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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life2 不確かな日常

 時刻は朝の7時。士郎は台所にて、朝食の片づけをしていた。
 確かに士郎の料理の腕は、某《英雄王》や理不尽と不条理を絵に描いたような魔法使いである《魔導元帥》、はたまた《ガイアの怪物》と《死徒の姫》から認められるほどのものではあるが、普段は母親であるアイリスフィールの戦場だ。片付けも含めて。

 ではなぜ彼女が行っていないかと言うと、夫である切嗣のあまりの女に対するだらしなさ故に愛想をつかされて実家に戻った――――と言う訳では無く、会社の都合により社長である切嗣が茨木に行っているので、秘書も兼任している母さんも必然的(切嗣はいいよと言ったが目を離すと行く先々で女を誑すからと言われて、敢え無く撃沈した)に付いて行っている。

 「ねぇ、士郎。母様が帰ってくるのって4日後だっけ?」

 居間から暖簾を退かして、台所に居る士郎に聞いて来る銀色の長髪に赤眼の美女。
 一つ年上で、とある有名なお嬢様様大学に通っている実姉の藤村イリヤスフィールだ。

 「いや、1週間後だよ。姉さんも明日からの3連休を使っての、大学の友人と旅行。楽しんできてくれよ」
 「ええ、ありがとう!士郎」

 お礼と共に居間に戻るイリヤ。
 それを士郎はちょうどいいと思った。
 何故なら――――。


 -Interlude-


 「――――聖剣計画・・・ですか」

 士郎は今、サーゼクスの下に極秘裏に居た。
 但し2人きりでは無く、グレイフィアがサーゼクスの座る席の後ろに控える様に立っていた。

 しかも先のレーティングゲームで、士郎の素性はまだ明かし広めてはいないものの、ライザー・フェニックスに対してあそこまでの圧倒的ぶりを見せつけたという理由で、全員に隠し通すと言う訳にはいかなくなった故、いずれは他の極一部の上位陣にも情報開示をある程度する予定ではあるが、一先ず彼女に対してだけ素性を明かしているのだった。

 しかし、何所で情報が漏えいするかも解らぬ故、あらゆる術で周りに情報が漏れないような建物+3人きりでも士郎は赤い外套赤いフードに身を包んでいた。

 「うん。概要については調べた限りのモノを渡した書類(それ)に纏めてあるから、見て欲しい」
 「ですが、簡潔に申し上げるのであれば、大戦時に折れた聖剣エクスカリバ―を元に修復しようというものですね」

 2人の話を聞きながら、書類に目を通す士郎。

 「一つ――――聞いてもいいでしょうか?」
 「ん?何かな・・」
 「エクスカリバ―が折れる折れない以前に、如何して本来存在しない筈(・・・・・・)の聖剣が大戦とやらで使われているんですか?それとも、湖の乙女から再度受け取ったのでしょうか」
 「それは・・・一体、如何いう事でしょうか?」

 士郎の疑問に、本来であれば失礼に当たるのだが疑問で返すグレイフィア。

 「あー、もしかして御二人は、エクスカリバ―についてそれほど詳しくないのでしょうか?」
 「いや、それなりには知っているよ。確か、カムランの丘での戦・・・あっ!!」
 「サーゼクス様?如何(いかが)しました?」

 士郎の質問により、自身の知識をなぞらえる様に口に出して気づいたサーゼクス。

 「いや、士郎の言いたい事が分かったんだ。エクスカリバ―はカムランの丘の戦いの後に、湖の乙女に返却されているはずなのさ。にも拘らず、聖剣エクスカリバ―は大戦時に使用されて結果的には――――」
 「――――折れた。・・成程。つまり、大戦時で使われたのは、天界が伝承をなぞった上で出来るだけ再現する様に制作された模造品の可能性が高い、と言う訳ですね?」

 グレイフィアの確認を取る様な返しに、「はい」「うん」と頷く2人。

 「ありがとう、士郎。あくまで可能性の段階ではあるが貴重な情報だ。しかし、今は置いておこう。たとえ偽物であろうと、僕ら悪魔からすれば死活問題だからね」
 「了解しました。では続きですが・・・計画責任者バルパー・ガリレイですか・・」
 「ああ。だけどその男は、やり過ぎたようで今では堕天使側の人間さ」
 「では、今回の首謀者は堕天使側のトップ「神の子を見張る者(グリゴリ)」の総督、アザゼルですか?」

 士郎の問いかけを、横に首を振り否定するサーゼクス。

 「いや、それは無いだろう。彼は大戦後しばらくしてから、戦争嫌いだと聞いた事が有る。恐らくは《戦争狂》と言う名で知られてる、コカビエル当りだろう」
 「そうでしょうね。彼のお方は、大戦後も何かにつけて、アザゼル総督に何度も直談判をしているという情報も入っている位ですから」
 「まぁ、といっても、これらは情報を踏まえた上での僕の勝手な想像だ。だが、聖剣計画関連で何者かが蠢いていること自体は、確かな様なんだ。だから、士郎にも気にかけて欲しいのさ」
 「了解しました。また何か追加情報が入れば、お願いします」

 「うん、君もね」と言う会話を最後に、その場を後にした。


 -Interlude-


 ―――――と、そんな事がつい先日有ったため、都合が良かったのだ。

 台所の洗い物を終えて自室に戻り通学の準備をする士郎に、念話が届く。

 【―――――・・・―――――・・・――――・・・――――】
 「ああ、姉さんや父さん、母さんが出かけている間に、解決してもらえるのがベストだな」
 【・・・――――・・・――――・・・――――・・・――――】
 「ああ、出来るなら静観していたいが、そうもいかない場合は出張るしかないが――――――――(・・・・・・)、お前は極力出るなよ。いざとなれば頼りにしてるし腹を括るが、極力面倒事は勘弁だ」
 【――――・・・―――・・・―・・・―――・・・―――――――】
 「ああ、んー、ん?そこは勘弁してくれ、それに嫌がってる素振りを一度も見た事ないんだが?」

 そのまま士郎は念話の送り主と話し続けていた間、待たせすぎた姉が飛び込んできた。

 「何してるのよ士郎!?今日は私と一緒に出発するんでしょ!」

 飛び込んで来た直後、こちらの返事も聞かずに玄関まで引っ張る姉のイリヤ。まぁ、既に準備は終わっているからいいが、イリヤは俺に対して少々過保護なところが多いと思う。

 そうして玄関まで付き、急ぎ靴を履かせてから共に出る俺達。
 そこでイリヤが・・。

 「ちょっと待って、士郎」

 そのままイリヤはある一点に向かう。それに俺も一応ついていく。

 「うん、じゃあ行ってくるね!ミッツ、今日もお留守番宜しく!!」
 「・・・じゃ、無いとは思うが頼んだぞ――――――――(ミッツ)

 そうして士郎とイリヤは家を後にするのだった。


 -Interlude-


 イリヤが3連休の休みを使って出かけた日の夕方、士郎は商店街に居た。
 とある居候との約束で、今日の夕食は士郎特製の豚骨ラーメンの残りの食材を買い出しに来ていた。

 「――――よし、全部そろったし帰る、ん?」

 士郎の視界に入ったのは、白いローブ姿で通行人の奇異の視線を独り占めしている謎の2人と、リアスの眷属たる男女の3人組だ。

 「何をしてるん「士郎ちゃん!」・・江富おばさん?」

 あの目立ちまくっている集団に声を掛けようとした処で、幼いころからお世話になっている近所のおばちゃんの1人である江富朋子さんに声を掛けられた。

 「見てよあの子たち、さっきからずっとあそこにいるのよ。あっ、といっても、白いローブの子達よ」
 (ずっと・・か。如何いうつもりだ?)

 「怪しくてみんな敬遠してるのよ。でも宗教関係者じゃないかしら?神父さんとかが首から下げてる十字架のネックレスみたいなの持ってたって、上枝さんが言ってたから」
 「如何でしょうね?」
 「あっ、でも、もしかしたらそ、宗教団体を偽った詐欺かもしれないわね!最近そう云うの流行ってるって言うじゃないの?この辺じゃあんまり聞かないけど」

 それもそうだろう。この町周辺に限らず、関東圏は藤村組の縄張りだ。詐欺まがいなどすれば、藤村組に目を付けられて“人間”の裏世界で生きていけなくなるからだ。
 藤村組は非公式ではあるモノの関東圏限定ではあるが、第2の警察の様な物だからだ。

 「あっちの3人組の方には知り合いもいますから大丈夫だと思いますよ」
 「あっ、あら。そーお?」
 「とは言え、このままでも迷惑でしょうから俺が行って解決してきますので、富江おばさんは心配しないで買い物を続けてきていいですよ」
 「ありがとう、士郎ちゃん!でも、気を付けてね」

 その言葉と共に富江おばさんは去っていく。
 そうして宣言通り士郎は、あの奇異の視線独り占め集団に向かっていく。

 「そこの君ら、何が目的か知らないが用を済ませてるんなら、とっとと移動してくれ。近所の人たちが迷惑がってるぞ」
 「え?」
 「はい?」
 「誰?」
 「ん?あいつは・・・っ」
 「ん?」
 「だ、誰よ一体!?私たちは今瀬戸際なんですから、横から茶々を入れない・・・で?」

 士郎の呼びかけに、それぞれの反応をしめしつつ向き直ると一人だけ可笑しな反応をしているのが、いた。フード組の1人だ。

 「あれ?え?も、もしかして・・・」
 「ん?その金髪にくりくりした瞳はまさか・・」

 「シ、シロ兄!!?」「イリナ・・か?」


 -Interlude-


 士郎は今現在、台所にて料理をしていた。誰の分かと言うと、白いローブの二人組のゼノヴィア・クァルタと紫藤イリナの分だ。序でに時間も時間なので、残りの3人の分も調理している。 
 因みに、例の《居候》には先に作り、持って往った(つうか、そうしないと拗ねる)。

 そうして作り終えた士郎は、居間にいる彼らの下に運んでいく。

 「それにしても驚いたな。イリナが帰って来ていて、こうして立派になってるなんてな」
 「そ、そうですか?」
 「ああ。けど、価値もよく判らないものを購買して、挙句の果てには路頭に彷徨う様な大ポカをするあたりも懐かしいな」
 「余計なお世話です!!?」

 懐かしく思いながらも妹分であった、紫藤イリナに茶々を入れつつ料理を運んできた士郎。
 当のイリナは怒りつつも、久しぶりの士郎との再会に嬉しそうだった。

 「さぁ、出来たから遠慮なく食べてくれ」

 ゴト、ゴトゴト。

 食卓に置かれたのは色取り取りの料理の数々。思わず皆が目を輝かせていた。
 そこで、一気に食事にかぶりつきに行く二人――――と思ったら、食事の前の祈りを忘れてはいなかった様だ。十字きってる。

 「それでは、主よ。頂きます」
 「この慈悲と恵みに感謝します」

 他の3人も、恐る恐るだが食事に手を付けていく。そして彼ら5人の反応、第一声が重なる。

 「「「「「う、美味ぁあああああああああぁあああああああいいい!!!!!??」」」」」

 それはそうだろ。何といっても士郎の料理人としての腕は、以下略。

 「シ、シロ兄!?す、すごく美味しいよ、これ!」
 「空腹状態を差し引いても、これほどの料理を食べたのは初めてだ!」

 と、イリナとゼノヴィアからは如何やら大絶賛の様子だ。

 「美味ぇ、美味ぇ!どれもすんげぇ~~~、美味ぇ!!」
 「凄い、美味!」
 「確かにとんでもなく美味しいのですが、唯――――」
 「ん?」
 「――――これほどまで美味しい食事にケチをつける訳ではありませんが、食材費は相当高くついたのではありませんか?藤村先輩」
 「「「「あっ!?」」」」

 確かに普通ならそのイメージが先行してもおかしくないほどに士郎の作る料理のレベルは、非常識並に美味い。彼の《万華鏡》も。

 『お前は、魔術師としての才能のほとんどが残念だと言うのに、料理人としての腕は絶大だな!!』

 と、褒めてるのか貶しているのか怪しい感じの言葉を頂いているのだから。

 「あー、それか?それなら大丈夫だ。全部、そこらの近所で買ってきた食材だし、後輩に金をせびるつもりもないから安心してくれ。これでも料理の腕には、それなりに自信が有るんだ」

 この士郎の言葉に、全員が意思疎通無しで一字一句同じ言葉を思考した。

 (((((こんなに美味しいのに、それなり!???)))))

 と、こんな風に思ったが、取りあえず目の前の料理を片付けようと先ほど、頭の中によぎった考えを無かった事にした。

 皆黙々とおいしそうに料理を食べている。そんな光景に士郎はイリナを見て一言。

 「それにしても、見ない間に美人になったな。イリナ」
 「っ!?!?ぶごっ、げほっ、がほ、ごほ」

 そんな事を急に言われたイリナは、盛大に噎せる。なんせ、食事中だ。

 「だ、大丈夫か!?イリナ?」
 「――――がほっ、ごほ、ごほ―――だ、大丈夫だけど大丈夫じゃないよ!?」
 「どっちなんだ?」
 「どっちもだよ!大体如何してそんなこといきなり言うの?ひ、卑怯だよ!?」
 「何が卑怯なのかよくわからんが、俺は本当の事を口にしただけだぞ?昔は一誠たちに混じって、男友達としか遊んでいなかったあのお転婆さんが、本当に美人になったなと思ったんだが――――」

 嫌だったか?と、最後に付けられたような気がしたイリナは。

 「っ~~~~~~~~~~~~!!」

 顔色を、蛸のように真っ赤にした。
 だが、そんなイリナの状態をお構いなしに一誠が制止する。

 「ちょっと待った!アンタ――――ふ、藤村先輩は俺の事なんで知ってるんだ?俺とイリナの関係まで知っているし・・」

 その言葉に、顔を赤くしていたイリナの顔の熱が急速的に冷めていき、士郎と共にきょとんとした風に一誠を見やる。

 「ん?まさか、俺のこと覚えていないのか?」
 「イッセー君、覚えてないの?シロ兄の事?」

 そんな2人の様子に一誠はポカーンと。

 「・・・・・・・え?・・・・・・」

 たった一文字で2人の疑問に返した。

 「ホントに忘れてるようだな・・」
 「私もイッセー君も、昔はよく遊んでもらっていたのに覚えてないの?確かシロ兄の事、シロ兄ちゃんって呼んでたはずだけど・・」

 その2人の言葉に唸りながら思い出そうとする一誠。

 「ん~~~~~~~~~~~~~~・・・・・あっーーーーーーーーーーー!!!!??」

 如何やら思い出したらしい。士郎に向かって指をさす一誠。

 「でも如何して、イッセー君はシロ兄の事忘れてたの?シロ兄ちゃんって呼んで慕っていたのに?」
 「それは、あの時の俺は士郎さんの名前を知らなかったんだよ。だけど自分たちと同じくらいなのに髪の色が銀髪なんだろうけど、白髪に見えた髪の色に注目してシロ兄ちゃんって呼んでたんだ」

 士郎は、白では無く銀髪なんだけどなと突っ込もうとしたが、既に分かっている様なので心の中で制止を掛けた。

 そうして暫くすると、士郎が作った料理をすべて平らげた5人は、満足そうな笑みをしていた。

 「それじゃあ食器は俺が片づけるから、お前さんたちは好きにしててくれていいぞ?」
 「え!?そんな!せめて食器位洗いますよ!!」
 「別に良いって。それにお前さんたちは、何か目的をもって集まってたんだろ?そうだろう?一誠」
 「う、うっす・・」
 「なら俺に任せて、存分にやってて構わないぞ。話を聞かれたくないって言うなら、離れを使うといい。防音部屋でもあるしな」

 これ以上問答しても平行線のままではないかとゼノヴィアと匙は考えて、士郎の行為に甘える事にした。取りあえずその前にやるべきことは、目の前で押し問答している幼馴染同士だと言う、あの3人を止める事からだろうと愚考するのだった。


 -Interlude-


 士郎は食器を洗っていた。黙々と。そこに再び念話が届く。

 【・・・・―――――・・・――――・・――――――・・・・・・―――】
 「ん?ああ。弟分の一誠に妹分だったイリナさ。あいつらがどうかしたか?」
 【・・・・・・・・―――――――――――――――――・・・――――――――】
 「―――んなぁ事は百も承知だ。流石にあいつらだけを矢面に立たせるわけにはいかんだろ、兄貴分として。まあ、何時も通り変装はするが」
 【―――――――・・・・―――――・・・・・―――――――】
 「ああ、だから今回もお前は―――――ん?」

 士郎が感じ取ったのは、この周辺に張った結界に異常が起きた――――からでは無い。
 この屋敷の敷地内にも張ってある結界の反応で分かった事だが、如何やら離れでの話し合いは終わったのかこちらに向かって来ていた。

 「あっちは終わったようだから、お前も引っ込んでろ・・・って言うまでも無いか」

 そんなこんなで士郎も、ピッチを上げて食器洗いを終わらせた。彼らが到着する前に・・。


 -Interlude-


 士郎は玄関先で5人―――――いや、6人の見送りに来ていた。
 5人が帰ろうとしていた時に、学園内でも何度か見たリアスの『騎士(ナイト)』が玄関先に来ていたのだった。

 「ではな、一誠も君たちも。気を付けて帰るんだぞ?後イリナも気を付けてな?お前は昔っから危なっかしいトコが有るから、心配なんだけどな」

 と言いつつ、イリナの頭に手を置いて撫でる士郎。

 「!?っ~~~~~~~~~~~!!」

 当のイリナは、顔を朱に染めていた。だがどこか嬉しそうだった。

 「ん?如何したイリナ?顔が赤いが具合でも悪いのか?」
 「い、いえ何所m%&$#!???!」

 周りも驚いたが、当の本人であるイリナは大層驚いた。
 何と士郎は、熱が無いかの確認のために、自分の額とイリナの額をくっつけたのだ。
 イリナは先ほど以上に顔を朱に染めている。

 (近い近い近い近い近い近い~~~っ!シロ兄の顔が近すぎる!!)
 「ん?如何した?」
 (如何したもこうしたも全部シロ兄のせいだよ!!それにシロ兄って、見ない間に更にカッコよくなってて反則だよ!!?)

 この天然ジゴロ藤村士郎は、世界を越えても名前が変わっても幾つになっても根本部分は変わって居なかった。

 「まあ、取りあえず熱はなさそうで良かったよ。さっきも言ったが気を付けて帰るんだぞ?」

 この言葉に顔から未だ熱が冷めないイリナも含めて、夕食のお礼の言葉も含めて藤村邸を後にした。

 だが士郎がイリナに額同士をくっつけていた時にゼノヴィアは、理由も原因もよくわからず胸にズキンと幻痛が走っていた。
 2人が離れた時には引いていたが、ゼノヴィアは僅かに頬を朱に染めていたのだから。

 だがその事すらも、当の本人も含めた5人は気づけないままだった。


 -Interlude-


 あれから3日後。
 つまりイリヤは旅行から帰ってきている。
 仕方ないと言うしかないが、帰ってくるまでに決着をつけたかったのが士郎の本音だ。

 そうして今現在、夕暮れ時に士郎はある街角の一角に向かっていた。買い物中を装って。
 結界に戦闘中の反応がしたので急ぎ向かっている処だった。買い物中を装って。
 大切な処だから2回言いました。

 そうして近づいていくと、剣と剣の切り結ぶ音が聞こえてくる。
 その光景を視界に入れると、リアスの『騎士(ナイト)』木場祐斗が神父と対峙していた。

 「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!如何だよ?どうだよぉおお!!?僕チンの聖剣の味ワァアアアアアアハハハハハハハハハ!!!!」

 乱雑に狂気に振り続けるフリード。

 「うっ、くそっ、こんなっ!!?」

 それを受け止めても2合と持たずに、壊されては創り出しの繰り返しだった。
 残りの3人は、どうにか戦闘に割り込もうとしているもの、その隙を窺えないでいた。

 「ふん、所詮は単なる魔剣。『魔剣創造(ソードバース)』の力だとしても使い手がこれでは、たかが知れるというものよ」

 その戦いをフリードから見て、かなり離れた後方から様子見る初老の男性。『皆殺しの大司教』バルパー・ガリレイ。

 「おらぁああ!!これで終わりってねぇええええ!!」
 「くっ!」
 「「木場!」」「祐斗先輩!?」

 何度も繰り返した攻防の末、防戦一方となっていた木場祐斗の『魔剣創造《ソードバース》』の速度が追いつかなくなり、折れた魔剣の代わりに新たに作ろうとしても間に合わず斬られる――――いや、斬られなかった。

 「大丈夫か?木場―――祐斗君だったか・・」
 「あっ・・・はい、有り難う御座います。でも、如何して此処に?」

 間一髪のところで士郎が瞬時に祐斗の所まで駆けつけて、剣の落ちるところから移動させたのだ。

 「し、士郎さん!?」
 「何で?」
 「この間の料理のおいしかった人・・」

 約一名、おかしな覚え方をしている者も居るが、一誠たちも士郎の登場に驚きを隠せなかった。
 いつの間に!?というのもあるだろうが、祐斗も含めた4人からすれば士郎は一般人側の人間だと聞き及んでいたからに他ならなかった。

 「ん?誰だ?」
 「ま、何所の誰だろうと切り刻んじゃうだけですけどねぇええええええ!!」

 フリードは躊躇いもせずに士郎に切りかかった。しかし、剣が振り下ろされることは無かった。

 「ごほぅ!!」
 「何だコイツは・・通り魔か?」

 士郎は瞬時にフリードの懐に潜り込むと、鳩尾に強烈な一撃をお見舞いした。
 無論、この光景を見ていた敵味方関係なく、残りの5人は驚いていた。

 「・・・うっぜぇえええ!!ごがっ!ぐっ!げっ!!?」
 「フン!そこらの通り魔程度に後れを取るほど、軟な鍛え方はしてはいないぞ」

 士郎の一撃に逆上したフリードは今度は横一線に切り裂こうとしたが、いつの間にかに後ろに移動していた士郎に3連コンボの連撃を加えられて悶絶する。
 だが、それだけに留まらずに直も凄まじい速度で悶絶中のフリードを殴り続ける士郎。
 その光景に呆気にとられていた5人の中の1人である、バルパーは見るに見かねてこちらにあるモノを投げてきた。

 カっ!

 それは閃光玉。あたりに光を当てて逃げ出す2人。
 しかし・・。

 「逃がさん!」
 「待ちなさい、バルパー・ガリレイ!」

 その場に居なかったはずのイリナとゼノヴィアが、いきなり士郎の横合いから飛び出て逃亡したバルパーらを追う(一応、2人は士郎が何故此処に居るのかについて驚いていたが、信仰のために任務を優先させようとした)。

 「イッセー君!僕も奴らを追う!!」

 と、当の一誠の返事も聞かずに追いかけていった木場祐斗。

 「お、おい!木場!たくっ、何なんだよ!」

 その場には結局残された士郎を含めた4人が残った形となった。

 「ふむ、結局何だったんだ?一体?」
 「「「う゛」」」

 士郎は一般人のふりをして、当然の質問を問う。
 しかし、当然その質問に答えを詰まる3人。
 その様子を見てこれ以上は苛めだなと判断する。

 「うん。言えない事情があるのか?なら、止めておく」
 「え?」
 「良いんですか?」
 「良いも何も答えたくない、或いは答えづらいんだろ?ならいいさ。だがあんな通り魔がうろついているんなら、藤村の人間として近所の人たちに警告しないといけないな。じゃあ俺は行くが、連絡できるんならイリナたちを引きもどせよ!子供だけじゃ危ないぞ!」

 と、警告しつつ去っていく士郎。

 「あっ!?ちょっと、士郎さん!?」

 一誠としては、先程の光景について聞きたかったのだが、祐斗と同様こちらの返事も聞かず去ってしまった。

 「くそっ!本当に、一体何なんだ!?」
 「本当よね。如何いう事か説明してもらえるんでしょうね?イッセー」

 背後から聞いた事のある――――というか、毎日聞いている女性の艶やかではあるモノの怒気を僅かばかりか孕んだ声が聞こえてきた。
 それを震えながら振り返る一誠。

 「ぶ、部長!そ、それにソーナ生徒会長・・・っ」

 そこには険しい表情をしたリアスが居た。そして同じく、匙の眼前にはリアスの正式な幼馴染。支取蒼那(ソーナ・シトリー)生徒会長が冷ややかに視線で立っていた。

 もはや2人に安息は無く、唯戦慄するしかなかった。  
 

 
後書き
 暫定ではありますがヒロインを決めました。ゼノヴィアとイリナです!
 若しかしたら増えるかもしれませんし、増えないかもしれません。

 感想、お待ちしています。 
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