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Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃

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8 あの日の目覚め・今日の目覚め

「ねえ君、可愛いね。よくうちの周り来てた子でしょ。」

 そんな甘い言葉、言われた瞬間はくすぐったくて嬉しくて。
 けれど、その先の結末を知っていたなら、決してそんな事は思わなかっただろう。

 まだまだ幼い、でも背伸びをしたかった小学校の6年生。
 今思えばなんであんな見え透いた思惑、見抜けなかったんだろうか。
 そう、あれは焼け付くような暑い夏。
 友達との約束、家族との予定、色んな事が楽しかった。

 あの日は確か、友達とプールに行くはずだったっけ。
 待ち合わせの場所に行きその友達を待っていた。

「ちょっと早すぎたかな...。」

 そんな事を呟きながら新しく買ってもらったヘアゴムを触っていた。
 その時、突然声をかけられた。

「君、可愛いね。何してるの?」

 聞き覚えのある声だった。
 聞いたのは多分友達の家に行ったとき。近所で色んな子と遊んであげていた人だった。

 多分大学生で、チラッと見ただけだったがかっこいいね、そんな事を友達と話していた。

「誰か待ってるの?」
「はい、友達を待っているんです」

 そうするとその人は、

「ひょっとして前に遊んでたあの子?あの子なら少し遅れるってさ、バスに間に合いそうにないから迎えに行ってあげてって頼まれたんだ」

 今から行こうとしていた市民プールは私達の所からだと自転車では少し遠かった。
 だからバスで行くのが定番で、携帯で見せてくれた時間は確かに間に合うかどうかギリギリの時刻だった。

「え、そうなんですか?」
「うん、お兄さんは車あるからさ。乗って乗って」

言葉のままに車に乗ると、

「うん、いい子だ。可愛いねぇ」

 猫なで声が聞こえたかと思うと口と鼻をハンカチで覆われた。
 そこでの最後の感覚は甘ったるいような変な匂いと、意識が遠のく嫌な感覚だった。

「...きた?...た......おーい、起きたかい?」

 目を覚ますと見知らぬ部屋と、目の前にはニタニタと下卑た笑いを浮かべる男。

「ったく、グーグー寝やがって、お預け食らわしてんじゃねーよ。」

 言うと、まだ眩しくて半開きだった視界にいきなり光が弾けた。
 眩しさと気持ち悪さと怖さと...いろんな気持ちが入り混じり、思わず目を逸らして顔をしかめる。

 しかし男はそれさえ楽しんでるようにシャッターを切り続けた。そして一通り満足したらしく、今度は、

「暴れたり大声あげたら殺すぞ」

 冷たく鋭く言われて思わず恐怖で体が竦んだ。するといきなり目隠しをされる。
 視界は真っ暗、他の感覚だけが鋭敏になっている。

 そして...。

「おい!ミーティア!?」

 いきなり視界が明るくなると目の前にはやはり男の顔があった。
 しかしあの胸糞悪い笑いなどではなかった。

「...夢......?こ。怖かったよぉ...。」

 顔の近くの胸元に思わずすがりつくと一つ二つ、嗚咽が漏れる。一度堰を切ったらもう止めようがない。

 涙が目尻から溢れ出て、嗚咽は噛み殺せないくらい漏れてきて、すがりついてしまった両手はシャツをますます強く握ってしまう。迷惑だとは思う、でももうそんな事では止まらないくらい感情は振り切れてしまっていた。
 いっそのことこのまま涙と一緒にこの体まで掻き消えてしまえばいいのに。叫ぶ代わりに泣き散らした。

 でも、フルフルと震える頭を、何かが撫でてくれている。昨日と同じ、心地よい手がゆっくりと髪を梳いてくいく。
 そう、まるで荒れた心も忌まわしい記憶も漏れてしまった嗚咽も全て洗い流してくれるように。
 そのまま彼は、何も言わずに泣かせてくれた。

「ご迷惑をかけてしまいましたね...すいません。」

 落ち着くまで泣いていたら、すっかり疲れてしまった。
 取り合えず今更感溢れるが謝罪を入れておくと、

「いや、別に迷惑ではないけどさ。もう平気か?」

 なんとか頷くと、またそっと頭に手が乗って。

「随分うなされてたぞ、暗所恐怖症もそれが原因らしいし。もう少しこうしてたほうがいいか?」

 同情ではない、でも気遣いの感じられる声はささくれた心に心地よかった。

「もうちょっとだけ、このままじゃダメですか?」

「気の済むまでそうしてな。別に何か急いでるわけでもないから。」

 昨日あった青年はそう言うと背もたれにしている岩に身を預けた。ゆったりと過ぎる時間に、ついうとうとしまう。

 それに落ち着かせようとしてくれているのかポンポンと背中を叩いてくれるのが気持ちよくて、今度は安心して眼を閉じた。

「あ、また寝ちゃったか。」

 やけに静かになった、そう思っていたらまた寝息が聞こえてきていた。
 でも今度はちゃんと眠れているような寝息で、それに少し安心出来た。

「さてっと、俺は俺でカリキュラム端折ってペース早めないとな。」

 膝と胸ははしばらく貸し出すことにして、思案を巡らせつつ後ろの背もたれ代わりの岩に大きくもたれかかった。 
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