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大和

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第四章


第四章

 それから帝国海軍はもうまともに動けなくなった。終戦を迎えだ。軍艦は一隻残らずなくなった。海軍も解体させられた。
 あの零戦のパイロット達もだ。彼等がいた鹿屋の航空基地で項垂れていた。零戦は僅かに残っている。しかしどの零戦もだった。
「全部あれなんですね」
「くず鉄になるんですね」
「海軍の飛行機も全部」
「そうだ。全部な」
 そうなるとだ。あの隊長が部下達に話す。彼等は幸いにして生き残ることができた。それでもだった。
「海軍はなくなる」
「それに零戦もですか」
「大和もいなくなって」
「何もかもが」
「なくなるんだ。本当にな」
 隊長は零戦を見続けている。青天白日の下にいるその零戦も今は抜け殻の様だった。日の丸も今は空しく見えるものだった。
「終わったんだ、俺達は」
「大和もいなくなって」
「戦争に負けて」
「海軍もなくなって」
「そうだ、何もかもが終わった」
 隊長の声は今にも倒れんばかりのものになっていた。
「もうな」
 彼等もまた終焉の中にあった。大和がいなくなりその支えを失ってだ。日本は敗戦を迎えてだ。完全な空虚の中に陥ったのであった。
 それから歳月が経った。日本は復興し海軍は解体されたが海上自衛隊という組織ができていた。そこには海軍の伝統があった。
 呉にもだ。多くの護衛艦が集まっていた。それを見てある老人が言った。
「海軍は生き返ったんだな」
 こう言ったのである。そこには様々な護衛艦が連なっていた。
 しかしだった。老人はそれを見てだ。こうも話した。
「しかしな」
 それでもなのだった。そこにはだった。
「大和はいない」
護衛艦の名前は平仮名である。しかしその名はかつての海軍の軍艦の名前を受け継いでいる。もっと言えばその魂もである。
 しかしだった。そこにはだった。
 大和はなかった。その船がなかったのだ。
 老人はそのことに空虚を覚えていた。そしてだった。
 傍にいる小さな男の子にだ。こう話すのだった。
「なあ」
「何、お爺ちゃん」
「昔ここに凄い船があったんだぞ」
 こうだ。孫に対して優しい声で話すのであった。
「もうなとんでもなく大きくてな」
「そんなに大きかったんだ」
「大きいだけじゃなかった」
 その他のことも話すのだった。
「格好よくてな」
「格好よくて?」
「とても奇麗な船だった」
 そうだったとだ。こう話すのであった。
「そんな船があったんだ」
「そうだったんだ。ここに」
「凄い船だったんだ」
「その船があったんだよ」
 祖父はだ。また孫に話す。
「今はないけれど」
「またここに出て来るかな」
「出て欲しいな」
 願う顔だった。
「本当にな」
「そうなんだね。お爺ちゃんはそう思うんだね」
「あの頃の日本は」
 どうだったか。祖父としてこのことも話した。
「今よりずっと貧乏で。辛かったけれど」
「そんな国だったんだ」
「けれど大和があった」
 その船がだというのだ。
「大和がいて。ここにいてくれて」
「そうだったんだ」
「今の日本にも。あの船が必要なのかもな」
 海を見ながらの言葉だった。
「若しかしてな」
「大和がなんだね」
「うん、そう思うな」
 孫に話す言葉はそれだった。目に見えているものは今はもういない大和だった。その二つについて考えながらだ。孫に話す。
「本当に。じゃあ」
「じゃあ?」
「これからおもちゃでも買おうか」
 孫に顔を向けての言葉だった。
「プラモデルでもな」
「プラモを?」
「そう、プラモを」
 それをだというのである。
「今から」
「何のプラモなの?」
「大和のだよ。とても大きくて凄いプラモを」
「その大和の」
「それを買おう」
 また話す彼だった。
「今から」
「そう。それじゃあ」
 二人で頷いてだった。そうしてであった。
 孫の手を引いてだ。おもちゃ屋に行った。そしてそのうえでその大和のプラモを買ってだ。孫にプレゼントしたのだった。大和を。


大和   完


                2010・12・24
 
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