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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 中学編 02 「朝からでも賑やか」

 早めに家を出たこともあって、俺達はほとんど人に会うことなく学校の校門付近まで到着した。小学校にはやてが復学してからというもの、俺との関係を聞いてくる連中も居たこともあって、早めに出て正解だったかもしれない。顔見知りに会っていたなら、ディアーチェがはやてに間違われ、そっくりさんということで騒がれ、俺とどういう関係なのかという質問攻めが始まっていただろうから。

「雰囲気からして、まだ誰も来ていないように思えるな」
「そうだな。でもまあ、今日に関してはそのほうがいいだろ。お前は間違いなくこれから大変になるだろうから」

 他人事のように言ってくれるな、と視線を向けられるが、俺とディアーチェは別クラスだ。庇ったりしようにも簡単にはできないし、むしろそんなことをしたほうがややこしくなる可能性が高い。クラスを別にしてくれた教員には感謝するべきだろう。

「お前なら大丈夫だとは思うが……ま、頑張れ」
「ふん、頑張るも何も我は我らしく過ごすだけだ」
「おぉ、さすが王さま」
「貴様にその名で呼ぶのを許した覚えはない!」

 そう言ってディアーチェは、ぷいっと顔を背けてしまった。前から思ってはいたが、どうして俺には許可が出ないのだろうか。俺よりも親しくない知り合いなんかは普通に呼ばせているのに。

「なあ、何で俺は王さまって呼んだらダメなんだ?」
「そんなことダメなものはダメだからに決まっておる」
「どうしてもか?」
「……どうしても呼びたいのか?」

 ダメと言ったのにこうして折れる素振りを見せるあたり、ディアーチェは身内に甘い。まあ良いところなのだが……誰かに騙されやしないか心配になる部分でもある。人を見る目はあるだろうし、頭も良いから心配するだけ無駄なんだろうけど。

「そうだなぁ……そこまで呼びたいかって言われるとそうでもない」
「貴様……」
「怒るなって。前から疑問に思ってたんだよ。何で王さまって呼んだら呼ぶなって言われるのか」
「そんなの……貴様にはきちんと名前で呼んでほしいからに決まっておるではないか」
「なあ、後半が全く聞こえなかったんだが?」
「少しは察したらどうなのだ。我のことを王さまと呼ぶ輩は、得てして我をからかったり、困らせる者ばかりぞ!」

 シュテル、レヴィ……はやて。うん、確かにディアーチェをからかったり、困らせる奴ばかりだな。それに呼ぶなと言ったところで聞きそうにない。

「それに……貴様は人を愛称で呼ぶような人間ではないであろうが。貴様に呼ばれるのは恥ずかしいのだ」
「なるほど……シュテルは前に『シュテるんと呼んでも構いませんよ』ってドヤ顔で言ってきたけどな。まあディアーチェが正常なんだろうけど」
「当然だ。そもそも、あやつと比べるな」
「はは、それもそう……」

 不意に耳に届いた駆けるような足音と気配に、俺の脳裏にある人物が浮かぶ。俺かディアーチェの2択であるならば、十中八九ディアーチェを的にするはずだ。もうそこまで来ているようなので遅いかもしれないが、注意を促しておこう。

「急に黙ってどうしたのだ?」
「ディアーチェ」
「ん?」
「気を付け……」
「おっはよう~!」

 元気な声と共に現れた人物がディアーチェを後ろから抱き締めた。突然のことに驚いたディアーチェが身を震わせたのは言うまでもない。

「会いたかったで王さま~」
「えぇい、何で引っ付いてくるのだ。離れんか!」
「えぇ~、そないなことしたらわたしの姉やんへの想いはどこに持って行けばええの?」
「誰が貴様の姉だ。気色悪い! うっとしい、さっさと離れぬか!」

 はやてはディアーチェの言葉にショックを受けた(ように見える)顔を浮かべると、ディアーチェから静かに離れて地面に『の』の字を書き始めた。
 このように落ち込む人間はそうはいないし、はやては落ち込んでいるときほど人前では明るく振る舞う奴だ。どう考えてもディアーチェの気を引く罠としか思えない。

「す、すまぬ。さすがに今のは言い過ぎた。別に貴様が嫌いというわけでは……」
「だから好きやよ王さま~♪」
「だぁもう、引っ付くなと言っておるだろうが!」
「うぅ……王さまのいけずぅ」
「ふん……あいにくと我の寵愛は安くないのだ」

 どうやら漫才とも呼べそうなやりとりは一段落したらしい。
 それにしても、朝から元気だよなこのふたり。周囲に人がいないから目立ってはないけど、もう少し遅い時間だったら人だかりが出来てただろうな。はたから見れば、同じ顔の人間が騒いでるわけだし。

「ええもん、ええもん。わたしにはショウくんが居るし。ショウくん、慰めて~……何で避けるん!?」
「いや、普通は避けるだろ。というか、中学生にもなって抱きついてくるなよ」
「ん、なんやなんや、わたしのこと女の子として見てるんか?」

 にやけ面で近づいてくるはやてに苛立ちを覚えた俺は、反射的にチョップを入れそうになった。しかし、入れたら負けだという思いと女子に手を出してはならないという思いから留まり、大きくため息をはくだけにした。

「はぁ……当たり前のこと聞くなよ」
「ほほう、当たり前なんや。なあショウくん、わたし可愛い?」
「あぁうん、可愛い可愛い」
「うわぁ……予想しとったことやけど、すっごく投げやりな言葉やな。わたしへの言葉は、ある意味王さまへの言葉でもあるんやで。王さま可愛くないんか!」
「何を言っておるのだ馬鹿者!?」
「おや~、その反応からして……王さまはショウくんに気があるん?」
「――ッ、小鴉!」
「いやん、そんなに怒らんといて」

 朝からおいかけっことは元気な奴らだ……まあ別においかけっこをするのは構わないが、人の周りをぐるぐるとするのはやめてもらいたい。はっきり言って邪魔で仕方がない。

「あんた達……朝から何やってんのよ」
「ふふ、元気だね」
「……あんたはあんたで呑気ね」

 やれやれと言わんばかりに顔に手を当てている女子の名前はアリサ・バニングス。小学生の頃はロングヘアーだったが、中学に上がるに当たって髪を切ったようでショートカットになっている。春休みにディアーチェの件での集まりがなければ、今まさに多少なりとも驚いていただろう。
 アリサの隣にいるのは、彼女の親友であるすずか。アリサのようにパッと分かる変化はないが、発育は誰よりも進んでいる。それだけに目のやり場が誰よりも困る相手だ。

「アリサ、いつものことなんだから気にするなよ」
「それはそうだけど……あんたはスルーし過ぎじゃないの?」
「あのな……全部まともに相手したら死ぬぞ」
「こういうときだけマジな声で言うんじゃないわよ。……まあ言うとおりだとは思うけど」

 アリサとはこれといって接点がなかったが、交流するようになってから多少なりとも話すようになった。話してみると意外と気も合い会話は増えた。頭脳明晰に加え面倒見が良い性格だったので、仕事で学校を休んでしまったときや分からない部分などは教えてもらったりしている。

「……って、ふたりとも息切らしてるじゃない。あぁもう、少しは大人しくできないのかしら」

 文句を言いつつもふたりの状態を確認しに行くアリサは良い奴だ。言葉にすると照れ隠しで怒鳴られそうではあるが……ディアーチェとそのへんは似ているよな。

「おはようショウくん」
「ん、あぁおはよう」

 返事をしながら視線を向けると、真っ直ぐこちらを見ているすずかの姿が視界に映る。

「えっと……何?」
「ううん、別に何でもないよ。ただディアーチェちゃんとの生活は上手く行っているのかなって」
「うーん……まあぼちぼちやってるよ。義母さんのせいで騒がしくなることもあるけど、ディアーチェとケンカすることとかはないし」
「そっか」

 安心したのか、すずかはにこりと笑う。はやての次に交流が早かっただけに、何度も見てきた笑顔であるはずなのだが、どうにも去年くらいから直視していると落ち着かない気分になる。思春期を迎えている証拠なのだろうが……まあ深く考えることもあるまい。彼女は適切な距離感で接してくれるのだから。

「ショウくん……おはよう」
「おはよう」

 聞き覚えのある声に振り返ると、やや息切れしているなのはと彼女を気遣っている素振りを見せているフェイトが立っていた。余談になるが、髪型をなのははサイドポニーに、フェイトは下ろすように変えたようだ。
 普段いつも一緒の5人が時間差で現れたことから予想するに、ディアーチェを見つけたはやてが突進。それを見た残りの4人も走り出すが、運動能力に長けたアリサやすずかが先頭に。フェイトもふたりに付いて行けたとは思うが、なのはを気遣ってペースを合わせた……といったところだろう。

「おはよう……なのは、大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫」

 確かにさっきまで全力で追いかけっこしてたはやて達に比べれば、息切れもひどくはなさそうだ。ただ一点気になるのは、頭の上にある桃色の花びら。普通なら気が付きそうなものだが……まあ走ったせいで余裕がなかったのだろう。それに彼女らしい。

「君って花見とかに行くと凄いことになりそうだよな」

 そう言いつつ頭の上にあった花びらを払うと、自分がどういう状態だったのか理解したのか、なのはの頬が赤らんだ。
 レヴィやユーリの面倒を見てたせいでついやってしまったが……口で言えば自分で払ってたよな。出会った頃ならまだしも、この子だって多少なりとも異性を意識はするようになってるみたいだし。

「……あ、ありがと」
「い、いや……やっておいてなんだけど、口で言えば良かったな」
「にゃはは……ショウくんは善意でやってくれたわけだし、気にしなくていいよ」

 まさかこの子と今のような微妙な雰囲気になる日が来るとは……時の流れというのは恐ろしいものだ。フェイトも微妙な表情を浮かべたまま黙っているし……。
 誰か助けてくれという思いで周囲を見渡すと、口角が上がって行っているはやての姿が見えた。これは面倒になる……、と思ったが、彼女の存在に気が付いたディアーチェが止めに入ってくれた。ありがとうディアーチェ、今度何かあれば俺が助けるから……多分。

「ほらほら、突っ立ってないでさっさと行くわよ。話すのは放課後でもできるんだから」
「そうだね。ここに留まってたら余計に騒がしくなっちゃいそうだし」
「なのは、大丈夫?」
「うん、もう平気」
「そういえば言い忘れていた。ショウ、悪いが放課後買い物に付き合ってくれぬか? 買出しをしておきたくてな」
「ああ、分かった」
「おやおや、まるで夫婦の会話やな」

 はやて……何でお前はせっかく沈静しつつあった火に油を注ぐんだよ。

「――っ、小鴉! 貴様とて少し目を離せばイチャついておるだろうが!」
「それはショウくんとわたしの仲やし。あっ、わたしも買出ししたいから一緒に行ってもええ?」
「貴様は……えぇい、好きにしろ。どうせ貴様のことだ。ダメって言っても付いて来るのだろう」

 途中で気持ちを落ち着かせたディアーチェの言葉に、はやては笑顔を浮かべて彼女の腕に抱きついた。無論、ディアーチェは抵抗を見せる。
 ……けど、ディアーチェってなんだかんだではやてに甘いよな。姉ってのも満更じゃないかもしれない。これを言ったら怒られるだろうから今は言わないでおくけど。

 
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