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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第三十七話 魔術

「さてと約束通り話をします。
 なにから話しましょうか?」

 俺の言葉に全員が何から切り出すべきか迷っているのか黙っていた。

 そんな中リンディさんがカップを置き

「では質問します。
 士郎君の魔術について、それから士郎君の身体から生えた剣について、
 ジュエルシード、次元震を消滅させたりと士郎君が使用したいくつもの武器について
 最後に士郎君が言っていた根源について」

 ゆっくりとだけどしっかりとした口調で言葉を紡いだ。
 質問の内容は予想通りだ。

「魔術については前に言った通り転送によるものとしておきたいんですが
 それじゃ納得しませんよね?」
「残念ながらね。
 転送なら術式や魔力の質も異なるとはいえ、空間に何らかの影響が出るのが普通よ。
 それなら魔導師でも観測できるもの。
 空間に一切の影響がなく、崩れるように消えたアレが転送とは到底思えないわ」

 一抹の願いを込めて見るがやっぱりそうですよね。
 魔力も何も感知できないモノなら誤魔化せるのだろう。
 だが完全に正確とはいかずとも感知出来ているのだから、魔導師の魔法と魔術師の魔術にも共通しているところはあると考えるのが普通か。

「なら改めて、俺の魔術と使用した武器については同じ答えになるのでまずそれから」

 俺の言葉に全員がしっかりと頷いたのを確認し、話し始める。
 話すと言っても俺はこういった説明は苦手なので簡潔にわかりやすくだ。

「まず俺が使う魔術ですが転送ではなく投影といいます。
 自己のイメージからそれに沿ったオリジナルの鏡像を魔力によって複製する魔術」
「それは便利ね」

 俺の言葉にリンディさんは感心したように驚く。
 他の面々も同じような反応だがプレシアは少し首を傾げていた。

「便利なようにも聞こえますが、実際これはものすごく効率が悪いんです」
「え? そうなの?」
「魔力でモノを複製する。
 言葉ですれば簡単ですが、自分のイメージがそのまま設計図になります。
 自己のイメージが完璧なら問題ありませんが、イメージに綻びができると存在強度を失い、霧散します。
 それに投影で何かを作るよりも元あるモノを強化した方が遥かに強い」

 なのは達は首を傾げているが、ユーノやプレシア、リンディさんあたりは何となく理解したようだ。

「えっと……よくイメージできないんだけど」

 なのはの言葉にフェイト、アルフ、クロノ、エイミィさんは頷いてる。
 そこにユーノが助け船を出す。

「たとえばなのはのレイジングハートを投影で作ろうとするよね。
 レイジングハートをイメージするとして、なのはは完璧にイメージできる?」
「えっと……出来ると思うけど」

 なのはも一瞬考えるも出来ると頷く。

「外見だけじゃなくて、内部の回路構造、モードの形態変更の構造なんかも?」
「うえ、出来ないです」

 しかし実際には完璧には無理だ。
 俺もレイジングハートのような機械は専門外だから完全な解析が出来ない。
 無論のこと完璧な投影も出来ない。

「だから投影しても不完全なデバイスになる。
 それなら同じ時間をかけてストレージデバイスを強化した方がスペック的にはそちらの方が上になる」
「それに魔力そのもので物体を複製するのだから時間と共に霧散するわ」

 さすが学者組のユーノとプレシアだ。
 よく理解している。
 魔力が霧散するだけでなく世界からの修正力もあるのだが、ここでわざわざ内容を複雑にする必要はないので口は出さない。

「だが士郎の話だとその投影は長時間の維持も難しいし、強度面などで実戦での使用など無理だと思うんだが」

 そう、クロノの言うとおりだ。
 魔術協会の中でも投影魔術は儀式において道具が揃えられなかったときに代用品としてしか使われなかった。
 無論、それを極めるなんていう魔術師もいなかった。
 完全に廃れた魔術だったのだ。

「そう、普通ならそうだが俺のは少し特殊なんだ。
 こんな風に」

 俺の手にあるのは食事に使われるフォークの投影品

「フォークだね」
「そう、これが投影」

 なのはなんかは不思議そうな顔をしてる。
 まあ、こうやっていきなりフォークなんて出しても手品にしか見えない。
 リンディさんやクロノ達が手にして見る。

「とても魔力で複製したようには見えないわね」
「ええ、それに魔力の霧散もないわ」
「これが俺の投影魔術の異端。
 半永久的に存在し、モノによっては中身すら完全に複製できる。
 ここまでいえばわかるんじゃないですか?」

 俺の言葉に皆が気がついたようだ。

「つまり士郎が使ったのは全て複製品の偽物?」

 フェイトの茫然とした言葉に無言でうなずく。
 もっとも正確にいえば投影も全て固有結界から漏れたモノなのだが、固有結界の説明が必要なうえ、俺の奥の手の説明にもなるので話さないでおく。

「ちょっと待って。モノによっては中身すら完全に複製できるってどういうこと?」

 プレシアもいい所に気がついた。

「それは俺の属性の関係です。
 俺の属性は剣」
「……つまり剣なら完全に複製できるという事?」
「はい。まあ槍とか剣に近いとイメージできるのも可能です」
「……じゃあジュエルシードを破壊した槍とかもする気があればいくらでも複製できるという事か」
「…………」

 俺の発言に唖然としているプレシアと呆れた顔でこっちを見ているクロノ。
 そして、リンディさんが頭を痛そうにしながら沈黙した。

「しかし無茶苦茶だな。
 あんな武器をいくらでも投影できるなんて」

 クロノの言葉は否定できないので黙っておく。

 ここから先、俺が使用した武器についての話になると宝具の話になるが、ここまでくれば構わないか。

「そして、俺が投影してジュエルシードを破壊に使用した剣やクロノに貸した盾なんかは宝具と呼ばれるモノだ」

 全員の頭に「?」が浮かんでいる。
 やはり宝具という概念自体がないのか。

「主に英霊、過去に偉業を残した英雄が持っていた象徴の事だ。
 王が持ちし聖剣とか」
「ちょ、ちょっと待って!」

 俺の言葉にものすごい勢いでパネルを操作し始めるエイミィさん。

「えっとエクスカリバー、5世紀から6世紀頃のブリテンの王、アーサーが持ちし剣。
 プライウェン、同じくアーサー王の持つ魔法の船としても使える盾。
 フルンディング、古代イングランドの叙事詩『ベオウルフ』に登場する剣で刀身は血をすするごとに堅固となる魔剣」
「……この世界の伝説の武器だな」

 唖然とした表情で読み上げるエイミィさんに、眉間を揉むクロノ。
 確か、この三つは管理局の前で真名開放してたな。
 宝具の難点だな。
 有名であるが故に調べればすぐにどんな武器か資料が出てくるというのは

「もしかしてジュエルシードを破壊した槍なんかも」
「名前は秘密だがそうだな」
「頭が痛くなってきたわね」

 管理局側からすればそうだろうな。
 そして、リンディさんの事だ。
 この情報をそのまま上層部に伝えるのはまずいぐらいは予想がついてるだろう。
 そして、俺が魔術の事を隠していた訳も。

 ただの剣なら管理局にとっても問題はないだろう。
 前にユーノが言っていたレアスキル扱いされる程度。
 だが宝具クラスのモノがいくつもあるとなると話は変わる。

 下手をすれば俺自身がロストロギア級の武器を精製出来るロストロギアになりかねないのだ。

 もしそうなれば間違いなく管理局とは敵対関係になる。
 もっとも俺としても管理局と戦争になるのは遠慮したい。
 そんな事を思いながらアルフが持っているフォークを霧散させる。

「消えた」
「俺の意思で消すも作るも自由だからな。
 俺の魔術はこんなものか。
 であの身体を食い破ってきた剣は俺が普段封印している魔術回路を使用した代償だな」
「魔術回路?」

 魔術回路という言葉にリンディさん達が首を傾げる

「魔術を使う上で必要なモノというのが一番簡単な説明かと」
「魔導師にとってのリンカーコアみたいなものね」

 プレシアの言葉に頷く。
 同じ魔力でも同じものではないと感じていたが、そう感じたのも納得がいく。
 魔術回路とリンカーコアという別に器官なのだから似ていても違うモノなのは当然だ。

「でも士郎、なんで代償で剣が生えてくるの?」

 フェイトがそんな質問をしてくる。

「俺の属性が剣ってさっき言ったよな。
 その関係としかいえないな」

 これ以外にいい説明が思いつかない。

 原因でいえば固有結界、俺の心象世界が溢れだしているという事になるのだろうが、これを話すと固有結界の説明になる。
 それに今回はエクスカリバーの投影と真名開放のみだったからアレぐらいで済んだ。
 だが固有結界の使用や長時間の戦闘になれば反動もそれに比例して大きくなる傾向にある。
 元いた世界だとパスから魔力の供給をしてもらって抑える事も出来ていたが、こっちで一人でとなるとそれも難しいだろう。

 しかし普段使っている魔術回路と封印回路。
 本数こそ同じだが魔力量、質ともに通常の魔術回路の比ではない。
 封印回路をしようすれば固有結界を自力で展開、維持もする事が出来るのだから封印回路こそが俺の真の魔術回路といってもいいのかもしれない。

 だが大きすぎる力は自分をも滅ぼす。
 こうして自分の身で体験するとよくわかる……わかりたくはなかったが。

「それって治せたりは出来ないの?」
「封印回路を使わなければ問題はない。
 仮に治療するとしても俺の属性の問題だから魔術を捨てることになる」

 俺の言葉に残念そうにするなのは。
 なのはの気持ちはありがたいがこればかりは治しようがない。

「最後に根源についてですが」

 その言葉に全員が身体を固くする。
 今回の事件の根底に関わる事でもあるので当然といえば当然だが

「世界の外側にあるとされる、あらゆる出来事の発端となる座標。
 万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。
 魔術師が目指す最終到達点」
「……全てを記録し、全てを作る神の座
 そんなものがあるというのか?」

 クロノの茫然とした言葉。
 もっとも根源と根源の渦があり微妙に違うのだが、ややこしい話になるのでまとめておく。

「事実ある。そして到達した者もいる」
「いるのか! 一体いつ、いや今どこに」

 俺の言葉に興奮するクロノ。
 だが……どこにいるか?
 そんなの俺が知りたいぐらいだ。

「さあ、どこにいるやら。
 根源にいつ辿り着いたのすら知らん。
 あの爺さん自体は十二世紀頃には存在していたはずだが」
「…………………え?」

 俺の言葉に全員が固まった。
 まあ、無理もないか。
 普通に考えたら十二世紀から生きている人間……じゃなくて死徒なんて思いつかない。
 真祖の姫君の成人の儀の参列したっていう話だから最低それぐらいの年齢のはずだ。
 詳しい年齢は聞いた事もないが

「十二世紀ってことは」
「この世界の西暦にして1101年から1200年、年齢換算で最低800歳といったところか。
 まあ、出来るのなら会わない方がいいぞ。
 余計な面倒事を持ってくる事の方がはるかに多い」

 いや、面倒事しか持ってこないの方が正しいかもしれない。
 そのおかげでどれだけ俺が酷い目にあった事か……
 思い出したくもないな。

「えっとその人の事は置いておくとして、何のために根源を目指してるの?」
「一族の目的としてや魔法に至るためなど魔術師次第だと。
 どちらかというと根源に至る事自体が目的の様な気もしますが」
「え? 魔法はないんじゃ」
「いえ、あります。
 魔術は魔力を用いて人為的に神秘・奇跡を再現する術の総称。
 魔法はいかに資金や時間を注ぎ込もうとも絶対に実現不可能な『結果』をもたらすもの。
 ちゃんと区別してます」

 俺の言葉に又首を傾げる面々。
 少しわかりづらかったか。

「奇跡のように見える魔術ですが結果だけなら他のものでも代替えが利くんですよ。
 たとえば発火の魔術。これならライター一つで事足りますし」
「そういう事ね。過程ではなく結果論的な言い方だけど、正しいわね」

 俺の言葉に納得したように頷くプレシア達。
 もっとも金銭的な面で考えるなら魔術というのはかなり高価なものだ。
 100円で買えるライターのような発火のために魔術的なモノで同じ事をしようとしたら何十倍ものお金と時間がかかる。
 正直採算が合わないのだ。

「でここまで話したら何となくわかるんじゃありませんか?
 俺がアルハザードと根源を似ているといった意味が」
「そうね。次元の狭間と世界の外側。
 この世の全てを記録しているというならあらゆる秘術もあるでしょうし。
 表現こそ違えどアルハザードと同じモノ」
「でもまったく同じモノとも言い切れないわ。
 あらゆる魔法の技術が眠るとされるアルハザードだけど、この世を作るなんて事が出来るとは思えない。
 それどころか過去に次元の狭間に落ちた地と世界の理そのものである根源を同じモノとは」

 議論をかわすリンディさんとプレシア。
 二人の議論に周りが置いてきぼりになっている。

 だが二人の議論もわかる。
 遥か昔から魔術師が追い求めてきた根源。
 対しお伽噺のみの存在であるアルハザード。
 残された情報の量が根本的に違う。

 それに魔導師の中でアルハザードに辿り着いた者がいるのかすら分からない。
 対し根源に辿りついた魔法使いは現に存在しているのだ。

「とりあえず議論は後にしてくださいね」
「あ、ごめんなさいね」
「話の邪魔をして悪かったわね」

 とりあえず二人の議論を中断してもらって

「とりあえず根源の事で知っているのはその程度です」
「ねえ、士郎。
 その……士郎も根源を目指してるんだよね?」

 フェイトが不安そうな目でこちらを見る。
 魔術師が追い求めるのだから俺が追い求めると考えるのも無理はない。
 だけど

「いや、俺は目指していないんだ。
 俺は正確には魔術師じゃなくて魔術使いだから」
「魔術使い?」
「魔術師にとっては魔術とは根源に至るための足がかかりにして研究対象。
 対して魔術使いは魔術を道具としてただ使う者の事だ。
 俺が根源には興味はないし研究もしてない。
 だから魔術使い」

 俺の言葉に安心したように息を吐く管理局組。
 なにやら念話で何かを話していたようだ。
 恐らく俺が根源に辿り着くためにプレシアと同規模の事を起こすのではないかと心配したのだろう。

 そんな俺の視線に

「悪い言い方かもしれないが、士郎クラスの魔術師が今回のような事件を起こしたらどう止めたものかと不安に思ってね」
「そこら辺は心配ないさ」

 首をすくめてみせる俺に安心した表情のなのはとフェイト。

「士郎が知ってる魔法使いってどんな奴なんだい?」

 アルフの意外な質問に少し迷うが話しても大丈夫だろう。
 あの人達なら管理局と真正面から戦えるだろうし……というか管理局に勝てるよな。

「俺が知っているのは二人だな。
 一人がさっき言った800歳以上の爺さん。
 あともう一人は女性だ」
「あ、女なんだ」
「どんな魔法を使うの?」
「うん。気になる」

 俺の言葉に興味津々のアルフ、フェイト、なのは。
 言葉にこそ出さないが気になる様子のユーノにクロノ達

 だが正直申し訳ない事にどんな魔法かは知らないし、普段使っている魔術はそんな夢のあるものじゃない。
 俺が知っているのははっちゃけ爺さんの第二魔法とアインツベルンの第三魔法ぐらいだ。
 もっとも第三魔法に関しては名前だけ、第二魔法も遠坂からの説明で知っているが俺自身が使う事もないので教える必要はないだろう。

「残念ながら魔法の事は詳しく知らないんだ」
「そうなんだ」
「でも魔術も使えるんだろ?」

 残念がるなのはと意外と頭の回転が速いアルフ。

「使えるけど」
「なら教えてくれていいじゃん」
「そうだな。万が一にでも会う事があるかもしれない。少しでも情報があれば助かる」

 ……クロノ、今の発言はなんだ?
 まさかとは思うが………………あの人に喧嘩吹っ掛ける気か?

 教えておこう。
 あの人に喧嘩吹っ掛けたらどうなるかわかったもんじゃない。
 下手をすれば管理局が消滅するかもしれないから注意しておこう。

「そうだな。本人、周りいわく壊すことに特化し、破壊することに関しては稀代の魔女。
 通称、人間ミサイルランチャーとかマジックガンナーとかいわれてる」
「「「「「「「「……………」」」」」」」」

 あまりの表現に全員が固まっている。
 まあ、これでどんな人でどんな魔術を使うのか理解しろというのが無理だけど。

「えっとそれってどんな人と魔術をイメージすればいいの?」

 ユーノが引き攣った顔でそんな事を訪ねてくる。

「イメージとしては……そうだな。
 なのはのディバインバスタークラスの砲撃を連射で乱れ撃ちする髪の長い女性をイメージすればいいと思うぞ」
「何だそれは……」
「クロノ、悪い事は言わないから関わるな。
 下手に喧嘩吹っ掛けたりすれば最低でもアースラが落ちるぞ」
「……確かに関わらない方がいいだろうな。
 ならその人の身内の魔術師とかいないのか」

 ……どうしてクロノはこうも地獄の釜を開けようとするのだろう。
 あの人の身内といえばあの人だが、下手をしたら即座に命に関わるぞ。

 そして、可能な限りというか絶対会いたくないのがあの姉妹セットの時である。

「なあ、クロノ。悪い事言わないから関わるな」
「なんだい? その人の身内も壊す専門の魔術師とか?」

 アルフの言葉に首を横に振る。

「いや、壊す専門の人でもないしその魔法使いの女性のお姉さんなんだが……」
「だが?」
「仲が悪い。ただひたすらに壊滅的に仲が悪い。
 その人とお姉さんが二人が一緒にいるときは全速力で逃げろとしかいえない。
 もし巻き込まれたら命がいくつあっても足りない」

 ああ、本当に足りないところだ。
 この身が死徒ではなく、アヴァロンを持っていなければ俺は間違いなくあの時十回は三途の川を渡ってる。

 いや、そもそもこの原因もあのはっちゃけ爺さんだ。
 やはり根本的にあの爺さんと関わるのがよくないのか。

「……うん。僕たちは何も聞かなかった事にするよ」

 ついにクロノは話を聞いたという事実自体なかったことにした。

 うん。いい判断だ。

 クロノの言葉に頷きながら冷めた紅茶を飲みほした。
 そんな時

「ねえ、士郎君。
 魔術が学問的なら魔術を扱う学校的な物はないの?」

 とリンディさんが意外な質問をしてきた。
 あるかといわれればある。
 俺がいた時計塔などは魔術協会の本部にして、至高の学舎だ。
 だがこれを話すわけにはいかない。
 話せば探そうとするだろうし、だからといって他の魔術師の存在をまったく知らないでは今までの話と矛盾点が出かねないか。
 まあ、忍さん達には俺以外の魔術師は知らないって言ってしまっているが……

 その事を気にするのは後にするとして俺は苦笑して見せ、言葉を紡いだ。




side リンディ

 魔術の話といい、全てが魔導師と根本的に違う。
 なにより士郎君は魔術師にとって魔術は研究対象といった。
 それはつまるところ学問と同じ事。

 だけど学問というならミッドにある魔法学校のようなものだろうか?

「ねえ、士郎君。
 魔術が学問的なら魔術を扱う学校的な物はないの?」

 私の言葉に何やら苦笑する士郎君。
 なにかおかしなことを言ったかしら?

「すいません。絶対あり得ない光景に少し」
「絶対あり得ない?」

 士郎君の言葉に首を傾げる。

「魔術師にとって自分の魔術とは自己の研究成果です。
 ゆえに他人に公開する事はなく、死ぬ前に子孫に継承するときだけ開示します。
 自身の魔術についてもまず明かす事はありません。
 そして、魔術の研究は普通一人の人間の一生の中で根源に達する事は出来ません。
 ゆえに血と歴史を重ね知識と魔力を高め根源の足がかりにするんです」
「……血と歴史を重ねていく」
「そうです。ゆえに俺が知っている魔術師も十人にも満たないですし、
 今ではどこで何をしているのかも、もちろん知りません」

 その士郎君の言葉はなにを差すのだろう?
 今の士郎君の状況から察するならこの世にいない可能性もある。
 それともただ行動を共にしてないのか、正直なところ明確な判断は出来ない。

 それにしても魔術師という者の在り方もある意味信じられない。
 何代も何代も引き継ぎながら研究を重ねる。
 魔導師とは比べ物にならないほど壮絶なモノ。

 根本的に魔導師と魔術師、在り方が異なる。

 魔術師は非殺傷設定がないが、特殊な術式を使う魔導師の一種と考えていたけど違う。
 研究のために人生を賭けるといえば聞こえはいい。
 だけど士郎君の話からするに魔術師は自分を根源に至るための道具にしか見ていないように感じられる。

 そしてこれは確信。
 魔術を使う人の中でも士郎君のような存在は異端なのだ。

 恐らく他の魔術師なら手を取り合う事すら躊躇うのでしょうけど士郎君なら躊躇う必要なんてないわね。
 そんな事を思いつつ、冷めた紅茶で喉を潤した。

 士郎君の話が終わり、全員が紅茶を飲んで体をほぐしている。

 魔術が転送ではないと予想していたとはいえここまでとは完全に予想外。

 報告書の内容を少し、いやだいぶ考えないと危ないわね。
 報告書の内容を考えながらカップを傾けるとなにもない。
 気がつかないうちに飲みほしていたみたい。

「リンディさん、おかわりは?」
「いただくわ」

 その事にすぐ気がつく士郎君に紅茶のおかわりをもらいながら改めて思う事がある。

 大人っぽいのよね~。

 初めて会った時の口調や交渉術、戦闘技能の面からしても大人っぽいとは思っていた。
 だけどこうしてお茶を飲む姿、紅茶を注いでくれる姿。
 その仕草の一つ一つが子供ではなく、大人びている。
 勿論子供が大人ぶって真似をするような違和感はない。

 つまりはし慣れているという事……なんだけど仕草を見るとエイミィよりも大人っぽく落ちつている。
 本当に見た目通りの年なんだろうか?

 そういえば初めて士郎君に会った際に士郎君の事を調べたけど、確か一人暮らしだったはず。
 短い時間とはいえ色々と調べた。
 だけど身元引受人はいたけど戸籍に偽造の疑いがあり、存在しない可能性が高い。
 さらに口座も持っていなかった。
 つまりは

「ねえ、士郎君」
「はい?」
「士郎君って生活費とかはどうしてるの?」

 ここに行きつくのだ。
 保護者も書類上の架空の存在で口座も持たず、どのように生計を立てているのか?
 今更ながら不思議なのよね。

「知り合いの所で執事とウェイターのアルバイトで、あとは宝石を換金してですね」

 ……はい?
 ウェイターはわかる。
 なのはさんに視線で尋ねてたら頷いていたから、恐らくは喫茶店をやっているなのはさんのご両親のところだろう。
 ただ

「……執事?」
「はい、執事です」

 やっぱり聞き間違いじゃないわよね。
 執事って主とかに仕えるアレよね。

 確かに紅茶を入れてもらった時の動きなど洗練されていたから執事も出来るのかもしれない。
 だけど小学生の執事って
 うん。この事は触れないようにしましょう。

 そして、最後は宝石の換金。
 でも宝石は魔術の一種とも言っていた。
 宝石などはミッドでもこの世界でも高価な物よね。

 それを確か数個呑み込んでいた。
 勿論後から身体から取り出すなんてことが出来るはずないし
 つまりは

「もしかして士郎君の宝石の魔術ってすごくお金が掛かるの?」
「はい。ものすごく」

 即答だった。

 ……この件がまとまったら少し手当を出しましょう。

 保護者のいない少年のライフラインでもあるアルバイトを休ませて協力させたうえに手当すら出さないなんて申し訳ない。

 あとで経理の子を呼ばないと

 私は新たについでもらった紅茶に口をつけた。 
 

 
後書き
というわけで無事、第三十七話更新です。

固有結界とかは話しませんでしたが、投影などについては話す事にしました。

それとは別ににじファン時代のように更新したらつぶやきを書こうか少し、検討中。

それではまた来週。

ではでは 
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