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IF物語 ベルセルク編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)

作者:azuraiiru
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第十三話 武器なき戦い




帝国暦 488年  8月 10日  マールバッハ星域 ヴァレンシュタイン艦隊旗艦 スクルド  アントン・フェルナー



エーリッヒが囚われ人達を艦橋に呼んだのはローエングラム侯に再度通信しろと言った一時間後まであと二十分と迫った時だった。全員が艦橋の一隅に集められ兵達が監視している。
「十分前になったら臨戦態勢のまま艦隊を動かす、あらかじめ全艦に通知してくれ。それとローエングラム侯との話し合いは録画と広域通信を頼む」
「広域通信? 分かった」
オペレータを見ると頷いて直ぐに指示を出し始めた。

「アントン、ローエングラム侯は一時間待つかな?」
「如何かな? 姉君思いだから時間前に連絡してくるんじゃないか。それにこちらが艦隊を動かせば直ぐに分かるだろう。焦って連絡してくる可能性も有る」
艦隊を停止してから約四十分、ローエングラム侯のワルキューレによる接触を何度か受けている。攻撃は無い、こちらの様子を窺うだけだ。

こちらも当然だが哨戒任務は実行中だ、敵の動きは分かっている。向こうも艦隊を止めている、今頃は食事を済ませているかもしれない。お互い相手の行動は妨害しない、そして必要以上に挑発するような事もしない。お互い突発的な衝突で済し崩しに戦闘に入る事を避けたいと思っている。

ローエングラム侯は人質解放を願っているしエーリッヒも艦隊戦力では劣勢だと分かっている。おそらくは多少の論戦と落としどころを狙っての交渉になる。もちろんお互いに圧力をかけながらだ。ローエングラム侯は兵力、エーリッヒは人質の命が武器だ。そしてローエングラム侯は人質の解放、補給物資の返還を望みエーリッヒは航行の安全の保障を得ようとしている。

論戦となればエーリッヒが圧倒的に優勢だ。何と言ってもエーリッヒは皇帝暗殺の真相を知っている、証拠も有る。あれを暴露すればローエングラム侯はもたない。だがそれだけに危険だ。ローエングラム侯が暴発して戦闘になる事も有り得る。その時は人質など何の意味も無くなる。

兵力では不利なのだからローエングラム侯を上手く制御して成果を得なければならない。となると簡単に暴露というわけには行かない。何処までを曝し何処からを秘匿するか……。或いは他に交渉のカードが有るのか。広域通信か、何か考えが有りそうだが……。エーリッヒを見た、俺を見て笑顔を見せた。

「ローエングラム侯は一時間待つと思うよ」
自信満々な表情をしている。さっきまで戦闘食が不味いと仏頂面していたのに……。可笑しかった、或いは俺達を安心させようとしているのだろうか?
「賭けるか?」
「良いとも。私が勝ったらカルーア・ミルク二杯、卿が勝ったら水割り二杯だ」
「乗った!」
俺とエーリッヒの遣り取りをオフレッサーとリューネブルク中将が、オペレータ達が呆れたように見ていた。

「で、侯が待つだろうと思う根拠は何だ?」
「ローエングラム侯はあれで結構律儀な所が有る。それに時間前に通信してくれば足元を見られると思うだろう。負けず嫌いだからね、今頃は歯噛みしながら時計を見ているよ」
なるほど、侯の性格を良く見ている。オフレッサー、リューネブルク中将も頷いている。

「分が悪いな、俺の負けかな」
「如何かな、まあここで勝ってもガイエスブルク要塞に戻れなければ意味が無い」
「そうだな、司令官閣下の才覚に期待というところだ。……十分前だ、エーリッヒ」
「全艦に発進命令を、速度は半速でいこう」

艦隊がゆっくりと動き出す。エーリッヒがエルウィン・ヨーゼフを呼んだ。幼児を膝の上に乗せ耳元で囁いている。ところどころ内容が聞こえるが本気か? また碌でもない事を。リューネブルク中将が苦笑しオフレッサーは訝しげだ。どうやら後ろに居るオフレッサーには聞こえなかったらしい。

約束の一時間が経った。間をおかずにオペレータがローエングラム侯から通信が入った事を大声で告げた。エーリッヒが“カルーア・ミルク、二杯だぞ”と言ってウィンクをした。そして幼児を抱えて立ち上がる。
「映像をスクリーンへ」
エーリッヒの言葉にスクリーンにローエングラム侯の姿が映った。幼帝を抱えたエーリッヒを見て驚いている。

「ローエングラム侯、出迎え大義! 陛下も侯の忠誠を御喜びであるぞ」
『な、……』
ローエングラム侯が呆然としている。それを見てリューネブルク中将、オフレッサーが顔をヒクつかせた。オペレータの中には俯いて腹を抑えている人間も居る。エーリッヒは至って厳かな表情だ。どう見ても宮中の重臣、摂政だが似合い過ぎだ。戦闘食の嫌がらせ第二弾だな。

「陛下の御前であるぞ、ローエングラム侯。頭が高い、控えよ」
『……』
困惑している、如何して良いか分からないのだろう。怒り付けたいが皇帝を抱いているエーリッヒを怒鳴り付けるわけにもいかない。一つ間違えば皇帝を怒鳴り付けたと取られかねない。駄目だ、俺も腹が痛くなって来た。

「ローエングラム侯、陛下がローエングラム侯に御言葉を下さる、謹め」
『はっ』
流石に今度は僅かに頭を下げた。皇帝の言葉を無作法に立ったまま聞く事は出来ない。
「大儀である! 予の心配は要らぬ、下がれ!」
『……』
ローエングラム侯が皇帝を上目づかいに見ている。本心からかそれとも言わせられているのか確認しようというのだろう。

とうとうオフレッサーが吹き出した、続けてリューネブルク中将が、オペレータが、そして俺も吹き出した。スクルドの艦橋は皆腹を抱えて笑っている。ローエングラム侯が顔を真っ赤にしているのが見えた。エーリッヒが皇帝を下ろし指揮官席に座らせ、そして右手を上げて“静かに”と声を上げた。皆が懸命に笑いを堪える。

「一度で良いから“頭が高い”、“控えろ”をやって見たかったのですよ。それに緊張が解れるかと思ってやったのですが如何ですか?」
『ふざけるな!』
ローエングラム侯は真っ赤になって振るえている、ブリュンヒルトは寒いらしい。温度調整が上手く行っていない様だ。実験艦だからな、故障だろう。

「お気に召しませんでしたか、失敗かな、これは」
そう言うとエーリッヒは俺を見て肩を竦めた。仕方ないな、付き合うか、俺も肩を竦めた。周りにはローエングラム侯は冗談の分からない奴だと見えたかもしれない。またオフレッサーが吹き出した。

『卑怯だろう!』
「卑怯とは?」
エーリッヒが目を見開いた。邪気のない悪魔、そう思った。
『陛下を利用してこの場を逃れようとは』
「ああ、それですか。しかし最初にエルウィン・ヨーゼフを利用したのはそちらですよ。何も知らない子供の名前を使って我々を反逆者にした。そちらだって相当に卑怯でしょう」
今度はローエングラム侯が眼を見開いた。

『無礼だろう、ヴァレンシュタイン! 陛下を呼び捨てにするなど』
「我々は皇帝の臣下では有りません、反逆者なのです。問題は無い、違いますか?」
『……』
「反逆罪は間違いだったというなら陛下とお呼びしますよ。しかし陛下はこちらに居ます、どうやって勅令を出すのか見物だな」
ローエングラム侯が口籠った。未だ顔は赤い。駄目だな、興奮しててはエーリッヒには勝てない。

「如何思う?」
エーリッヒが陛下に問い掛けた。陛下が困ったような顔をしている。
「分からないか?」
今度は頷いた。ローエングラム侯が驚いている。そりゃまあ反逆者と皇帝が親しいなんて普通は無いよな。でも皇帝はあの一件からリヒテンラーデ公に不信感を抱いたようだ。むしろエーリッヒの方が信頼出来る、いや自分を殺さない、安全だと考えたらしい。

「ローエングラム侯。ケスラー提督、メックリンガー提督を会話に加えて頂けませんか?」
『どういう意味だ』
「どういう意味? いえ、その方が落ち着いて話せると思っただけです」
ローエングラム侯の顔の赤みがさらに強まった。お前じゃ話にならない、そう言われたと感じたのだろう。実際そうだろうな。地味にチクチクと苛めている。

『お前が苛立たせているのだろう!』
おいおい、卿じゃなくてお前かよ。沸点が低いな、これで大軍を指揮出来るのか? 心配になってきた。リューネブルク中将とオフレッサーが顔を見合わせている。やり過ぎるなよ、エーリッヒ。
「ですから二人を入れて落ち着いて話そうと言っています。私としても後々卑怯だとか狡猾だとか言われたくないですからね」
『……』

「戦闘になるより交渉の方がお互い利が有ると思いますよ。侯もそう思ったから通信してきたのでしょう。そのためにも年長者の意見というのが大事だと思うのです。それにケスラー提督、メックリンガー提督、二人ともそちら側の人間です。侯にとって損は無いでしょう」
『……良いだろう、二人を入れよう』
渋々だがローエングラム侯が頷いた。スクリーンに二人が映った。

「ケスラー提督、メックリンガー提督、久し振りです。ゼーアドラー(海鷲)以来ですね」
にこやかに話しかけられ二人がゴニョゴニョと口籠った。少し迷惑そうだが仕方がない、嫌がらせ第三弾だからな。自分はお前の部下達とこんなに親しいのだと見せつけている。実際ローエングラム侯は面白くなさそうだ、当てにならないとでも思ったか……。感情を隠すのが下手だな、エーリッヒは上手いぞ。私生活はそうでもないが公務では役者になる。

「そうそう、オフレッサー閣下もローエングラム侯とは久し振りでしょう。何かお話しされては如何です?」
おいおい、ここでオフレッサーに振るか、四弾目だな。蛮人オフレッサーが“そうだな”と言って低く含み笑いをした。うん、渋い、凄味が有る。
「また会えたな、小僧。生憎だが俺はまだ生きているぞ」
『……貴様』
ローエングラム侯が呻くとオフレッサーがニヤリと笑った。

「大神オーディンは卿の事が嫌いらしい。別な誰かがお気に入りのようだな。もっとも卿の事を嫌っているのはオーディンだけではなさそうだが……」
オフレッサーが意味有り気に言ってまた低く含み笑いをした。渋い、渋すぎる、そして凄味が有り過ぎる。若いエーリッヒの脇を固める渋いトマホーク親父か、オペレータ達が感嘆している。人気急上昇だな。

「ところでオーベルシュタイン総参謀長は如何したのです? 姿が見えませんが」
エーリッヒの問い掛けにローエングラム侯の表情が微かに動いた。
『オーベルシュタインは他に仕事が有る』
「なるほど、これを機に私諸共全員始末してしまえと言われましたか。余りに煩いので遠ざけたと。……確かに邪魔な人間が多いな」
『……』
ローエングラム侯の顎に力が入った。どうやら図星らしい。なるほど、皇帝暗殺の真相を知る伯爵夫人が邪魔か。エーリッヒが暴走して殺してしまった事にしようとしたか。

「そろそろ話し合いを始めましょうか。何時までも無駄話をしていても仕方が無い」
侯がジロリとエーリッヒを睨んだ。無駄話をしているのはお前だろう、そんな目だ。その通りだよ、ローエングラム侯。卿はもうエーリッヒの術中に嵌っている。

「こちらとしては黙って道を空けて欲しい、そんなところですね」
どうやら暴露は無し、先ずは正攻法で交渉か。緊張感など欠片も無い世間話でもするかのような口調だが……。
『ふざけるな! 人質と補給物資を置いていけ。それなら通行を認めてやる』やっぱりな、ローエングラム侯が噛み付いた。若いな、挑発に乗ってどうする。

エーリッヒが俺、リューネブルク中将、オフレッサー上級大将の顔を見回して肩を竦めた。俺達も肩を竦めた。
「ケスラー提督、メックリンガー提督、少しローエングラム侯に落ち着くように言ってくれませんか。これでは話し合いになりませんよ」
ケスラー、メックリンガー提督が困ったような表情をした。

『侯、ヴァレンシュタイン提督の言う通りです。それでは話し合いになりません』
『小官も同感です。話し合いが不調なら戦闘になりますがそれで宜しいですか』
『……』
ケスラー、メックリンガー提督が説得したがローエングラム侯は不機嫌そうな表情をしたまま返事をしない。二人とも気まずそうだ。

「ガイエスブルク要塞に着いたら人質は解放しますよ。そこから先は自分の意志で決めれば良い。オーディンに戻るも良し、ガイエスブルクに残るも良し、或いはフェザーンに亡命するも良し、止めはしませんし阻みもしない。如何です?」
フェザーンに亡命する、その言葉を聞いたワイツが大きく頷いた。オーディンに戻っても殺される可能性が高い。生きる希望を見出したようだ。

ケスラー、メックリンガー提督は何も言わない。しかし表情に不満そうな様子は見えない。妥当な線だと思っているのだろうな。何も言わないのはローエングラム侯がどう反応するか見えないからだろう。いや正確には賛成するかどうかの判断がつかないからか……。スクリーンに映るローエングラム侯は納得しかねる、そんな表情をしている。

『解放すると言うが保証が有るまい』
「……」
エーリッヒが唖然としている。分かる、気持ちはとっても分かる。この状況で嘘を吐くと思うのか? リューネブルク中将、オフレッサーも呆れ顔だしケスラー、メックリンガー提督は表情を必死に隠そうとしている。何考えてるんだ、この馬鹿。俺なら同意したうえで接収した補給物資、輸送船の返還を要求する。少しでも取り戻せればかなり違うはずだ。

「私が信用出来ないと?」
『保証が無いと言っている』
「なるほど、嘘を吐く人間は他人が信じられないか……」
エーリッヒが大きく頷いた。そして“何を”と反駁しようとしたローエングラム侯を手を振って止めた。

「怒りましたか? しかし事実でしょう。イゼルローン要塞の向こう側ではこちら同様内乱が起きている。あれは侯の謀略だ、そうでもなければこうも都合良く内乱など起きない。帝国の内乱に乗じないようにとの考えから工作員を送ったのでしょう、捕虜交換を利用してね。“人道をもって捕虜交換に応じてくれたことを感謝する”とか言っていましたが嘘ですね。ザマーミロ、馬鹿な奴、本心はそんなところだな。だから私の事も信用出来ない」

なるほど、そういう事か……。皆驚いている。ケスラー、メックリンガー提督も驚いている。……ローエングラム侯は驚いていない。顔は強張らせているが否定はしない。周囲にも伏せて行ったか、知っているのはキルヒアイス、オーベルシュタイン、そんなところなのだろう。しかしそれを気付いたか、エーリッヒ……。

「仕方ない、ではこうしましょう。五人に一人ずつ希望をこの場で述べて貰う。オーディンか、ガイエスブルクか、フェザーンか、如何です?」
『……良いだろう』
リヒテンラーデ侯、フロイライン・マリーンドルフ、グリューネワルト伯爵夫人はオーディンを希望した。ワイツがフェザーンを希望するとリヒテンラーデ侯が忌々しそうな表情をした。残りは幼帝エルウィン・ヨーゼフ二世だ。

「如何する? 彼らと一緒にオーディンに戻るか?」
エルウィン・ヨーゼフが激しく首を横に振った。やはり連中に不信感を持っている。オフレッサーが大きく息を吐いた。哀れだと思ったのかもしれない。実際哀れでは有る。六歳の子供が人間不信に陥っている。エルウィン・ヨーゼフがエーリッヒを見上げた。

「予はその方と一緒に居る」
「私と? 私は反逆者だ、お前の敵だ。お前を殺すかもしれない」
一瞬だが幼帝が怯えた様な表情を見せた。
「それでも良い、その方と一緒に居る、いかぬか?」
「……好きにしろ、決めるのはお前だ、私ではない」
「その方と一緒に居る、決めた」
エーリッヒが俺を見た、苦笑している。

「困った陛下だな、エーリッヒ」
「全くだ。自分の臣下よりも反逆者に懐くとは……、先が思いやられるよ」
「こうなると誰が反逆者なのか、分かりませんな」
「そんな事より早く終わらせて飯にせんか。戦闘食では腹が膨れんし満足も出来ん。何か美味い物を食わせろ」
オフレッサーの言葉に皆が笑い出した。

『ふ、ふざけるな!』
スクリーンから怒声が響いた。ローエングラム侯が顔を朱に染めて怒っている。皇帝を奪われては一大事か。それとも愚弄されたとでも思ったか。
『卑怯だろう! ヴァレンシュタイン! 子供を懐柔して利用するなど汚い手を使って……、恥を知れ!』

「卑怯卑怯と煩い男だ、子供だな」
『何だと!』
「私を卑怯と罵るほどローエングラム侯は公明正大なのか?」
艦橋がざわめいた。エーリッヒの口調が変わった事に気付いたのだろう。あの時と同じだ、リヒテンラーデ公達を叩きのめした時と……。オフレッサーとリューネブルク中将が顔を見合わせるのが分かった。

「辺境星域で焦土作戦をとって十億人を苦しめたのは誰だ? 何の罪も無い女子供、老人を飢餓地獄に落したのは誰だ?」
ローエングラム侯の顔面が蒼白になった。侯だけではない、二人の提督も同様だ。三人とも凍り付いている。
『……それは……』
「自分は関係ない、策を立てたのはオーベルシュタインだとでも言うつもりか?」
立ち尽くすローエングラム侯にエーリッヒが冷笑を浴びせた。侯だけではない、艦橋も凍り付いている。俺も含めて皆動けない、あの時もそうだったのか……。

「お前の真の姿を教えてやる。ミューゼルという名ばかりの貴族に生まれ多くの貴族達に蔑まれ馬鹿にされてきたがローエングラム伯爵家を継ぐなり十億人の弱者を踏み躙った男だ。自分が貴族だと認識出来て満足か? 十億人踏み躙る事が出来て楽しかったか?」
『違う、あれは……』
何かを言おうとしたが言葉が出てこない。エーリッヒが低い笑い声を上げた。

「勝つためか? 帝国を護るためか?」
『そうだ、私は帝国を護るために……』
「言い訳をするな! 見苦しいぞ!」
必至で言い募ろうとするローエングラム侯をエーリッヒが怒気も露わに叱責した。

「十億人を踏み躙って得た勝利をお前は何のために使った? 辺境星域のために使ったか? そうでは有るまい、リヒテンラーデ公と組んで五歳の幼児を皇帝に祭り上げ帝国軍最高司令官として軍の実権を握った。お前の出世と野心のために使ったのだ。否定出来るか?」
『……』
スクリーンからでもローエングラム侯の身体が小刻みに震えているのが分かった。

「傲慢で冷酷な野心家、弱者を踏み躙りその事を省みぬ冷血漢、しかもそれを認めようとしない卑劣漢、それがお前の真の姿だ。お前に他者を責める資格が有ると思うのか? そんな資格など無い、思い上がるな! 小僧!」
立ち尽くすローエングラム侯にエーリッヒが怒声を叩き付けた。

“やめて下さい”と制止の声が聞こえた。グリューネワルト伯爵夫人が蒼白になって嗚咽を漏らしていた。そして“もうやめて下さい”と何度も繰り返した……。




 
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