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頭上の戦士

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第四章


第四章

「だからだ。今回ばかりはだ」
「俺達だけで行くんですね」
「そうしないといけないんですね」
「そうだ。健闘を祈る」
 司令は今度は表情を消して述べた。
「生きて帰る様にな」
「まあ俺達も生きて帰りたいですからね」
「生きて帰ってここでステーキとビール貰いたいですから」
「ですから」
「肉はたっぷりと置いてある」
 この辺りはアメリカ軍だった。少なくとも食事では困っていなかった。ただしスパムがこれでもかという程出て来て将兵を飽きさせてはいた。
「帰ったらふんだんに食うといい」
「ええ、わかりました」
「それなら」
 こう話してだった。彼等は。
 不安を感じながら出撃した。ドイツ本土、そのエッセンに向かいながら上を見上げる。しかしそこにはだった。
 彼等はいない。そのかえって清々しい青い空を見上げてだ。機長は言った。
「今回は守護天使がいなくてな」
「代わりに悪魔がどんどん来るんですね」
「ここぞとばかりに」
「爆撃機が戦闘機より強いってか」
 アメリカ映画においてはそうだ。
「そんなの有り得ないからな」
「ええ、そうですね」
「実際連中どれだけ強いか」
「太平洋でも日本機滅茶苦茶強いそうですね」
「あの零戦ってのは」
「ドイツ機も日本機も強いんだよ」
 実際にそうだとだ。機長は言う。
「映画は映画だからな」
「戦車は手榴弾で吹き飛びませんし」
「弾が当たったら死にますし」
 アメリカ映画のアメリカ兵は弾が当たってもしなない。弾の方が避ける場合もある。この辺りは日本映画における日本兵と違う。日本映画においては弾は誘導されてだ。的確に急所を撃ち抜く。戦争を鼓舞する映画でもだ。
 その映画の話をしながらだ。彼等は話すのだった。
「それでメッサーシュミットもですよね」
「連中には中々当たらない」
「少なくとも俺達の迎撃は」
「爆撃機の迎撃なんてな」 
 そのだ。針鼠の如き機銃もだというのだ。
「弾幕だからな」
「一機一機じゃ大したことはない」
「全機でまとめて撃ってこそですよね」
「それでようやくですから」
「そうそう当たる奴がいるか」
 機長は苦笑いと共に言った。
「デカブツからの碌に狙いも定められない攻撃なんてな」
「ですよね。俺当てたことないですから」
「俺もですよ」
 銃手からの言葉だ。
「これでもかっていう位機銃も積んでるんですがね」
「実際に当たることはないですよね」
「まあ。連中を寄せ付けないことはできてますから」
「それが使い方ですかね」
「そうだ。当てようと思うな」
 機長もこう言い切る。
「当たるものじゃない」
「弾幕張るものですね」
「そういうことで」
 彼等自身が爆撃機の機銃についてこう割り切っていた。そうしてだ。
 彼等は遂にドイツ本土に入った。しかしだった。
 まだ何も来なかった。それを見て副機長、即ち副操縦士が言った。
「別に休んでる訳じゃないですよね」
「ドイツ人は勤勉だぞ」
 これが隣にいる機長の返答だった。
「イタリア人とは違うんだ」
「ですよね。マカロニ野郎だったら普通にパスタ食ってシェスタですけれど」
「ソーセージ野郎は違うんだよ」
 こう言うのだった。
 
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