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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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九校戦編
  第13話 対戦型魔法

僕のスピード・シューティング競技の予選が終わって、会場から出ると、競技を見ていたはずの五十里先輩がいた。そこには当然のような顔をした、五十里先輩の婚約者である千代田先輩もいるが、今日の午後いっぱいで、五十里先輩と顔を合わせることも無いはずだから、五十里先輩と長時間話し込むにつれ、千代田先輩が不機嫌になっていく様子もみなくてすむだろう。

「競技内容は五十里先輩からみてどうでしたか?」

「作戦通りとはいえ、最初にクレーを落とさないというのは、どきどきするものだね」

「そのあたりは、カーディナル・ジョージがスピード・シューティングだけでなくて、モノリス・コードにもでてきましたからね。かなり、やっかいな相手だと思いますので」

「そういう意味では『プシオン誘導型サイオン起動理論』は、試合間の調整が不要というので、こういう競技にはむいているんだね」

そこはそうだ。疲れていったからといって、一定能力を発揮できなければ、妖魔相手に連携が崩れる恐れから、それを安定化させるのにつかっている。起動式の最初の調整までに時間がかかるから、本来なら3つの起動式まで作ってもらって、その調整までおこないたかったが、一高での調整がうまくいったのは2種類までで、実際になれる時間もいれて2種類の起動式を使用することにした。あとは決勝トーナメントで、どのような相手がくまれるかだ。



一高の天幕では、控え室で自前の情報端末に映像を流してもらって、他者を観戦している。スピード・シューティングは、予選ではスコア式で、単独で落とせるから、決勝トーナメントでは方法を代えてくる者が非常に多い。見るのなら決勝トーナメントからなので、流してみている程度だが、三高のカーディナル・ジョージこと、吉祥寺 真紅郎(きちじょうじ しんくろう)は重力魔法で破壊していると情報端末のモニターには表示されていた。魔法式が映像化されているが魔法式の大きさが非常に小さいことから、やはり不可視の弾丸『インビジブル・ブリット』を使用しているのだろう。

モニターには決勝トーナメントの組み合わせが表示されようとしたところだが、技術スタッフとして五十里先輩が、一般への表示の前に知らせがあったようで、最初の第二試合だと教えてくれた。一高からは森崎が残っているらしい。直接目を合わせたら、悔しそうにしている様子が目に浮かぶようだ。それは、僕の方が、落としたクレーの枚数が多かったからだ。

なので、直接目をあわせないように、そそくさと、競技会場にむかって、シューティングレンジに立った。
観客は先ほどより多いが、まだまだだ。またしても、レオたちの席も簡単に見つけることはできた。対戦相手は知らないが、この競技用によく使われる小銃形態の特化型CADだ。たいして僕は、予選と同じ手持ちの汎用型CADだから、それなりに驚いてはいるようだ。これで、相手が動揺してくれたらしめたもの。

競技開始の合図のがらランプの点灯とともにカウント弾されていく。競技の開始だ。



一高の天幕では、真由美と鈴音がモニターをみていた。

「1番内側のは、さっきの競技でていなかったエリア魔法だけど、何かしら?」

「みていたらわかります」

1枚目のクレーは、開いて選手が砕いていた。振動系魔法によるクレーの直接破壊を行うタイプの選手だ。2枚目のクレーが、1番内側に構築しおわったエリア魔法に触れたとたん、それは起こった。

「反射した。あれってダブルバウンドのエリア魔法?」

「その通りです。自身のターゲットのクレーを通過させ、相手のクレーを跳ね返す、クレー選択式ダブルバウンドエリア魔法になります」

白のトレーは通過し壊れていくのとは対照的に、赤のトレーは有効エリアに10cmばかり入ったところで跳ね返されている。

「そんな魔法は公開されていたかしら?」

「いえ。五十嵐くんと陸名くんとで、起動式を構築したのです。陸名くんが古式魔法がわかる技術スタッフにこだわったのも、この魔法を使いたかったからだそうです」

「理論から実際の構築まで、あの2人だけでおこなったということ?」

「おこなったのは、古式魔法を現代魔法に、なおしたところでしょう。もともと古式魔法では、単純に通過させるか、させないかの結界魔法は存在しますので、そこをダブルバウンドにできるかどうかの魔法理論がわかる、技術スタッフが欲しかったようです」

「そうなの。術式解体『グラム・デモリッション』が使えるから魔法保有量は多いとは思っていたけれど……それにしても古式魔法を現代魔法にするというのもすごいし、確かに破壊エリアの中には、クレーが入っているから反則にはならないけれど、こんな魔法をだされたんじゃ、私でも打ち抜けるのは何枚かしら」

「陸名くんは、多分来年度からは、一連の魔法が使用できないように、ルール改正がされるんじゃないか、と言ってましたよ」

「一連の魔法? まだ、なにかあるの?」

「決勝戦までには見れると思います」

そうして陸名がでた準々決勝は98枚対1枚という圧倒的大差で、勝ち上がった。



準決勝の対戦は三高のカーディナル・ジョージと森崎の戦いか。
カーディナル・ジョージは、ここまでずっとパーフェクト。記録画像で準々決勝をみたが、ブラインドポジションらしいところにはいっても、確実に撃ち落としていく。これが、七草生徒会長の『魔弾の射手』とは別な嫌らしさだ。七草生徒会長の場合、実物のドライアイス弾を使うから、手前の相手のクレーにあたってしまうのを避けるという方式をとっている。それに対して不可視の弾丸『インビジブル・ブリット』は部分的にでもみえれば、中間に物体があってもかまわない。対象を点にしぼって打ち込めば、全体へ波及するからだ。余裕をもっているせいか、クレー全体が魔法エリアに入ってから、撃ち落としている。さて、僕との時は、すんなり通してくれるかな。



「準決勝だけど、今度の陸名くんの相手は移動式魔法を使っていたわよね?」

「その通りです。見ていただければわかりますが、あの通り手前から魔法をかけて通過させる手段をとっています」

「それって、魔法式へのサイオン供給量を増やしているってことよね?」

「その通りです。普通なら、50枚少々のクレーに有効エリア内で魔法をかければ良いのですが、有効エリア以外から全100枚のクレーに移動魔法をかける必要がでてきます。サイオン切れが場合によっては、狙えると考えているようです」

「この相手選手にはどうかしら?」

「決勝ならともかく、準決勝では、サイオン切れはおこさないでしょうね」

「今のところ、陸名くんが最初の4枚のトレーを落としていないから、4枚の差がついたままなんだけど」

「そろそろ50枚に達っしたので、一番外部のエリア魔法が起動します」

「あの魔法は存在していただけで起動していなかったの?」

「あれは、これまでは風精を集めて、照準あわせだけに使用していただけです。これから、その風精が使役された内容にともなって、相手のトレーのみ下部へ集約していきますよ」

「相手のトレーを、有効エリアの中へ入れているけれど、止められたわね」

「ここまでは、想定内だそうです」

「相手トレーが落下したわ……重力魔法ね」

「その通りです。発火念力が得意ということもあって、振動系プラス魔法が一番の得意ということは、会長も覚えていると思いますが、現代魔法では加速、加重、移動も得意だそうです。なので、移動魔法への対抗手段として、重力魔法を選ぶそうです」

「選ぶということは、もしかして、他にも対抗魔法を用意しているの?」

「1系統の魔法に対して、各3種類の対抗魔法を用意しているそうです。さらにそれが通用しなかった場合に、共通的な2種類の対抗魔法も用意しています。これが汎用型CADを使ったメリットですね」

「なんで、そんなに対抗魔法が用意しているの?」

「もともとは、合気術をベースにした古式魔法を使用しているので、単純な対物競技は苦手なんだそうです。なので、そこに干渉する対抗魔法を、ラインナップとしてそろえたとか」



対戦相手は、元々が100枚とも落とせる実力がある相手ではなかった。普段の練習よりも移動させる枚数が多いのと、移動量が多かったりと、集中力を使いすぎてしまったために、自然と後半は移動魔法で当てて壊すことができずに、90枚を切った。新人戦の準決勝としては決して悪くはない数字だが、最初を捨てて、あとはすべて当てられる陸名翔の決勝進出は決定した。



決勝戦のシューティングレンジで僕は横にいる、三高のカーディナル・ジョージを意識して、決勝に前だっておこなわれた試合での森崎が、意地をみせて3位を確定させていることを思っていた。この決勝で負けたら、森崎は意地でも自分の方が上だと言いはってくるだろう。森崎はスピード・シューティングが苦手だったようだが、3位入賞をしているからなぁ。苦手とみられたくはないらしいが、ケアレスミスが何回か見受けられる。だから、森崎の順位とは限らずに、負けないための対策はとってきたが、さて、カーディナル・ジョージが不可視の弾丸『インビジブル・ブリット』以外に、重力魔法が属する加速・加重系統魔法をどれだけ用意してきているかだ。

競技開始のランプが点灯とともに、ダブルバウンド、振動系、風精結界の3種類のエリア魔法を順番にかけていく。エリア構築に今度も8秒なのに4枚が出されている。普通は2,3枚のはずなのに、今回は多い。そういう感触だが、カーディナル・ジョージが撃ち落とすのに使用している魔法は、不可視の弾丸『インビジブル・ブリット』だろう。そうして、ダブルバウンドのエリア魔法を抜けるのは、加重魔法を使用しているところまでは魔法式のサイオンコ光パターンで判断できる。こちらは、クレーを射出口から漏れてくる、電磁派の違いによって、どのあたりからクレーがでてくるかは判断できる。それが白か赤かは目視や、風精の情報によってきりわけて、振動弾をクレーの直前で発生するようにして、少しは離れた場所から打つスタイルで当てている。照準が甘いからだが、風精から伝わってくる情報は、あいまいさが残っているので、今回の大会は仕方が無い。

このまま4枚差のまま、風精が集まりきるタイミングである後半の時間で、風によって、相手のクレーをいったんなるべく上へあがってから、斜め下へ移動するように使役する。途中で重力魔法につかまらなければ、破壊エリアを少しばかりはいって、そのままダブルバウンドで、斜め下へより高速で落とすためだ。
だが、これも相手の加重魔法につかまった。

カーディナル・ジョージは、ここまで連続100点をとっているのもあるし、モノリス・コードにもでている選手なのだから、不可視の弾丸『インビジブル・ブリット』だけの選手ではないだろうとは思っていた。ただし、ダブルバウンドのエリア魔法を抜けるには、必ず対象のクレーに直接魔法をかけなければならないという制約が、相手にかかる。まあ、エリア魔法そのものをつつみこむ強力なエリア魔法をかけられても同じだが、そんな術式は、対戦形式では過去に事例は無かった。達也が雫に授けた収束系エリア魔法が初めてみるものだ。

それで、かけられる魔法の種類は限定できるわけで、実験室でしか見られないという対抗魔法である、術式解散『グラム・ディスパージョン』をかけた。座標特定は、魔法式に付随するプシオン。こいつになら、目をつぶっても当てられる自信はある。そして、目論見通り、ダブルバウンドのエリア魔法の手前約50cmで当てて、重力魔法の魔法式を解散させる。クレーは物理法則にのっとって慣性によって、ダブルバウンドではねかえされていく。

術式解散『グラム・ディスパージョン』に動揺したのか、2枚のトレーがダブルバウンドエリア魔法で跳ね返されたが、気を取り直したのか、手を変えてきた。重力魔法の移動速度を低速化させる方法だ。残り40枚あまりなら、マルチキャストでも余力があるという判断をして、別な対抗魔法に切り替えた。行なったのは、見かけ上は単なる振動弾。自分の色のトレーと異なるのは振動周波数と、プシオンの量。魔法においての現在の常識では、魔法の干渉強度はサイオンの力によるものとされているが、魔法に付属するプシオンが上回れば、サイオン量が上回っても、魔法式はくつがえされない。相手がプシオンを無意識に放っている以上、意識して制御されているプシオンより量が多くても、単純な力比べにはならないのだが。

こうして、後半は、僕が6枚差で勝つことに成功した。

まあ、先ほどのプシオンが多い魔法は、風精もいることだし、気がつくとしたら、化け物クラスの師匠とか九重先生ぐらいだろう。

そんなことを思っていた翔だが、パーティで余興を邪魔してしまった、九島列という存在を忘れていた。
 
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