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元虐められっ子の学園生活

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部活間の亀裂

友人とは、一体何なのだろうか?
世間で言われている”友達”は、共に遊ぶ間柄のことを例えている様に感じる。
社会で言われている”友達”は、親しい間柄、又は仲の良い同僚に向けられていると思われる。
ならば私の場合はどうだろうか?
もしも親しい間柄の者を”友人”又は”友達”と呼ぶのであれば、近所の人全員が友達に鞍替えになってしまう。
もしもそうなってしまえば毎日家に近所の人が押し掛けるような事態になるだろう。
そんなのはごめんだ。
それならどうするのか。
決まっている。その人たち全てを”親しい人”と言えば良い。
買いつまんで呼ばれるこの言葉は幅広く、悪印象を与えない遠回しな言い方だと思う。
仮にこの言葉が使用不可能なのであれば、私は真っ先に関係を断ちきるだろう。
何故ならそれが一番効率的だと考えているからだ。
故に私には友達と呼べる人がいないのである。










「あ、おはよ……」

朝一番。朝のバイトを終えて学校へ当校。
下駄箱の前で珍しく由比ヶ浜にであった。
由比ヶ浜の口からでた朝の挨拶は何処かよそよそしく、目線さえも合わそうとしない。

「……何かあったのか?」

この場合の遠回しな聞き方はチャンスを潰す切っ掛けになり得る。
だからこそ、単刀直入に、ストレートに話を振るのがベストなのだ。

「別に……あ……おはよ…」

――――何もないよ。
そう言おうとしたのだろうか?
ふと言葉を止めて俺の後方へと目線を向けた由比ヶ浜は、粗か様に気まずいと走って去っていった。

「…よっす」

「比企谷か。おはよう。
由比ヶ浜と何かあったのか?」

後ろにいたのは比企谷だった。
俺は比企谷に向き直って聞いてみた。

「いや、別に……ただ関係をリセットしただけだ」

比企谷は目をそらしてそう言った。

……関係をリセット……?そんなこと出来る筈がないだろう。
一度誰かと関わればそこでもう縁は繋がってしまうんだ。
リセットと言うからには相当な言葉を浴びせたに違いない。
となれば、気まずい雰囲気が出てくるのも納得できるし辻褄も合う。

「……そのやり方だけはお勧めしないぞ。
一度やったことがあったが酷い目に遭ったと記憶している」

「……悪いがこればっかりは譲れねぇな。
俺は哀れみを向けられることには慣れているが施しは絶対に受けないと決めているんだ」

「……分からなくもない。
………兎に角、無事を祈る」

「…おう」

会話は終了を迎え、二人で教室へと向かってあるきだした。
その道中、お互いに無言だったことは言うまでもなかった。











「――――貴方、由比ヶ浜さんと何かあったの?」

数日後の放課後。部室で読書をしていた俺は、雪ノ下の声に顔を上げた。
勿論声を掛けられたのは比企谷だが、顔を上げずにはいられなかった。

「いや、何も」

「何もなかったら、由比ヶ浜さんは来なくなったりしないと思うのだけど。
…喧嘩でもしたの?」

「いや、してない…と思うが。
大体、喧嘩なんて物はそれなりに親い連中がすることだろ?
だから喧嘩っつーより――――」

「――いさかい…かしら?」

「当たらずとも遠からずって感じか?」

ふむ、言い合いで来なくなった訳ではない、と。
しかし由比ヶ浜が気にするようなことと言えば……事故?まさかな。
…だが、言うなら今しかないだろう…それが例え今の関係を崩すことになったとしても。

「…比企谷、原因は……その、事故の事か?」

「っ!?……何で知ってる」

比企谷の俺を見る目が鋭くなる。
余りにも大きな『警戒』と『疑念』だった。

「…今まで黙ってて悪かった…。
…俺も当事者なんだよ…あの時の事故の…」

「……当事者?…もしかして庇ってくれた奴ってお前か?」

「…ああ。
だが結果的にお前を怪我させてしまったことは事実なんだ。
それに俺はその事に気づきながら黙っていた…すまん」

「…別に気にしてない。
お前が庇ってくれなかったら死んでたかも知れないからな……」

「でも足の骨を折ったんだろ?
あの時もう少し早く押し出せていたら怪我もしなかったはずだし…」

「そう言うお前はどうだったんだよ。
聞いた話だと5m近く撥ね飛ばされたって聞いたぞ?」

「いや、俺は捻挫と打撲だけだったから…」

「…頑丈すぎだろ」

そんな会話を少しの間続けた。
暫くして雪ノ下が会話に入り込めずに無言になっていることに気づいた俺は、雪ノ下に顔を向けた。

「…何かしら」

「いや、特に無いが…」

「そう。なら比企谷君には由比ヶ浜さんの説得を命じるわ」

髪の毛を耳に掛けながらそう言った雪ノ下。
しかしその瞳には――――

「後悔と………不安?」

「っ……人の目を見て考えを読むのは止めて貰える?
酷く不愉快だわ」

「……雪ノ下。お前は何を隠してる?」

「別に隠し事なんてないわ。
今の話題は由比ヶ浜さんの処遇よ」

雪ノ下は話をそらすかの様に話題を強制させ、比企谷に目線を向ける。

「……そうだな。馬鹿らしくなってきた。
明日に…は休日か。なら月曜日に呼び出すか」

比企谷は鞄に持っていた本を入れて立ち上がる。
方に鞄を背負って扉へと向かって歩いていく。

「鳴滝、俺はお前に感謝することはしても責めることはしない。
お前は命の恩人で、俺の中では結構上位に良い奴だからな」

そう言い残して部室から出ていった。

――――ありがとう、比企谷。
そう思わずにはいられない俺だった。








「鳴滝君」

比企谷が退室して少し、雪ノ下は唐突に俺の名前を呼んだ。

「何だ」

「貴方は……その、怖くはなかったの?」

怖くなかったのか。
これは恐らく先程の告白について言っているのだろう。

「怖かったな。結構良い感じの関係が築けたと思っていたから、正直叫弾されるかと思った」

「なら、どうして…」

「それでも言わなきゃならなかったからだ。
後ろめたい気持ちをそのままに、これから先もずっと抱えていくなんてのは嫌だからな」

「………そう」

雪ノ下はそれっきり黙ってしまう。
長い沈黙が続き、時計は最終下校時刻を指していた。

「鳴滝君、明日は予定があるかしら?」

雪ノ下のそんな言葉に俺は考える。
明日は特に何もないはずだ。
しかし此処で『ありません』などと答えてしまっても良いのだろうか?
この手の言葉は誘いのセリフと同義に取れる…大方明日何かに付き合ってほしいとかそんなところだろう。
しかしだ。相手は雪ノ下だ。
冷徹な目線と饒舌で相手を撃墜するような雪ノ下なのだ。
だから俺は平然を装い、こう言った。

「明日h「そう、なら明日はララポート前の看板に来て頂戴」…いや、明日h「そうね、時間は午後1時にしましょうか」…だから「お昼は食べて来るのよ。間違っても奢りなどはしないから」……えぇー……」

おかしい。
雪ノ下が話を聞かない……。
たが負けるわけにはいかない。俺にだって貴重な休日を過ごすと言う大義名分があるのだ。

「雪ノ下」

「何かしら?」

「明日h「遅れたらペナルティーを課すからそのつもりで」……わかった」

俺は…無力だ…。

夕日に染まる部室にて、後に残された俺は只立ち尽くすしかなかった。
明日の休日がおじゃんになると頭の中でシュミレートが行われ、更には嫌な予感までしてしまう程に。
俺は静かにあるきだし、平塚先生に部室の鍵を返しに行こうと職員室へと向かうのだった。

 
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