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jq@,fd@joue

作者:海戦型
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SS:マッチ、炎、そして少女

 
前書き
つぶやき投稿+α 

 
 オセーニ大陸西部は、大昔から「マギム」と呼ばれる種族の支配する地域である。
 世界最大宗教であるエレミア教の教えによれば、このマギムという種族はアドラント大陸に住まう「ガゾム」、天空都市バベロスに籠る「ゼオム」と並ぶ古代人種であり、文化的な歴史は最も深いとされている。
 マギムは繁殖力が高く、世界のあちこちにマギムの町や集落が存在し、この世界で最も総人口が多い種族だと言われている。
 そのマギムが治める「アーリアル連合王国」が首都アーリアルの城下町は、真冬の寒さに見舞われていた。

 余りの寒さに早めに店をたたむ行商とは逆に、屋台や酒場は時間が遅くなるにつれて騒がしさを増していく。その寒空の下に敢えて身を晒し、喉を焼くような酒と料理に舌鼓を打つ。それが彼らなりの冬の過ごし方なのだ。
 町内を見回る王国兵たちも、己の見回りが終わると我先に腹を満たそうと夜の街へ踏み出していく。

「もし、そこのお方」

 不意に、その若い男は背後から掛かった透き通るような声に呼び止められた。
 振り返った男は少し驚く。
 声の主は、幼い少女だった。
 この寒空の下で、赤い頭巾と手袋に安物のマフラーを身に着けているその様は、防寒が十分だとは言い難い。手にはバスケットを握り、そのバスケットの中には小さな箱がたくさん入っている。
 寒さからか鼻先が赤くなったその姿はいかにも辛そうで、すこし気の毒に思えた。

「俺に何か用かい、見知らぬレディ?」
「ええ……わたし、マッチ売りをしているのです。良ければひとつ、いかがでしょうか?」
「これは、木製のマッチか?今時珍しいものを売っているな」

 今や木製マッチは都市部では滅多に見かけない。
 特にアーリアルのような都市には『クリスタル・インフラ』という技術が広く普及しているからだ。
 蓄積結晶(クリスタル・コンデンサ)に溜めこんだ大量の神秘を子機結晶に供給し、それを火を操作する神秘術を組み込んだ機械(マキーネ)に組み込めば、それで火が起こせる。
 調理の火や暖炉は勿論、神秘術を変えて光源や冷蔵庫の冷気などにも変換できるこの技術が導入されたのはもう一世紀以上昔の話だ。

 神秘術を用いない木製マッチを使う者は、煙草の愛好者などの一部の物好きだけだ。
 クリスタル媒体の発火装置に比べて使いづらく、またそもそも物を燃やす機会が少ない。
 クリスタル技術が発達していないよその国ならともかく、この国では旧時代の遺物だった。
 とはいえ、この町の中では珍しいものでもある。

「いくら?」
「30ロバルです」
「買おう。ほら、お代」
「あ……ありがとうございます!」

 少女の顔がぱっと明るくなった。
 この寒空の下で働いているのだ。彼女がどのような事情の下にここで物売りをしているのかは知らないが、一つくらいは買ってやってもいいだろう。どうせこれから酒場でもっと金を使うのだ。その話の種にでもなれば元が取れるだろう。
 マッチの箱を受け取った男は、頭を下げる少女に小さく会釈をして、「身体に気を付けろよ」とだけ言い残してその場を去っていった。

 それを遠目に見送った少女は、ふふ、と笑みを漏らす。

「さてはて、下ごしらえはこんなものでいいかな?誰も彼も純真(ピュア)すぎてイケナイね?見た目に騙されて直ぐにマッチ買って行っちゃうんだもん!」

 悪戯猫のようにニヤニヤと笑った少女は、そのまま路地裏へと身を翻す。
 彼女は路銀を稼ぐためにマッチを売っていたわけではない。本当に重要なのは、「マッチを持った人間が町中に散らばる」ことそのもの。

「この時間帯にうろついているおっさんたちはどいつもこいつも酒場目当て。そしてこの時間帯なら酒場には末端の兵隊どもが集まってくる!つまりああやって子供のふりしてマッチを売れば、後は各々好きな酒場に散らばっていくわけでっ!」

 路地裏に放置されたゴミを飛んで避けながら、少女は笑いが止まらないとでも言うように一気に駆け抜け、町の外へつ続く道へと出た。

「そこで連中は『今日、道端で珍しいものが売ってたんだ』と酒場の席でマッチ箱を取り出すのです!だけど実はぁ~……そのマッチ、細工されてるよっと!」

 店もない夜の小道には誰もおらず、人目の有無をしっかり確認した少女はその辺に立ち止り、残りのマッチをバスケットごと放り投げた。投擲先には町の大動脈となる大通りが存在するが、今の時間帯にはそこに人など通らない。例え通ったとしても少女にとっては問題の無いことだった。

「そう、実は!このサーヤちゃんが持つごんぶとマッチでちちんぷいぷいと呪文を唱えると――?」

 その服の何所に入っていたのかと聞きたくなるほどに大きな箒サイズのマッチ棒を取り出したサーヤと名乗る少女は、マッチ棒で自分を中心に円を描いたのちに、マッチの先端を地面に激しくこすりつける。
 マッチの先端に火が灯った。そしてそれに呼応するように円が輝き――

「なんと、大爆発して超高熱の炎を如何なく放出するのですっ♪」

 ――アーリアルの城下町に、爆音とともに数十の火柱が高らかに立ち上った。

 彼女が配ったマッチ箱を中心に起こった大爆発の炎だった。
 建物全てを焼き尽くすような地獄の高熱が、町を赤く染める。
 炎は店の外へも飛び出し通行人さえも焼かれ、更には火事で近隣もパニックになった。
 すぐさま城より消防部隊が出動するが、そんな彼らを待っているのは――石畳さえも焼ける紅蓮の炎によって破壊された大通り。先ほど彼女がバスケットを放り投げた、まさにその場所で立ち往生を余儀なくさせる。
 僅か数分前まで平和そのものだった首都は、混乱と悲鳴に彩られた。

  「う~ん、我ながら完璧な計画!アーリアル王国はちょーっと油断すると直ぐに戦争だの侵略だのをしようとするからね……これでいい牽制になったでしょ!はーっはっはっはっはっは!!」

 燃える巨大マッチを肩に担いだサーヤは上機嫌に肩を揺らして大笑いし――不意に、その笑顔が途切れた。

「成程な……どうも怪しいとは思ってたんだが、まさかそのナリでテロリストとは、たまげたね」
「げげー!………つかぬことをお聞きしますが、全部聞かれてたりしますかお兄さん?」
「お前さんがマッチ箱を媒体にこんなテロをやらかしたことは理解できたよ」

 彼女の余裕の笑顔を崩した者。それは、先ほど正にマッチを売りつけた若い男だった。
 腰に剣をぶらさげて上質な武具をつけていたため名うての傭兵(マーセナリー)か冒険家だとは思っていたが、まさかこちらの思惑に気付かれるとは夢にも思わなかった。

「おっかしーなぁ……なんでバレたん?」
「理由その一。貰ったマッチを調べてみたら、極少だが神秘術らしい記述がマッチに彫り込まれていた。しかも記述がクリスタルへの神秘供給システムと部分的に似通っている。遠隔操作数列式だと気付いて危険物保管用のテレポットに放り込んだよ――おかげでテレポットが一つおじゃんだ」

 テレポットとは、内部に一種の異空間を作り出して物体を格納できる道具のことだ。内部で強い衝撃を受ければ壊れるが、異空間を突き破る際に破壊力の殆どを使い果たしたのだろう。男には少々鎧の一部に煤がついているが怪我はない。
 並の人間なら、仮にマッチ箱を開いてもその数列を見つけきれないだろう。それほどに微細な数列だった。サーヤはひゅう、と口笛を吹く。

「わお、名探偵!で、他にも理由があるの?」
「ある。理由その二。そもそもこの辺りでマッチを売ってること自体が解せない。この辺りは比較的裕福な人間の住む区域だ。金は持っていても人通りが少ない。儲けたいなら一段下の、丁度労働者でにぎわってる中層のほうが儲けが見込める。しかも一箱30ロバルというのもおかしい」
「え、良心的な値段だったと思うけど?」
「この町の連中はマッチの相場なんか知らん。本気で小遣いを稼ぐならもっと吹っかけた値段で攻める」

 おおー、と関心の声をあげるサーヤの笑顔を苦い顔で見ながら、若い男は腰の剣に手をかける。
 マッチに違和感を覚えて少女を追いかけたが、結果的に彼女によってマッチは爆発させられてしまった。あの威力ではかなりの死者が出たに違いない。

 家族がいただろう。
 出世欲や憧れがあっただろう。
 語らいたいことが沢山あっただろう。
 仕事の後の楽しみが、目の前にあっただろう。
 それが、こんな少女に一瞬で――歯がゆい思いを堪えながら、若い男は言葉を続ける。

「そして、疑った最後の理由。――『マッチ売りの少女』はエレミア教で使われる古い隠語だ。その意味は、『炎とともに尽きる命』……炎の凶兆を示す」
「……博識だねぇ、とっても博識!まさかこの皮肉が通じる人に会えるとは思わなかったよ!エレミア教の地方司祭ならそんな古い隠語なんて知りもしないよ?」
「生憎と、俺の家はそういうのに縁があってね」

 若い男は、それだけ言い終えると腰の剣を完全に抜き放った。
 黒を基調とした両刃の剣が、月光を反射して煌めく。
 それを見た少女は大袈裟に自分の身体を抱いてわざとらしい悲鳴を上げた。

「きゃー!ゴメンナサイゴメンナサイ!私、ある人に頼まれてやっただけなのぉ!家族とか人質に取られちゃってさ、しょうがないじゃん!?」
「よく回る舌だが、嘘がモロバレだぞ。お前の持っているその巨大なマッチ棒……『ヘファイストスの松明』だろう。過去に反女神派の異端集団と認定された『スチュアート派』が強奪したオリュンポス十二神器のうちの一つだ」
「ウッソ!そこまでバレちゃう訳!?お兄さんってば実は良家のお坊ちゃんか教会関係者でしょ!!」

 今度は流石の少女も本気で驚いたようだ。
 オリュンポス十二神器は騎士団の上層部とエレミア教会上層部のごく一部しかその存在を知らない古代兵器だ。その半数は強奪されて教壇の手元にはないが、それをこの短期間に看破するなど、その情報を持っているだけでも異常な事だ。
 ヘファイストスの松明は、その中でも炎を司る古代兵器。
 見た目は巨大なマッチ棒にしか見えないが、数十もの数列を同時遠隔操作してあの規模の爆発を起こすなど、まともな神秘術では不可能だ。故に若い男は、過去に見た資料と照らし合わせてあの武器を特定していた。
 だが、その古代兵器を肩に担いだ少女は不敵な笑みで男を見上げた。

「――で、さ。お兄さんはこの後どうするのかな?勇ましく剣なんか抜いちゃってるけど、あたしのこと斬っちゃう?」
「………………」
「考えてること当てたげようか?そうだねぇ~……私の目的があくまでこの国への牽制だって話を思い出して、本当の神器の力はこんなものじゃないなって密かに戦慄してるでしょ!」

 十二神器は、普段は封印されている。それは、その力が余りにも強力過ぎるからというのもあるが――実際には、使い方が伝わっていないからだ。十二神器は神秘数列の媒体として以外にも、特殊な使用方法が存在する。だが、その使用法を記した書物も神器使いの一族も、過去に起きた魔物との大戦によってすべてが失われていた。
 だがこの少女は、神器の使い方を知っている。先ほど町に放火する際、彼女は神秘術には存在しない過程を使用していた。
 何故神器の使い方を知っている。
 何故それを持っている。
 お前は、何者なんだ。

「で、今の自分じゃ勝てないから今回は見逃そうとか!」

 あくまで余裕は崩さずににやにや笑うサーヤに、若い男は内心で覚悟を決めた。
 彼女の言う事は正しい。確かにその考えも頭を過った。彼女が本気でこちらに攻撃すれば――十中八九防ぎきれずに焼死するだろう。利口に生きていたいのなら、ここは見逃すべきだ。

 だが、それでも――と、ニーベルは歯を食いしばる。
 ここで黙って引けば、自分自身を許せなくなるから。
 弟との間に立てた誓いを破ってしまうから。
 見て見ぬふりをして、素知らぬ顔で悪から目を逸らしたくないから。そんな最低な自分など、存在する価値がない。

「我が名はニーベル・フォルツ・ブルグント。愛国の徒として、無辜の民を焼いたお前を黙って帰す気は毛頭ない」
「無辜の民、ねえ………知らないってのは幸せだ。いいよ――あたしの名前はサーヤ!その喧嘩、特別に付き合ってあげる!」

 サーヤが肩に担いだ神器を振り上げ、槍のように振り回しながらニーベルに突き付けた。
 ニーベルもまた、抜き放った剣を正面に構える。

 空気が、張りつめた。

「………ただし、果てしなく後ろ向きにねーっ!!」

 瞬間、サーヤは神器を担いだままバック走でその場を離脱した。
 一瞬その姿に呆気にとられたニーベルは、やがて自分がからかわれたことに気付いて慌てて追いかける。

「なっ……てめぇふざけんなコラぁ!!人をおちょくってんのかこのチビ女!!」
「ふざけてないけどさ!さっきの爆破でかなり力使っちゃったし、あまり暴れすぎると六天尊(グローリーシックス)が動く可能性あるんだもん!寧ろ全力で見逃してください!」
「くそ、なんでバック走で俺の全力疾走より足が速いんだよ!ちょっと気持ち悪いわ!!」
「ははははっ!……あ、ひとつカン違いしてるみたいだけどー!!」

 鬼ごっこをして遊ぶようにけらけらと笑うサーヤは、必死に追いすがるニーベルに一声かけた。

「あの炎はねー!熱いし燃えるけど、ヒトは殺さないよう定義付けしてあるからー!トラウマは残るかもしれないけど、死者は一人も出てないよーーっ!!」
「なっ……なんだとぉぉぉーーーー!?」
「あははははっ!またいつか会おうねー!!」

 結局、必死の追跡もむなしくサーヤは姿をくらました。
 翌日確認を取ると、確かに彼女の言うとおり死人は出ていなかった。
 爆発によって吹き飛んだ破片などで重傷を負った者はいたものの、不思議な事に発火したものに触って火傷したものはいても、炎そのものに焼かれた者は一人もいなかった。
 しかしこの事件で主要な酒場が壊滅したことと、下手をすれば都市に壊滅的な打撃が与えられていたであろうことから、アーリアル王国兵の士気は著しく低下した。

 結局サーヤが何者で、何の目的でアーリアル王国にちょっかいを出したのかは不明のままだった。あの無邪気な少女がこんな凶行に及んでいる理由は想像も出来ない。
 だが、ニーベルには小さな予感があった。

 ――あの子とは、またどこかで出会う気がする。

 その後、ニーベルは元々続けていた武者修行の旅を再開した。
 そして彼は、彼女とはまた別の運命的な出会いを果たし、それを境に大きな動乱に巻き込まれることになるのだが――それはまた、別のお話。



 = =



 ――遡ること、ニーベルがサーヤを見失った頃。

「ぜはっ……ぜはっ……ぜえ……はあ、はあぁぁーーー……」

 夜の街を全力疾走で逃げ回ったサーヤは、どうにかニーベルを捲く事に成功して、城下町を脱出していた。

「も、もう……久しぶりの全力疾走も悪くないかなって思ったのに、あのお兄さんスタミナありすぎだって!」

 走りに関しては絶対の自信があったのに、まさかあそこまで肉薄されるとは思わなんだ。

「うう……まさかスラムの流星とまで謳われた私がいいトコ出のお坊ちゃんなんかに………」
『ヤレヤレ、君は相も変わらず愉快な任務をこなしていると見えるねえ。羨ましい限りだよ』
「お、ルーさん」

 懐に忍ばせていたメダルから声が響く。特殊な神秘術式による長距離音声送受信だ。
 声の主はサーヤが「ルーさん」と呼ぶ、言うならば仕事上での先輩に当たる。

『例の松明は使いこなせているかね?それは六天尊にも対抗しうる正真正銘の最終兵器だ。我等が女神さまが最も適性の高い君のために調整まで施した超一級品だ』
「あはははは~……若干振り回されてます、ハイ」

 実を言うと、サーヤはこの『ヘファイストスの松明』を託されてから1年ほどしか経っていない。未だにこの恐るべき力を込めた武器を扱えるように訓練はしているのだが、使用の度にある強烈な反動があるために、未だ使いこなすまでには至っていなかった。
 というのもこの神器、使用した際の力が強ければ強いほどに、その炎を具現化させるための神秘を溜める時間が引き伸ばしされるのだ。
 ニーベルの目の前では意地を張って強がっていたが、あの時は松明の先端に炎を灯したままにするのが精いっぱいの状況だったのだ。
 別に接近戦でも戦って負ける気はなかったけれど、念の為だ。万が一にも捕まったとあっては他のメンバーに申し訳が立たない。

『まだ、ヒトは殺せないかね?』
「………当分は無理っぽいです。それが一番手っ取り早いとは分かってるんですけど」
『それも良きかな。我らが女神さまは、目的さえ果たせれば過程は好きにしてよいとおっしゃっている。汚れ役は汚れた手の者に任せたまえ』
「あははは……私だって汚いですよ。汚い汚いスラムの出身で、生きるために泥棒して町を駆け回って……」

 最低の町で最低の生活を続けて、時には得意な炎の神秘術で相手に火を放ったこともあった。
 そんな世界に必要とされない塵溜めのような世界で、いっぱいいっぱいに生きてきて。
 だから、そんな世界から拾い上げて、教育を施し、力を授けてくれたあの女神さまに少しでも恩を返したかった。

『なに、殺しなど……本当ならばしない方が良い。私など旧友と再会すれば間違いなく八つ裂きにされるほど恨みを買っているのでな。悪餓鬼程度で済ませておくのが茶目っ気だよ』
「ルーさん……」

 こんな話をする時のルーさんはいつも寂しそうな声をしていて、それでも彼は自分の往く道を今更変える気は毛頭ないと笑うのだ。
 そして陽気にこう歌う。

 我等は女神の隣人よ――
 女神の願いを聞き入れて――
 ふるえや力を、働けわが身よ――
 いずれは通る道のため、嘗てと先の隣人と――
 今は思いを違えども――
 いずれ分かればそれで良し――

 サーヤは、女神の願いの邪魔になったり何も知らないような相手は嫌いだ。だから、何れは分かり合えると歌うこの歌詞は素直に賛同できなかった。
 だってこの星の連中は、女神さまの気も知らず、何も知ろうとせずにのうのうと生を享受しているだけではないか。そんな連中と分かり合うなど――

『――何なら君が追いかけっこをした彼と駆け落ちしたってよいのだぞ~?皆もそう言う理由ならば苦笑いして見逃してくれるだろうしな~?』
「………は、はあ!?ななな何を急に言い出すんですかルーさんっ!?誰があんなお坊ちゃんなんかと!」
『だってなぁ。君はまだ若いんだし、歳の差10歳くらい珍しくもないだろう。それにその坊ちゃん『ブルグント』の姓を名乗ったのだろう?ブルグント家といえば……ごにょごにょごにょ』
「――ええっ!!マジですかそれっ!?」
『うん。傭兵みたいな恰好だったってことは恐らく長男の方だろうけど、別荘の一つ二つくらいは持ってる筈だよぉ~?』

暫くサーヤが本気で悩んでいたという事実は、甘言で惑わしたルーさんと女神のみぞ知る。
  
 

 
後書き
サーヤちゃんは大体本編で言った通りです。
ニーベル君はいいとこ出のお坊ちゃんなのです。当主の座はいろいろとあって弟が継ぐことになってるんですが、訳ありの家系です。
ルーさんは人がいいためサーヤちゃんの世話焼きをやっていますが、サーヤちゃんたちの所属する組織では1,2を争う実力者です。その代り、ルーさんが恨みを買っている方々はその悉くが人類最強決定戦に参加しそうな連中だったりします。 
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