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戦極姫 天狗の誓い

作者:木偶の坊
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第3話 天狗の狗法

 
前書き
この作品、今までの作品により早く終わってしまいそうな気がするのは私だけだろうか? 

 
ん~駄目、だな……。



途中までしたためた献策書を丸めて、新しい紙を机に広げる。
俺は今、定満殿から命じられた課題に取り組んでいる。これが住むまで他の事はしなくていいと言われているんだけど……。
「どうも解決の糸口が見つからん……整理し直すか」

それは今から2日前の事だ――

「じゃあ……説明するの……ちゃんと聞いていてね」
定満殿の部屋で、景虎様が置かれている状況について説明を受けた。
長尾家の現当主は景虎様の兄、春景様だ。だが春景様は身体が弱く(まつりごと)もうまく行えていない。
そんな春景様に対して家臣たちは謀叛を起こし、長尾家の転覆を謀った。これに対するために一度は仏門に入った景虎様は還俗させられ、呼び戻された。

景虎様は戦が巧みで、瞬く間に謀叛を鎮圧してしまった。
しかし、これが新たな火種となった。景虎様を呼び戻した家臣たちが、景虎様を当主に擁立しようと動きだし、春景様に退陣するように求めたのだ。
景虎様は兄と事を構えるつもりはないが、民の声も景虎様を当主にと求める声が大きくなり、景虎様は兄と対峙する決意を固めたのだ。
人間ってのは勝手だな。一応、人間である俺が言えたことでは無いだろうが。
そんなこんなで現状を踏まえて、定満殿は俺に、越後統一睨んで今後、景虎様が取るべき行動をまとめた献策書を作るように命じた。
「必要な資料は……全部用意しておいたの」
今までの合戦報告書、景虎様を取り巻く人々の評判などをまとめた書などの山を示してにっこりと笑った。
「颯馬君、これ全部……目を通してから考えるの」
「全部ですか……」
ちなみに全部目を通すのに、2日かかった。
「越後を統一し、みんなが幸せに暮らせる方法……私も考えるから、颯馬君も考えるの」
そう命じられて課題に取り組んでいるが……。


「ああもう! んな事知るか! 幸せなんて自分で掴むもんだろうがよ!? 民の安寧は武家の仕事かもしれんが限界があるんだよ! 俺だってね、頑張ったんですよ!?」

いや、虎千代との誓いは永久ではない。いずれ、終わりが来る。ならばその時まで辛抱だ。
誓いを果たせば、のらりくらりと姿を消して山に戻って今まで通り過ごす。
今の課題に取り組まなければいけない。この仕事が景虎様の越後統一のためになるのだから。

頭を掻きむしりながら颯馬はひたすらに考える。思考の海に潜り、ただただ考える。
前のような無能な策のようにならないようにするために。

「そうだ。これなら行けるぞ。早速定満殿の所へ行こう」
俺の献策書を見た定満殿は不思議そうな顔をしたが、意図をつたえると頷きながら微笑んだ。
「面白そう……この案は、このまま景虎様に見てもらうの」

そして、数日後――諸将を集めて軍議が開かれた。俺は案が記された紙を握り締めて、背筋を伸ばして正座していた。景虎様が席に着くと、凛とした表情で口を開いた。
「さて、今日は今後我らが越後の為にどうするか軍師たちの献策を聞きたいと思う」
「まずは定満。颯馬とふたりでまとめた策があると聞いているが――」
「景虎様、その前に聞いていただきたいお話があります」
「弥太郎……話とは?」
「先日、我がもとに策を講じてきた者がおります。この策は軍議の課題にかない、内容も見事なものでした。よろしければ軍師の皆さまの策に先んじて、吟味をお願いしたく思います」
「ほう、面白い。分かった。ではまずその策から吟味するとしよう」
「お聞き届きいただき、ありがとうございます。与六、お許しが出た。此処に来て自らの策を景虎様に献じるがいい」

与六……誰だ? いや、聞いた覚えはあるが……。思い出した。炊事係の名だ。
え? 炊事係がそれほどの策を出したって言うの? 驚愕だな。
「は、はいッ!」
少女が声をうわずらせてはいってきた。彼女が与六だろう。
与六が講じた策は、素晴らしい内容だったと思う。いや、俺に評価をするだけの頭はない。周りの諸将達が感心していたので、与六の策が如何に素晴らしいものか理解できた。
居並ぶ諸将達は灌漑の声を上げている。

見事な策だと称賛の声が上がる中、与六は緊張した面持ちで景虎様の様子を伺っていた。
他の人間など気にならない……ただ、景虎様がどう思っているのかが気がかりだと言う様子だ。

「見事な策だ。与六、お前は確か炊事と配膳の仕事をしていたと思ったが、思わぬ才を隠していたようだな」
「あ、ありがとうございます!」
「実は……ひょんなことから、そのような策を景虎様が求めていると知り、自分なりに考えたところ、思いがけず良い策となったので……」
与六ってすごいな。ここまでの才能があったとは。こうして、人は好機を掴んでいくのだろう。
人の世とは大変だ。
「僭越だとは思ったのですが……物は試しにと思って小島様に見てもらったのです」
「ふふっ抜け目のない奴だ。だがお前の際は本物の様だ。お前は自らの手で好機を掴み、良き策を献じた。この功に報いよう」
「与六。お前は今より、長尾家の将として取り立てる。弥太郎、与六を預ける。長尾家の次代を担う将としてしっかり育てよ」
「は、ははは、はいっ!! あ、ありがとうございます!」
「ふふっ、与六、喜んでばかりではいられないぞ? 出世などしない方が良かったと思うぐらい厳しく鍛えてやるから覚悟しろ」
「よ、よよよ、よろしくお引き回しの程をっ!」
「さて、与六の策は素晴らしかった。あの後で策を献じるのを臆する者もいると思うが……」
「そんなことないの……」
「景虎様。颯馬君の策も、面白いの」
「ほう……では颯馬。お前の策を見せてもらおう」
「承知した」
立ち上がって、一同の前に出て自らの策を開陳した。
「……颯馬、これはどういう事か、説明が必要だと思うが?」
景虎様は皆にその書を開いて見せる――そこには何も書かれていなかった。
白紙の書を見て、軍議の間が喧噪に包まれる。

「しゃーないか。んじゃ、説明させてもらおう」
「早速の質問ですが、景虎様は越後統一を果たせばそれで終わりですか?」

「景虎様は毘沙門天の化身ともいうべき大きな器の持ち主。越後一国のみを治めて良しとするには勿体無いです。未来など、誰にもわからない。それは神であったとしても」

「先を見越して考えなければと思った時、俺にはそこまでの策は講じれなかった。まずは目の前のことからと思うが、いずれはその先を。このことを皆に前で言及したく、白紙の書を持ってきました」
「そうか……颯馬の考えは分かった」
景虎様は頷いた。その表情に、一瞬辛そうなものがよぎっているようにも見えた。
あらら。ちょいとまずい事でも言っちまったか?

「では、当面は与六の策を是とし、一刻も早い越後の統一をめざすこととする」
景虎様は立ち上がり皆を見渡し……。
「この越後は国を二分する争いの中にある。しかし、この戦いは同郷の者同士の戦い。それを望む者などいるはずもない」
「皆、心して取りかかって欲しい。この地の太平を一刻も早く取り戻そう」
景虎様の言葉に皆が「応!」と応じ、この日の軍議は終了した。




戦場には幾多の感情が渦巻く……怒り、悲しみ、悔恨、慙愧、狂気、狂乱……中には……悦楽などほとんどは良いものではない。悦楽なんて感じてるうつけはどこの誰だ? 質が悪いぞ?
俺は合戦中、隊から離れて単独行動をとる事がある。天狗の狗法「透視」や「隠形」などを使って、敵情や戦の流れを見る。
しかし、人目に付くとまずいのでできるだけ「飛翔」などは使わずにしている。
考えてみよう。いきなり空を飛んでいる人間を見たらどう思う?

「にしても、相変わらず弥太郎殿は大したもんだよな……」
この戦で先方を務める弥太郎殿の隊が敵を圧倒していく。与六の隊と連携し、敵を包みにかかっていた。
あの二人って相性がいいのだろうか? ああ、俺も欲しいな。相棒ってやつが。
そんな事を考えている間に、颯馬の目に怪しい動きをする集団が映る。
「おやおや、別働隊か?」
「隠形」を使って地を駆け、本陣に知らせに戻る。山育ちで足や身軽さなら誰にも負けない!! と思いたい。

「別働隊か……定満」
「先方の戦いは……順調なの……よろちゃんの隊に対処をお願いすれば、問題ないの……」
「そんじゃ、俺が伝令に走りますか?」
「いや、しばらくここに残って欲しい。別働隊があったという事は動きがあるはず……後程偵察を頼みたい」
「心得た」

景虎様は自身の隊に指示をする。
「正面の敵に突撃をかけるッ!」
号令にしたがい、敵陣への突撃が始まる。
「ふっ!」
気合と共に景虎様が刀を振ると、後を追うように赤い液体が宙を舞った。
敵兵が倒れた時、景虎様はすでに次の敵を求めて戦場を駆けていた。
敵と向かい合っては刃を振るい、次々と敵を地に伏せる。
俺ではあんな風にはできない。切り結ぶのが精々だろう。
それか、不意を突いて一撃で仕留めるぐらいしかできない。「隠形」などは狗法の中では得意なので相手の後ろをとって、首を落とすといった事ができる。

この戦は先方を務めた弥太郎と、これに良く連携し、別働隊の対処も見事にこなした与六の活躍で危なげなく勝利を収めた。
しかし――
弥太郎殿の影に隠れるようにしながら戻ってきた与六を見て、俺たちは驚いた。
与六は頬に傷を負った……矢傷のようだが……。与六は立派な女子だ。
いくら与六の性格であっても顔の傷は気になってしまうだろう。
「すまない。もう少し敵を押さえていればよかったのに」
「この傷は私が未熟なためについたもの……小島様のせいではありません」
「痛むか……?」
「自分の未熟さで知った痛みです。それを受け止められない程子供ではございません。皆様、あまり気にされては私の方こそ気に病んでしまいます。このような傷1つなど、将にとって宝のようなものです」
「はあ、やだやだ。強がってさ……」
「颯馬?」
自分の指に切り傷を入れ、血を流す。そして、血に塗れた指を与六の口に入れ込んで頬に手を当てる。

「んぶ……!?」
すぐに口を離して与六は怒る。
「何をする!? なんでお前の血など!!」
「黙ってろ。じゃねえと治せるもんも治んねえよ」
「さてと……感謝しろ。俺の命を分けてやるんだ。犬死にして無駄にすんなよ?」
念を込める、傷口を手で覆い、覆った箇所が暖かくなる。直後に、与六の傷と同じ位置に痛みを感じる。

狗法「霊波」――傷を癒やす唯一の狗法。しかし、俺は未熟すぎる故、自分の血を分け与えないと「霊波」が発動しない。それどころか自分の命を削る。「なんで人の役に立ちそうな術は上手くできないのだ」と自分を呪ったこともあった。
「霊波」は治療している箇所に同じ痛みが伝わるという要らんおまけもついてくる。
山で怪我をしたものを助ける際にも使っていたんだが、俺の寿命大丈夫かな? 中途半端とはいえ、天狗になっているので生命力だけなら自信があるが。
「あっ……」
与六が温もりを感じると同時に、傷は塞がっていった。残っているのは出血により、体外に出た血だけだった。
「よし塞がった」
「ふぇ……?」
「与六!!」
「きゃっ!!!」
横から弥太郎殿が与六に抱き着き、与六がかわいらしい声を上げた。
「颯馬、今のはなんだ?」
「いえ、大したものじゃありません。山で修行している内に習得した物です。便利でしょ? その代り、こっちの寿命が縮みますがね。今ので軽く1年は減りましたよ?」
「良かった。治っている……」
「治って……ええ! どうして?」
「ふっ、見習い軍師殿のおかげだな」
「俺が山で修行を積んでいたことに感謝してくれたまえ」
「ありがとう颯馬。良かったな、与六」
やはり、人の喜ぶ顔を見るのは心地いい。そう思っていたら、与六が俺を睨みつけているのに気付いた。どうやら、説明が必要らしい。 
「どうも、颯馬殿には詳しく話を聞く必要があるらしいな?」
「山で修行した成果です。以上」

そう言って「隠形」を使って逃げる。

「あ! 待て! 逃げるな!!」 
 

 
後書き
何の考えもなしにここまで来ちゃったけど、戦の描写とか難しすぎるんですが……。
誰か……この卑しい棒きれに助言を……!! 
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