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権威主義

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第三章


第三章

「機械化され動きも速い」
「電撃戦ですね」
「フランス軍はそれに対することができるか。ましてやだ」
「ましてや?」
「あの元帥閣下は本当に大丈夫なのだろうな」 
 まただ。チャーチルはガムラン自身についての疑念を口にした、
「伝え聞くところによるとやはりな」
「そうですね。あの方はどうやら本当にです」
「梅毒か」
 この病気の名前をだ。チャーチルは忌々しげに言葉として出したのである。
「あの病にかかっているか」
「その様ですね」
「顔や身体に出なくともあの病は身体を侵していく」
「それが恐ろしいですね」
「頭にも来る」
 チャーチルも梅毒のことはよく知っていた。彼の周囲でも梅毒に罹った者がいない訳ではないからだ。この時代でも梅毒は比較的身近にある病だった。それ故に今言えたのである。
「だからだ。彼がそうならばだ」
「フランス軍はまともに思考できない指揮官を戴いている危険があるのですね」
「本当に大丈夫なのか」
 チャーチルは己の席、首相のその重厚な席で腕を組みぼやいた。
「甚だ疑問だ」
 こう言ってだ。彼はフランス軍、彼等が思う様な楽観的な考えには至ることができないでいた。そして彼の危惧は不幸にして当たったのだった。
 ガムランはパリ近郊のシャトー=ド=ヴァンセンヌの砦にある司令部に入った。そうしてだ。
 そこから指示を出したがだ。幕僚は傍にいなかった。
 しかも司令部には無線も電話もなかった。当然近代的な通信もだ。連絡は一次大戦さながらのオートバイによる伝令が行っていたのだ。
 このことを聞いてだ。チャーチルは唖然となった。それで慌てて電話をかけた。かけた先はパリだ。フランス首相であるレイノーに対してかけたのだ。
 すろとだ。電話の向こうのレイノーはこうチャーチルに答えたのだった。
「元帥はこう言っている」
「何と言っているのだ」
「若し無線電話を置けばだ」
 どうなるかと。ガムランが言っているというのだ。
「自分の司令部の位置がわかるとだ」
「そう言って無線を置いていないのか」
「そうだ。そう言ってだ」
「一切の幕僚や無線、通信の類を置いていないのか」
「その通りだ」
「馬鹿な、今は時代が違うのだ」
 チャーチルはレイノー、電話の向こうの彼にすぐに言った。
「あの一次大戦の頃とは違うのだぞ。時代は変わったのだ」
「それは私もわかっているがだ」
「しかしか」
「彼に全てを任せているのだ」
 一次大戦からの老将でありフランス軍の重鎮である彼にだというのだ。
 
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