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静かに主導権を

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第一章


第一章

                      静かに主導権を
 茶色の髪に童顔である。眉が黒くはっきりとしていてそれが茶髪と見事なコントラストをなしている。
 人なつっこそうな顔とは裏腹にその背はわりかし高い。笑顔が零れんばかりである。
 浅原康史は学校では女の子達の間で人気があった。それはまずはこのルックスからである。
「しかもそれだけじゃないしね」
「そうそう」
 その女の子達の彼についての会話である。
「弦楽部でもエースだし」
「バイオリン自分でも作れるしね」
「家がバイオリン職人なんだって」
「それもいい感じよね」
 その特技や家の仕事も評判がよかった。お洒落に思われているのだ。
「しかもね。性格もね」
「穏やかだし大人しいしね」
「いい感じよね」
 こんな風に女の子達の評判はよかった。それもかなりである。
 そしてである。そんな彼だから狙う人間も出て来て当然である。その狙う人間とは。
「そうね。今度私ね」
「あんたアタックするの?」
「まさか」
「そのまさかよ」
 こう言う女がいた。見れば背が高く茶髪をショートヘアにしている。大きな目は少し垂れ目である。胸はない感じだが足は長く全体的なスタイルはかなり整っている。大きな口がこれまた見事に映えている。この娘も笑うとかなりいい感じである。笑顔美人というわけだ。
「浅原って今彼女いないわよね」
「彼氏もいないらしいわよ」
「つまり完全なフリーよ」
「つまりは」
 彼女、工藤鈴はそれを聞いて笑顔になった。それだけで周りを晴れやかにさせてしまう、そうした見事な笑顔をここでも見せるのであった。
「私が立候補してもいいのよね」
「まあそうなるわね」
「あんたも彼氏いないの」
「彼女も」
「まあ彼女はいるけれど」
 鈴は冗談めかしてこんなことも言った。
「一人ね」
「ああ、北乃ちゃんね」
「莢香ちゃんとやっぱり」
「あの娘可愛いからね」
 だからだと笑って話すのであった。
「ついついね」
「まあ彼女はいてもいいけれどね」
「とりあえずはね」
 実際にはそうした関係ではないのがわかっているから周りもこれで済ませてしまった。そこから話はようやく本題に入るのであった。
「それでよ」
「本当に立候補するの?」
「それで」
「そのつもりよ。本気よ」
 その笑顔のままでの言葉である。
「実際にやってやるから」
「まあそれはいいけれどね」
「それ自体はね」
 周りはそれはよしとした。しかしである。
「けれどさ。あんたクラスが違うし」
「しかも部活も違う」
「陸上部よね」
「ええ」
 周りの言葉に対してまた頷く。事実だから余計にだ。陸上部では短距離走のホープである。背が高くしかも足が長いので彼女の陸上服姿は人気があったりする。青い半ズボンから出ているその足を見る為にわざわざ陸上部の練習を見る学校の男もいたりする。
「そうよ」
「接点ないじゃない」
「確かに」
 皆ここで言う。
「少しばかり辛いけれど」
「どうするのよ」
「為せば為るよ」
 しかし鈴はその笑顔をここでもそのままにして言った。
 
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