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不死の兵隊

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第五章


第五章

「どうした?」
「どのみちやるしかないんだ」
 声をかけてきたのはポルトスであった。彼は冷静な目で戦場にいる死した兵士達を見ていた。その目には何の臆したところもなかった。
「だったらやった方がいい」
「そうだな」
 アトスも戦友の言葉に頷いた。こうした時は彼の決断力が非常に頼りになる。それは今までの数多くの戦いでアトスもわかっていることであった。
「それだったら。やるか」
「まずは砲撃だな」
「ああ」
 また戦友の言葉に頷く。
「そうしてそれからは」
 銃撃の後でパイクと呼ばれる長い槍で刺しごく稀であるが剣で斬る。そうして戦闘の行く末を決定するのがこの時代の戦争の常であった。
「いつも通りだ」
「わかった。それじゃあ砲撃を命じるぞ」
「頼む」
「銃撃は私が指示を出す」
 アラミスも言ってきた。
「それでいいな」
「それで頼む。ではいよいよか」
「ああ、いよいよだ」
「これでどうにかならなければ本当に全てが終わりだ」
 三銃士は死してもこちらに向かって来る兵士達を見て述べた。彼等を退けることができるかどうかは受け取った補給物資にかかっていたのであった。
 まずは砲撃だった。ポルトスがそれを命じる。
「撃て!」
「撃て!」
 攻撃が復唱され砲撃が行われた。派手な砲声が鳴り響き巨大な砲弾が敵に向かって撃ち込まれる。それで数人の死せる兵士達が吹き飛んだ。
「どうだ!?」
「やれているか!?」
 三銃士は今の砲撃で敵が死んだかどうかをまず確かめた。煙が消え土埃もなくなる。その中で敵兵を見やる。
 ようやく敵軍が見えてきた。その有様は。
「いけている」
「動いていない奴がいるぞ」
 アトスとポルトスは敵をそれぞれ見て言い合う。見れば確かに完全に動かなくなった敵兵がいる。今の砲撃によることは明らかであった。
「アトス、いけるぞ!」
 ポルトスがそれを見て大声でアトスに叫んだ。
「このまま攻撃を続ければ」
「ああ」
 アトスも彼の言葉に頷く。
「間違いない、これで」
「退けられるな」
「よし、アラミス」
 アトスはこれに勢いを取り戻した。それで今度はアラミスに声をかけた。
「頼む、次は」
「わかっている。ならば」
 アラミスもそれに応えて頷く。そうして彼の仕事にかかった。
 銃を構える兵士達に顔を向ける。その彼等に言う言葉は。
「撃て!」
「撃て!」
 ポルトスのものと同じ号令だったが放たれるものは違っていた。今度は銃撃であった。立って、座って、寝ての三段で銃撃が行われる。これはこの三十年戦争において今向こうから来ているスウェーデン軍が生きている間に編み出したものである。それを今フランス軍が踏襲しているのである。
 三段の銃撃が放たれる。それが生き残っている死者達を撃つ。今度もまた多くの死者達が動かなくなった。銃の煙の中からそれがはっきりと見える。
「いけているぞ」
「確かにな」
 アラミスはアトスに対して述べた。
「間違いない、これで」
「我々は勝つことができる」
 それがわかると心強かった。もう彼等に恐れるものは何もなかった。
「よし、次は」
「槍だ」
 今度はアトスの番であった。アラミスに応えて言う。
「槍で貫く。それでまた」
「敵を倒せる」
「パイク兵、前へ!」
 アトスはすぐにパイク兵達に命令を出した。それに従い途方もなく長い槍を持った兵士達が前に出るのであった。
 アトスはその兵達が前に出るのを見ていた。そうしてそのタイミングを見計らってまた指示を出す。
「構えよ!」
「構えよ!」
 ここでも命令が復唱される。兵達はそれを受けて槍を前に出す。それだけであるが夥しい数の槍はそれだけで恐るべきプレッシャーがあった。それが通じない相手であってもだ。
 不死の兵達はそのまま向かって来る。そうして彼等も槍を構えるがフランス軍の方が早かった。彼等は為す術もなく槍に貫かれたのであった。
 槍に貫かれると動きを止める。それで終わりだった。
「やはり槍も効くか」
「うむ」
 アトスはポルトスの言葉に頷いた。
「これで何の問題もない。後は」
「倒すだけだ」
 ポルトスの言葉がきっとなった。
「それだけだな」
「そうだ。全軍抜刀!」
 最後の指示がアトスから出された。
「敵を切り捨て戦いの決着を着ける。いいな!」
「よし、ならば!」
 真っ先に剣を抜いたのはアラミスであった。それに続いてポルトスも剣を抜いた。そしてアトスも。
「全軍突撃!」
「勝利を我が手に!」
 最後にフランス軍の突撃が行われた。こうして彼等はようやく不死の敵達を倒すことができたのであった。
 この勝利の報告もロシュフォールによってリシュリューに伝えられた。やはり彼は自身の執務室においてその話を静かに聞いていたのであった。
「そうか、倒せたか」
「はい」
 ロシュフォールは彼の言葉に対して頷いた。
「無事に」
「これで我が軍は前に進むことができるな」
 彼が最初に喜んだのはそこであった。
「何よりだ」
「それに兵士達の無駄な損害もなくなりました」
 ロシュフォールは次にそこを述べた。
「あの三人も死ぬことなく」
「全く以って何よりのことだ。ここまで上手くいくとはな」
「それで閣下」
 ロシュフォールはここでリシュリューに問うた。
「何だ?」
「あれは一体何処から御考えになられたのでしょうか」
 彼がここで問うたのは武器や弾丸に刻み込まれた聖書の文字や十字架についてである。それのおかげで今回の勝利を得られたのであるからこれは当然であった。ロシュフォールもまた軍人でありこの問いは当然のことであった。原因と結果がはっきりしないと軍人は納得しないのである。
「あの文字や十字架か」
「はい、あれは一体」
「東の方の国だが」
 リシュリューはそれを受けてロシュフォールに説明をはじめた。
 
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