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第四章


第四章

「博多なんだ、それじゃあ」
「豚骨好きなの」
「うん、好き」
 本当に好きだと話す彼だった。
「実はね」
「そうなの。それじゃあ」
「うん、行きましょう」
 こうして作戦の次の段階も決めたのであった。何もかもがである。
 これで鈴はまずはその日のうちにそのラーメン屋に向かい事前偵察にかかった。店の中は清潔なものでラーメン屋の油っぽい感じはない。そしてラーメンはというと。
「あっ、これって本当に」
 実は今まで店のことは知っていても食べたことはなかった。実際に食べてみると。
 美味かったのだ。麺は細めでありコシもありスープがよく絡む。そしてその豚骨スープは濃く熱いものでこってりとしている。薬味のゴマもいい味を出している。
 そのラーメンを食べてにこりとなる。そうしてであった。
 今度はそのラーメン屋やドライブインの周りも見回る。そこも偵察したのである。そのうえで康史を店に連れて行ってからのことも決めるのだった。
 彼をその店に連れて行き食べるとである。やはり彼も言うのであった。
「美味しいね、これって」
「そうでしょう?本当に美味しいのよ」
 前に食べたからこそ言える言葉であった。
「ここはね」
「そうだね。確かに美味しいよ」
「それでね」
 さらに言う鈴だった。二人はカウンターの席で隣同士になって座っている。そこで明るい顔で学生らしく食べながら話すのであった。
「ラーメンだけじゃないのよ」
「ラーメンだけじゃないって?」
「ここってね」
 にこにことした顔はそのままである。
「結構色々なお店があるのよ」
「へえ、そうなんだ」
「本屋さんもあるし」
 それもあるのも見ているのだった。
「そこレンタルビデオも置いてるし」
「大きなお店なんだね」
「そうなのよ。その隣にはね」
「他にもあるんだ」
「ホットドッグ屋もあるのよ」
 これも実際に見てのことなのではっきりと言えることだった。
「そこも美味しいから」
「ふうん、ホットドッグね」
「ホットドッグ好き?」
 鈴はラーメンを食べながらであるが康史にさりげなくを装って尋ねた。
「それも」
「うん、嫌いじゃないよ」
 こう答えた彼だった。ラーメンをすすりながらである。見ればスープも飲んでいる。スプーンを上手く使ってそれでその豚骨スープも楽しんでいる。
「中にソーセージもあってね」
「そうそう、ケチャップとマスタードがよく効いてるのよ」
「それがそこのホットドッグなんだね」
「それでどうかしら」
 ここまで話してあらためて彼に尋ねたのであった。
「行く?この後で」
「うん、それじゃあ」
 実は彼はラーメンを食べてそれで帰るつもりだった。しかしそれに留まらなかったのだ。ここでも鈴は作戦を見事成功させたのである。
 こうしてそのホットドッグを食べてみるとだ。康史はここでもその顔を綻ばせたのであった。
「いいよね、これも」
「そうでしょ?美味しいでしょ」
「うん、中国の食べ物の後でアメリカの食べ物っていうのもね」
「案外いいでしょ」
「不思議とね。そうだよね」
 こんなことも言って笑う康史だった。
「合うんだね」
「そうなのよ。これが意外とね」
「水と油みたいで」
「実は違うのね。例えて言えば」
「例えて言えば?」
「あれね。お酢と油ね」
 笑ってこんな表現を出した鈴であった。
 
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