、作動できるだろうの。そんなにチャクラの消費量は多くない。おぬしでも、問題なく使えれるレベルじゃな。しかも、触れた…封印式が込められた刃で斬られた対象から、一定のチャクラを封印式に封印するものじゃの。しかも、暫くためておける」

 その言葉が理解できないほど、カトナは馬鹿ではない。
 頭が一瞬のうちにフル回転し、自分が何ができて何が出来ないのかを、彼女は一瞬のうちに理解し、驚愕する。

 「つまり…相手のチャクラを奪える?」

 斬った相手のチャクラを限定的とはいえためておくことが出来、使うことができる。
 カトナにとっては、それはあまりにも代えがたい魅力だ。

 「そうなるの。だが、この封印式だと二時間に一回が限度じゃし、チャクラを込める量から推測して、おぬしじゃ、一日で3、4回が限界だな」

 それでもいい。それでもいいんだと、カトナは拳を握りしめた。
 強くなれる。もっともっと強くなる、なれる。そうしたら、

 みんなをまもれる。

 カトナは、とても嬉しそうに微笑んだ。

・・・

「ごめんね。お見舞い、付き合わせて…」
「気に、しないで。私も、用事、ある」

 といっても、正確にはカトナではなくナルトなのだが。
 自来也の厳しい個人レッスンのせいでぬけてこれない弟を思いながらも、気兼ねない動作で、しかし細心の注意を払いながらも、カトナは病院に入ろうとし。
 殺気を、感じとった。
 全身の毛が逆立ち、鳥肌が立つ。
 サクラもまた敏感に感じ取り、二人そろって上を見上げ、サクラは気づいたように声を上げる。

 「あそこ…リーさんの、入院してる場所じゃない!」

 瞠目し。
 カトナは一瞬で思考し、次の瞬間、壁を駆け上がった。
 下で見ていたサクラがぎょっとしたように目を見開いたが、カトナは気にせず、全速力で駆け抜けると、目的の窓から部屋の中に入る。
 幸いにも、窓は開け放たれており、余計な手間暇や時間はかからなかった。
 ばっと辺りを見回した彼女が見つけたのは、自分の目の前の獲物にしか眼中が無い我愛羅と、抵抗できないリー。そして、印を組もうとしているシカマル。
 三人を見比べ、彼女は一目散に、我愛羅に対して手を伸ばした。

 「なに、してるの」

 がしりと腕を掴まれた我愛羅はわずかに目を見開き、自分の腕を掴んだ持ち主を見る。
 今まで驚いて身動きが取れていなかったシカマルが、その姿に目を見開く。

 「先輩、どっからきて!?」

 その言葉に、窓の淵に立っていたカトナは、首をこくりと傾ける。

 「まど」

 そう言いながら、何も掴んでいない手で下を指さす。
 いや、それは分かるけどと、内心で混乱をきたしているシカマルを無視し、カトナは無造作に手を振り下ろした。普段ならば、すぐにでも守られるはずだった我愛羅の頭は、カトナが直前に流したチャクラの影響で乱れ、叩かれる。
 ぎょっと、目を見開いたシカマルを無視し、カトナは叱る。

 「やりすぎは、だめ」

 我愛羅は目を見開き、カトナの行動が理解できないといわんばかりに見つめたが、カトナは気にせず、もう一度言いきった。

 「やりすぎはだめ、だよ?」

 我愛羅。と。
 何の気兼ねもなく、彼女は名前を、呼んだ。 
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