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リメイク版FF3・短編集

作者:風亜
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シルバーヘアに魅せられて

 ルーネスの髪が、解けた。


モンスターとの戦闘中に、何かの拍子にヘアゴムが千切れてしまったらしい。

さらりとした銀髪が肩程まで流れ、戦士ルーネスはそれを鬱陶しそうにしながらも相手モンスターに踏み込んで止めを刺し、戦闘を終了させる。


「 ────しばらく使ってたし、そろそろ替え時かなって思ってたけど、戦闘中に勝手に千切れなくてもいいじゃんっ」


 ヘアゴムは地面の草むらに紛れ、行方が分からなくなっていた。


「レフィア~、替えのヘアゴム持ってたか?」

「えぇ、あるけど……ルーネス、あんたその髪下ろしたままでもいいんじゃない?」


 日の光を受け、つややかに流れる銀髪をどこか羨ましそうに眺めるシーフのレフィア。


「はぁ? ヤだね、女みてーに下ろしてられるか!」

「ねぇ、今さらだけどあんたの髪型っていつ定着したわけ?」

「そんなん忘れた。……覚えてるか、アルクゥ?」

「そういえば、ルーネスの髪は綺麗だから切るのが勿体なくなって、結びなさいっていつだかニーナおばさんが云い出したんじゃなかったっけ……?」


 黒魔道師のアルクゥが思い出したように云い、レフィアはその話で納得がいく。


「あぁ、やっぱりね~ 」

「何が云いたいんだよ、とにかくヘアゴムくれって!」

「いいじゃない、暫くそのままでいなさいよ?」

「あのなぁ……、このままだと邪魔なんだって! ────もういい、短剣で髪切るっ」


 少し苛ついた様子で脇差しの短剣を引き抜くルーネス。


「ちょっと待って、短気はやめなさいって! ねぇイングズ、さっきから独りでだんまりしてないであなたからも何とか云って?」


 レフィアがふと赤魔道師の彼を見ると、羽付き帽子の鐔の下からルーネスを黙って見つめたまま声を掛けられても生返事しかしない。


「 ん、………あぁ、別に 」


「つーか、自分でやろうとすると耳とか切っちまいそーでヤだな……。アルクゥ、切ってくれ髪だけっ」

「え、僕が……?!」

 ルーネスに指名されたアルクゥは、少しばかり動揺する。


「適当に短くしてくれりゃいいからさ。何なら、イングズみたいに!」

「ご、ごめん……僕も間違って耳の辺り切っちゃいそうで怖いから、やめとくよ」

「何だよ~。────じゃあ刃物の扱いに一番慣れてそうなイングズ、髪だけ思いっきしバッサリやってくれ!」


「 判った 」


「え、ちょっ、本気なのイングズ……?!」


 レフィアとしてはやめて欲しいが、彼は歩み寄って短剣を受け取りルーネスの背後へと回り、

肩程の長さの銀髪を一掴みし、閃く短剣の刃を当て─────



「 ……………… 」



「 ん、切った? 」



「 すまん、無理だ 」


 つと短剣を銀髪から離し、嘆息を洩らすイングズ。


「ほっ、良かったわ。……ちょっとルーネス、あんたが思ってるよりあんたの髪は綺麗なんだからもっと大事に扱いなさいよ!」

「うるさいな……、キレイとか云うな! おれはそんなんじゃないっての!! ────どっかの町で、この際ギル払ってでも髪切るからなっ」

「はぁ……、ルーネスはこうなると人の云う事まるで受け付けなくなるんだよね」

 幼馴染みで性格をよく知っているアルクゥは、肩を竦める。



「ルーネス………やめてくれないか」


 その時イングズが、羽付き帽子を俯かせて静かな口調で話し出す。


「私は……、今のお前のままがいい。髪を切るのはよしてくれ、ルーネス」


 俯いていた顔をゆっくりと上げたイングズの表情は、まるで哀願するかのように切なげで、他の三人は思わず目を奪われる。



「わかったやめる」


「ルーネスが即答したね……」


「ま、まぁ気が変わって何よりだわ……?」


 ほっとしたような落ち着かないような、妙な気持ちになるアルクゥとレフィア。


「そうか、良かった……。誰かに切らせるくらいなら、私が切ってそれを手元に持っておこうとすら考えたが────やはり、出来なかった。……レフィアの云うように、もっと自分の髪を大事にしてやってくれ。お前在っての銀髪、銀髪在ってのお前なんだからな」


 イングズは微笑みを浮かべ、ルーネスはそれを一心に見つめている。


「分かったよイングズ、おれこれからちゃんとケアする! だから────時たまおれの髪梳かしてよ」


「あぁ、勿論だ。時々と云わず、いつでも。……お前を膝の上にでも乗せて、髪を梳かしてやろう」


 イングズにいとおしげに銀髪を撫でられ、ルーネスははにかんだ様子で、そんな二人の声を掛けられない雰囲気に、アルクゥとレフィアは少し呆れている。


「ねぇレフィア……、イングズはルーネスの髪がそんなに好きだったのかな」


「本命が銀髪なら、ルーネス本体は二の次なのかしらね………」




End 
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