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空の騎士達

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第七章


第七章

「御前等は地獄を信じないそうだがそんなことは構わねえ!」
 共産主義者は神を信じない。あらゆる宗教を否定する。その為地獄というものを信じないのだ。無論天国も信じはしない。これはマルクスが神を否定していたからであるがそもそもそのルールにあるジャコバン派が信仰を否定していたことも大きい。実はこのソ連にしろ今彼等が滅ぼそうとしているナチスにしろそのルーツにはジャコバンがある。彼等の正体はロベスピエールでありナチスとソ連は双子であったのだ。
「地獄へ送ってやる!覚悟しな!」
「敵の数は!」
「七機です!」
 部下の一人が指揮官に報告する。その間にも七人は荒れ狂いヤクを次々と叩き落していた。恐るべき速度で突撃し三〇ミリを放ち一撃で屠っていく。まるで馬を飛ばし振り向き様に斬り捨てる騎士のようにだ。
「七機にこんなにてこずっているのか!」
「しかし相手はジェット機のうえに腕が」
「言い訳はいい、同志!」
 指揮官は激昂してこう叫んだ。
「早く彼等を倒せ!いいな!」
「は、はい・・・・・・うわあっ!」
「マレンコフ!」
 だが返事はなかった。彼もまた撃墜されたのであった。指揮官の目にきりもみ回転をしてバラバラに散っていくヤクが映った。それは中空で爆発しそのまま破片となっていった。
「何て奴等だ・・・・・・」
「隊長、損害が二割を超えました!間も無く三割です!」
「囲め!」
 指揮官は混乱する頭でそう叫んだ。
「数ではこっちが有利だからな!」
「で、ですが!」
「言い訳はいいと言っているだろう!ラーゲリ送りになりたいのか!」
「い、いえ!」
 ソ連における死の言葉であった。ソ連では収容所送りが日常になっていた。そこで多くの者が命を落としている。これがソ連の実態であった。
「わかったら早く動け!どっちにしろだ!」
「隊長、後ろです!」
「何っ!?」
 その声に気付くと既に後ろに一機のメッサーシュミットがいた。アルトマンの機であった。
「なっ、何時の間に」
「油断していたか狼狽していたかは知らないが」
 アルトマンは突然のことで時間が止まったかのように動きがないそのヤクを見ながら呟く。
「消えろ。ドイツの空からな」
 そう言うと機関砲を放った。それを後ろから受けた隊長のヤクはまるでコマ送りのように砲弾を浴び火を吹いていく。そして炎の中に包まれ爆発四散した。
 そのヤクを屠ったアルトマンは上空に上がった。そこからまた攻撃に移ろうというのだ。
「た、隊長が・・・・・・」
「あっという間に・・・・・・」
 生き残っているパイロット達はそれを見て完全に戦意を喪失した。指揮官を失ってはそれを防げる者もいなかった。
「に、逃げろ!」
「違う!転進だ!」
 必死に言い繕ってその場を逃げ去っていく。後には七機のメッサーシュミットがいるだけであった。
「逃げたか」
「何だ、思ったより歯応えがなかったな」
 クルーデンの言葉にシュトラウスがこう返した。
「所詮イワンはイワンってことか。下手糞揃いだぜ」
「そうだな。しかし」
「ああ、わかってるさ」
 シュトラウスはアルトマンの言葉に応えた。
「これで終わりだな」
「そうだな。西へ向かおう」
 彼は仲間達にそう促した。
「俺達の戦闘は終わりだ。後は」
「連中が陸軍の援護をしてか」
 彼等の目の前にスツーカの編隊がいた。陸軍の援護に向かっているのだ。
「そうだ。それで全て終わりだ。俺達ルフトバッフェは」
「これでか」
「ああ。これでな」
 ハイトゥングに応えるアルトマンの言葉には何の感情もなかった。込めるつもりもなかった。
「何もかもだ」
「スツーカの護衛は?」
「あの連中がするみたいだな」
 見ればスツーカの上にはフォッケウルフがいた。
「あいつ等がな」
「そうか。じゃあ俺達は終わりだな」
 ホイゼナッハがそれに応える。
「そういうことだ。じゃあ西に向かうぞ」
「わかった。ところでよ」
「何だ?」
 ヘンドリックの言葉に応じてきた。
「これで終わりなんだよな」
 彼はまたそれを言ってきた。
「俺達の戦いは」
「・・・・・・ああ」
 アルトマンの声は沈んでいた。
「そうだな。もうこれで」
「ドイツもか」
「・・・・・・かもな」
 それを否定することは無理だった。今の状況では。
「もうベルリンもな。今頃は」
「そうか」
「けれどな」
 それでも彼は言う。
「次があるだろう」
「次か」
「生きている限りな。次がある」
 彼はそれを言う。
「何度でも戦えるさ、生きている限りな」
「生きていれば」
「ああ、だから西へ行くんじゃないか」
 ヘンドリックだけでなく他の仲間にも言った。
「そうじゃないのか」
「そうか」
「そうだ。だから行くぞ」
「よし、じゃあ西へ入ったら不時着だ」
 ブラウベルグが言う。
「それでいいな」
「ああ。じゃあ行くぞ」
「よし」
「ドイツはもう負けだ」
 アルトマンはそれはわかっていた。他の者達もだ。
「けれどな」
 それでも彼は言う。
「生きていればな」
「生きていればか」
「また戦える。そして今度こそは」
「イワンもヤンキーも見返してやる。そうだな」
「そうだ。じゃあ西だ」
「生きる為に」
「また戦う為にな」
 彼等は翼を翻した。そのまま西へと消えていく。ベルリンが陥落しようとし、ヒトラーも自ら命を絶つ。そんな中での最後の戦いを終えて。次の戦いの為に今は生き残るのであった。大空の騎士として。


空の騎士達   完


                 2006・12・1

 
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